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それ行け広島カープ

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第七章

「カープはな」
「やっと出られたのに」
 十六年ぶりのAクラスでだ。
「それが」
「あっさり三連敗か」
「何だったのかしらって思ってるけれど」
「こういう時阪神ファンは何て思うか知ってるか?」
「どう思うの?」
「また来年だよ」
 寿は笑って妹にこう言った。
「また来年な」
「来年なのね」
「ああ、来シーズンがあるんだよ」
「じゃあ来年こそは」
「阪神が仇取ってやるから安心しろ」
 巨人を破るというのだ。
「それを観ていろ」
「そう言って毎年華麗に負けてるじゃない」
 少しずつ生気が戻る中でだ、兄に言い返した妹だった。
「たまにはその言葉通りになったら?」
「馬鹿言え、阪神が本気になったらな」
「毎年倒すっていうのね、巨人を」
「ああ、十連覇でも何でもしてやるんだよ」
「じゃあ早く本気になってね」
「見てろよ、来年からだからな」
「そうよね、来年よね」
「来年があるんだよ」
 妹に対して強く言った言葉だった。
「僕なんかこの時期いつもこう思うからな」
「慣れてるのね」
「来年の阪神は違うからな」
 強い声での言葉だった。
「見てろよ」
「じゃあ見させてもらうわね。けれどね」
「けれど?何だよ」
「来年はカープもやるから」
 復活しての言葉だった。
「負けないからね」
「おい、そういうのかよ」
「そうよ、勝つから」
 阪神にというのだ。
「楽しみにしておいてね」
「おいおい、阪神に絡むのか?」
「別にそうじゃないけれど。全部勝ってくから」
「そうか、じゃあ来年はな」
「カープ強いからね」
「楽しみにしてるからな」
「そうしておいてね」
 何とか蘇ってだ、千佳は兄に言った。そうして。
 ドラフトが終わってからだ、クラスでしみじみとしてクラスメイトにこんなことを言った。
「くじ、当たったわ」
「あの人ね」
「ええ、まあまた出て行ったけれど」
「その話なしね」
 フリーエージェントの話はだ、クラスメイトの方から止めた。
「相手が相手だから」
「ええ、大竹さんの話はね」
「そこから言わないでね」
 巨人絡みの話だからだ、千佳が切れることは確実にわかっているからである。彼女もここでこう言ったのだ。
「前向きにね」
「うん、ドラフトね」
「よかったじゃない」
「そうよ、あの人を育てていったら」
「凄くなるわよ」
「カープの新たなエースね」
 千佳は目を輝かせて言った。
「その人の誕生ね」
「そうなるわね」
「夢よ」
 本当に、というのだ。
「来年に希望が持てるわ」
「大きな希望ね」
「来年こそ優勝よ」 
 この言葉も出した。
「絶対にやるわよ」
「何かこれまでとは違うわね」
「違うって?」
「いや、千佳ちゃんずっと万年Bクラスとかはずれドラフトとか怪我とか言ってたでしょ」
「それがっていうのね」
「それが今では希望とか言って」
「だってAクラスでしかもドラフト当てたのよ」
 だからだというのだ。
「希望が見えてきたから」
「だからなのね」
「そう、希望が見えてきたのよ」
 まさにというのだ。
「遂にね。それならよ」
「じゃあ来年こそは」
「カープはやるわよ」
 千佳は明るい笑顔で言い切った、そのうえで来年の広島東洋カープに思いを馳せるのだった。だがクラスメイトはこんなことも言った。
「まあ来年は阪神だけれどね」
「そこでそう言うの?」
「だって私も阪神ファンだから」
「やれやれね。まあ阪神ならいいけれど」
 千佳は阪神には寛容なままだった。何はともあれ来年のカープにも期待するのだった。


それ行け広島カープ   完


                   2014・4・1 
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