魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep6青き空は怨嗟の業火に燃えて ~Avenger's Judgement~
各管理世界で問題となっている“レジスタンス”に対応するために設立された、臨時の対策部隊・“特務五課”に用意されたオフィス。
そこに、ミッドチルダの地上部隊・第108部隊の隊長であるゲンヤ・ナカジマ三等陸佐から連絡が来た。内容は、現在、管理局内で話題となっている“反時空管理局組織テスタメント”と“レジスタンス”の待合場所が判明したという事。
その報告を受けた“レジスタンス”対策部隊・“特務五課”の隊長を任されているセレス・カローラ一等空佐(28歳の彼氏募集中)が数人の部下を伴ってミッドチルダへと出動しようとしたが。
『カローラ一佐、君の隊のミッドチルダ出動への許可がまだ下りていない。出動許可が下りるまでオフィスで待機だ』
「アホかッ! 昨日とたった今、散々テスタメントに馬鹿にされたっていうのに!」
それをあっさり妨害してくる、モニターに映る“特務五課”の監査に怒鳴るセレス。
「なら、あたしが独りで出る! それなら問題ないでしょ! 執務官としての権限を使えば、部隊じゃなくて個人で出動できるんだからッ!」
セレスは灰色のセミロングの髪を右手でわしゃわしゃと掻き、大声を上げ、デスクに左手をバンッ!と叩きつけた。セレスは一等空佐の階級を持ちながら執務官としての肩書も持っていた。しかし諸事情で今は1つの部隊を任されている。オフィス内の所々から「またやってるよ隊長」とか、「上司に向かってすげえよな」など聞こえてくる。
『待て! そんな勝手が許されるか!! 減給処分にするぞ!?』
「お好きにどうぞ!」
『おい! 降格して指揮権を剥奪するぞ!?』
「ええ! どうぞどうぞ!」
『く、クビにするぞ!?』
「やれるものならやってみなさいよ!」
出来もしない事を並べ立てる監査に怒鳴りまくるセレス。
「執務官の制服に着替えてきますので、覗かないでくださいね!」
『判った! 判ったから単独での行動は止せ! 出動準備中の局員たちと共に行くんだ!』
監査はそう言って大股でオフィスを後にしようとするセレスを引き止める。セレスは監査に見えない角度でニヤリと笑みを零し、チロッと舌を出した。その笑みを見た部隊員たちは「あ~あ」とガックリ項垂れた。セレスはその笑みを努めて隠し、監査の映るモニターへと振り返った。
「で? 今すぐに出られる局員たちって、誰なんですか?」
『・・・はぁ。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。そして、どういうわけか武装隊と教導隊からシグナム一尉とアギト一等空士、ヴィータ二尉のみが出られる』
監査は『何でこんなに早く、しかもすごい局員が出せるんだ?』と首を傾げている。それはこうなることを始めから判っていたかのように早い対処だった。セレスは「おー、フェイト達が出てくるんだ」と嬉しそうに笑った。セレスにとって、フェイトを始めとしたなのは、はやて、守護騎士たちは十年来の友人だった。
「そんじゃまあ、色々とやってくれちゃってる連中を逮捕してきますんで」
監査に敬礼したセレスはオフィスを後にした。
・―・―・―・―・―・
ミッドチルダへと向かうために、ここトランスポートホールに集まった5人の魔導師と騎士+融合騎。フェイトとシグナムとヴィータとアギト、そしてセレスの5人だ。
「お久しぃ! 元気にしてた?っていうかフェイト、昨日テスタメントの1人と戦って怪我したっていうじゃん」
「セレス・・・。うん・・・それは大丈夫」
セレスの元気いっぱいの挨拶に少し沈んだ笑顔を見せ、そう返すフェイト。セレスは何かまずい事を言ったのかと思い、フェイトと同様古い友人であるシグナムとヴィータに念話で聞いてみる。
『あたし、何か地雷踏んだ?』
『まあ何と言うかいろいろと、な』
セレスに答えるのはヴィータ。ヴィータは、もうその話題は止めてくれ、という視線をセレスに向ける。それを感じ取ったセレスは話題を変える。
「『ふ~ん』ていうかさ、一応あたしってあなた達より階級上なんだけど・・・」
「堅苦しいのは面倒だから気軽に呼べって言ったのお前だぞ」
「そうだけどさ~」
ヴィータとセレスだけの話し声が聞こえる中、フェイトたち五人はミッドチルダへと向かった。そして、姿が消える直前に見せたフェイトの表情は決意と覚悟に満ちていた。
・―・―・―・―・―・
続々と“レジスタンス”がここ廃棄都市区画に集結している様をビルの屋上から見つめる3人の白コート。シグナムたち守護騎士を殺したいほどの憎悪を抱く、報復せし復讐者カルド隊の3人だ。彼らはミッドチルダでの“レジスタンス”回収任務に就けるよう、至高なる卓絶者ハーデに直訴、そして実った。
【ヴォルケンリッターが派遣される可能性が最も高いのはここミッドチルダだ。復讐のチャンスを祝福なる祈願者なんぞに取られてたまるか】
しかしそれは2分の1の確率でもあった。ミッドチルダでの“レジスタンス”回収は北部と南部の2つで行われる。それゆえに間違いなく北部に現れるという確証はどこにも無かった。
【確かにいい機会ですが、今回の任務はあくまでレジスタンス回収。戦闘行動を禁じられていないとはいえ、下手をすると命令違反になるの――】
【報復せし復讐者の左腕、貴様は忘れたのか!? 俺たちがこの組織にいるのは、ヴォルケンリッターへの復讐と言う目的のみだということを! それを果たせればもう未練は無くなるも同然! その後は知ったことか!】
報復せし復讐者の左腕カルド・イスキエルドへと怒鳴り散らすカルド。カルド・イスキエルドと報復せし復讐者の右腕カルド・デレチョは顔を見合わせ・・・
【カルド・デレチョ、了解】
【カルド・イスキエルド、了解】
静かに告げた。彼ら2人もまた、守護騎士に憎悪を抱いているのは確かだった。それを再確認し、2人は命令違反になろうとも殺害前提の戦闘を行うことを決意した。
それから約30分後。タイムリミットまで残り半分となったとき、接近してくる魔力反応を感じ取った。数は多い。数人程度ではない。10人は明らかに超えている。
【ん、地上部隊か? さすがにこれだけのレジスタンスの大移動は完全に隠しきれなかったか・・・】
【まあいい。どうせ空を飛べない連中だ、空襲すればそれで終わるはずだ】
カルド・デレチョの索敵範囲内に入った魔導師反応の数から地上部隊と断定し告げる。カルドは地上部隊は基本的に飛行魔法を使えない魔導師が多いことを知っているため、大して焦ることなく対処法を考える。
【レジスタンスの集結を急がせます】
カルド・イスキエルドは眼下を移動する“レジスタンス”をある地点へと急がせるために地上に降りて行った。
【その間、俺たちは地上部隊を足止めする。カルド隊、交戦開始だ】
【交戦開始、了解】
カルドとカルド・デレチョが二手に分かれようとしたとき、2人はハッキリと感じ取った。復讐するべき怨敵である守護騎士の存在感がこちらに向かってくるのを。
「は・・ははは・・・ははは、来た・・・・来た来た来た来たァッ! 見える、見えるぞ! 奴だ、奴らだ! 俺たちの人生を狂わした化け物どもだ!」
カルドは歓喜の声を上げる。2分の1の確率である賭けに勝ったことが嬉しかったのだ。
【カルド・イスキエルド! レジスタンスなんぞは全て後回しだ! まずはヴォルケンリッターを根絶やしにする! カルド隊、己が心に復讐の業火を燃え滾らせ、憎きヴォルケンリッターを最大戦力で処断せよ!】
【【了解!】】
ミッドチルダ北部の廃棄都市区画上空。復讐の鬼と化したカルド隊は、一直線にこちらへ向かってくる守護騎士のシグナムとヴィータを殺害するために空を翔けた。
陸士第108部隊から“レジスタンス”追跡を引き継いだ陸士第104部隊と合流し、廃棄都市区画へたどり着いたフェイト達。104部隊と“特務五課”の隊長であるセレスは、今も廃棄都市区画へと向かってくる“レジスタンス”の逮捕のため、廃棄都市区画の中央付近から感じ取れる魔力反応のある場所を目指し飛行していた。
「・・・なッ!?」
「凄い・・・これは、殺気!?」
「ヤバい奴がこっちに向かってくるぞ、シグナム!!」
「ああ、この殺気は我々に向けて放たれている! 注意しろ、ヴィータ、テスタロッサ、カローラ!」
4人はハッキリとその肌で強烈な殺気を感じ取った。しかも自分たちに向けられている事が理解できてしまった。そして視認できるほどの距離にまでその姿を現した3人の白コート。“テスタメント”の幹部を名乗る14人の内の3人で間違いなかった。
「向こうは殺る気みてえだな。こいつはまず間違いなくセインテストじゃねえ。おい、テスタロッサ。奴らを捕まえて、セインテストの事を聞きだすぞ」
「うん!」
ヴィータに力強く答えるフェイト。午前中にレヴィからは大した情報がなかったと、ヴィヴィオからすでに聞いていた。ならばルシリオンの仲間となっている“テスタメント”メンバーを捕まえて情報を聞きだすしかないということになっていた。そして両勢力の魔導師は10mという距離を開けて邂逅を果たした。
「見つけた、ようやく会えた。忌わしき怪物ヴォルケンリッター」
中央に立つ白コートの男――カルドが告げる。
「・・・テスタメントだな。お前たちをテロリズム実行の容疑で逮捕する」
シグナムが鞘に納められた“レヴァンティン”の柄に手を伸ばしつつ告げる。
「殺せ殺せ殺せ殺せ」
「話を聞くような連中じゃねえみてぇだぞ、こいつら」
憎悪に満ちた怨嗟の声を聞き、若干引いているヴィータが呆れた風に口にした。昨日交戦した堅固なる抵抗者マルフィール隊より話が通じないと。
「我らはテスタメントがカルド隊。守護騎士ヴォルケンリッターをこの手で断罪するための部隊だ」
「なに・・・?」
カルドの言葉にシグナムの目が細められる。シグナムは昨日の事を思い出していた。“テスタメント”幹部の1人であるグラナードが去る直前に口にしていた言葉を。
――お宅らを唯一裁ける断罪者だ。それでお宅らは終わりだよ――
(我ら守護騎士に相応しい相手・・・だったか・・・)
「貴様らの悪逆非道によって散っていった者たちの怨嗟の声にてその身を滅ぼせ」
カルド隊の3人の足元に、大きな赤紫色の召喚魔法陣が展開される。シグナムは昨日交戦したグラナードと同種の敵であることを察知した。
“レヴァンティン”を抜き放つシグナム。“グラーフアイゼン”を構えるヴィータ。“バルディッシュ”をハーケンフォームにして警戒するフェイト。アギトはいつでもシグナムとユニゾン出来るように、シグナムから距離を取らずに警戒する。
「「「来たれ、業火の眷属ゼルファーダ!」」」
カルド隊は叫ぶようにこれから召喚される存在の名を告げた。その瞬間、召喚魔法陣からどす黒い闇色の炎が噴き上がり、カルド隊の3人を飲み込んだ。フェイト達はその強烈な熱波に耐えきれずに後退を余儀なくされる。
闇色の炎が集束していく。炎が治まっていく中、現れたのは白コートでなく闇色の炎が燻っている漆黒の甲冑を身に纏ったカルド隊だった。
フルフェイスの兜の頭頂部からは真紅の長い羽根飾り、全身を覆う甲冑、籠手と脚甲には闇色の炎が纏わりついている。手にするのは禍々しい形をした大剣。その刀身にも闇色の炎が纏わりついている。中央に立つカルドにのみ紫色のマントがあった。
「アギト、ユニゾンだ!」
「お、おう!! ユニゾンイン!」
シグナムはグラナードとラギオン以上の危うさをカルド隊――いや闇色の業火より感じ、アギトとユニゾンを行う。シグナムの髪と瞳の色が変わり、背からは二対の炎の羽が生まれる。フェイトとヴィータも最大警戒しつつ各々のデバイスを構え直す。
「優先目標はヴォルケンリッターの烈火の将シグナムだ」
「「了解」」
カルド隊が一斉にシグナムに襲撃をかける。もちろんそんなに簡単にいくわけもなく、カルド・デレチョはヴィータに妨害され、カルド・イスキエルドはフェイトに妨害された。
カルドのみがシグナムへとたどり着く。睨み合いは一瞬だ。殺気の塊とも言えるカルドの振り下ろされた大剣と、様子見のシグナムの振り上げられた“レヴァンティン”が衝突し、そのまま鍔迫り合う。
「おのれ・・・大人しく業火に焼かれ死ね、シグナム・・・!」
「ならば理由を教えろ! 我ら守護騎士に何の恨みがある・・・!」
拮抗する鍔迫り合い。互いに一歩も引かず、ただ問答を交わす。
「貴様らを怨む者は掃いて捨てるほどいる。忘れたとは言わせないぞ、シグナム。貴様らは今までどれだけの者たちを殺めてきた? 闇の書としての貴様らによって、どれだけの命が奪われた? どれだけの家族が泣いた? 怨んだ? 憎んだ?」
兜の中からくぐもった男の声。落ち着いているようにも聞こえるカルドの声だが、その声に含まれるのは全てを呪う怨嗟だった。
「っ! それは・・・っぐ!」
『シグナム!!』
昔の罪科を問われ、シグナムは無意識に力を緩めてしまった。そこでさらに力を強めるカルドに、シグナムは次第に押され始める。
「俺たちカルド隊も、貴様ら闇の書によってその人生を狂わされた! それが貴様らを怨む理由だ! 殺したい動機だ!? なぜ貴様らが幸せに過ごしているのに、俺たちは幸せじゃない!? 何故だ!? 貴様らにそんな資格はあるのか!? ふざけるな! 他人を大勢不幸にしておいて、貴様らは幸福の座にいる! 許せるものか!」
――業火に焼かれその罪を償え――
シグナムは歴戦の経験と直感からすぐさまカルドから離れる。その直後、大剣に纏わりついていた闇色の炎が爆発を起こした。シグナムは爆発によって起きた強烈な衝撃波と熱波に気を失いそうになりながらも何とか持ちこたえる。
「アギト!」
『おうよ! 猛れ、炎熱! 烈火刃!』
「レヴァンティン!」
シグナムは頭を振るい、アギトに炎熱強化の魔法を促し、“レヴァンティン”にカートリッジロードを命じる。
≪Explosion≫
“レヴァンティン”の刀身に紅蓮の炎が燃え上がる。シグナムは“レヴァンティン”の柄を両手で握りしめる。
「貴様をここで必ず殺す!」
「それでも私は・・・我ら守護騎士は死ぬわけにはいかんのだ!」
今のシグナムには、いや、今の守護騎士には護らなければならない大切なものがある。そのために死という償いだけは出来はしないと。
「『紫電一閃!!』」
シグナムは闇色の爆炎から飛び出てきたカルドへと、強大な炎を纏った“レヴァンティン”の刃を振り下ろす。
――憎悪は何者にも消せず――
対する突撃してきたカルドも、闇色の炎を竜巻状にして刀身に纏わせての斬撃を繰り出した。闇色の炎の刃と紅蓮の炎の刃が再度衝突する。先程とは比べるまでもない強大な大爆発が起き、青く広がるミッドチルダの大空を爆炎が染める。
その爆炎から最初に姿を現すのは、大きく肩で息をし、額から血を流すシグナムだった。刀身にヒビの入った“レヴァンティン”を握る右手からは血が滴り落ち、左腕は重度の火傷を負っていた。おそらく今戦闘ではもう使用が出来ないほどの酷い火傷だ。
「はぁはぁはぁ・・・。大丈夫か、アギト・・・?」
『あたしはなんとか・・・。って! シグナム、酷ぇ火傷してんじゃねえか!』
「はぁはぁはぁ・・・問題ない、と言いたいところだが、今のは危なかった。もう少し逃げるタイミングが遅ければ、私は間違いなく死んでいた・・・」
シグナムの視線は未だに残る爆炎へと向けられた。額から流れる血を無事な右腕で拭い、左腕を動かそうとするがピクリとも動かなかった。痛みも感じないほどのダメージを負ってしまったのだと判断する。
そのシグナムの耳に続けて爆音が届く。フェイトとヴィータが戦っているカルド・デレチョとカルド・イスキエルドによるものだった。
「加勢に行きたいが、このダメージでは逆に足手まといになるか・・・」
『当たり前だ! すぐに治療しねえと!』
尚も戦おうとするシグナムに怒鳴るアギト。シグナムが爆炎から左腕へと視線を逸らした時、爆炎の中に2つの光が煌く。それは憎悪に燃えているカルドの目だった。
・―・―・―・―・―・
「地獄へ堕ちろ、ヴォルケンリッター!」
――我に滾るは怨嗟の業火――
カルド・デレチョの持つ大剣から闇色の炎が生まれ、闇色の炎の斬撃を振り下ろす。ヴィータは防御することは不可能だと判断し、回避行動を選択する。
≪Pferde≫
ヴィータは高速移動魔法フェアーテを発動したことで、彼女の両脚に魔力の渦が生まれる。余裕を持って回避したヴィータの右わき腹を素通りする闇色の炎の斬撃。
「ぅぐぅぅ!」
ヴィータは激痛に襲われ、堪らず苦悶の声を上げる。左手で右わき腹を押さえながら、再度逆から振り返された闇色の炎の斬撃を回避した。今度は紙一重ではなく大きく距離を開けてだ。
「っく、確かに避けたのに・・・!」
「貴様らの手によってその命を奪われた者たちの怨嗟の声を聞け」
ヴィータはチラッと右わき腹を見る。ヴィータの視界に入ったのは、右わき腹部分の騎士甲冑が大きく損傷し、黒く焼け焦げた素肌が露出している様だった。
「(マジかよ・・・!)テメェ・・・!」
デレチョを睨みつけるヴィータ。兜の奥に光るデレチョの目が細められる。
「今の一撃はアシュレー・アストレンの分だ」
「誰だ、そいつは!?」
再度距離を詰めてくるデレチョは「ならば思い出せ」と言い放つ。ヴィータは激痛を無理やり無視し、“グラーフアイゼン”をラケーテンフォルムへと変えた。
≪Raketen form≫
「ラケーテン・・・!」
ヘッド部分にあるブースターが点火。ヴィータは高速回転しながら迫りくるデレチョへと突撃する。ダラリと下ろしていた大剣を勢いよく振り上げ、ヴィータの胴体を斬り払おうとするデレチョに・・・
「ハンマァァァァーーーーッ!!」
彼女の強力な一撃が、自身が負ったダメージと同じ個所である彼の右わき腹へと吸い込まれていく。衝突する闇色の炎を纏った刃と“グラーフアイゼン”の一撃。拮抗は僅かな時間だった。一瞬で“グラーフアイゼン”のヘッド部分が粉砕されてしまった。
「うそ・・・だろ・・・?」
目の前で粉々になる“グラーフアイゼン”の破片を目にし、ヴィータは完全に動きを止めてしまった。
「今の一撃は、クリストファー・コリトスの分だ!」
そこに迫るデレチョの闇色の炎の斬撃。ヴィータはショックを受けながらもギリギリのところで回避した。
「あ゛ッ!?」
「これはクライド・ハラオウンの分だ」
刀身から伸びる闇色の炎が回避したはずのヴィータの左肩を焼く。激痛に耐えるためにギリッと歯を食いしばるヴィータの口の端から赤い血が滴る。ヴィータは怒りやら苦痛で気付かなかった。デレチョが口にしたハラオウン性のクライドの名前を。
クライド・ハラオウン。その名は、リンディ総務統括官の夫であり、クロノ提督の父であり、フェイト執務官の義夫であるものだ。
「ば、化け物め・・・!」
「ああそうとも。貴様らヴォルケンリッターに対抗するために、我らは化け物になったのだ。これは戦いではない。化け物同士の喰い合いなんだよ、紅の鉄騎ヴィータ。シグナム、ヴィータ、貴様らを殺した後は、残りのシャマルとザフィーラをぶち殺す」
デレチョは大剣を構え直し、再度ヴィータへと突撃しようとした。が、真下から空色の砲撃が迫り、彼を襲った。咄嗟に回避はしたが、兜から伸びる真紅の長い羽根飾りが砕け散る。
「セレス!?」
「逃げて、ヴィータ!」
今のセレスは灰色の髪をシニヨンし、黒色のインナースーツには彼女の好きなケルト十字と二対の翼の刺繍が施され、その上から白のテールコート。白の袖なしインバネスコートを羽織り、両手には白銀の籠手、白のズボン、黒のロングブーツには白銀の装甲がついている騎士甲冑姿だ。セレスが手にするのは幅の広い大剣。アームドデバイスだ。
「バカッ! セレス! 来るんじゃねぇ!」
「シュリュッセル!」
≪Explosion≫
「おおおおおおおおッ!!」
鍵と言う意味を持つ彼女のデバイス、“シュリュッセル”はカートリッジを2発ロードし、強化フェアシュテルケンの魔法を発動する。セレスは唯でさえ強力な自らの攻撃力をさらに増加させることで、友達を傷つけたデレチョを手加減なしで撃墜するために動いた。
「邪魔立てするな!」
――憎悪は何者にも消せず――
・―・―・―・―・―・
「邪魔をしないでもらおうか、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン!」
「そうはいかない! お前たちに聞きたいことがあるから!」
フェイトとカルド・イスキエルドの熾烈な空中戦が始まった。黄金に輝く雷光の刃と砲撃、闇色の炎の刃と砲撃が交錯し、互いを撃墜せんと澄み渡る青空で吼える。
「ルシル・・・、ルシリオンがテスタメントにいる理由だ!!」
≪Haken Saber≫
黄金の雷光で構成された魔力刃が放たれる。イスキエルドは迎撃するのも面倒といった風に回避行動をとった。だが自動誘導性能を持つその魔力刃はしつこくイスキエルドへと追い縋る。
――慈悲すら許さぬ業火――
イスキエルドは大きく身体を反らし、大剣を槍のように突き出した。すると刀身に纏っていた闇色の炎が螺旋状の槍となって、黄金の魔力刃を掻き消した。
≪Sonic Move≫
フェイトは高速移動魔法を使い、一瞬にしてイスキエルドの背後を取った。ハーケンフォルムの“バルディッシュ”から伸びる鎌状の刃が振り下ろされる。
≪Haken Slash≫
「その程度では俺たちの憎悪は消せないんだ・・・よっ!」
タイミングとスピードからして間違いなく回避と防御不可だったフェイトの一撃を、振り向きもせずに大剣で受け止めた。さすがのフェイトもこれには目を見開いた。
≪Sonic Move≫
――破滅へと至る怨嗟の衝動――
考える前に急いでイスキエルドから距離を取ったその瞬間、彼の背から闇色の炎が吹き荒れる。もう少し離脱するのが遅ければ、フェイトは間違いなく撃墜――焼き殺されていた。
「さっきのお前の質問に答えよう、ゆえにそこを退け・・・!」
イスキエルドは大剣を横一線に払い、闇色の炎の弾丸をフェイトへと幾つも飛ばす。直射型の攻撃と見たフェイトは、防御ではなく回避を行えばそれで処理できると判断。フェイトの推測通りに誘導弾ではなかった炎の弾丸は、彼女の脇を通り過ぎていく。
「なら、それなら力ずくで聞き出す!」
≪Trident Smasher≫
――トライデントスマッシャー――
フェイトは、質問に答える代りに仲間を差し出せ、という彼の交換条件を考えるまでもなく切り捨てる。
「力ずくだと!? 管理局員とは思えない発言だ!」
フェイトは動きを止めたイスキエルドへと左手を翳し砲撃魔法を放った。
――慈悲すら許さぬ業火――
対するは、先程と同様に大剣を突き出すことで発生した螺旋状の業火の槍。黄金の雷光と闇色の業火が一直線に互いへと迫る。衝突。互いの砲撃は相殺されることなく僅かだが拮抗を見せる。
「っく!」
だが結局、フェイトの砲撃魔法が負けた。闇色の炎の槍が黄金の砲撃を飲み込み、フェイトを喰らおうと直進し続ける。しかし砲撃戦で負けることを察知していたフェイトはすぐその場から離脱し、すでにイスキエルドの背後へと回り込んでいた。
≪Zamber Form≫
「はあああああッ!」
“バルディッシュ”は大剣状のザンバーフォームへと変わり、目の前の敵へとその雷光の刃を落とす。術後硬直による所為か、イスキエルドは避けることが出来ずにその刃の直撃を背中に受けた。
「やった・・・?」
「惜しかったが、この程度の威力では業火の眷属の甲冑は破れない!」
「なっ・・・!?」
≪Sonic Move≫
「っぐぅぅ・・・!」
振り向きざまに振るわれた大剣を、ザンバーを盾にして離脱。だが雷光の刀身は盾としての効果を得ることはなかった。大剣の一撃によって一瞬で砕かれ、その刹那に高速移動魔法で離脱を試みたフェイト。だが、一歩間に合わず闇色の炎を纏う刀身が彼女のバリアジャケットの腹部付近を大きく損傷させ、素肌を晒させていた。
「痛っ・・・く・・・」
腹を左手で押さえながら、フェイトは奥の手を使おうかと思案する。真ソニックフォーム。防御を捨て、機動力に力を注ぐ形態。今、彼女の戦う敵の放つ攻撃は、まず受ければ撃墜で済まずに確実に死ぬような強力さ。
一瞬のミスで殺されてしまうような綱渡りをフェイトは渡ろうとしている。意を決し、“バルディッシュ”に真ソニックフォーム発動を告げようとしたとき、少し離れた場所から3つの轟音が鳴り響いた。
「・・・お前と遊んでいる間に終わってしまったようだ・・・」
イスキエルドは残念そうにつぶやいた。それはつまり、『シグナム!? ヴィータ!?』に何かあったことを意味する。念話で名を呼ぶが2人からは何も返ってこなかった。青い空に2つの闇色の爆炎が禍々しく燃え上がっていた。
・―・―・―・―・―・
シグナムは一瞬だけ視線を逸らしただけだった。その一瞬はカルドにとって十分な隙だった。大剣を担ぐようにして構えつつ爆炎の中からシグナムへと一直線に向かう。もちろんシグナムもそれには気付いていた。“レヴァンティン”の刀身に再度紅蓮の炎が燃え上がる。
「(すれ違いざまに紫電一閃を叩きこむ!)おおおおおッ!!」
「復讐の業火に焼かれろぉぉぉぉぉッ!!」
先手はカルドの大振りの縦一閃。闇色の炎が尾を引く大剣が、シグナムを両断せんと大気を斬り裂いていく。後手のシグナムは、カルドの背後へ回り込むようにして一撃を回避。ポニーテールの髪の先端をいくらか燃やされたが、それでも回避に成功した。
「『紫電一閃!!』」
それと同時に火炎待とう斬撃をカルドの背中へと叩きこんだ。いや、叩きこんだはずだった。2人の視界が黒に塗り潰される。大剣が引いていた闇色の炎の残り火がシグナムの至近で爆発を起こしたのだ。それをまともに受けたシグナムは吹き飛ぶ。
「・・・づ・・・ぁ・・・ぅあ・・・」
気が付けばアギトとのユニゾンが解かれている状態でシグナムは廃ビルの中で倒れ伏していた。右手には柄から先の刀身がない“レヴァンティン”が握られている。
「あ・・・ア、ギ・・・ト・・・?」
瓦礫の上に仰向けで倒れているシグナムの口の端から血が漏れる。側にアギトが倒れているのがシグナムには判っていた。だから苦しくとも相棒の名を呼ぶ。アギトからの返事は無いが息遣いだけは耳に届いていた。生きている。シグナムの心に安堵が広がる。しかしすぐに意識が落ち始めたシグナムは最後に理解した。自分たちは負けたのだ、と。
・―・―・―・―・―・
「邪魔立てするな!」
――憎悪は何者にも消せず――
竜巻状の闇色の炎が発生した大剣を、地上からこの場へと突撃してくるセレスへと振り下ろす。それと同時に放たれる闇色の炎の竜巻。
セレスは側面にベルカ魔法陣を展開し、それを足場として空中で斜め前方へ跳び、闇色の炎の竜巻を余裕で回避する。しかし彼女の後方へと通り抜けた闇色の炎の竜巻が爆発を起こす。
「ぁがっ・・・!?」
「セレス!」
背中に浴びる強力な爆炎と衝撃波にセレスは一瞬意識を飛ばす。その隙を持ってデレチョはダラリと四肢を投げ出したセレスに蹴りを入れる。
「俺たちはヴォルケンリッター以外の殺害を良しとしない。命拾いしたな」
廃ビルへと蹴り飛ばされ、外壁を突き破ったセレスは起き上がって・・・こなかった。
「テメェッ!」
「悔しいか? 憎いか? 俺たちも貴様らヴォルケンリッターに抱く負の感情だ。その身を持って知れたこと、それも1つの罰と思え」
デレチョはヴィータを殺害するために空を翔る。ヴィータは修復し終えていない“グラーフアイゼン”を見る。ヴィータは己の情けなさに歯がみした。唇の端が切れ、血が滴り落ちる。
「裁きの時だ、紅の鉄騎ヴィータ」
――我に滾るは怨嗟の業火――
――パンツァーヒンダネス――
ヴィータを覆う多面体の完全防御障壁。デレチョの振り下ろした大剣が一層目の障壁と衝突。砕けない。堅かった。だがそれで諦めるつもりもなかった。
「この程度で・・・俺の復讐の業火を止められると思うなぁぁぁぁッ!」
粉砕。そのままヴィータへと大剣を横薙ぎに振るう。
――パンツァーシルト――
ヴィータは全ての魔力を防御に回す。死の恐怖がヴィータを襲う。敵は復讐に燃える異形の鬼。目の前に迫る闇色の炎を見て泣きそうになる。死ぬかもしれない。はやてを、リインフォースⅡを、なのはを、友を悲しませるかもしれない。
(これが・・・闇の書に返る罰か・・・)
デレチョの大剣は、ヴィータが最後の力を振り絞って張ってシールドを容易く粉砕する。起こる爆発。ヴィータは爆風によって、シグナムとアギトと同様に廃ビルへと沈んでいった。
・―・―・―・―・―・
撃墜されたシグナムとヴィータ、そしてセレスを見、フェイトの顔が青くなる。
「シグナム! ヴィータ! セレス!」
「2人がヴォルケンリッターにトドメを刺すまで、もう少し俺と遊んでもらおう」
「と・・・どめ・・・?」
フェイトはイスキエルドへと振り返った。闇色の炎が燻っている大剣を右肩に担ぎ、つまらなさそうにしている彼へと。フェイトの中で何かが切れる。プツン、と切れてはいけない大事な一糸が。
「~~~~~っ! バルディ――」
しかしその時、「これはどういう事か説明してもらおうか、カルド隊」この区画一帯に響く男の声。フェイトの中で全てが冷めていく。この声は間違いなく彼女が求めている男のものだった。
「ルシルッ!!」
フェイトの視線の先、彼女たちの居る高度よりさらに高いところに、12枚の剣翼アルピエルを背負った誠実なる賢者サフィーロ――ルシリオンは居た。
「誠実なる賢者・・・これは、その・・違うんです・・・!」
イスキエルドが明らかに怯えを含んだ声色で告げた。心なしか身体も震えているのが判る。彼はルシリオンに絶大な恐怖を抱いていた。
「邪魔をするなッ、サフィーロ!」
「そうだ! もう少しで俺たちの復讐が果たせるんだ!」
「・・・1・・・」
カルドとデレチョが復讐の邪魔をするなと怒声を上げる。その怒声を聞いたルシリオンは数を数えた。
「お前たちの任務は、ここに集まるレジスタンスの回収だ。それを勝手してしまっている所為で・・・」
ルシリオンは遠く離れた“レジスタンス”の集合場所を見る。そこには陸士104部隊によって連行されている数十、いや百数十の“レジスタンス”が居た。
「黙れッ! 俺たち報復せし復讐者隊の目的は、憎きヴォルケンリッターへの復讐のみ! その後の事なんぞ知ったことかッ!」
「・・・2・・・。お前たちの任務は失敗した。すぐさま帰還しろ、命令だ」
「あと一撃で終わるんだ! 邪魔をするというのなら、お前も業火に叩きこむぞ、サフィーロ!!」
「・・・3・・・。馬鹿が」
カルド隊の反抗に、ルシリオンは怒りを含んだ声色で小さく呟いた。イスキエルドの身体の震えが尋常ではなくなってきた。兜の中からガチガチと歯が鳴る音が聞こえてくる。ルシリオンはダラリと下げている左手の指をパチンッと鳴らす。
「「おごッ!?」」
「ヒィッ!」
「な・・・、ルシル・・・!」
瞬間、カルドとデレチョの胸から蒼の刃が生える。それはルシリオンにのみに許された粛清攻撃だった。蒼の刃に貫かれた2人は四肢をダラリと垂らし痙攣している。
「御苦労だったゼルファーダ。もう還っていいぞ」
ルシリオンの労いの言葉に、カルド隊の3人が纏っていた漆黒の甲冑が再び闇色の炎へと戻り、現れた召喚魔法陣の中へと戻っていったことで甲冑姿から白コート姿へと戻るカルド隊の3人。
「私の持つ知識の中にこういう言葉がある。仏の顔も三度まで、とな。その蒼刃は3度の命令無視の罰だ。しばらく苦痛にもがいていろ」
フードで隠れて見えないが、カルドとデレチョを睨みつける怒りの目があった。
「ふん、ゼルファーダがいなければ何も出来ない貴様らが大層な口を叩くとは。身の程を知れ」
再度指を鳴らすルシリオン。
「・・・頭を冷やし反省するがいい、カルド、カルド・デレチョ。・・・・お前たちにはしばらくの謹慎を命ずる」
「「ぎゃあぁぁぁあああぁぁぁぁ――」」
カルドとデレチョが足元から光となって消滅していく。シグナムとヴィータを苦しめた2人が呆気なくこの場から消滅してしまった。その光景を見たイスキエルドは身体を抱くようにして震えながら、ルシリオンへと謝り続ける。
「次は任務を忠実にこなせ。それでなら許そう」
「はい! はい!」
イスキエルドは何度も頷きながらその姿を消していった。空に残ったのはフェイトとルシリオンの2人のみ。フェイトは、今すぐにでも彼の元へと行きたいという想いと、撃墜されたシグナム達の元へと行かなければならないという思い、2つの衝動に葛藤していた。
「・・・彼女たち、すぐにでも治療を施せばいつかは復帰が出来るだろう」
「ルシル!!」
「っ!・・・・君は、一体誰なんだ? 君にその名を呼ばれると心が温かくなる。君のその零す涙を見ると心が激しく痛む。君は、私にとって一体何なんだ?」
「ルシル・・・?」
戸惑いを見せるフェイトとルシリオン。フェイトは何かを言わなければと思い、口を開こうとしたその時、
【そちら以外のレジスタンス回収は終了。サフィーロ、帰還してください】
「・・・【了解しました】・・・ではフェイト執務官、またいずれ」
「待って!」
ルシリオンは静かにその姿を消していった。
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