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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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憎悪との対峙
  18 終わり無き悪夢

 
前書き
今回はようやく主犯格、この話における悪の親玉の登場です。
前回に引き続き、スターダストのアクロバティックな攻撃が目玉ですが、敵の能力や頭のキレなど、侮れない相手感を感じて頂ければ嬉しいです。 

 
安食はスターダストが苛立っていることを確信しながらも、自身の知っている情報を話し続けた。

「だが君は『沢城アキ』としての戸籍を得て外の教育機関に通っている。そこでも成績優秀、だがトラブルをよく起こし、内申は著しく低い。まぁ正確にはトラブルを起こされて、その容疑を押し付けられてるってところかな?」
「なぜそこまで知っている?」
「我々の組織にも君同様のクラッカーがいる。先程、デンサンシティと才葉シティにインターネットシステムをダウンさせたのも彼らさ。そして彼らに昨日の夜、君と出会った後、いろいろ調べさせた。結果が出たのは数時間前だが、君に少し興味が出てきた」

そう言って安食は眼鏡を掛け、今度はネクタイを緩めた。
スターダストはゆっくりと肩のウイング・ブレードに手を伸ばしていた。
睨みつける目が徐々にきつくなっていく。
それはバイザー越しでも安食には見て取れた。
だがそれこそが安食の狙いでもあった。

「ディーラーの廃棄情報から整理すると君、そして過去に死んだ1名以外は全員身元の確認が取れた。全員、何らかの難病で死んだことになってる。まぁディーラーの最先端を通り越したオーバーテクノロジーだらけの医療技術なら治せるものばかり。結果として君を含めたロキの子たちは皆、社会的に死んでるゾンビたちだ。う~怖い」
「何が言いたい?」

スターダストの声がますます低いものへと変わる。
内心、煽られていることはスターダストにも想像がついた。
ここで冷静な判断力を失えば、安食の思う壺になってしまう。
それにスターダストの戦闘のスタイルの一部は先程のジャミンガーとの戦闘で露見した。
まだ肝心の戦力であるブラスターやバルムレット・トラッシュは見せていないが、ステップの踏み方、ウィンドミルなどを交えたアクロバティックな動き、肘を使ったラフプレイな戦法。
だがスターダストには安食がどんな手段で仕掛けてくるか分からない。
それを考えれば若干不利な位置にいるのは間違いない。
怒りが込み上げながらも思考は冷静な状態でキープしようとする。
だが安食はポケットから錠剤の入ったビンを取り出し、水無しで飲み込み、更に追い打ちをかけてくる。

「君はそのゾンビの中でも唯一、元の素性が分からなかった。ディーラーに入る前、一体何処の誰だったのか?本名も生前の情報に関しては全く分からない。まさにアンノウン、正体不明。もしかして本当にゾンビだったりして?」

安食はジョークのつもりだったのだろう。
クスクスと笑いながら、胸ポケットから錠剤の入ったビンを取り出した。
安食は迷うこと無く口に錠剤を含むと水無しで飲み込んだ。
しかしスターダストからすれば、このジョークは全く笑い所が見えない。
むしろ腹立たせる効果しか無かった。

「...他に言うことは?」
「1つだけ聞きたいことがあるかな?」
「?」
「皮肉だと思ってねぇ。自分の意志で外の世界を見てみたいと思って通い始めたんだろうが、知能も低くて自分と違ってムーの力も使えない劣化人類のクソガキにイジメられ、トドメが殺されかかっている。最終的に勝つのは普通の人間ってわけかな?学校全体から忌み嫌われ、陰口を叩かれ、ストレスの捌け口に身を貶され、友達を巻き込んで大怪我させた。どうだい?自分の無能さを味わった気分は?」

遂にスターダストは我慢の限界を超えた。
安食の様子から何らかの暗殺術を身につけていることを感じて間合いを測り、攻めこむ隙を狙っていたがそれは全て無駄になった。
ウイング・ブレードを握り、足に力を込める。
生身の相手は殺さないように痛みを与え、苦しめるつもりだったが、そんな考えはもう無かった。
込み上がってくるのは激しい憎悪だけ、もう思考が冷静なままにしておくことが出来なかった。

「キサマァ....!」
「ハッ!頭にきてんのはこっちも同じだってのぉぉ!!このクソガキがぁぁ!!!」

すると安食は眼鏡を床に叩きつけ、今までの小さな子供を相手にするような紳士的な態度から下衆の極みとでも表現するのが打倒なまでに態度を一変させた。
口を大きく開き、目は血走る。
まさに悪魔の表情だった。
その悪魔は左腕にトランサーを装着すると、胸ポケットから紫色のユナイトカードを取り出し、トランサーに読み込ませた。

『ユナイト・チェンジ!!ナイトメア・テイピア!!』

Unite Change!!NIGHTMARE TAPIR!!

「!?」

トランサーの認証音に続き、安食の正面に紫色のValkyrieの紋章のゲートが現れ、それが安食の体を通過すると、そこに立っていたのは安食ではなかった。
身長は痩せ型の175cmから190cmを超える大柄な体格へと変化し、黒のスーツ、紫色の西洋風な鎧と騎士のアーメットヘルムのようなヘルメット、巨大なグローブ、そして巨大な棍棒を装備していた。
所々に悪夢の食らうと言われるバクのエンブレムがあしらわれたその姿はまさに悪夢の象徴のような電波人間『ナイトメア・テイピア』へと安食は姿を変えた。

『さぁ、お仕置きの時間だ』

ナイトメアは不敵な笑みを浮かべながら棍棒を振り回して構えた。
だがそれと当時にスターダストは地面を蹴り、軽快なフットワークでナイトメアに襲い掛かった。
20メートルあった距離は一瞬にして2メートルに迫る。

「へっ!!喰らえぇぇ!!」
「!?」

ナイトメアが振りかざした棍棒をスターダストは寸前でスライディングして交わし、ナイトメアの股の下をくぐった。

「ヤァァァ!!!」
「タァァァ!!」

今度はスターダストの攻撃に入る。
左手を軸に半回転して飛び上がると、首筋目掛けてブレードを振りかざす。
だがナイトメアの拳で防がれた。
ナイトメアの拳はある種の防具だった。
先程、ジャックとクインティアとの戦闘でなかなかなのダメージを与えることに成功したウイング・ブレードを弾くほどに。

『くっ...トランス・ウエポン!!バルムレット!!』

だがスターダストは左手にバルムレット・トラッシュを構え、二刀流でナイトメアを攻めた。
それに応戦するようにナイトメアも拳で防ぎつつ、棍棒でダメージを与えるべく首や胸などの弱点を突いてくる。
何度も激しく火花が散った。
だが遂にブレードを握っていた右手にナイトメアの棍棒が当たった。

「くっ!?」
「ハッ!!このクソガキ!!まだまだ青いなぁぁ!!」

ブレードは弾かれ、窓を突き破ってビルの外へと落下した。
ナイトメアはそれをいいことにますます攻撃を激化させる。
だがスターダストは左手のバルムレットを両手に持ち替え、全部防ぎきった。
そして隙を見つけてはトップロックステップで懐に入り込むと、腹部や棍棒を握る拳目掛けて肘を撃ち込む。

「ハァァァ!!」
「うっ!?」
「タァァァ!!!」
「そううまく行くかよ!?」

ターンして右足蹴りで側頭部を狙うが防がれた。
だがスターダストの動きは止まらない。
戻した右足で地面を強く蹴り、後方に向かってサイドエアリアルで宙返りしながらバルムレットでナイトメアの下半身から振り上げるように斬りつける。

「くっ!?」
「ハァァァ!!!」

左手で着地すると、そのまま腰を浮かせ返しながら飛び上がり、スワイプスでナイトメアの足を祓おうとする。

「チィ!!その程度かよ!?」
「!?くっ」

スターダストの遠心力を帯びた踵は見事にナイトメアの足に直撃したが、殆ど体勢は変化せず凌がれてしまう。
だがスターダストはハンドスプリングで飛び、僅かにナイトメアと距離を取る。
そして再び足を前に進め、正面から攻撃を仕掛けた。

「ハァァァ!!!」

腹部を切り裂こうとバルムレットを振り上げるが、僅かにナイトメアは後退して交わす。
そしてナイトメアは防ぐ際に上に上げた棍棒を報復とばかりにスターダスト目掛けて力いっぱいに振りかざした。

「オリャァァ!!!」
「くっ!」

スターダストはとっさにバルムレットを頭上に構え、攻撃を防ごうとする。
そして次の動きに移れるように足に力を込めた。
だが読みが甘かった。

「!?」
「だから青いってんだよぉ!!!ザンネンデシタァァ!!!」
「グアァァァ!!!」

ナイトメアの棍棒はバルムレットに止められる前に止まり、代わりにスターダストの腹部にナイトメアの巨大で強烈な拳が直撃した。
カウンターだ。
バルムレット程の大剣で頭上から襲ってくる攻撃を防ぐために持ちあげるとなれば、両手を使わなくてはならない。
そうすれば腹部はガラ空きだ。
そこに全く予期せぬ一撃を喰らい、スターダストは吹っ飛ばされてしまう。

「うっ、うっっ....」

激痛にバイザーの内側の顔が歪み、右手で腹部を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
正直、侮っていた。
杖術に長けていることは想像していたが、拳で殴りかかってくることは全く考えていなかった。

「いいぜぇ...いい顔だ!もっと憎め!!もっとだ!!」
「言われるまでもない...」

スターダストは右腕のガントレットをマシンガンへと変化させた。
そして左手でバルムレットを握り直すと、右足から踏み出してダッシュした。

「ハァァァ!!!」
『ハッ!バトルカード!!スーパーバリア』

スターダストのマシンガン連射に対して、ナイトメアはバリアを張り銃弾の雨を防いだ。
しかしスターダストの狙いは別だった。
結果として全て防がれるのは折り込み済み、狙いは銃弾の雨で自分の姿を隠すことだった。
スターダストはそれに乗じて飛び上がる。

「ん?消えた?」
「もらった!!!」
「!?」

バリアを消滅させると視界からスターダストが消えていたが、次の瞬間、頭上から今にもナイトメアの頭をかち割ろうとするかのようにスターダストがバルムレットを構えて降ってきた。
だが不思議とナイトメアは絶好のチャンスが到来したかのように感じていた。

『バカめ!!堕ちろ!!』
「うっ!?」

棍棒の先からパイプのように紫煙が吹き出した。
万有引力の法則に従っているスターダストは交わすことも出来ずに、その紫煙を浴びてしまう。
その瞬間、スターダストの全身に篭っていた力は抜け、ナイトメアの足元に落下した。

「あぁぁ...ぐぁ...」
「ハッ!正直、危なかったぜぇ?不意打ちが得意なのか?あぁ!?」
「グァァ!!」

ナイトメアは倒れて唸り声を上げながら苦しんでいるスターダストを棍棒で何度も叩いた。
まるで餅つきのように肩、背中、腹部、顔面を潰しに掛かる。

「ガァァァ!!!」
「オラオラオラオラ!!!この程度かよ!?このクソガキ!!」

スターダストは腹部を蹴られ、転がりながら倉庫の窓際まで転がっていく。
だが痛みは全く感じていなかった。
それを上回るほどに襲ってくる睡魔、そして込み上げてくる負の感情で胸が張り裂けそうな激痛に襲われていた。

「うぅぅぅ!!?」

思考がまとまらない。
僅か30メートル先にナイトメアがいるというのに、反撃する手立てが全く思いつかない。
それどころかどんどん冷静な思考力が削られ、視界も真っ暗になっていった。

「あぁぁぁぁ!!!」

頭が痛んだ。
脳をナイフでえぐられている、記憶を引きずり出されそうになる感覚。
やっとの思いで立ち上がるも足元がフラつき、手からバルムレットを落した。
そんな中、頭の中で声が響いた。

-おい!コラ!頭いいからって調子のってんじゃねぇよ!!

-お前って生きてる価値ねぇよ。女見てぇに弱っちい顔して気持ちワリィィ!

-ホントさ、早く転校してくんない?君がいるだけでみんな吐き気がするからさ?

「うわぁぁぁ!!!」

両手のひらで耳を塞ぐ。
しかし声は全く収まる気配を見せない。
それどころかますます鮮明に聞こえてくる。
そしてとうとう視界にも変化が訪れた。

「あっ...あぁぁ...」

目に映ったのは、彩斗の姿だった。
抜け殻のようにかつてのクラスメイトに囲まれ、蹴られ、殴られ、蔑まれている。
自分が今まで受けていた不条理なイジメの光景だ。
ただ努力をしていただけだというのに、努力もせずに能力がないことに対して妬まれてしまう。
もはや人間に対する扱いではない。
悔しかった、何度も殴り返してやろうと思った、だが徐々に諦め始めていた。
彩斗自身もクラスメイト、いや学校の生徒全員を含めたデンサンシティ全体が下等生物に思えていた。
そんな連中を相手にするだけ無駄だと、いくら反撃しても連中はウジ虫のように絶えることなく湧き出てくる。
しかし必死に込み上げてくる感情を抑えながら、今日まで生きていた。

-アイツはいいって。アイツ、人間じゃねぇからさ

-ホラホラ!早くそれ食べなよ!ゴミが大好物でしょ?

-お前が座った後の椅子とか座りたくないわ、最悪....

-先生からも見限られたんでしょ?じゃあみんなで放課後、サンドバッグにしよ!

-大丈夫だって。先生も黙認するからさ!

「ぐぅぅぅぅ....うわぁぁぁ!!!うるさい!!うるさい!!!お前らなんか...お前らなんか!!」

スターダストは必死に目の前で彩斗をイジメる人間たちを掻き消していく。
だが何度も沸き上がってくる。
所詮イメージである以上、頭にある限り何度でも蘇る。
終わらない負の連鎖だった。
悪夢に囚われたまま、抜け出せない。
もう胸が張り裂けそうで、限界が近づいていた。
だが同時に彩斗=スターダストの中では悔しさが込み上げてきていた。
自分を倒すのがナイトメアでもなければ、自分でもない。
自分よりも劣っていることを棚に上げて不条理な暴力を振るってきた者たちの忌々しい記憶、恐怖、憎しみだった。
だがその光景を見て笑っていたナイトメアがとうとう動き出した。

『いい頃合いだな....エンドレス・ナイトメア!!!』

ナイトメアは棍棒をスターダストに向けると、コマンドを実行した。

「う!?あぁぁぁぁぁ!!!!」

スターダストは全身から何かが抜き出される感覚に襲われた。
悪夢が吸い出されて、恐怖と怒りだけが残っているような感覚だ。

「!?うぉぉぉぉぉ!!!スゲェェェェェ!!!これが...コイツの悪夢....信じらんねェェェ!!お前、本当に人間かァァ!?あぁ!?」

「あぁぁぁ....」

だが楽になったのは一瞬だけだった。
心の激しい怒りと悪夢は全く消えなかった。
幻聴はますますひどくなる。
それどころか周囲の影やあらゆるものを見ているだけで、足が竦み始めた。
まるで全てが襲い掛かってくるかのような恐怖。
襲われる前に潰してしまいたくなる防衛本能が極限まで研ぎ澄まされていた。
もう体が限界だった。

「うぅぅぅ!!...あぁぁぁ!!!!」
「ハッ。どうだ?自分の悪夢に心を囚われ、全てのものを受け入れられなくなった今の自分は?」
「あぁ...あ」

スターダストは全身が脱力し、割れた窓ガラスから落下した。
約20メートルの高さから地面に吸い込まれるようだった。

「うっ!?.....あぁ.....」

強化された体であるがゆえにダメージこそ大したことはない。
しかし急激なフラッシュバックによりショックを受けた思考と全身のダメージから立ち上がる事ができない。
そして空は先程から予感はしていたが、雲で覆われ、雨が降り始めた。

「あ...!?ジャミンガー....?」

雨に打たれ一瞬周りに目を向けた時、自分の置かれている状況に気づいた。
スターダストは先程まで浮浪者が徘徊していた路次でジャミンガーに囲まれている事に気づいた。
だがValkyrieの人間ではない。
プライムタウンの住人たちの成れの果てだった。

「ハッ!!ざまぁみろ!!このクソガキが!!」

落下した窓からはナイトメアが、グッタリと力尽きて、自身を囲んでいるジャミンガーに今にも殺されそうになっているスターダストを見下ろしていた。
だがスターダストにはそんな罵倒する声すらも全く感じ取ることができなかった。

「うるさい....」

スターダストの耳にはかつて自分を罵倒し続けた言葉の数々が走馬灯のように流れていた。
視界のジャミンガーたちもクラスメイトや他の学年の不良たちへと変貌していく。
もう誰も信用できなかった。
悲しみで心が心が埋め尽くされ、徐々に意識が遠のいていく。
もう彩斗としての自我は消え失せていた。
そしてとうとう禁断の言葉を口にした。

『僕は...僕だけを信じる...』

そう口にするとその場で力尽きた。

 
 

 
後書き
敵の親玉、安食空夢=ナイトメア・テイピアの登場でした。
バクように悪夢を食らって強化するという一風変わった電波人間です。
イメージ的にはオックス・ファイアをスリムにして騎士風にした感じでしょうか。

そしてスターダストもサイドエアリアル、まぁ側方宙返りやらスワイプス、トップロックやらアクロバットな技や肘打ちを使って攻撃をするのですが、今回は圧倒的に不利でした。

まず安食の口車にのってしまったこと、そして少し前を振り返ってみてもらえると分かるのですがスターダストの設定身長は172cm(変身前は160cm)、ナイトメアは190cmと身長差が大きかったりと。
正直、ナイトメアも大人気なかったですねww
中学生相手に大人が棍棒でめった打ちですからww

ラストには流星2で登場したあのセリフを出しました。
次回、スターダストはこのまま負けるのか、勝つのか、逃げるのか?

誤字脱字等の指摘、感想等お待ちしてます。 
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