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ネギまとガンツと俺

作者:をもち
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第28話「麻帆良祭~本質と布石~」



 麻帆良祭は2日目に突入していた。

 今頃、武闘大会は大いに賑わっていることだろう。ネギとタカミチ先生の決闘には少なからず興味を惹かれるが、昨日にネギの大体の実力を測ることが出来たのでよしとしておく。

「……にしても」

 でかい。

 俺は今、麻帆良の地下、大きな下水道にいた。

 確かこの奥には、これまた驚くようなもっと巨大な空間が出来ていたはずだ。何かの研究施設と思われるが、そこはまたふみこんで見なければ分からない。

 下水道を一直線に進み、道半ばアタリだろうか。

「……道に迷わないか?」

 つい普段どおりの心配が脳裏をかすめ、普通とは少し別の意味で心配になった時だった。

 不意に背後から声をかけられた。

「やれやれ、こんなところまで来てしまたカ」

 次いで前方から。

「さすがに鼻が効くようだが、一人で踏み込んできたのは少し無謀だったのでは……大和先生?」

 後ろは問題児、超鈴音さん。そして前方には、彼女に雇われたのだろうか、色物ぞろいの3-Aの中でも屈指の実力を誇る龍宮真名さん。

 彼女達がここにわざわざ姿を現したということは、狙いは良かったらしい。

「当たり」

 小さく呟く。が、そんなことを呑気に言っている場合ではない。

 助っ人を用意してくるのは予想してたがまさか龍宮さんとは……これは少しマズイか。

 内心、冷や汗を垂らしつつ油断なく2人を見やる。

「副担任に対し申し訳ないが……私には時間がないネ」

 時間がない……どういうことだ?

 などと聞く時間もない。超さんはにっこりと微笑み、言い放つ。

「明日、学祭が終わるまでの少し間……大人しくしていてもらうヨ」




「……あれ?」

 機械式の拘束具に体を固定され、窮屈な思いで過ごしていたタケルだったが、新たに捕らえられてきたらしいタカミチ先生を認め、呑気に苦笑してしまった。

「タカミチ先生も捕まったんですか?」
「はっはっは、情けないことにね……そういうタケル君も?」

 いつも通りのくたびれた笑顔で返すタカミチに、彼もいつものように無表情に答える。

「なかなか優秀な生徒達で」 
「本当に、元教え子ながらなかなか将来が楽しみだよ」
「確かに、そうですね」

 捕まっているとは思えないほどに朗らかに会話を交わす彼等は、さすがに度胸がすわっているとでもいうべきか。

「さすがに要注意人物は神経が図太いネ」

 超の登場に彼等の顔が一気に引き締まった。

「スマナイね、先生方。手荒な真似をする気はなかたのだが、何しろ時間がなくてね。急遽予定を繰り上げたヨ」
「異常気象で世界樹大発光が早まったからかな?」
「正解……さすが高畑先生ネ」

 世界樹大発光はつまり、世界樹に魔力が溜まるわけで。

 ――……つまり魔力の充溢に際して何かをやろうとしている?

 小首を傾げるタケルの疑問に誰かが気付くはずもなく、タカミチと超の会話は進む。

「君の目的は何だ? ……返答によってはいくら元教え子といえどもみすみす見過ごすことは出来ないぞ?」

 滅多になく本気の目で問いかける元担任に、だが彼女は動じることもなく、まるで当然のように告げた。

「魔法使い総人口6700万人……その存在を全世界に対し公表する。それだけネ……ね? 大したことではないヨ」

 ――もちろん、一般人には危害を加えないつもりヨ。

 付け加える超に「そんなことをして君に何の利益が?」と、当然にタカミチが疑問をぶつける。

 彼女は「フフ」と笑い、そして。

「食事はウチの美味しいのを届けるネ。不自由な思いをさせてスマナイ」

 質問には答えず、そのまま部屋を出て行ってしまった。

「……」
「……」

 部屋に残された2人はまるで考え事をするかのように沈黙し、だがすぐに困ったようにタカミチが呟いた。

「……うーん、放っておくわけにはいかないか」

 その言葉に、今度はタケルが尋ねる。

「やっぱりマズイんですか?」
「え?」

 一瞬何のことか分からずに聞き返したタカミチだったが、すぐに質問の意図を把握し、言葉を続けた。

「そうだね……彼女が言っていたように一般人には迷惑をかけずに公表できたとして、それでもここで暮らす大半の魔法使いは大きく影響を受けると思うよ。良くも悪くも……ね」
「……なるほど」

 ――実感は湧かないが、それでも確かに大事ではあるみたいだな。

 タケルが予想していた通り、彼女の目的は大事―今の魔法界の秘匿という常識を一気に覆すほどの―だった。

 ――まぁ……仕方ないか。

 タケルは諦めるように内心でため息を吐く。これで、つまり自身のオコジョ化が決定したようなものなのだから、肩を落とすのは当然といえば当然だろう。その様子に、タカミチが「?」と首を傾げ、

「どうかしたかい?」
「ああ、いえ何でもありません」

 気のせいか沈んだ表情を見せるタケルに、彼はため息を吐き「知ってるよ」小さな声でどこか心配そうに言う。

「超さんをかばったネギ君の責任を君が負うことになっているのは」
「……え」
「君は既にその覚悟をもっていることも。本当はもっと皆と過ごしたいと思っていることも……そして、クラスの誰にも、ネギ君にも告げずにそのまま学園を去ることだって」
「……」
「君はそれでいいのかい?」

 まるでタケルの気持ちを全てわかっているかのような、そんな優しい言葉に、はっきりと頷き、答える。

「はい」

 一切の迷いもない。真っ直ぐで、真摯な瞳。

「……そうか」

 ――気持ちは揺るがないか。

 呟き微笑むタカミチに、タケルがいきなり、強引に話を元に戻す。

「ところで、早く脱出しないといけませんね」

 そんなタケルの言葉に、タカミチも頷く。

「そうだね、でも大丈夫。こういうのは結構なれてるんだ」

 モゴリと口を動かす。

「……『慣れている』ということはタカミチ先生は一人でここを抜け出せる術があるということですか?」
「まぁ、ね」

 にこやかに頷き、口に含ませていたモノを吐き出そうとした時だった。

「ふっ」

 小さく息を吐く音が聞こえたと同時、ギギと機械のフレームが歪むような鈍い音が響いた。

「……え」
「ふぅ……わざととはいえ少し窮屈だったな」

 まるで呑気にため息をつく彼に、タカミチの目が驚愕に見開かれる。

 ――魔法も気も遮断される拘束具の中で、強引に装置ごと破壊した……腕力だけで? いや、まさか……ありえない。でも。

 そんなタカミチの疑問を知ってか知らずか、彼は言う。

「すいません。どうしても一人で調べたいことがあるので、先に失礼します」
「え……た、タケル君?」

 マジで? と言いたそうな顔のタカミチに、それでもタケルは即座に「スイマセン」と言葉だけを残し、そのまま躊躇なく部屋を出て行ってしまった。

「……」

 一人残され、暫し呆然としていたタカミチだったが、やっと思い出したかのように脱出の行動に移るのだった。





 超の位置をコントローラーにて表示。

 追いかけ、外へ出たとき。その正に丁度。

「クウネル・サンダース選手。優勝ーーー!!」

 武闘大会決着のアナウンスが入った。

 武闘場では10カウント負けが確定しヨレヨレト立ち上がるネギの姿が印象的だ。

 ネギに勝って優勝になるのならネギが準優勝ということになる。

 それに関しては驚きと微かなくすぐったさが残るが、大事なことはそこではない。

 何よりも、後から思えばついこの瞬間に関しては超さんの件さえも忘れてしまうほどの、そんな大きな疑問が俺の胸を満たしていた。

 その疑問とはつまり。

「……誰だ」

 つい呟いていた。

 何せ、3-Aの最強人間たちが勢ぞろいしている上にタカミチ先生まで参加という意味不明なほどにシビアな大会だ。

 その彼やら彼女やらを抑えて優勝した人物がいる。

 ほぼ確実に知り合いの誰かが優勝すると思っていたので、正に驚き以外のナニモノでもない。
「まだ他にもバケモノ級がいるのか」

 ――なんて異常な世界だ。

 等と感心していられるのもこの瞬間までだった。

「! ……いた」

 大会開催者としての仕事、つまりは授賞式と締めの挨拶を終えた超さんが人ごみに紛れて移動を開始した。

 おそらくはタカミチ先生によるものだろう、彼女の移動に合わせて何人かの教師らしき人間も追跡を開始した。

 ――さすがにタカミチ先生。行動が早い。

 先に拘束具を外して外へ出たはずの俺とほぼ同タイミングで、先生も脱出に成功したということになる。

 しかも他の教師陣に連絡を済ませているアタリ、彼の実力の高さだけではなく周到さも窺える。

 感心しつつも超さんや教師陣の移動を傍目に捕らえて、呟く。

「……さて、見せてもらう」

 いつに間にか戦闘時の如きソレへと変貌した彼はその姿をステルスで隠し、一定の距離を保ったまま追跡を開始した。




 大方のアタリはつけていた。

 彼女への信じるべきキーワードはただ一つ。

 タイムマシン所持者。

 それだけ。

 だが、それは超さんを捕まえようという他の魔法教師は知りえないという重要な情報。

 そして、それを他の教師陣に、引いてはタカミチ先生にも教えないのは決して先生達の実力を信頼していないだとかそういう類のモノではない。

 『タイムマシンの秘密を教師陣は何も知らない』という誤情報を超さんに与え、油断させるため。

 他意はなく、悪気もない。

 これが俺の戦い方。数え切れないほどのミッションを渡ってきた俺の、本当の姿。

 少しでも生き抜くため、敵を殺すため。

 卑怯者と罵られ、裏切り者と蔑まれ、悪魔と恐がられた俺の本質。

 圧倒的な能力を持つ星人たちと渡り合うための根幹。他人を囮にするという、人数が必要とされる戦い方。

 もちろん、超さんを殺すつもりではないが、確実に彼女を抑えるためにもやはり確実な情報が欲しい。

「……」
 今、正に彼女を捕らえようと魔法教師達が彼女を囲んでいた。いや、正確にはこの瞬間に彼等は襲い掛かった。

 死角はない。

 絶対回避不可能。

 先生方はもちろん、遠目に見ている俺も。誰もが捕まえたと思った。

 だが。

 平然と、彼女は呟く。

「3日目にまた会おう。魔法使いの諸君」

 そして、いなくなった。

「……消えた?」

 呟きの通り、彼女がその姿を消した。

 魔法教師達でも行方を探ることは不可能らしく、驚きと脅威と不可思議といった様々な疑問を浮かべている。

 既に周囲には彼女の気配なく、またコントローラーを見ても彼女の位置は表示されない。

「……やはり、か」

 まさに、これが他の教師達を囮にしてでも俺が見たかったもの。

 コントローラーにも表示されず、魔法教師達の探知にも引っ掛からない。それはつまり、この場から去ったのではない。

 正に文字通り、この世界から消えたということ。

「タイムマシン……そして、消える」

 ――つまりはタイムマシンによる時間跳躍。

 いや、この考え自体は大体予想していた。だがやはり実際に見るかどうかでその答えも対処法も変わってくる。

 これが彼女の大きな隠し玉。これを上手く用いることが出来れば、一瞬だけ消えて現れて不意をついたり、気配すら諭されずに移動することすら可能となる。というか、先ほどのように何の前触れも見せずに消えることが出来ているあたり、瞬間移動程度なら簡単に行使するだろうことは簡単に予想できる。

 もちろんこれも元々予想していたことだが、こうして事実として目の前で繰り広げられてこそ信ずるに足る情報となりうる。

「9割方はあってると考えても良さそう……か?」

 原理はわからないため、絶対だと決め付けることはしない。違っていたときに混乱しないためだ。

 だがともかく、彼女が時間を跳躍していると仮定したとして。

 その跳躍先が未来か過去かは分からないが、そんなことは大事なことではない。大事なのはその事実そのもの。

「……あとは」 

 ――手段、方法……だな。

 ネギに渡したような携帯式のタイムマシンを常時肌身離さず持っているのか。それとももっと実戦でも使えるように改良しているのか。また使うときには何らかの癖があるのか、発動までのタイムラグはどれほどなのか……etc。

 これは実戦の場を見なければ分からない。

「勝負は明日……彼女の言葉どおりだな」

 今日も午後からは告白阻止当番の仕事が待っている。今日はもうこれ以上の情報は得られそうにない上に、そろそろ仕事の時間になる。

 諦めたように呟き、何気なく時計に目を配って新たな事実に気付く。

 本日の当番は13時から。

 そして、今は13時5分。今頃タケルと交代する手はずになっている弐集院先生はヤキモキしているころだろう。 

「……遅刻だ」




 急ぎ、現場に向かうのだった。

 舞台は2日目の午後へ。

 
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