Fate/EXTRA IN 衛宮士郎
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アーチャーからの問い
拝啓。
天国の爺さん、お父さん、お母さん、お元気でしょうか。
俺は今から殺されるかもしれません。何しろ三途の川とか花畑と呼ばれるところから、爺さんたちがおいでおいでという声が聞こえています。ははははは。
………………………こう思うのも仕方ありません。なぜなら、今僕の周りはすごい状況になっているからです。右を見てみると、見上げるくらいの長身。白に近い銀髪。日に焼けたのとは異なる褐色の肌。俺の特徴と違い、別人に見えますが何十年後の未来の俺です。正座をしていますが…………。
今度は左を見てみてみると、猛禽類のような赤い瞳。荒々しさをもつものの整った顔立ち。全身を覆う青い軽鎧。あのケルト神話で有名な半神半人の英雄、クー・フーリンがいます。こっちも同じように正座をしていますが……………
かくいう俺も、彼らと同じように正座しています。そして目の前には、俺たち三人を無言でにらみ仁王立ちしている女の子、遠坂凛。
「……………………」
赤い格好した悪魔と例えたらいいのでしょうか?あかいあくま。いや、今はツインテールが逆立ってるから赤鬼だな。なぜこうなったのだろう?
「ランサー!あ、あんた何勝手に実体化してんのよ。バカじゃないの!!」
驚く俺を尻目に遠坂がものすごい剣幕でランサーを怒鳴り散らす。
「いいじゃねえかよ。このボウズとは、知らねえ仲じゃねえんだから」
飄々とした態度を変えずにしれっと答えるランサー。怒っている遠坂にこんな態度でいれるなんてすごいな…………。
まあ、それよりも、ランサーがここにいるってことは、遠坂のサーヴァントということになるだろう。
よく考えてみると、遠坂とランサーって、案外組んでみるといいコンビかもしれない。俺の知っている遠坂も、ランサーのことは嫌いではなかったと言ってたのを聞いたことがあったし……………なんか、ちょっとモヤモヤするけど。
「はぁ?それってどういう…………」
ランサーの言葉に疑問を感じた遠坂がランサーに尋ねるが
「それよりも、坊主のサーヴァントは誰なんだ?やっぱ、セイバーの嬢ちゃんか?」
完全に無視をして、俺に質問してくるランサー。
うわ〜と、遠坂がすごい目で睨んでる。
「え、えっと…………」
「私だが、文句あるか?」
今まで黙っていたアーチャーがいきなり実体化して答えた。
こいつも何実体化してるんだ!?
「お、おい!アーチャー……「チッ!てめえか。胸糞悪い奴の顔を見ちまったな」
唾を地面に吐き、顔をしかめ舌打ちをするランサー。それを見たアーチャーは
「それをこっちのセリフだ。全く…………マスターがこの未熟者だけでも、嫌というのに…………」
気にする事無く、ある意味芸術の域に達した【むかつかせるポーズ】をとり、平然と言葉を投げた。
「おい!どういう意味だよそれは!!」
アーチャーの言葉と態度についカチンときて大声で怒鳴る。
「言葉のとおりだが?魔術もへっぽこ、家事もへっぽこな貴様をマスターにして誰が喜ぶんだ?」
俺だって鍛錬を頑張って、聖杯戦争の時よりも成長したが、未だ半人前なのは身に沁みているが、こいつに、言われるとものすごく腹が立つ!つーか、家事は関係ないだろ!!
「俺だってお前みたいなひねくれ者よりも、セイバーの方が良かった!」
「確かに、こんなむさくるしい奴よりは、誰だって金髪美人のセイバーの嬢ちゃんの方がいいと思うぜ」
ランサーが俺の言葉に賛同をしてくれた。どうやら、アーチャーではなく俺に味方してくれるみたいだ。
「そうだよな。こいつよりも強くて優しいセイバーの方が何十倍もいい。」
「ねぇ」
「ほう…………そこまで言うなら、私の実力というものをその身にもう一度焼き付けてやろうか?」
「ちょっと」
「俺にもその話に噛ませろよ。そういや、てめえとの決着をつけてなかったな」
「いいだろ。二人まとめて切り刻んでやる」
「上等だ!やれるもんならやってみろ!!」
俺の言葉を合図に、俺とアーチャーは干将・莫邪を投影し、ランサーは、自分の槍を構えた瞬間
「いい加減にしなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」
ガォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!遠坂から藤ねぇがいるのかと思うほどの咆哮があがった。
「と、遠坂?」
俺の言葉に目で人を殺せるんじゃないかと思わせる目つきで俺たちを睨みつける遠坂。
「そこに座りなさい」
何なんだこの圧力は………………バーサーカーが目の前にいるのではと錯覚するぐらいの圧力なのですが…………………
「私がなぜ、君の命令を受けなければならない?」
「いや、いきなり何を言ってんだよ?」
さすが英霊。この圧力を物ともせず反論をするアーチャーとランサー。だが、
「なんか言った?」
「「いや、何も…………」」
抵抗は長くは続かず、二人は、すぐに屈し、地面に正座で座る。そんなのでいいのか…………呆れている俺だが、ご立腹の遠坂がどの位恐ろしいかと言うことを知っているので、二人に続き正座して座った。
「……しかし。あの物言い、不思議と懐かしい。もしや女難の相でもあるのか、俺は……」
感慨深げに呟くアーチャーに、思わず同意してしまう。お互い幸運値低いため仕方ない。こればっかりは死んでもどうしようもないな。
「遠坂はどこでも変わらないんだな……」
他愛もない日常のようで、思わず和むが、現実逃避はここまでにして、この状況をどうしよう?今だに無言で俺たちを睨んでいる遠坂だったが、ようやく口を開いた。
「それで、貴方…………え〜と………」
あっ、そっか………………この遠坂は俺とは初対面だから、名前とか知らないんだ。
「俺の名前は、衛宮士郎。よろしく」
今更ながらだが、自己紹介をしておくことにした。
「それじゃあ、衛宮くんって呼ぶことのことにするわ。衛宮くん…………単刀直入に聞くけど、貴方、私のサーヴァントと知り合いなの?」
「いや、まあ、一応……………」
ただの知り合いじゃなく、殺された相手であり、再度殺されそうになった相手でもあり、一緒に戦った協力者であったり、恩人でもあるからな。
「………………まさかと思うけど、ランサーの真名とかも………」
「悪いな。この坊主に俺のことほとんどばれちまってる。しかも……………」
俺の代わりに答えるランサー。言葉を一回区切り、視線はアーチャーのほうに移す。
「こっちの野郎には、一回俺の槍を止められちまったしな」
ランサーのセリフに殺気がこもっている。恐らくキャスターを倒すための共同戦線の時のことを思い出したんだろう。詳しくは知らないが、余程、悔しかったんだな。
「あんたの槍が止められた?それって……………」
「そろそろいいだろうか?」
アーチャーが突然立ち上がった。
先ほどとは違い、その表情は真剣そのもの。
「な、何よ」
「我々は敵同士。これ以上の馴れ合いは無用。失礼させてもらう。行くぞ、衛宮士郎」
「なっ!?」
冷たく遠坂に言い放つと、実体化をとき、屋上を去っていった。俺も立ち上がると、慌ててアーチャーの後を追いかける。
「ちょ、ちょっと!まだ、話は…………」
「悪い、遠坂!また、時間がある時に。ランサーもまたな」
「おう。また今度な」
別れの挨拶を済ますと、屋上をあとにした。
「もおおおおおおおっ!!何なのよ!!今度あったら、ただじゃおかないわよ!!」
後ろで、何か恐ろしいことが聞こえたが無視した。だけど、次遠坂にあったら、殺されないように気をつけたほうがいいな。屋上から階段を下り、三階に降りるとアーチャーは、腕を組み壁にもたれていた。待っていてくれたのか?珍しい。
「突然どうしたんだ?」
駆け寄って質問してみると、アーチャーは口を開く。
「……………………………突然も何も.彼女は敵だ。情がうつらんためにこうしたに決まっているだろ。それぐらいもわからんのか?たわけが。だから、貴様は未熟者なのだ」
いつもと違い早口でしゃべるアーチャー。………………………こいつひょっとして………。
「アーチャー」
「なんだ?」
「お前、ただ単に遠坂が怖かったか。だけじゃないのか?」
「…………………」
否定も肯定もしずにアーチャーは無言で歩き出した。それを見た瞬間、俺はあることに気づいてしまう。俺こと、衛宮士郎は、例え英霊になろうとも遠坂凛には、逆らうことができずに逃げることしかできないのだと………………。
情報収集を終えて言峰に言われたとおり、2-Bの教室に行ってみた。手をかけて扉を開けようとしても、びくともしない。
「えっと……」
あまり慣れない作業に少し苦戦し、端末を扉にかざしてみた。すると扉から機械音のような音が響き、開く。中は……教室だった。どこにでもあるような、何の変哲もない教室。
「ここは、個室というより教室だな」
早速姿を現したアーチャーが適当に机と椅子をどかし、勝手に自分好みにセッティングし直す。アーチャーは黒板前に自分の定位置を定めたらしく、机を次々と積み上げてから、どこからともなく取り出したを赤い布を積み上げた机の上にかけた。そして最後に椅子にどかりと座り、前に置いた椅子に足を乗せ、組む。
「ふむ、拠点としてはこんなところか。座り心地はイマイチだが、このみずぼらしい部屋に愛着が沸く程度には勝ち残りたいものだな、衛宮士郎?」
「……何でそんなに偉そうなんだよ、アーチャー」
「当然だ」
…………………遠坂が始めてあった時にこいつにいきなり令呪を使ったのが少しわかる気がする。こいつの態度は全く変化が見られない。
「………まあいい、衛宮士郎」
相変わらずアーチャーの態度は偉そうだが、その目は真面目なものになった。話を聞くため俺も余っている椅子を引き寄せ、アーチャーの向かいに座る。
「この聖杯戦争は1つの戦いで確実にどちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。たった一人だけがここから生還できる。貴様はその一人になるために他者と戦えるか?」
「そんなこと…………俺にはできない」
勝者には万能の願いを。敗者には永遠の眠りを。何故こんなことをやるんだ?何故こんなことを平気でやらせようとするんだ?
「なら貴様が死ぬだけだ。私は貴様がどこでくたばろうと知ったことではない」
「そう、だな…………」
アーチャーの言う通り俺がルールを受け入れることが出来なければ、死ぬこととなるだろう。しかし、俺一人が死ねば対戦相手は死なずに済む。
「だが、忘れるな。衛宮士郎の命はもう一人だけのものではないと言うことを」
「!?」
アーチャーの言葉に聞き、遠坂とセイバーの顔が浮かんだ。そうだ…………昔とは違い俺だけの命じゃないんだ。あの二人を置いて俺だけが死に二人を悲しませることなんて俺にはできない。だが…………
『うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は――』
ある月夜に爺さんに語った誓い。
いつだって考えていること。あの日、あの縁側で交わした父と呼べる人との最後の約束。それを破る訳にはいかないがここでは、ただ死ぬのを受け入れるか、他者の命を犠牲にして生きるかの二択しかない
「どうする、衛宮士郎」
「……わからないでも俺は立ち止まってはいられない」
俯いて、そう答えるしかなかった。
ここで死ぬわけにはいかない。でも、他人を殺してまで生き延びていいのか?答えは出せないでいる。
…………………それでもただ立ち止まっていてはなにもかえることが出来ない。
「ほう………戦えないと言わないだけ成長したか」
そんな俺の様子をある程度予想していたのか、アーチャーはふぅ〜溜め息をついただけだった。そして、お互いに口を閉ざしてしまったためあたりが奇妙な静粛に包まれる。
「一つ聞くが衛宮士郎。体に不調はないか?」
意外にも先に口を開き静粛を破ったのはアーチャーだった。
「ん……ああ。記憶のこと以外は特に問題はない」
アーチャーが自分のことを聞いてくるということを怪訝に思いながらも、俺は素直に答える。
「それがどうかしたのか?」
「……いや。私が貴様と契約を結ぶのにあたって、一番の懸念は魔力の受け渡しだ」
「あっ!?」
そこでようやくアーチャーの質問の意図に気付いた。俺は元から魔力の量はそこまで多いわけではないうえに、セイバーと契約したとき、魔力の受け渡しが上手くいかず結果的にセイバーを苦しめていたのだ。
「だが、今のところそれは順調に行われている。魔力の量も十分だ」
「えっ?魔力の量が十分?」
「ああ、凛と契約していた時くらいのステータスがあるだろう。確認してみるがいい」
アーチャーの言う通りに、端末を操作し、ステータスの欄を開いてみると
筋力:D
耐久:C
敏捷:C
魔力:B
幸運:E
「…………………本当だ」
遠坂と契約していた時とステータスが変わらない。
「恐らく、貴様が凛とラインを繋いでいるため、凛の魔力が流れ込んで来ているのだろう。貴様も魔力量がへっぽこなりに聖杯戦争の時よりも増えているようだしな」
「そっか……………よかった」
どのような修業をしていたかは、あまり覚えていないが、魔力面で足を引っ張っていないことが確認出来きたのでよしとしておこう。ついでにへっぽこと言う部分は聞かなかったことにしてやる。胸を撫で下ろした俺を見て、アーチャーは訝しげな顔になった。
「あのな、いくらお前でも、俺は他人を苦しめるようなことはしたくない」
「………………そうか」
少しだけ驚いた表情になるアーチャー。そんなにも意外だったのか?疑問に思う俺を尻目にアーチャーはぼそりとつぶやく。
「………………私は貴様が苦しむのなら、歓迎するが」
「お前本当に捻くれてるよな!?」
この後しばらくの間俺とアーチャーの口論が続いた。俺が言い返すごとに何倍にもなってかえってくる。こいつに口では今だに勝てないことを改めて認識した。
その後ここでの戦闘経験は積んでおいたほうが良いためアリーナにいくことになった。
すぐさま直行と言いたいところでだけど、アリーナに入ってしまうとその日はもう学園には戻ってくることはできず、アリーナを出ると翌日まで何も出来なくなる。
買い物、情報収集など学園でしなければならないことは、アリーナに入る前に済まそうと思う。
この学園は地上3階立ての建物で地下一階には購買部があり、校舎の横には弓道場まである。
情報収集はすでに終わっているので、アリーナ散策に必要なものを買うために、真っ直ぐ購買部に向う。
その途中で思わぬ人物と出会った。
「ねえねえ衛宮くん、ちょっと先生のお願い、聞いてくれないかなー?」
「ふ、藤ねえ……」
俺の姉貴分である藤村大河がその人だ。分かっている。この藤村大河はNPCだ。つまり、今目の前にいる藤村大河は、俺の知っている藤ねえじゃない。聖杯よ、どうしてこうも俺と関わりのある人物ばかりをNPCに選ぶんだ?
「むー、駄目よ衛宮くん。いくら先生が好きでもその愛称は駄目だわ」
本物と変わらぬハイテンションで続ける藤ねえ。…………………NPCだよな?本物じゃなくて…………。
「それで実はね、私の愛用の竹刀が行方不明なのよ。用具室に置いといたら、アリーナに紛れ込んじゃったみたいで……。だから、アリーナから、竹刀を取ってきてほしいの、それで一回戦の間に渡してくれればいいわじゃあ、よろしくー」
そう言い、藤ねえは去っていった。俺の記憶にある通りの藤ねえだ。藤ねえはどこの世界でも変わらないな。
「うん?……竹刀? まさか、あれじゃあ……」
藤村大河愛用の竹刀といえば、アレしかない。 虎のストラップがつけられているので公式戦に出られなかったがつけていなければ藤ねえの名は全国に轟いたものといわせる虎竹刀。一説では、藤村組総出で封印したとか。
「……なあ、わざと忘れていい……よな?」
あれのことを知っているであろうアーチャーに尋ねる。あんなもの藤ねえに渡したら虎に翼だ。アーチャーは実体化すると何処か諦めたようにつぶやく。
「……フ、忘れたければ忘れるがいい。ただしその後は知らんぞ」
「うっ……」
忘れたら虎が爆発しそうな気がしてしょうがない。でも、
「天誅!!」
「チェストオオォォォォ!」
「虎っていうなああぁぁぁぁぁぁ!!」
あれには、叩かれた思い出しかないんだよな……………
その時のことを思い出し、思わず、叩かれた頭をさする。正直、渡さないほうがいいのかもしれないな。
(ん?)
ふっとアーチャーのほうを見てみると、俺と同じように頭をさすっている。
「ん?」
アーチャーと目があった。
「「………………………」」
同じようなポーズでお互い無言になる。英霊となって記憶の殆どが摩耗していても、藤ねえのあの竹刀の痛みを忘れることはできないみたいだ。
「……………さっさと見つけて、あの人に渡すぞ」
アーチャーも俺と同じようなことを思ったのか、皮肉を言わなかった。しかも、いつも見たいな覇気がない。
「……………そうだな。さっさと渡してこのことは忘れよう」
俺もいつもよりも力のない声で答える。
「「………………行くか」」
お互いにそのことに触れず、階段に降り、購買に向かう。
藤ねえには、遠坂とは別の意味でかなわないな……………。そんなことを考えているうちに購買部に到着。
『ほう。私が予想していたよりも種類が豊富じゃないか』
アーチャーのいうとおり購買部には焼き蕎麦パンやカレーパンなどのパン類はともかく、サーヴァントの体力を回復させるエーテル、体操着など品揃えは様々だ。
「マスターの魔力量上昇か…………」
礼装の欄にある体操服の説明書きを見ながら、思わず呟く。嘘が誠かわからないが魔力量上昇という言葉に惹かれる。俺の場合少しでも魔術の特性で魔力は有るに越したことはない。
『ふむ。見たところ罠の類ではないが気になるなら買ってみろ』
「……………そうしたいんだけど、俺、金持ってないんだ」
ポケットを探っても財布が見当たらずいわゆる一文無しという状態。これじゃあ買うことができない。
「どうやって買えばいいんだ?」
「端末をかざして見なさい。電子マネーが入ってるから。既に本戦参加者には、支度金が支給されてるの」
「そうなのか」
端末をかざし、体操服を買った。それから端末で操作し、礼装装備から試しに体操服を選択。すると、身体中の魔力が増えたのがわかる。どうやら、嘘ではないみたいだ。しかし気になる点が一点。
「これで、本当に装備したことになったのか?」
てっきり、ゲームのように自分の服装が体操服に変わると思っていたんだけど………………。外見に変化が見られない。
「装備を選択すると外見に変化はなく、選択した装備のプログラムが貴方の制服に、組み込まれるの。これで、礼装を装備している間は、それに付属されているコードキャストが使えるわ」
「へぇ〜」
月海原学園の制服という外見が変わったわけではないが、装備したことになったらしい。
「色々と教えてくれてありがとう。遠坂」
「この位きにしなくていいわよ。衛宮君」
「「……………………………」」
おもむろに右手の袖をまくる遠坂の姿を確認すると、頭で考えるより早く、身体が動いた。
(なんで、遠坂と鉢合わせになるんだ!?)
もしここの遠坂凛が俺の知っている遠坂凛と同じ性格をしてるなら、これはあれだいつかのガント地獄のパターン。階段を駆け上り、一階の廊下に出る。
マイルームに戻るのは、場所を知られる恐れがあるのでこのまま、アリーナに行こう。アリーナの方に駆けだす。その横をガントがかすめていく。
「止まりなさい!おとなしくしなさいよ!」
何を言い出すんだ、このあくまは…………止まったら最後、飛んでくるガントで昏睡状態どころか、死んじまうじゃないか!それになんで追いかけてくるんだ!!
曲がり角を曲がると目の前に、大きな扉があった。ここにはいればいいのか。
「まてぇーーーーーーーっ!!」
「誰が待つか!!」
飛び込むように扉を開けてアリーナに入った。
「ハァ………ハァ………ここまで……………これば…………」
呼吸整えながら辺りを見回してみると学校の面影など微塵も残っていない。床も壁も、空気、気配、全て違う。
いつ物陰から怪物が現れてもおかしくない、異様な空間。ここはまさに物語などでよくでてくる地下迷宮と呼ぶのに相応しい場所だ。
(ここがアリーナ……………)
この聖杯戦争で戦闘が唯一許可された空間
≪一の月想海 第一層≫
一面を覆う真っ暗な背景には、時折出力を調整しているのか、はたまたデータを送っているのか、幾つかの光が筋となって回路の中を縫うように走っていく。
そして、参加者が通る正四面体を組み合わせた通路には、何匹か現実では見られない浮遊物体を確認することが出来る。そんな中、早速とばかりにサイコロが中央で割れたばねで繋いだような敵が目の前にやってきた。
「こいつはなんだ?」
「ふむ…………おそらくあれが不適格なマスターを排除するためセラフが敵性プログラムだろ。この程度に負けるようでは到底次に進むことはできないという意味でセラフが放ったものだろうな」
言葉を区切り、アーチャーは俺の方をみる。ってか、いつの間に実体化してたんだ?遠坂に追われてる時に実体化しろよ。
「へっぽこ魔術師の鍛錬には丁度いいものでもあるさ」
「……………へっぽこ魔術師って俺のことか?」
アーチャーはわざとらしく驚いたように目を開くと鼻で笑う。
「なんだ。自覚を持っているじゃないか。ま、せいぜいお前が死なないよう護衛に徹するとするか」
やれやれと言ったような感じで、アーチャーは肩を竦め、干将・莫邪を投影すると両手に持った。
「お前に守ってもらわなくても大丈夫だ!」
そう言って俺も干将・莫邪を投影し、前に出る。そのとき、アーチャーの目が怪しげに光った……気がした。
「なら、やってみるか?」
そう言うと、アーチャーは干将・莫邪を消し、俺の後ろで腕を組む。一方、エネミーは俺を敵と認識したようで、ブロックのような体を使い、体当たりしてきた。
「ぐっ!」
俺は剣を交差させて、体当たりを防ぐ。思っていたよりも、かなり軽い一撃だ。これならいける!
両手で引き裂くように干将・莫邪で斬りつける。だが、切り口が浅く、仕留めるには至らなかった。
すると、エネミーは俺から距離を取り、さっきよりも大きなモーションで突進してくる。俺は突進を避け、
「はあっ!」
ややカウンター気味でエネミーの体を先ほどよりも深く斬りつけた。
エネミーの姿が塵となって消えていく。それを確認してから俺は投影した干将・莫耶を破棄して、アーチャーのほうを向く。
「どうだ!」
「今のエネミーは雑魚だったようだが、かろうじて及第点というところか」
相変わらず偉そうにするアーチャー。こいつには、褒めると言うことができないのかよ。まあ、褒めてもらっても気持ち悪いだけだが……………。
「っ……いいさ! 次はテメーをぎゃふんと言わせてやる!」
最初は、アーチャーへの対抗心で頭が一杯だったが、幸いにもアリーナでマスターも魔術が使え、なおかつ敵性プログラムと渡り合える。投影精度にも問題ない。ランクが1つ落ちるのは仕方ないことだが。
「ほう、サーヴァントの代わりに戦ってくれるとは、従者思いのマスターで助かる」
「ああ見てろ!この程度なら簡単に倒してやる!」
ずんずんアリーナを進んでいく。途中出合ったエネミーを八つ当たり気味にで斬り払い、道中にあるアイテムフォルダからアイテムを取り出す。
「………………」
なぜか、始終アーチャーはずっと無言だ。何も言わないなんて不気味でしょうがないが何か思うことでもあるのだろうか?
しばらくして、T字路の中心浮いている蜂型のエネミーを発見。一目見てわかったが、さっきまで戦っていた箱型のエネミーより強い。
「今日は、このくらいでいいか」
結構な数のエネミーを倒したし、初日にしてはいい感じだど思う。蜂型のエネミーに発見されないようにアリーナの出入り口に戻ろうとするが
「…………………」
アーチャーはその場から動かない。
「どうしたんだよ?」
「……………衛宮士郎。おまえはそのままで強くなれるとでも思っているのか?」
問いに帰ってきたのは更なる問い。それも臓腑を抉るような鋭いものだ。
「いきなり、どういう意味だ?」
「質問答えろ。凛に魔術を習い、セイバーに剣術を習う。それで強くなれると思っているのか? おまえの目指す【正義の味方】とやらに届くと考えているのか?」
「………………わからない。でも今はやれることを」
なんとか紡ぎ始めた言葉にアーチャーは首を振った。
「おまえにはその種の才能というものは無いのは理解しているだろ」
曖昧な誤魔化しなど許さぬとその目は厳しく告げている。
「セイバーを模した所でセイバーにはなれん。凛に師事したところで凛にはなれん。おまえはどこにも辿り着けることはないだろう」
そう。セイバーにしろ遠坂にしろ、それぞれの技術に対する天からの恵みを持ち、それを開花すべく磨いた末の実力だ。
それを持たぬ身では、真似た所で身につくはずもない。だが、それこそあの戦いからわかっていたこと。
「それでも・・・強くなりたいんだ」
「正義の味方になる為にか?」
確認され、頷く。どんなに無理矢理にでも、そうあろうと願ったのだ。引けない。引くことなど出来ない。それに…………
「それもある。だけど、それだけじゃない。いつか、俺が遠坂を守れるくらいに強くなりたいんだ」
今は、彼女に守られてばかりだ。でも、いつか。
「・・・そうか」
そういうとアーチャーは、両手に干将・莫邪を投影し、蜂型のエネミーの方に歩き出す。
「いいか。貴様はまだ戦いの覚悟というものがかけている」
蜂型のエネミーがアーチャーを認識したのか、針を突き出し、突撃してくる。箱型のエネミーとは、段違いの速度だ
「お、おい!?」
「凛を守りたいというならば…………」
アーチャーは、避けることもせずに片手の剣で、針を切り落とし、
もう片方の剣をエネミーに突き刺す。エネミーは、刺されたところからバラバラになっていき、チリとなる。
「私の技術をひたすら模範しろ。そうすることが、今の貴様が一番強くなれることだ」
振り返らずに静かにアーチャーはいう。す、すげえ…………一撃で仕留めやがった。箱型エネミーに手を焼いていた俺とは大違いだ。
「!」
そうか…………アーチャーの剣技は誰でも習得可能な凡庸な剣技の集合体。自分が凡才で一流になれないと理解したうえでそれでも鍛え上げ昇華された誰にもたどり着けない努力の剣だと、セイバー言っていた。
(なら俺にだって…………)
こいつの技術を盗めるだけ盗んで、今度こそアーチャーを超えてやる。
アイツベルンの城の時の魔力不足ではなく、全力のこいつをな。
「――――ついて来れるか」
「ついてこれるか、じゃねえ、てめえこそついてきやがれ!」
アーチャーを追い抜き俺はアリーナの奥にさらに進む。
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