| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

―闇魔界と振り子―

 ――目が覚める。知らない天井とは良く言ったもので、何回かこうして目覚めてはいるが、不思議にもこういう感想しか出て来ない。

 そして岩で出来たようなその天井は、どう見ても慣れ親しんだアカデミアの保健室ではない。同じように岩で出来たような、固すぎるベッドのような物に寝かされているようだ。

「……つっ」

 朦朧としていた意識を目覚めさせて、気だるげな身体をゆっくりと起こそうとする。だが、立ち上がろうとしていたにもかかわらず、上半身を起き上がらせるのみで終わってしまう。

 身体がこれ以上動くのを拒否しているとでも言うべきか、なんだか麻酔でも利いているような感覚だ。代わりにデス・デュエルの影響だった、体力とデュエルエナジーが吸われたような感覚は無――

「――ッ!」

 ……ようやく沈んでいた意識が回復していく。異世界のこと、アカデミアのこと、十代のこと、マルタンの姿をした怪物のこと、明日香のこと――様々な出来事が頭の中を駆け巡っていく。

「明日香っ!?」

 麻酔のような感覚を無理やり振り払い、岩のようなベッドから勢い良く立ち上がる。腕から異世界に来ていた影響で壊れたのか、今まで散々エネルギーを吸い取って来たデスベルトが床に落ちて大破する。

 しかしそんなことには全く構わずに、周りの状況を確認していく。中心にある光が部屋中を薄暗く照らしており、周りには俺が寝ていたようなベッドが無数に陳列されている。どうやら施設はともかく病院のようだったが、俺以外には一人も患者はいない。

「どこだここは……」

 マルタンの姿をした怪物は俺をこの異世界に送る時、記憶が定かではないが《暗黒界に続く結界通路》を発動させていた。その記憶が確かならば、ここはデュエルモンスターズの異世界である《暗黒界》なのだろうか。

 とにもかくにも、考えているだけでは始まらない。まずは病院のようなフロアから出るべく、他の部屋に繋がっていそうな巨大なドアを開ける。

 ギギィ……と壊れかけの廃墟のような音をたてながら、巨大なドアはスピードは遅く開いていく。隣の部屋もまた、こちらのフロアと同じように薄暗く、俺がいる建物自体が廃墟のような物らしい。

 唯一つ、今までいた病院のようなフロアと違う点は、先に住人がいたこと。いや、正確には人ではなく……デュエルモンスターズの精霊たちがそこにはいた。少し見渡しただけでも、《本の精霊 ホーク・ビショップ》のような、低レベルの通常モンスターばかりだったが。

「…………」

 十人程度の数のデュエルモンスターズの精霊たちは、部屋に入ってきた俺を一瞥するなり、そのまま話しかけることさえせずに無視する。……その内の一体を除いては。

「大丈夫……なんですか?」

 物言わぬデュエルモンスターズの精霊たちから、唯一俺という闖入者の下へ歩み寄って来てくれたのは、白衣を着たメガネの女性……片腕にはデュエルディスクが装着されている。それだけでは俺と同じく人間に見えるのだが、その白衣の背中から生えている天使のような翼がその感覚を否定する。

「わたしの名前は……リリィ。お身体は……大丈夫ですか?」

 身体を心配するかのような台詞とは裏腹に、あまり彼女の表情は変わらない。それは無愛想を通り越して、感情がないかのように感じられた。

「あ、ああ。それよりここは一体……そうだ、明日香を……俺と同じくらいの背格好の、金髪の女の子はいないか!?」

 みっともないぐらいに慌てた俺に対し、リリィと名乗った白衣の天使は「落ち着いて……ください」と先手を制する。ついバツが悪くなってしまい、一度考えを纏めて落ち着こうとしたものの、どうにも情報が足らずに考えをまとめるという段階ではない。

「順番に……お話し致します」

 慌てふためいている俺に代わり、むしろ落ちつきすぎたリリィからこの状況の説明を聞く。……どうやら事態は、俺が思っている以上に深刻のようだ。

 この異世界は、俺の予想通り《暗黒界》であるらしく、最近他の世界の住民が集められているのだという。リリィやこの廃墟にいる精霊たちもそうであり……もちろん、俺も同様だ。そしてここの本来の住人である《暗黒界》の住人は、他の異世界へと出発していき……《デュエリスト狩り》を行っているらしい。

「デュエリスト狩り……?」

「《覇王》。そう呼ばれている暗黒界の首領が……それを指示しているそうです」

 その《覇王》という存在を聞くとともに、脳内にマルタンの姿をした怪物が浮かび上がっていく。自然と拳に力が込められていくが……不思議そうなリリィの表情を見て――無愛想なら無愛想なりに表情はある――、説明の続きを促した。

 ……そして先の住人である《暗黒界》を今率いているのは、《闇魔界》と呼ばれているデュエルモンスターズの精霊群。彼らもデュエリスト狩りを行っていて、この世界に来たデュエリストを……いや、デュエリストでなくとも狩っているらしい。

 そうして生き残りはこうして、闇魔界の軍勢から隠れ暮らしている……ということだ。ここもこうした隠れ家の一つであり、近くで倒れていた俺をリリィが発見して看病してくれたとのことだ……軽く数週間は気絶していたようたが。

 しかし、俺のデュエルディスクは十代とのデュエルで大破し、先程からただの重石にしかなっていない。【機械戦士】もデュエルディスクの故障の影響でどこかに消え、デッキホルダーに入れていたはずのもう一つのデッキも、盗まれたか落としたかは知らないが……どこにもない。

「……分かった」

「これから……どうなさるのですか?」

 リリィの首がコクリと傾いて疑問を示す。デッキが使えなかろうが、俺の答えは決まっている。

「明日香って奴を探しに行く。助けてくれてありがとう」

 マルタンの姿をした怪物は、俺と同じように明日香を先にこの異世界に送ったという。デッキがあるならば大丈夫だろうが、マルタンの姿をした怪物に没収されているか……回復を待たずに捕まってしまっていては。

 どこにいるかは分からないが……彼女を何としても探さなくてはならない。

「それじゃ、出口は――」

「ここを出て行くのはならん」

 相変わらず無表情なままのリリィに、この廃墟の出口を聞こうとした時……しゃがれた声が俺を制止した。先程から俺という存在を無視していた――《本の精霊 ホーク・ビショップ》を始めとする精霊たちだ。

「お前が出て行く時に見つかれば、この場所も発見されてしまう。……この場所から出るのはならん!」

 ホーク・ビショップが激昂して俺に向けた声に、他の精霊たちも『そうだ!』『勝手に行動するな!』と口々に賛成する。見る限りデッキも持っていない彼らには、その闇魔界の軍勢に立ち向かう力はないのだろう。《デュエリスト狩り》が何を意味しているのか、までは分からないが……少しでもリスクがあることはやりたくないらしい。

 彼らが俺を無視していたことにも、これで合点がいった。俺という得体の知れない存在に関わって、何かがあることが怖いのだ。……だが、合点がいったからといって「はい、そうですか」という訳にはいかない……!

「あんたらの事情も分かる。だけど、悪いが俺は明日香を助けに行かせてもらう……!」

 壊れたデュエルディスクを近くの机に置き、アカデミアの蒼い制服を整えながらホーク・ビショップに対して言い放つ。彼らはあからさまに狼狽したが、同時に俺がデッキを持っていないことを見抜いたらしく、ただの力が弱い人間だと分かってニヤリと笑った。

「ならば、力ずくでもここに――」

 ホーク・ビショップの宣言は最後まで続くことは無かった。彼の宣言の途中で、廃墟の天井から振動ともに爆破音が鳴り響き、この建物全体を揺らしたのだ。

「……リリィ!?」

「分かり……ません」

 先程から、俺とホーク・ビショップたちの一触即発の争いを無表情で眺めていたリリィに、振動で倒れないようにバランスを取りながら尋ねるものの、彼女にもこの振動の正体は分からないらしい。つまりは、俺たちの世界における地震のような物ではなく、何か人為的に起こされているものだということ……!?

 ……そしてもう一度爆破音が鳴り響くと、廃墟の天井が爆散するとともに、眩しい光が照らしてこの部屋を照らし始めた。

 いや、天井から現れたのは光だけではなく――

「デュエリストが一人、雑魚が10人……大量だなぁ!」

 ――剣を持って鎧を着込んだ、異形の怪物が一人。

「や、闇魔界の戦士だ!」

 ホーク・ビショップたちが叫ぶとともに、他の者を押しやりながら我先にと逃げようとする。だが異形の戦士――こちらの世界では《闇魔界の戦士 ダークソード》と呼ばれたモンスター――が発動した《カオス・シールド》に、退路を断たれてしまう。

「雑魚は黙って俺様のデュエルを見学してな! さぁーて……?」

 闇魔界の戦士 ダークソードは天井から俺たちのいるフロアに飛び降り、俺とリリィの前に立ちはだかった。いや、俺というよりは……デュエルディスクを持ったリリィに、か。

「俺様の名は闇魔界の軍勢が一員、《オルネッラ》! テメェらは俺様の出世の生贄になってもらおうかぁ!」

 戦士というよりはチンピラのような性格の《オルネッラ》が、リリィに対してデュエルディスクを展開する。今【機械戦士】がなく、俺に戦う力が無いことがもどかしい……!

 リリィもそれに緩慢な動作でそれに応じたものの、いつまでもデュエルディスクを展開する様子はなく、構えたまま身体が震えている。無表情な顔もよく見ると、薄くだが暗い表情に包まれている。

 彼女は――怖がっているのだ。

「どうしたぁ、早くデュエルディスクを展開しなぁ!」

「そ、そうだ! 早く追っ払っとくれ!」

 オルネッラとホーク・ビショップの二人から罵詈雑言がリリィに飛び、彼女はギュッと目を瞑りデュエルディスクを展開しようとした。……だが、その腕にもうデュエルディスクは装着されていなかった。

「規格は旧型と同じ……やれるか」

 何故なら俺が代わりに装着。そしてもう展開しているからに他ならない。……デュエルモンスターズの精霊のみにしか使えない、特別なデュエルディスクということではなく、エドが使っている物と共通規格のようだった。

「何を……してらっしゃるんですか」

「俺だって少しは腕に覚えがある。任せてくれ」

 少なくともデュエルの前に震えているよりは……とは言わないが。今このデッキが、どういったデッキなのかも分からないが……俺はここで捕まるわけにも、死ぬ訳にもいかない。

「この異世界のデュエルは……命がけなのですよ。わたしのデッキも……拾い集めたデッキで、戦力になるとは思えません」

「もうその男はデュエルディスクを展開したぁ! 外野が何を言おうが何の意味をなさないんだよぉ!」

 オルネッラが声を張り上げてリリィの忠告を掻き消す。命がけのゲーム? もう闇のゲームで経験していることだ。拾い集めたデッキ? ……そもそも俺の始めてのデッキは拾い集めたデッキだ。

「問題なんてない……!」

 半ば自分に言い聞かせるかのように呟くと、俺はリリィを巻き込まぬようにオルネッラの下へ数歩歩み寄った。……デュエルの準備はこれで完了する。

『デュエル!』

遊矢LP4000
オルネッラLP4000

 旧型のデュエルディスクで普段と勝手が違うものの、問題なくデュエルディスクとしては機能し、俺の方が先攻だと表示された。勝手が違うと言えばデッキの方が深刻だが……まずはドローしてから考えるとしよう。

「俺の先攻! ドロ――ッ!?」

 ドローしようとデッキに手を伸ばそうとしたところ、電撃のような物で弾かれてしまう。マルタンの姿をした怪物がやったような、外部からの妨害ではなく、デュエルディスク本体からの妨害だった。

「この地では……先攻にドローは出来ません。他にも……あなた達とは違うルールの筈です」

 後ろのリリィから忠告が飛んでくる。……勝手にデュエルディスクを奪っておいて、このような結果とは情けない。

 他にどのようなルールの変更があるかは分からないが、基本的には変わらないはずだ。先攻ドロー不可は、先攻を取れた身としてはかなり痛いが……いつまでもそんなことを言っている暇はない。

「俺はモンスターをセット! さらに永続魔法《タイムカプセル》を発動!」

 モンスターが一体フィールドに隠されるとともに、俺の近くに《タイムカプセル》が埋まっていく。かのカイザー亮が良く使っていた魔法カードで、確かにキーカードのサーチが目的ではあるが……このカードを発動した最大の目的は、自らのデッキの中を確認すること。

 デッキの中からキーカードを選ぶ際に、このデッキがどのようなデッキなのか分かるはずだからだ。……相手が相手なので、じっくり見てる暇はないだろうが。

「これでターンエンドだ」

 許される時間の限りでデッキを確認した後に、キーカードをタイムカプセルに封印してターンを終了する。当然ながら【機械戦士】とは似ても似つかなかったが、今はこのデッキでやるしかない……!

「俺様のターン、ドロー!」

 後は相手の腕前が、どの程度のものかに懸かっている。《闇魔界の戦士 ダークソード》と言えば、なかなかのステータスを持つ下級モンスターだが……

「俺は《ハウンド・ドラゴン》を召喚!」

 攻撃表示で召喚される黒きドラゴン。レベル3の通常モンスターとしては最大の攻撃力を誇っており、流石と言うべきか、俺がセットしたモンスターの守備力より攻撃力が高い。

「バトル! ハウンド・ドラゴンでセットモンスターにアタックぅ!」

 ハウンド・ドラゴンが接近してくるとともに、俺のフィールドに隠れていたセットモンスターが姿を現す。肌が雪のように白い魔法使いの少女だったが、あっけなくハウンド・ドラゴンに破壊されてしまう。

 しかし、ハウンド・ドラゴンの方の様子がおかしくなり……少女を破壊した顎から凍っていくと、最終的には、少女がそうであったようにセットモンスターとなってしまう。

「お前が破壊したのは《ゴーストリックの雪女》! このモンスターを破壊したモンスターは、永続的にセットモンスターとなる!」

「《ゴーストリック》……だぁ?」

 先程《タイムカプセル》で確認した際に、このデッキに投入されていたシリーズカード《ゴーストリック》。闇属性の下級モンスター群であり、自分と相手とセットするとともに、相手にダイレクトアタックを叩き込む戦術を取るカテゴリだ。

 だが、このデッキは【ゴーストリック】というにはその絶対数が足りず、あくまでもサポートに止まっているようだ。

「チッ……カードを一枚伏せ、ターンエンドだぁ!」

「俺のターン、ドロー!」

 今度はデュエルディスクから電撃などは起こらず、デッキからカードをドローする。さらに《タイムカプセル》が浮上して来るが、手札に加えることが出来るのは次なるターンだ。

「……さらにモンスターをセットして、ターンを終了する」

 《ハウンド・ドラゴン》が低い守備表示を晒している、このタイミングで攻め込んで行きたいのだが……キーカードを呼び込むことは出来ず、再びモンスターをセットすることで終わる。俺がこのデッキを使いこなしていないのもあるが、元々自ら攻め込む手段が少なすぎるようだ。

「フン。俺様のターン、ドローだぁ!」

 せっかくのチャンスに防戦一方な俺を鼻で笑いながら、オルネッラはカードをドローする。未だに判明しているのは《ハウンド・ドラゴン》のみと、敵のデッキはこちらのデッキ以上に未知数だ。

「俺は《ハウンド・ドラゴン》をリリースし、《魔装戦士 ヴァンドラ》をアドバンス召喚する!」

「……なに?」

 オルネッラが行った、セットモンスターをリリースしてのアドバンス召喚に疑問を呈したわけではなく、俺がつい疑問の声をあげたのは現れたモンスターについて。《魔装戦士 ヴァンドラ》と呼ばれるカードのことを……俺は知らなかった。

「バトル! またゴーストリックでも意味はないぜぇ、コイツはダイレクトアタックを可能とするモンスターだからなぁ! 魔装戦士 ヴァンドラでダイレクトアタックぅ!」

「……ぐあっ!」

遊矢LP4000→2000

 予想だにしない魔装戦士の一撃を受け、俺のライフポイントが早くも半分に削られる。魔装戦士というのがどんなカードか知らないが、恐らくはオルネッラのデッキは【魔装戦士】……!

「ターン終了だぁ!」

「……っ、俺のターン! ドロー!」

 ヴァンドラに受けたダメージをなんとか堪えながらも、その痛みを吹き飛ばすように気合いを込めてカードを引く。さらに、そのドローフェイズの後に、俺のフィールドに《タイムカプセル》が浮上する。

「《タイムカプセル》の効果発動。デッキから選択したカードを手札に加える。……よし、モンスターを反転召喚!」

 オルネッラはこのセットモンスターを《ゴーストリック》だと思ったようだが、残念ながらその予想は外れている。マントとシルクハットを構えながら、仕事の道具が入っているバックを構える魔法の葬儀屋――《マジカル・アンダーテイカー》だ。

「《マジカル・アンダーテイカー》のリバース効果! 墓地から魔法使い族を特殊召喚する! 蘇れ、《ゴーストリックの雪女》!」

 葬儀屋とはいってもその効果はむしろ逆。持っていたバックから、墓地に眠っていた《ゴーストリックの雪女》を目覚めさせ、墓地から特殊召喚する効果。

「レベルが低い下級モンスターばかりでぇ……!」

「レベルが低いモンスターには慣れてる……さらに《ゴーストリックの魔女》を召喚!」

 雪女とはまた違うゴーストリックの女性モンスター、《ゴーストリックの魔女》を通常召喚する。ゴーストリックたちは自身の効果により、《ゴーストリック》と名前のついたモンスターがフィールドにいなければ、表側表示で召喚することが出来ないのだ。

「そして魔女の効果! 相手モンスターを一体、セットすることが出来る。当然、ヴァンドラを裏側守備表示にさせてもらう!」

 《ゴーストリックの魔女》がその手に持つ杖を振ると、亡霊のような物が現れてヴァンドラに纏わりつき、強制的に裏側守備表示にさせてしまう。ヴァンドラは攻撃力2000のダイレクトアタッカー、という強力な効果を持つが……その守備力は僅か800。

「バトル! ゴーストリックの雪女でセットモンスターに攻撃!」

 ゴーストリックの雪女から凍える息吹が発せられ、ヴァンドラは守備の態勢のまま凍りついて破壊される。これでオルネッラのフィールドには、リバースカードが一枚のみ。

「だが破壊された、《魔装戦士 ヴァンドラ》の効果発動ぅ! ドラゴン族・魔法使い族・戦士族のいずれかの通常モンスターを、墓地から手札に加えることが出来るぅ!」

 ヴァンドラの効果により先程破壊された、《ハウンド・ドラゴン》がオルネッラの手札に戻る。魔装戦士は、通常モンスターをサポートする効果を持っているのだろうか。

 ……そんなことを考えるのは後だ。《ハウンド・ドラゴン》が手札に戻ったからと言って、オルネッラのフィールドががら空きなのに変わりはない……!

「魔女とアンダーテイカーでダイレクトアタック!」

「この程度ぅ……!」

オルネッラLP4000→2400

 この程度だとオルネッラも言う通り、やはり火力は足りていない。しかしダメージには変わりなく、そのまま油断せずに守りを固めてターンを終了する。

「カードを三枚伏せ、ターンエンドだ!」

「お前のエンドフェイズに、伏せてあった《凡人の施し》を発動ぅ! 二枚ドローし、手札の《ハウンド・ドラゴン》を除外する!」

 オルネッラが伏せていたリバースカードは《凡人の施し》。ヴァンドラの効果で手札に戻した《ハウンド・ドラゴン》を、そのままドローコストへと変換する。

「……改めて、ターンエンドだ」

 オルネッラがエンドフェイズ時にカードを発動したことにより、エンドフェイズの巻き戻しが発生するが……特に何が出来るわけでもない。そのまま改めてターンを終了する。

「俺様のターン、ドローぅ!」

 俺のフィールドには、攻撃表示の《マジカル・アンダーテイカー》と《ゴーストリックの雪女》と《ゴーストリックの魔女》。いずれもステータスが低い下級モンスターだが、それを守るように三枚のリバースカードが背後に控えている。

 オルネッラのフィールドには何もないものの、《凡人の施し》による手札交換を果たしつつ、未だに手札を温存している。先の二枚のドローによって、攻める準備が出来ているかどうかで、俺の運命は決まる。

「俺は《魔装戦士 テライガー》を召喚!」

 新たに召喚される魔装戦士。ヴァンドラが風を纏う魔装戦士だったのならば、こちらはさしずめ大地の魔装戦士ということだろうか。

「魔装戦士 テライガーは手札から守備表示で、通常モンスターを特殊召喚出来る! 来い、《ハウンド・ドラゴン》!」

 再び現れる《ハウンド・ドラゴン》だったが、その攻撃力を活かすことが出来ない守備表示。ただの通常モンスターでチューナーでもなく、《ハウンド・ドラゴン》自体は警戒する必要はない。

「さらに魔法カード《戦線復活の代償》を発動! ハウンド・ドラゴンをリリースし、墓地から《魔装戦士 ヴァンドラ》を特殊召喚する!」

 ただ《ハウンド・ドラゴン》を特殊召喚しただけで終わるわけもなく、《ハウンド・ドラゴン》をコストに更なる魔法カードを発動する。通常モンスターを墓地に送ることで、あの死者蘇生と同様の効果を発揮する魔法カード――《戦線復活の代償》により、ゴーストリックたちの連携に敗れた《魔装戦士 ヴァンドラ》が、再び蘇生されたのだった。

「これで終わりだなぁ、バトル! 魔装戦士 ヴァンドラでダイレクトアタックだぁ!」

 風の属性を持つ魔装戦士、その効果は攻撃力2000によるダイレクトアタック。先のターンで俺のライフの半分を削った一撃が、今再び繰り返されそうとしていた。

「させるか! リバースカード《皆既日蝕の書》を発動! フィールド場の全てのモンスターを、裏側守備表示にする!」

 《太陽の書》と《月の書》に並ぶ表示形式の書の一つ、《皆既日蝕の書》。その効果はフィールド全域に及び、全てのモンスターを守備表示にすることで、攻撃をストップすることが出来る。

「チッ、また裏側守備表示かぁ!? リバースカードを一枚伏せてターンエンドだぁ!」

「……いや、お前のバトルフェイズ時にもう一枚のリバースカード《グリード》を発動する!」

 《タイムカプセル》によって手札に加えていた、このデッキの中で一番ダメージを与えられるカードだったカードこと、罠カード《グリード》。その効果は発動しただけでは発生することはなく、発動しても何も起きないオルネッラは疑問で首を捻る。

「だから何だってんだぁ!?」

「……さらに、《皆既日蝕の書》の効果! 相手のセットモンスターを全て反転して表側守備表示にし、その数だけ相手はカードをドローする!」

 太陽は皆既日蝕で隠れてようともまた必ず現れて、そのフィールドに輝きをもたらす。それを体現したかのようなこのカードは、一度モンスターをセット、その後に表側守備表示にし、相手に表側守備表示のモンスターの数だけドローさせる効果を持つ。

「ヘッ、じゃあ二枚ドローさせて貰うかねぇ!」

 もちろん、ただ《攻撃の無力化》のように防御用に使うには、この相手にドローさせるデメリットがあまりにも足を引っ張る。だがそのドローさせる、という効果こそがこのカードの活用方法でもあるのだから。

「《グリード》の効果発動! ドローフェイズ以外でドローした時、相手にその数×500ポイントのダメージを与える!」

オルネッラLP2400→1400

「なぁにぃ!?」

 《皆既日蝕の書》で二枚ドローしたオルネッラに《グリード》が反応し、ドローした二枚のカードから1000ポイントのダメージを与える。これでオルネッラのライフは、俺のライフを少しだけだが下回る。

「俺のターン、ドロー!」

 《グリード》の効果によって相手のライフポイントにダメージを与え、ドローさせた相手の攻撃をゴーストリックたちを始めとする魔法使いで防ぎつつ、《皆既日蝕の書》などによってバーンダメージを狙う。――それが、見た限りはこのデッキのコンセプトだったが……【グリードバーン】としては作り込みが足りないにもかかわらず、ダメージ源は《グリード》に頼りきり。

 どちらかと言えば中途半端な構成だったが……何とか戦えそうな状況になって何よりだ。しかし、《グリード》に頼りきりだけでは遅すぎる。

「セットモンスターをリリースし、《暗黒の眠りを誘うルシファー》を召喚する!」

 《皆既日蝕の書》により、オルネッラのフィールドの魔装戦士達は、いずれも脆い守備力を曝したままだ。攻め込む手始めとして、黒いマントに覆われた魔術師がアドバンス召喚される。

「《暗黒の眠りを誘うルシファー》が召喚に成功した時、相手モンスター一体を攻撃出来なくする! 効果の対象はヴァンドラ!」

 黒いマントの奥に輝く緑色の眼が、相手のフィールドにいるヴァンドラを貫く。ダイレクトアタッカーであるヴァンドラの攻撃を封じ込めるとともに、まだ魔術師たちの展開は終わらない。

「二体のモンスターをリバース! 《ゴーストリックの魔女》! 《マジカル・アンダーテイカー》!」

 二体のモンスターが反転召喚されるとともに、さらに《マジカル・アンダーテイカー》のリバース効果が発動される。《暗黒の眠りを誘うルシファー》のリリースによって墓地に送られた、《ゴーストリックの雪女》が墓地から特殊召喚されると同時に――

 ――フィールド全域に《つり天井》が降り注いだ。

「リバースカードオープン! 《つり天井》だぁ!」

 その原因は無論オルネッラのリバースカード。フィールド場のモンスターが四体以上の時、全てのモンスターを破壊する罠カードの前に、展開していた魔術師たちは全滅してしまう。

「ヴァンドラの効果で墓地から《ハウンド・ドラゴン》を手札に加えるぅ!」

 《つり天井》によって破壊されたため、先程も発動した《魔装戦士 ヴァンドラ》の効果が発動し、《ハウンド・ドラゴン》が手札へと戻る。だが、同じく破壊された《魔装戦士 テライガー》は何の効果も発動しなかったため、魔装戦士の共通効果という訳ではないらしい。

「すまない……魔法カード《一時休戦》を発動し、ターンエンド」

 破壊された魔術師たちを想いながらも、次なるターンへと備える魔法カードを発動する。《一時休戦》はお互いに一枚ドローしつつ、次の相手ターンのエンドフェイズまで、どちらもダメージを受けないという魔法カード。たとえモンスターがいなくとも、これでダメージを受ける心配はない。

 お互いに一枚ドローしたことにより、俺のフィールドの罠カード《グリード》の効果が発動するが、同じく《一時休戦》によってダメージは無効化される。《グリード》の無意味な発動が終わり、オルネッラのターンへと移る。

「俺様のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにはリバースカードが一枚に、永続罠《グリード》が存在している。対するオルネッラのフィールドには、自身の《つり天井》によって何もないものの、オルネッラ自身の《凡人の施し》や、俺のカードによる《皆既日蝕の書》と《一時休戦》により、大量の手札を抱え込んでいる。

「俺は《カップ・オブ・エース》を発動! コイントスで表が出た時二枚ドローするぜぇ!」

 ソリッドビジョンに映し出されたコインが表を示し、よってオルネッラは二枚のカードをドローする。《グリード》の効果発動が確定した瞬間でもあったものの、《一時休戦》によってそのダメージは発揮されない。

 そして《カップ・オブ・エース》で良いカードを引いたのか、オルネッラは狂ったように笑いだした後、こちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。

「ヘヘヘ……驚かせてやるぜぇ異世界人! 手札から《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》を、それぞれPゾーンに置くぅ!」

 オルネッラが装着していた旧型のデュエルディスク。その両側から新たにカードを置くスペースが現れ、そこにオルネッラが手札から二枚のカードを置く。

「なっ……!?」

 俺の疑問の声とともにデュエルディスクから浮かび上がっていく、黒い魔術師が浮かぶ赤色の光と白い魔術師が浮かぶ青色の光。どちらも対照的で美しく、その境界線から白い光が溢れ出す……!

「ペンデュラム召喚! 現れろ《魔装戦士》たちぃ! 《ハウンド・ドラゴン》!」

 ――そして白い境界線から現れたのは、四属性を持つ魔装戦士たちと、それに付き従う黒き竜《ハウンド・ドラゴン》。まるで幻でも見たかのように一瞬にして五体のモンスターが、オルネッラのフィールドへと集結していた。

「ペンデュラム……召喚……!?」

 オルネッラが言うところのペンデュラム召喚は終わったようで、デュエルディスクから現れていた赤色の光と青色の光、白い境界線は収束して消えていく。だが、新たにデュエルディスクから現れた『Pゾーン』は健在であり、そこに発動している二体の《魔術師》もまた、健在である。

 未知なる召喚方法に言葉も出ない俺が傑作だったのか、オルネッラが再び狂ったように笑いだす。その笑いようはこちらを挑発しているようで、自然とオルネッラを睨みつけてしまう。

「驚いてるなぁ! 良い表情してるなぁ! ――カードを一枚伏せ、ターンエンドだぁ!」

 《カップ・オブ・エース》の効果の二枚ドローにより、《グリード》の効果が発動するが、《一時休戦》によって今この瞬間まで効果ダメージはない。

「……俺のターン。ドロー!」

 カードを引いて次なる行動へと入るより早く、今起きたことを冷静に考える。オルネッラの挑発しているような、狂った笑い声を耳からシャットアウト。

 《ペンデュラム召喚》。始めてみることになる未知の召喚方法だったが、本当に幻のようにそこにいない訳ではなければ……未知の場所から出て来たという訳ではない。オルネッラは、溜め込んでいた手札を全て消費しており、その《ペンデュラム召喚》をされたモンスターは、恐らくは全て普通のモンスターだろう。ならば、あのモンスターたちは手札から召喚されたのだと分かる。魔装戦士たちだけならば、魔装戦士たち自身の効果だとも考えるのだが、《ハウンド・ドラゴン》の存在からその可能性は低い。

 情報量が少なすぎて何が分かる訳でもないが、とにかく、未知の召喚方法だろうと、ルールに則った召喚方法だということ。そして方法はどうあれ、オルネッラのフィールドには五体のモンスターが召喚され、俺のフィールドにモンスターはいないということ……!

「モンスターをセット! さらにリバースカードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

「俺様のターン! ドロー!」

 今の自分に出来る精一杯の防御。セットモンスターが一体に、リバースカードが三枚という鉄壁の布陣。……五体のモンスターを相手にしていては、少し頼りないが。

 そしてオルネッラは――デュエルをしていれば分かることではあるが――、三枚のリバースカードに躊躇するような性格では……ない。

「トドメだぁ! 魔装戦士 ヴァンドラでダイレクトアタック!」

 ――ならばそこを突く。リバースカードを警戒しないならば、そのリバースカードによって決着をつける……!

「リバースカード、《皆既日蝕の書》を発動!」

「二枚目だとぉ!?」

 先のターンで発動された速攻魔法《皆既日蝕の書》が発動され、再びフィールドの全てのモンスターを日蝕のようにセットしていく。通常モンスターである《ハウンド・ドラゴン》はもちろん、魔法カードに耐性がある魔装戦士もいないらしく、全て例外なく《皆既日蝕の書》にセットされて――

「なぁんてなぁ! こっちもリバースカード、オープン! 《ポールポジション》!」

 オルネッラのリバースカードが開示されるとともに、ヴァンドラがセットされていく魔装戦士たちの一番内側に移動する。セットされた魔装戦士たちが邪魔で、ヴァンドラにまで《皆既日蝕の書》が届かない……!

「俺様のフィールドに《ポールポジション》がある限りぃ、攻撃力が一番高いモンスターは魔法の効果を受けないんだぜぇ!」

 永続罠《ポールポジション》の効果により、攻撃力が最も高いヴァンドラには魔法効果耐性が備わる。それは《皆既日蝕の書》だろうと、魔法カードならば例外はない。

「今度こそトドメだぁ! ヴァンドラでダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」

 再びダイレクトアタックを仕掛けてくるヴァンドラを、俺の前に展開したカードの束が何とか防いでくれる。ヴァンドラの猛攻に対し、ギリギリ首の皮一枚繋がった、といったところか……

「そしてエンドフェイズ! 《皆既日蝕の書》の効果が発動する!」

 《皆既日蝕の書》によって裏側守備表示となっていた、ヴァンドラ以外の三体の魔装戦士とハウンド・ドラゴンが再びその姿を守備表示で見せる。表側表示になったのは四体と、《皆既日蝕の書》は脅威の四枚ドローをオルネッラに強いる。

「そしてエンドフェイズ時に《グリード》の効果が起動する!」

 起動した《グリード》は、ドローしていれば発動したプレイヤーなど関係ないかのように、俺とオルネッラ双方に光線を飛ばす。俺は《ガード・ブロック》によって一枚ドローしたため、500ダメージ。

 だがオルネッラは《皆既日蝕の書》により四枚ドローしたため、500ダメージどころではすまない。2000ポイントのダメージがオルネッラを襲う……!

「これで……終わりだ!」

 オルネッラのライフは残り1400ポイント。よって、このバーンダメージを受ければこのデュエルは決着がつく。それが分かっているのだろう、オルネッラは最後までドローするのを躊躇っていたが……ドローしないことは許されない。

 ……だが肝心の《グリード》による一撃は、オルネッラを庇うように現れた、半透明のモンスターによって防がれた。

「……残念だったなぁ! 《ハネワタ》の効果発動だよぉ!」

 手札から捨てることで効果ダメージを無効にするチューナーモンスター、《ハネワタ》――今の四枚のドローで引いたらしく、俺の渾身の一撃は、たった一枚によって防がれてしまう。そして《ハネワタ》は《グリード》自体を無効にした訳ではなく、オルネッラへのダメージを無効化したに過ぎないので……俺へのダメージは無効化されない。

「くっ……」

遊矢LP2000→1500

 《グリード》によるダメージは俺が受けたものの、まだ《グリード》は健在……ではなかった。俺のフィールドにあるはずの《グリード》のカードを、蛇を模した魔装戦士が破壊していたのである。

「《魔装戦士 ハイドロータス》のリバース効果だぁ! 相手の魔法・罠を破壊するぜぇ! ……リバースさせてくれてありがとうよぉ、ドローもなぁ!」

 ……キーカードたる《グリード》も破壊されてしまい、俺の反撃は《皆既日蝕の書》で四枚ドローさせるだけで終わる。その状況を見て、オルネッラが歓喜に打ち振るえるがごとく笑いだした。

「……エンドか?」

「あぁ、なんだって?」

 けたたましく笑っていたオルネッラだったが、思った以上に冷静な俺を見て笑うのを止めるとともに、訝しげに俺の方を見ながら聞き返した。

「ターン終了か、って聞いてるんだ」

「チッ……ターンエンドだよ!」

 今はまだオルネッラのエンドフェイズ時、ターン終了宣言をしないとデュエルが進行しない。やはり冷静な俺を見て疑問そうな表情を見せるものの、簡単な話だ。オルネッラの挑発のような笑い声は、もう俺には届かない。

「俺のターン、ドロー! ……その良く喋る口……黙らせてやるよ!」

 何故なら、このターンでデュエル終わらせるから。オルネッラの口を黙らせてやるからだ……!

「モンスターを反転召喚! 《センジュ・ゴッド》!」

 千住観音像を模した金色の仏像が姿を現し、その効果を発動する。召喚か反転召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターをサーチする効果であり、手札に儀式魔法があればそれだけで儀式召喚が可能な状況となる。

「手札から儀式魔法《ドリアードの儀式》を発動! センジュ・ゴッドをリリースし、《精霊術士 ドリアード》を儀式召喚!」

 満を持して儀式召喚されるのは、四つの属性を持つ儀式モンスター《精霊術士 ドリアード》。金色の髪を揺らしながら、エレメントを操る魔術師として降臨する。

「さらに《右手に盾を左手に剣を》を発動! フィールドにいるモンスターの攻守を逆転させる!」

 魔法カード《右手に盾を左手に剣を》よって、精霊術士 ドリアードの攻撃力は1400ポイントとなる。しかし、他の魔装戦士とハウンド・ドラゴンは守備表示のため、破壊してもダメージはなく、ヴァンドラは《ポールポジション》の効果によって魔法効果を受けない。

 一見意味のない魔法カードの発動。だが必ず意味はある……そして、この儀式モンスターを見て、目をつぶって二人の友人たちの顔を思い出す。このモンスターと同じく、女性方儀式召喚使いの彼女のことを。このモンスターと同じく、属性を司るHEROを使う彼のことを。

 明日香を探しだして二人で十代に謝らなければ。そのためには――

「リバースカード、オープン! 《風林火山》!」

 ――このようなところで止まっている場合ではない……!

「風林火山だとっ!?」

 俺のフィールドにデュエルの序盤から伏せてあったリバースカードに対し、オルネッラの驚愕の声が廃虚に響き渡っていく。それと同時に精霊術士 ドリアードには、四つの属性の力が貯まっていく。

 三つの強力な効果の、いずれかを選ぶことが出来る罠カード《風林火山》だが、効果に比してその発動条件は厳しい。だが、その発動条件である四属性を揃える、という条件は……《精霊術士 ドリアード》が一人で賄える条件でもある。

「《風林火山》第一の効果発動! 相手モンスターを全て破壊する!」

 吹き荒れる疾風、逆巻く水流、燃え盛る火炎、荒ぶる大地。四つの属性を持つ強大なエネルギーが《精霊術士 ドリアード》に集まっていき、光線という形となってオルネッラの魔装戦士へと襲いかかっていく。《ポールポジション》があろうと関係なく、魔装戦士とハウンド・ドラゴンは、精霊術士 ドリアードの一撃によって呆気なく壊滅したのだった。

 ……よって今フィールドにいるモンスターは、精霊術士 ドリアードただ一人。俺はそのまま容赦なく、デュエルの決着をつけるべくダイレクトアタックを命ずる。《右手に盾を左手に剣を》により、精霊術士 ドリアードの攻撃力は1400ポイント……!

「バトル! 精霊術士 ドリアードでダイレクトアタック!」

「や、止めてくれぇ……うわあぁぁぁ!」

 大げさに怯えるオルネッラに対して、もはや身を守るモンスターがいない彼には、精霊術士 ドリアードの放った光弾が直撃する。慣れないデッキで危ないところだったが……ジャストキルでオルネッラのライフポイントは0となるのだった。

「あぁぁぁ……」

 しかしデュエルが決着するなり、ライフポイントが0になったオルネッラの様子がおかしくなっていく。その場から苦しみながら動かなくなり、身体が足から徐々に消えていっている。

「おい、どうし……」

「待って……ください」

 ついつい、オルネッラに近づいて行こうとしてしまった自分を、後ろに控えていたリリィが引き止める。その面もちは神妙な表情をしつつ、俺の隣に並び立った。

「あれがデュエルに負けた者の……末路です」

 リリィは全く感情を感じさせない声色のまま、苦しむオルネッラのことを指差した。その様子を見て俺は、してはいけない最悪の想像をしてしまう。

「まさか……」

「はい……この世界でデュエルに負けた者は……死に、ます」

 否定してほしかったように震えた声の俺の質問を、リリィが幻想を打ち砕くかのような答えを示す。つまり俺は、デュエルで命のやりとりをしただけでなく……対戦相手を、殺したのだ。

「あ……」

 リリィがデュエル前に怖がっていたのも、オルネッラがトドメを刺す前に怯えていたのも当然だ、この異世界でデュエルに負けた者は何か声をかけるより速く、その姿は消えていってしまうのだから。……この世界で死んだ者は、果たしてどこへ行くのだろうか。

 何も分からない。異世界のことも、明日香のことも、十代のことも、マルタンの姿をした怪物のことも、機械戦士のことも、アカデミアのことも、この世界のデュエルのことも。隣に立っているリリィが何者なのかすら、俺には分からないままだ。

 だが、こんな異世界だろうと分かることもある。絶対に忘れられない……『明日香を探してアカデミアに帰る』という俺の目的こそがそうだ。

 ……俺はしばし、その目的を心に刻みながらも、オルネッラが消えていった場所を眺めていた。

 
 

 
後書き
ずっと使って来た機械戦士としばしの別れ。書いてる方にしても違和感しかない次第。

新たなデッキですが、流石にこのデッキのままではなく、遊矢とともに魔法使い族を中心に強化されていく予定です。

……何かアイデアがあればお願いします(笑) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧