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戦争を知る世代

作者:moota
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第十三話 生存

 
前書き
こんにちは、mootaです。

更新が少し遅くなってしまいました。ごめんなさい。
「第六話 三年後」で、第三次忍界大戦が始まったという記述がありましたが、時系列的に少しおかしいので修正しました。もともと、この小説でもまだ始まっていないつもりでしたので。岩と木の葉では戦争してますが、世界にはまだ波及していない、その時間帯です。



 

 
第十三話 生存





火の国暦60年7月9日 お昼 
木の葉隠れの里 稲荷神社
ふしみイナリ





パン、パン


静かな境内に柏手を打つ音が響いた。この音が響くと、それだけでこの境内に凛とした空気が広がる。


僕は昨日の夜、木の葉に帰ってきた。
7日早朝に始まった戦闘に、“支援部隊 後方支援科 通常補給群 第88小隊”として参加していたのだ。この戦いが僕にとっては初陣だった。結果として、僕は生き残った。しかし、その結果はどうあれ内容はとても酷いものだった。

今、僕は火影様に呼ばれて役所に向かおうとしていたところだ。役所に行く前にちょっとだけ、お稲荷さまに挨拶をしておこうと思ったんだ。

火影様に呼ばれた理由は色々あると思う。その中でも、この前の戦闘のことが中心だろう。僕は戦闘中に“青い炎”を出した。自分の意思ではないし、「なんだ、それは?」と聞かれても答えられることは少ない。それでも、不可思議なところもあった。僕が炎を纏った時、何故かそれを周りに放出すればいい事を知っていた、いや、どちらかと言えば頭の中に刻み込まれていた、そんな感じが近いと思う。きっと、僕には知らない何かがあるのだろう。もしかすると、それはお父様、お母様のこと、ふしみ一族のことに繋がっているのかもしれない。

今日は聞かれる為に呼ばれたのだろうけど、僕も聞かなければいけないことがたくさんある。

一族のことだけでもない、戦闘の結果、他の仲間はどうなったのか・・・・死んでいるのを確認したのはハカリだけだ。血に濡れた腕や足は見たが、あれが轟隊長やアユ、トキだとは限らない。・・・あさのは隊長も。

何故、それを知らないのか。答えは簡単。
あの戦闘に僕たちは最後まで参加していない。ミナトさん、サクモさんが来た後、僕たちはクシナさんに連れられて戦線を離脱したのだ。そして、そのまま昨日の夜に帰ってきた。だから、知らない。

でも、何となく・・・理解しているし、覚悟もしている・・つもりだ。


ここで悩んでいても何も進まない。
そろそろ、役所に向かおう。


もう一度、柏手を打ってお稲荷さまに頭を下げる。
どうか、どうか・・淡い希望を叶えてください。





同日 お昼
役所 執務室
三代目火影 猿飛ヒルゼン



窓から里が見える。
今日はからっと晴れたということもあり、いつもより賑わっているように見えた。買い物に出かける母親、商いをしている商人、日向ぼっこをしているご老人、今日は皆、穏やかに過ごしているようだ。


「それで報告を受けた通り、イナリは“青い炎”を出したのじゃな?」
窓の外から意識を戻して、部屋にいた人間に話しかける。


「はい、直接は見ていませんが、そう言っておりました。。また、私自身も向かっている途中で“憑代様”と同じチャクラを感じました。」

彼は波風ミナト、この間の暁の森の戦闘で救援に行ってもらった一人だ。その時にイナリに変化があったと報告してきたのだ。

「やはり・・・そうなってしまうのか。もしかしたら、イナリはないかもしれんと思うておったが・・・」

儂も“ふしみ一族”については限られた情報しか持っていない。されど、ほっておく訳にもいかない。


コンコン


そう考えていると、ノックの音で意識が引き戻された。

「入ってよいぞ。」

扉を開け入ってきたのは、そのふしみイナリだ。ま、呼んだのだから来るに決まっておるがの。

イナリは部屋の中に入るとミナトにも気づいたのか、会釈をし、話しかけた。

「あ、ミナトさん、この前はありがとうございました。」

「いや、とんでもないよ。間に合ってよかった。あぁ、そういえば、クシナが君の事を心配してたよ。」

「クシナさんが、ですか?」

「あぁ、今度よかったら顔でもを出してよ。」

「はい。ありがとうございます。」

入ってきた時はかなり酷い顔色だったが、今の会話で少し良くなったように見える。


「三代目、それでは僕は・・・」

「うむ、すまんな。」
そう答えると、ミナトは部屋から出ていった。


イナリはミナトを見送っていたが、扉が閉まるとこちらに目を向けた。緊張しているのか、それとも不安なのか、少し体が強張っているように見えた。


「さて、なぜ呼ばれたか、おぬしならわかっておるじゃろ?」
わざと試すかのように聞いてみる。

「はい、“青い炎”のことだと思います。」
イナリは少しも臆することなく答えた。


うむ、この年齢にしてはしっかりとしておる。なかなか、どうして。

「それも、もちろんじゃが、おぬしの気持ちはそこではないのではないか?」


「!?・・・はい、・・・」
返事はしたが、それ以上は黙ったままだ。顔は下に向けており、顔色を伺うことはできなかった。


「イナリ・・・これは戦争じゃ・・お互いの大事なものを掛けてのな。覚悟せよ、これからも同じようなことが起こる・・・」
そう言ってやることしか出来ない自分が情けない。しかし、火影として多くのものを守るために言わねばならぬこともある。


「はい、申し訳ありません。」

「よい、別におぬしを責めている訳ではない。しかし、今は木の葉と岩との戦争だけじゃが、いずれこの戦火は他国にも移る。・・・第三次忍界大戦の勃発じゃ。これはもう、抑えられん。恐らく、もっと酷くなるじゃろう。」


「故に、覚悟せよ。」

こう言わねばならない。彼が、この生きづらい世界で生き抜く為には。


「はい。」
まだ、頭を垂れたままだ。


「さて、本題に移ろうかの。この前の戦果じゃが、暁の森での戦いは木の葉の勝利で終わった。」

垂れていた頭が勢いよく上がり、こちらを見ている。その目には先程までなかった“希望”のような色がちらついていた。

「しかし、被害も大きい。攻撃部隊4個小隊は戦闘中盤で敵に後背を取られ、前後で挟撃された。サクモ、ミナトが援軍として行ってくれたからどうにかなったが、それでも7割の損失。そして、お前たち支援部隊は補給任務中、敵の奇襲を受けた。損害は・・・半壊。」

半壊・・・その言葉を使った直後、彼の瞳から希望が消えた。

恐らく、分かっていたことだろう。それでも、希望を抱かずにはいられなかった。アカデミーの仲間が、友人が、死んだなどと信じたくはなかったはずだ。


「は、半壊とはぐ、具体的にはどのような・・・」
力なく、震える声だった。

目をぎゅっと瞑り、息を吐いた。
「支援部隊 後方支援科 通常補給群 第79小隊のメンバー全員の戦死が確認された。また、同第88小隊に至っては小隊長は重傷。小隊員は軽傷。」

イナリはまた、頭を垂れる。彼の顔色を伺うことも出来ず、反応もない。ただ、少しだけ、肩が震えていた。


「79小隊のメンバーは、全員、損傷は激しかったが、遺体は回収されている。皆、家族の元に帰してやれる。それは、何よりも救いかもしれん。」




「そんなの・・・」
ずっと黙っていたイナリが声を出した。
聞き取れるかどうかのほんの小さな声を。
そして、



「そんなの関係ない!!」

イナリが叫んだ。


「そんなの・・・関係ない・よ。」
顔を上げたその顔は、目を真っ赤にして泣きじゃくっている顔だった。

儂は目が離せなんだ。
何も言えず、何も出来ず、ただ彼の目を見つめることしか出来なかった。

「・・皆は、生きて帰りたかった。死んで帰るつもりなんて、なかった!」

「なんで・・・なんで、みんなが・・!」
泣いて、泣いて、溢れるほど涙を流し、涙声で叫ぶ。


!?
そうじゃ、儂は何でそんなことも理解できなかったのであろう。ただただ、無責任に彼に伝えてしまった。


居ても立っても要られず、儂はイナリを抱き締めた。
何もできなかった儂には、ただただ、抱き締めてやることしかできなかった。

そうして、声を絞り出した。
「すまぬ・・・本当にすまぬ。」



イナリは、そのまましばらくの間泣き続けた。






「すみません、火影様。取り乱してしまって。」
気を持ち直したのか、落ちついた声だった。
しかし、その目は真っ赤なままで、頬には涙が流れた後が残っている。


「いや、儂こそすまぬ。お主の気持ちを考えていなかった。」
火影であるが故に“人ではなかった”のかもしれん。いや、“人であること”を忘れようと、または捨てようとしていたのかもしれん。


「皆の葬儀はいつ、行われるのでしょうか?」

「明日の正午、行う予定じゃ。」

イナリはそう言うと、明後日の方向に顔を向けている。あの方向、共同墓地のほうであろうか。ここからは見えないところにある。それでも、そちらを向いて何かを感じているのだろうか。


「イナリ、話を変えようかの。」

「・・・はい。」

「ただ、どちらにしろ、おぬしには辛いかもしれんが・・・」
そうなのだ、こちらの話もイナリにとっては人生を大きく左右するものである。

「・・・かまいません。」

「わかった。もう一つの話は、お主の“青い炎”についてじゃ。その炎がどんなものか、話してくれるか?」

「はい。あれは・・・そもそも私の意思ではありません。気がつくと守ってくれる、そのような感じでした。最初は、あの夜・・お父様、お母様が殺された夜に初めて“青い炎”を見ました。そして、二度目はこの前の戦闘です。」

一度、ふぅっと息を吐くと、彼は話を続けた。

「あの時・・・僕たちの足元で敵の攻撃が爆発しました。その威力は凄まじく、さすがに死んだと思いました。しかし、気がついてみるとほぼ軽傷で火傷もなかったんです。そして、周りを見渡すとハナとカタナが青い炎に包まれて倒れていたんです。何故だか、その炎が彼らを守ってくれたんだと感じました。」

「自分だけじゃなく、仲間も助けたと?」
それは初耳だ。

「はい、何故だかわかりませんが・・・」

「うーむ、そのようなことが・・・、話を続けてくれ。」


「はい、もう一つ気になることがあります。お父様、お母様が殺された夜から、意識をすれば・・ですが、敵意を感じるようになりました。」

「敵意・・・とな?」
まさか、いや、あり得る話ではある。

「敵意があるものが赤く光るのです。ぼくの頭の中で。だから、敵意があるものがどこに、何人、どうしているのか、が何となく分かります。それがこの前の戦闘で、自分を纏っている炎を放出したときにより明確に見えたんです。」



「なるほど・・・そういうことか。」
儂は目を瞑り、少しばかり考えに耽る。
これは決まりと見るべきだろうか。うむ、そうだろうな。これは“力の一端”の話ではない、“力の本質”だ。
しかし、イナリはこれから生きていく上で辛くなるやもしれぬ。生きるのが辛いと思うようになるかもしれぬ。ただでさえ、イナリは多くの大切なものを犠牲にしているとういのに。

「イナリ、よく聞いて欲しい。これから話すことはお前の“一族”、“母親”に関することじゃ。」


「!?」
イナリがこれまでになく、反応する。

「ただ、これを話すとお主はもう戻れなくなる。何も知らない、今のお主に。知らない方がよかった、聞かなければよかった、きっとそう思う。・・・だから、決めよ。己自身の“真実”を聞くかどうかを。」



「ぼくの・・“真実”・・・?」
深く考え込んでいるのであろう、イナリの目はどこも見ていない。


「だいじょ「ダメじゃ。安易に考えるでない。」」

答えようとするイナリを制止する。


「おぬしの人生を大きく変えるものだ。よく、考えてほしい。」
そこで儂は彼を引き寄せて、もう一度彼を抱き締めた。

「火影様?」
イナリは儂の腕の中で訝しげな顔をしておる。


「・・・これでも、よくお前のことを知っておる。あの夜以来、ずっと見ておった。だから、知っておるのだ、お前が自分の命は蔑ろにすることも。」

「!? 僕はそんなつもりは・・・」

「いいや、この前の戦闘でもそうであろう?お前の行動の主体は“仲間が死なないように”、これに尽きるであろう?」

「いえ、あれは!」

「菜野ハナや うちはカタナ、その他の仲間を死なせない・・・そういう気持ちだったはずだ。」

「あれは・・・僕が“失いたくない”だけです。・・・自分が辛い思いをしたくないだけです。」

儂は腰を折り、イナリと同じ目線にする。
「イナリ、お前にとってそれは同じじゃ。お前は“大切な人を失う気持ち”を知っておる。それを知ってるものは相手に“大切な人を失う気持ち”を、“そんな思い”を、させたくないと心の底に思っているものなのじゃ。そして、その思いを持っているからこそ、“仲間を死なせたくない”と思う。なぜなら仲間の一人が死ねば、他の仲間が悲しむからの。」


「そんなの・・・何とでも言えますよ。」

「しかしの、一つだけそうだと言えることがあるんじや。」

イナリが儂の顔をじっと見ている。
儂はイナリを少しだけ離し、両肩を掴む。

「・・それを仲間が感じるのじゃよ。」

「仲間が・・・感じる?」-

「そう、実はお前と話す前に菜野ハナと うちはカタナから話を聞いておる。」

!?

「二人は言っておったぞ。イナリは、“私たちを想ってくれている”と。私たちに、“大切な誰かを失う気持ちを知ってほしくない”という思いが分かると。そういうやつが“仲間を死なせない”ようにして、“みんなで生き残る”ことを考えるんじゃ。」

「・・・・・」

「だが、そういうやつに限って、自分の事はその勘定に入っていない。・・どういう意味か、分かるな?」

「・・・はい。」

「だからこそ、お前には自分の事を見て欲しい。お前の“真実”は人生を狂わせるかもしれぬ、生きていくのが辛いかもしれぬ、よく考えてくれ。ー聞くのか、聞かないのかをな。」


イナリは目を瞑り、考え込んでいるようだ。
その間、部屋は静まり、外の喧騒だけが聞こえる。
日は少し傾いており、皆夕飯の買い出しなどに外に出ているのだろう。

イナリはゆっくりと目を開けた。考えが固まったのかもしれぬ、しかし、まだ考える時間があってもいいだろう。

「イナリ、明日、葬儀の後に答えを聞こう。」


「わかりました。」

「それとイナリ、今日はクシナとミナトの家に行きなさい。」

「え?どういうことですか?」
イナリは心底不思議そうに首を傾げている。


「こういうときは一人でいるものじゃない。クシナにはもう話してあるから、外で待っておるじゃろう。一緒に夕飯でも食べるといい」

驚いておる。困惑しておる。
でもな、イナリ、一人でおるのは辛いのじゃ。お前は慣れてしまっているのかもしれん。でも、それは心の表だけであって、裏では傷ついているのじゃよ。

「分かり・・ました。それでは、失礼します。」

そう言ってイナリは部屋を出ていった。



(あ、イナリ君、待ってたわ。)
(クシナさん、本当にいいんですか?)
(もー、当たり前だってばね!よーし、イナリ君の為に、今日はいっぱいつくっちゃうからねー!)


部屋の外から声が聞こえる。
これはなかなかいい案だったと思う。
イナリ、これからはお前にとって険しい道が待っている。だから、今日だけは“幸せ”でいて欲しい。


もう一度、街を見ておこうかと思って窓に近づくと、向かいの屋根に白い狐が座ってこちらを見ていた。

「あなたは・・・イナリをどう思っているのですか?」
そう、呟いた。


狐は尻尾を二回、左右にゆっくりと振る。
振りおわった頃には、もうその姿はなかった。 
 

 
後書き
最後まで読んで頂いてありがとうございました。

そろそろ、イナリの真実が少し見えてきました。
見て頂いている方、次回をお楽しみに。


ありがとうございました。 
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