前略、空の上より
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第六話「ファーストコンタクト」
前書き
そらおと、ついに完結しましたね。
個人的にはあの終わり方は可もなく不可もなくといったところでした。
もうちょっと上手く終結出来たんじゃないかなぁ……。
――ジジ……ジ……ジジジジ……ッ!!
人気のない草原の一角。突如、空間が歪むとそこから翼を生やした人型の集団が現れた。
一人は男で十分イケメンで通る容姿をしている。残りの七人は女。それも絶世の美女ばかりだ。
そんなある種のハーレムを形成している男――アルカインこと俺はホッと一息ついた。
「……転移完了。よかった~! 理論上は大丈夫だったけど、万が一次元の狭間とかに落ちたらどうしようかと思ったわぁ」
まあ、そうなったら朝日を拝めないのは俺だけになるけどね! エンジェロイドの皆ならそこでも生きていけるだろうし!
空を見上げると、曇り一つない晴天が目に映る。
辺りを見渡すと、見慣れた近代的な町並みが広がっていた。
「大地よ……私は、帰ってきたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ-―――――ッ!!」
ぞぉー、ぞぉー、ぞぉー……。エコーの掛かる声に何故かテンションが上がる俺。
「ご主人様ったら、あんなにはしゃいで」
「嬉しそうですねぇ」
もろ手を上げて騒ぎまくる俺を微笑ましそうに見守るタナトスとハーピー妹のリリア。
「ここが人間たちが暮らしてる地上~?」
キョロキョロと物珍しそうに辺りを見渡すアストレアにニンフが近寄る。
「そういえばアストレアって地上にきたことなかったんだっけ。どう? 始めての地上は」
「んー、空が青い!」
「それはシナプスでも同じでしょうがっ」
なにやらコントを始めている二人をそっちのけ、とことこやってきたイカロスが裾を小さく引っ張った。
「マスター」
「どうした?」
「原住民と思われる人間が二人接近しています」
「なんですと?」
言われて便利アイテムから小型レーダを取り出すと、確かに人間が二人こちらに近づいている。
距離にしておおよそ三百メートルだ。
他の皆も集まり、どうするの? と無言で聞いてくる。
「とりあえず穏便にいこう」
頷くと、イカロスとアストレアが俺の両隣に、タナトス、ニンフ、ハーピーしまいが背後に佇んだ。
――さてさて、初の人間とのファーストコンタクトだ。はたして誰が来るのかな……?
待つこと数分。やってきたのは二人の少年だった。
一人はなぜかハンググライダーを背負っている眼鏡をかけた痩身の少年。
そしてもう一人は小柄な体躯の少年だ。
――智樹と英四郎キタ―!
まさかの原作主人公、桜井智樹とその先輩の守形英四郎である。
原作の開始は原作主人公、桜井智樹が中学二年生の時期だ。新大陸の発見を熱望する守形英四郎の指示により、彼の地の反応を示した大桜が生えた神社そばに向かうように指示を受け、そこで天から落ちてきたヒロインイカロスと邂逅する。
学生服姿を見たところ中学生の様子。どうやら原作開始時期に近いようだ。
振り返る。桜が咲き誇った大きな木が見えます。
はい、原作開始ですね。
「うぉっ、美人……それにコスプレ姿も超似合ってるし」
桜井智樹がイカロスたちに感嘆の声を上げる。エロエロな顔でないところを見ると、純粋に見とれているようだ。
メガネを中指でくいっと押し上げた守形英四郎がジロジロと俺たちに視線を這わせる。
「……常に移動していた『穴』が突如停滞し、消えた……消えた場所には見たことのない人が七人……。これは偶然か……?」
ぶつぶつと呟いていた守形英四郎は頭を振ると、見とれていた桜井智樹の頭を叩き正気に戻す。
「突然すまない。俺は守形英四郎という。美空中学三年で新大陸部の部長を務めている者だ。こちらは後輩の桜井智樹」
「あ、っと、どうも」
礼儀正しく頭を下げる守形英四郎――英四郎につられ、智樹も慌てて頭を下げた。
いつでも動けるように身構えていたイカロスたちに軽く手を上げて警戒を解くようにサインを送った俺も自己紹介する。
「丁寧な紹介痛み入る。俺はアルカインだ。こっちがイカロスとアストレア。後ろがタナトス、ニンフ、リリア、ミリアという」
イカロスたちも軽く頭を下げた。
「それで、なにか俺たちに聞きたいことでもあるのかな?」
「……なぜ、そう思ったのか聞いても?」
「なに、一見冷静に見えるが、君の瞳から好奇心の色がチラチラ見えるからね」
「…………では、率直に窺います」
再びメガネを押し上げた英四郎は切れ長な瞳を向けてきた。とても中学生とは思えない眼光だ。
「あなたたちはこの町の人ではないですね? 美空町は人口が少ないためほとんどが顔見知りです。あなたたちのような人がいればすぐにでも気がつく」
「……」
腕を組んで某探偵のように持論を述べる英四郎を見やる。
「そして、先ほどまで観測していた未知の『穴』が突如消失した場所にあなたたちがいた。しかも全員の背中には翼がある。これらのことから導かれる答えはただ一つ」
ゴクッ、智樹とアストレアが息を呑む。智樹はともかくアストレアまで英四郎の醸し出す空気に呑まれるなよ。これからはバカの申し子って呼ぶぞ?
メガネをキランと光らせた英四郎はびしっと指を突きつけた。
「あなたたちは新大陸からやってきた!」
智樹がひとりズッコケタ。
「せ、先輩、言うに事欠いて新大陸はないですよ」
「なにをいう智樹。これだけの証跡があるんだ。むしろ新大陸以外は考えにくい」
「馬鹿だ、馬鹿がおる……」
地面に手を膝をつけて項垂れる智樹。
イカロスたちは頭に疑問符を乱舞させていた。
「それで、どうなんですか……?」
異様な空気を纏いながらじりじりと近寄ってくる英四郎。
メガネのブリッジを押し上げながらにじり寄ってくる英四郎の背後に『ドドドドドドドドド』と効果音が文字となって見えてきた気がした。
しかし、甘いな……。
久しぶりの下界にテンションが上がっている俺にはその程度の威圧感など無いも同然。
今の俺はまさに、鳥篭から解き放たれた一羽のツバメなのだから。
テンションが天元突破な俺は衝動に任せるまま行動を開始した。すなわち――。
「……ふっ」
くるっと背中を見せた俺は爪先立ちになりながら振り返り、上体を弓なりに反らして指を突きつける。
ジ○ジ○的な立ち姿で一言。
「貴様、見ていたなッ!?」
引っ叩かれました。
クワトロアクセルの如く、クルクルクルと面白いほど回転した俺は無様に地面に倒れる。
「な、なじぇ……?」
引っ叩いた張本人であるタナトスさんはニコッと聖女のような笑みを浮かべた。
「いえ、こうしなければいけない気がしたもので」
異世界のどこかにいるお母様。ネタが通じないのって結構苦痛なんですね……肉体的に。
「そうか……! やはり新大陸はあったんだなっ!」
そして、眼前での出来事など些事とでも言うように一人盛り上がる中学生。
「でも、新大陸なんてどこにあるんだ?」
頭の後ろで手を組んだ智樹が聞いてきた。
英四郎も爛々と輝く目でこちらを凝視している。
「んー。言ってもいい、というか招待してもいいけど……まあ、また今度な。やることが少なからずあるから俺たちはこの辺で失礼するよ」
住民登録や衣食住の確保とかね。
「積もる話は次回会ったときにでもしよう。では、アデュー!」
ぽかんとしている智樹たちを取り残し、イカロスたちを連れてその場を去る。
――さあ、まずは市役所だ!
後書き
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