精霊と命の歌
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Disc1
冷たき雨降るブルメシア
前書き
Disc1ラストです。
おまけ付きだけど今までで一番短くなってしまった……
今回はおまけもシリアスです。
僕達がブルメシアにつく頃には雨が降り始めていた。
元々は綺麗な国だったと思える場所は無残に壊されていて、たまに雨でも流せない血が残っていた。
そして、ちらほらと遺体も転がっている……
(ひどい……)
(目を背けるな。お前はついて行くと決めた時に覚悟を決めたんだろう?)
(うん、分かっているよ。でも、遺体をそのまま残していくのはと思ったんだ……)
(……今は時間が無い。やる事を終えたら供養すればいいさ)
(……そうだね)
僕達は雨が降るブルメシアの町を駆ける。
そして大きな民家がある所でギザマルークの洞窟にいた二人組みと出会う。
二人組みはまたとんがり帽子の人達をけしかけて来る。
「キル!」
まるで心を持っていないかのようなとんがり帽子の人達。
ギザマルークのように操られているという感じではない。ただただ言われた事に従う……人形のように。
倒し終えた僕達は暗くなんともいえない雰囲気のまま進む。
(分かっていると思うが、やられなければやられるのは俺達だ)
(分かっている……分かっているけど、彼等の事を思う事は忘れてはいけないと思うんだ……)
(……辛くなるのはお前だぞ)
(それでも……何も思わなくなるのは絶対、嫌だ)
(……それが、お前の強さなんだろうな)
ラタトスクの最後の呟きは聞こえなかった。
それからラタトスクは黙ってしまったものの、僕を気遣っているような感情を感じた。
昔とずいぶん変わったけれど、気遣いが嬉しい。
ずっと、陰から支えてくれるラタトスク。そのせいで、少し誤解を招きやすいけれど……君が優しい事を知っているから。
僕も頼ってばかりじゃなくて、ラタトスクを支えられるようになると良いな……
「エミル? 行こう?」
「うん」
僕達は町を奥へと進んでいく。
そして、居住区から王宮へと向かった。
フライヤさんは居住区のあまりのひどさから王宮へ行く事に恐怖を感じていたみたいだけれど、ビビの決意に覚悟を決めた。
(どんな人間なのかしりたいんだ、か……)
(……)
ビビはもしかしたら自分が人間じゃないかもしれないとも言った。
過去の自分と似た悩みを抱えるビビ。
でも、ビビは過去の自分とは違う。
ビビはとても強い。過去の自分よりずっと……
とても辛い現実になるかもしれないのに、前を向こうとしている。
僕は、友達のために何ができるのかな? かつての仲間達のように、なれるのかな?
そう思っていると階段の上からブルメシアの兵士とその家族がやって来た。
フライヤさんの知り合いでダンって人らしい。
ダンさんは王宮の方から黒魔道士というらしいとんがり帽子の人達が攻めて来ると言い残し、居住区の方へと向かって行った。
僕達は反対に王宮を目指し、途中で生きている人を助けながら進む。
途中の武器庫でフライヤさんが新たな武器を手に入れつつ、アトラというモーグリと出会って足りなくなった薬なんかを買わせてもらっているとスティルツキンがやって来た。
「久しぶりだな、エミル、ビビ」
「スティルツキン! どうしてこんな所に?」
「旅をしているからな、行ける場所なら何処へだって行くのさ」
モーグリなのにかっこいいスティルツキン。
クポって言うモーグリ特有の喋り方もしないし……旅をすればモーグリは変わるのかな?
そう思いつつもスティルツキンとアトラに別れを告げて僕達は王宮へと向かった。
王宮。
ひどく破壊されて煙を上げる王宮。
この様子じゃあブルメシアの王様は生きていないかもしれない。
顔を伏せるフライヤさんにかける言葉が見つからず、そっとしておいた方が良いかもしれないとジタン達と離れようとした時、城の方から声がするとフライヤさんは近くにあった巨大な像の上に飛び乗り、城の二階に入る。
僕達はフライヤさんほど高く飛べないから二階に行くのが難しい。
ジタンと僕は何とか像を上っていけるけそうだけれど……
ジャンプに失敗してどてっと転ぶビビ。
それを見るとビビとクイナは無理そうだ。
「ジタン、先に行って! 僕達は何処か入れる場所を探すよ」
「ああ、じゃあ先に行って待ってるぜ!」
そうしてジタンと別れ、僕達は道を探す。
(どこか……入れる場所は?)
(壊されてそうな場所を目指せば良いんじゃないか? 派手に壊された場所は煙が出ているしそこに向かえばいい)
(煙……)
雨の中でも炎が消えないのか王宮から煙が立ち上る。
あそこなら入れるかも!
「ビビ! クイナ! こっちだ!」
僕達は壊された王宮の壁から王宮内に入っていった。
すると、どこからか戦闘音が響く。
「戦ってる音……」
「あっちの方からアル!」
戦闘音のする方向へ行くとジタンとフライヤさんが隻眼で女の人の騎士と戦っているのが見えた。
近くにはブラネ女王となんだかすごい格好をした銀髪の男の人がいるけれど、戦いには手を出さないみたい。
僕達は劣勢に追い込まれているジタン達に加勢した。
「ふん、何人増えた所で変わりはしない」
一対多数だと言うのに女騎士の人はまるで苦に思っていないみたいで、僕達の攻撃を確実に防ぎ、僕達に確実に攻撃を与える。
女の人なのに、一撃一撃がすごく重く強い。
まるで隙がなくて、何をしても防がれてしまう。
(この人、強すぎる……!)
(っく、魔物を呼ぶにしてもこいつと戦えそうな奴を呼び出すにはマナが足りねぇ……それに、あいつ手加減してやがる……!)
(あれで、手加減した状態……?)
絶望が心に広がっていく。
「私に刃を向けるなど100年早い!」
相手はこちらに全体攻撃を放つ。
「うわああああ!!」
「おのれの浅はかさを悔いるのです……」
その言葉を最後に僕の意識は途絶えた。
◆ ◇ ◆
(っおい! エミル! ッチ、気絶したか!)
俺はエミルと入れ替わる。
正直、勝てはしないだろうが……やれるとこまではやってやるよ。
こいつらを、死なせはしねぇ!
ジタン達に振り下ろされた剣を弾く。
「気絶したと思ったが……?」
「っは! それは、残念だったな!」
「? ……瞳の色が違う? それに剣が荒々しい、が……面白い!」
力は弱まっても、技術は残っている。
今まで積み重ねてきた経験も……
「お前の剣は何かがおかしい……技術や気配は今まで戦ってきたどの猛者よりも強い。しかし……力がそれに見合わない。何故です?」
完全に見抜かれている……予想はしていたが、こいつの強さは底知れない。
「……さあな。お前に答える義理はない!」
「……残念です。ならばそろそろ終わりにさせてもらいましょう」
ベアトリクスが剣を構え、神速とも言える速さで俺を斬りつける。
「かはっ!?」
「……安心しなさい。貴方に免じてそこの虫ケラどもを殺しはしません」
「……く、そぉ」
「いつか、力を取り戻した貴方と戦いたいですね。……その日が来るかは分かりませんが」
そう言ってブラネ女王と去っていく女騎士ベアトリクス。
声を出す気力も血とともに流れ、ただただ見る事しかできない。
(くそ……くそおおおおおおおお!!)
心で叫んでも、聞く者はいない。
その後、銀髪の男がなにか呟いてから竜に乗って去っていったがその頃にはもう血が流れすぎて意識を保っていられず、気を失った。
◆ ◇ ◆
おまけ
ATE+スキット『その頃のガーネット達』~エミル達がブルメシアに向かっている頃(電車内)~
「そういえば、何故エミルとラタトスクでは瞳の色が違うのでしょうか? 複数の人格を持つ人は変わるものなのかしら?」
「そのような話は聞いた事がありません。そもそも複数の人格を持つ人と言うのを自分は聞いた事がないであります。思えば、エミル殿とラタトスク殿はとても珍しい方だったのですな」
「ええ、そうね……それに、なんだか不思議な雰囲気を持っていたわ」
「不思議な雰囲気、でありますか?」
「そう……どこか、普通の人とは違うような……なんて言えばいいのか、分からないけれど」
「うーむ、自分はそのような事は感じませんが、エミル殿とラタトスク殿の剣には常人とは違う物を感じました」
「そうなの?」
「……これは自分の推測なのではありますが、エミル殿とラタトスク殿は本来我々とは桁違いの強さを持っているように思います。しかし、今は何か力を失っているように見えるのです」
「……エミルとラタトスクは何者なのかしら? ビビと一緒に私達に巻き込まれたみたいだけれど……ビビなら知っているのかもしれないわね」
「あやつのような悪人ではないとは思います……エミル殿もラタトスク殿も心優しき御仁です」
「そうね……何者だろうと関係ないわ。彼らは私を助けてくれた事には変わらないもの」
「そうでありますな」
後書き
初負け戦。FF9は負け戦多いと思うんだ……
ベアトリクスの口調、これで良いのだろうか……?
そして見抜かれる弱体化。実はスタイナーも感付いていた。わりと天才ですし感付くかなと思って。
仲間の中の何人かは感付いてるかもね。
それと、エミル達の正体を薄々感じているガーネット。
打ち明ける時は必ず来る……けれどそれはまだ遠い、かも?
次はようやくDisc2。
ガーネット達の事はおまけで書きます。まあ、基本的にエミル視点ですし。(実はラタトスクも主人公)
スキット、書けそうな場面なさそうかもです。シリアスが続くと書きづらい……フィールド移動が少ないってのも書きづらい原因ですけど……
ページ上へ戻る