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ストライク・ザ・ブラッド~魔界城の主~

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03:魔城、絃神島に降り立つ

 抵抗感を感じ、魔城は目を開いた。ふと窓の外をみると、雲を突っ切って飛行機が降下している。絃神島に着いたのだ。『間もなく絃神島となります。御乗機、ありがとうございました』という旨の英語アナウンスが流れ、じきに飛行機は絃神島中央空港に着陸した。

 飛行機を出る。するととたんに、やけに調子のいい太陽光が降り注いだ。手でひさしを作りながら呟く魔城。

「うわ、これはすごいな……。さすがは絃神島、常夏の島か。夏場は余計に暑い……あれ、もう秋だっけ?」

 恐らく今日が初めての絃神島来島だったのであろう観光客たちも、口々に絃神島の熱気にコメントをする。絃神島は龍脈(レイライン)と呼ばれる、魔力を放出するスポット上にできている。日本領域で最も高度な龍脈は、この東京都南の海域、それも亜熱帯の部分にあったのだ。そのため、龍脈からあふれる魔力による気候の変動も加えて、絃神島は一年中日差しの照りつける、常夏の島となっている。

「さて、そろそろ行きますかね。こんな日差しの中にいたら灰になってしまうよ」
 
 古城が灰になってなければいいけど、と苦笑し、魔城は空港の到着ロビー内へと歩いて行った。


 ***


「熱い。焦げる。灰になる……。魔城兄の野郎……何でまたこんな日に到着するかな……」
「あっはっはー。古城君のペースをガン無視してくるところは変わらないよねー魔城君。まだかなー」

 絃神島中央空港の到着ロビーで、暁古城は伸びていた。ここに来るまでの熱気にあてられ、すでに限界である。もう秋だというのにもかかわらず、まるで真夏の様な天気である。もっとも、絃神島は万年真夏なのだが。

「最後に会ったのいつかなー。あ、二年前か。魔城君この二年間アルディギアの王城にいたんだよね。あそこのお姫様美人だよねー。凪沙いっぺん会ってみたいとおもってるんだよね。魔城君に頼んだら合わせてもらえるかなー」

 古城が伸びるソファーの、隣の席に座るのはくりくりっとした眼の少女だ。長い髪をショートカット風に結んでいるため、正面から見ると髪の毛が短く見える。その快活げな少女は(あかつき)凪沙(なぎさ)。古城の実の妹だ。外見や性格に至るまで古城とは正反対な、良くできた妹である。唯一の欠点は喋りすぎることか。いまも気だるげな古城に向けてエンドレストークを続けている。

「あの、先輩、私も付いて来てよかったんでしょうか……」

 不安そうにつぶやいたのは雪菜である。普段なら「先輩の監視役ですから」と死んでも付いてきそうな雪菜であるが、こういった家族関係の訪問などにはついてこないような節がある。

「あー、いいんだよ別に。あとあと紹介するのも面倒だしな……」
「そ、そうですか……」

 いつもならここで「面倒」という言葉に反応し、ぶつぶつと呟く雪菜のはずだが、今日はいつにもましてだるそうな古城に対して怒る気にもなれないらしい。大丈夫ですか?と心配そうに古城に近づく。

「ああ……あーくそっ、何でこんなに暑い日が続くんだ……」
「はは、やっぱり伸びてたね、古城」

 その時だ。軽快な声が聞こえた。声のした方向を見ると、そこには一人の青年が立っていた。

 長い黒髪は、首筋で結ばれ、そこから先は細く伸びている。細められた目の色は青。東洋人と西洋人の間をとったような顔つきは、少女めいた線の細さだ。どこか儚げなその四肢を黒いフード付きローブに包んでいる。ローブの裾から出された手首には、登録魔族を示すリングがはめられていた。

「魔城兄!」
「魔城君っ!!」
「久しぶりだね、古城、凪沙。うわ、二人とも背が伸びたね。あと半年もすれば抜かれちゃうかな」

 駆け寄った義弟と義妹に笑いかけた青年―――(あかつき)魔城(まじょう)は、古城と凪沙をみてそうコメントした。古城が苦笑する。

「そういう魔城兄は変わらないな」
「仕方ないだろう、吸血鬼なんだから。十年以上この姿のままさ」

 すっかり元気を取り戻した古城が、魔城の胸をどつく。しかし魔城は微動だにもせず、苦笑するのみ。
 
「ほえー。なんか羨ましいような羨ましくないような。あ、雪菜ちゃんもこっち来て来て!」

 凪沙が雪菜を手招きする。寄ってきた雪菜を見て、魔城はまたニコリと笑う。

「はじめまして。古城と凪沙の兄、暁魔城です。よろしく」
「姫柊雪菜です。よろしくお願いします」

 ぺこり、と頭を下げた雪菜に、魔城は今度はにやり、と形容するのが正しい笑みを浮かべて、古城に向かって言った。

「良い子じゃないか。古城の彼女さんかな?」
「はぁ!?ちげーよ!!そんなわけないだろ!!」

 全力で反論する古城。古城としてはあらぬ誤解を掛けられては雪菜にも迷惑がかかるだろうというそれなりに思いやりのある叫びだったのだが……。

「……そんなわけない、ですか。そうですか……」

 雪菜は1人沈んでいた。ちらりとそれを見た魔城は再び苦笑。

「ああ……なるほど。古城は馬鹿だねぇ」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
「そのままの意味だよ。さ、そろそろ懐かしの我が家に戻ろうか。行こう、古城、凪沙。雪菜さんもどうぞ」


 ***


「ほー。あれが古城のアニキか。全然似てねぇな……」

 まぁ、義兄弟って言ってたからそりゃ当然だけどな、と呟きつつ、空港を出ていく暁兄妹+雪菜をギャラリーから眺めるのは矢瀬基樹だ。その隣には藍羽浅葱の姿もある。

「そう言うあんたのところの兄弟も似てないじゃない」
「そりゃそうだ。つーか似てたらいやだな……それよりいいのか?」

 基樹が浅葱に、意地悪そうな表情で聞く。

「何がよ?」
「いやなに、姫柊ちゃんが古城の彼女だと勘違いされたままだぜ」
「……別に」

 ぷいっ、と背をそむける浅葱。基樹はそれに苦笑する。浅葱は基樹とは小学校入学以前からの付き合いだ。長すぎてお互いに恋愛感情などは皆無だが、良き相談相手としてつるんでいる。
 
 中一の春に、古城に話し掛けられて以来、妙に彼を意識してしまったらしい浅葱は、けなげにも古城に小さなアピールを続けている。古城が全く気付いていないのが問題といえるが……。

 だが、それ以来、その整った容姿と、年齢以上の学力によってどちらかといえば「とっつきにくい」人間だった浅葱が、周囲から「けなげなヒロイン」として認識され、友人が増えたことはいいことだ。基樹はそのきっかけを作ってくれた古城に感謝している。

「それにしても……暁魔城か……」

 基樹は、四年近く前に、兄から渡された古城の報告書を思い出す。基樹は古城の()()監視役だが、ついぞ古城に兄がいるなどという話は聞かなかった。古城は二年前は魔城が絃神島にいたと言っているが、当時、基樹は魔城らしき青年を一度も見ていないのも不自然だ。それに、浅葱は彼が画家だ、と言っていたが、やはり基樹は《暁魔城》なる名の画家を知らない。基樹の家はそれなりに裕福な家庭で、絵画採集が趣味の親族がいるため、家の中に絵の一つでも飾ってあってもおかしくないのだが……。

 しかし基樹は、魔城の姿にどこか見覚えがあるような気がする。じかに見たのは今日が初めてだが、どこかで……そう、とてつもなく古い写真だったか、絵だったかでその姿を見たことがある気がするのだ。

 たしかあれは……そう、絵だ。より正確には、絵を写した写真。兄が《戦王領域》で取ってきた写真の一つだった気がする。そこには戦が描かれていたはずだ。”忘却の戦王(ロストウォーロード)”が無数の屍の上に立つ絵。そこに描かれた、”忘却の戦王”の背後に立つもう一人の戦士。彼の容姿が、魔城に酷似していた気がする。


 突如、《番外真祖》、という言葉が浮かぶ。誰から聞いたのか。どこで聞いたのか。

「……なぁ浅葱。《番外真祖》って聞いたことあるか?」
「何よ急に。……ないわよ。《第四真祖》ならあるけど」
「だよな」

 自分の思い違いか。と、基樹は去って行くその《第四真祖》とその兄弟、表向きの監視役の、四人組を眺めた。


 ***


 魔族特区の中には、既にその役目を終えて、使われなくなった廃棄区域が存在する。そう言ったところは、大抵がテロリストや犯罪者などの隠れ蓑として利用される運命にある。

 ここ、旧西区第三ブロックもそうだった。もとは人工島本島(ギガフロート)建設の最前線として利用されていた工業地区は、現在は荒れ果てた工場が残る廃棄区域である。そこの廃工場の中に、何人かの影。

「準備は整ったな。これより、行動を開始する」

 その中の一人が命令を出す。それに影たちが頷く気配。そして、気配が一人分、また一人分と消えていく。最後に残ったのは、命令を出した一人のみ。

「くくく……魔族の存在を許す背徳の町、魔族特区よ。貴様らの運命はここで終わりだ」 
 

 
後書き
 お待たせしました。

 魔城兄が敬語キャラからフレンドリー兄貴に。ただし目上の人とかには敬語です。

 それと、第一話の一部分とあとがきを修正しました。 
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