少年と女神の物語
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『小さな鋼』編
第四十三話
「申し訳ありません、わざわざここまで来ていただいて」
「別にいいですよ、梅先輩。交通費は全てそちらで負担してくださいましたし」
日本に帰って家に荷物を置いてからすぐに、俺は呼び出されていた大阪まで向かった。
大阪市の中央区に。
「で、その顕現した神はどこにいるんですか?」
「分かりません」
はっきり言いやがった・・・
「申し訳ありません、王よ。我々も捜しているのですが、いまだに消息がつかめず、」
「いいよ、面倒だなぁ・・・梅先輩、後ろの人たちに口調を崩すよう言ってもらえません?」
「彼らも魔術の世界で生きるものたちです。そうやすやすと礼を失うわけには行かないのですよ」
やっぱり、面倒だよなぁ・・・俺は、家族に手を出されない限りは手を出すつもりはないのに。
これまでに起こした中で一番の出来事だって、ほんの数十分世界から太陽が消えたくらいだし。
・・・いや、かなりの問題か。世界中の魔術組織が記憶を消すのに四苦八苦してたし。
「で?梅先輩がこんなにもの人たちを引き連れてる理由はなんですか?」
「これでも私、媛巫女ですし。普段から日常的にあってると言うのに、王とともに神の問題を対処すると言ったら、ぞろぞろとついてきたのですよ」
「なるほどねぇ・・・じゃあ、その辺りの人たちに俺から命令しても?」
「構いませんよ。と言っても、私から許可するまでもないことですけど」
まあ、王の命令に逆らう人は中々いないだろうな。
ならまあ、さっさと動いてもらうか。
「じゃあ、さっさとその神様を捜して来い。へんに深く探そうとしたり、確実なものをもってこなくてもいい。そんな事をして、死ぬ可能性は高いだろうからな」
「で、では・・・我々はどうすればよろしいでしょうか?」
「ほんの少しでも可能性がある場所を見つけたら、すぐに連絡しろ。梅先輩と一緒に行動するつもりだから、そっちに連絡すればいい。そしたら俺がそこに行って、捜してやる」
「わ、分かりました。ただ、ですね・・・」
そう言っている男は、俺ではなく梅先輩を見ていた。
ああ、そう言うことか。
「梅先輩が心配なら、一人二人残していけばいい。あんまり残していくと邪魔になるから最大で二人まで。ついでに言うと、何かあったときに梅先輩は積極的に守るけど、他のやつらはそこまで気にしないからな?」
普段からお世話になっている梅先輩なら守ろう、って気になるんだけど・・・狂始めてあったやつらまで積極的に守る気にはな・・・
ナーシャのときならまあ、俺のせいで生き残ったんだし、守ろうって気になったんだけど。
要するに、梅先輩以外は気分次第、と言うわけだ。
「・・・分かりました。では、一人残らず捜索に行かせていただきます」
俺のその発言に、並んでいた人たちは皆そそくさと捜索に向かった。
さすがに、俺がそこまで言って残る気にはならないのだろう。
「では、私達は私達で先にいくつか済ませてしまいましょう」
「何かあるんですか?」
「とりあえず、大阪50山を端から回っていきます」
50っこも山を登れと!?
「あ、番外も含めて52こです」
「増えたよ、コノヤロウ・・・」
「スイマセン。でも、例の神が恐らく52の山のほとんどに一度向かったと思われますので」
「それは霊視か何かですか?」
「いえ、そうではありません」
ならば、何故分かったのだろうか・・・
「ただ単に、その山のほとんどで神獣の目撃がありまして」
「なるほど、確かに一度向かったかもしれませんね」
神獣か・・・そういえば、向こうでも二体くらい飛んできたんだよな・・・
「それって、どんなやつかわかります?」
「色々といるそうですよ。鳥獣や昆虫に模したものが多いようですけど」
「・・・それって、日本から出たりは・・・」
「二体ほど、何かにつられるように出て行ったそうです」
ってことは、間違いないだろう。
なんとなくで海外まできたと考えるよりは、俺が目当てで海外まできたと考えるのが得策か。
「はぁ・・・じゃあ、さっさと行きましょう。雷の一発でもぶつければ、それで終わるでしょうし」
「助かります。私達人間では、とても簡単には倒せませんし」
そしてそれから、車と運転手を調達し、各山を登って一体ないし二体いた神獣を倒して回った。
弱いし、基本見た目が気持ち悪いし、疲れるしでひたすら大変な単純作業の繰り返しは、本当に気がめいる。
「やはり、カンピオーネは異常ですね。あれだけの神獣を相手にして、傷一つ負わないとは」
「別に、そこまでのことじゃないですよ・・・俺たちからしてみれば、大した存在じゃないですし・・・なにより、コイツらは普通の神獣より弱いです。数をそろえた弊害なのか分かりませんけど」
あのときにも感じたことだけど、この神獣は他の神獣よりも弱い。
あの時は勘違いだろうと言うことで片付けたのだが、どうやらそれは間違いだったようだな。
「数が数でしたし、最悪一つ権能使い切るくらいは覚悟してたんですけどね・・・むしろ、権能すら使わずに終わりました」
「聖槍・・・ロンギヌスの槍だけで圧倒していましたからね」
まあ、あれには狂気の女神の呪詛がこれでもか、と言うくらいに込められてるから、かなりのもんなんだけど。
「ところで、今回はそちらの妹さん、お姉さん方は来ないのですか?」
「多分、きませんよ。疲れたみたいで、皆寝ています」
「ご両親は?」
「また、世界中を回りに行きましたよ」
あれだけ騒いだ後によくもまあ、また回っていこう、と思ったもんだ。
なんで俺たちよりも体力があるのか・・・
「そうですか・・・なにか面白いものを持ってくるんでしょうか?」
「日本に厄介ごとを持ち込むなら、その前に俺に連絡を入れろ、とは言ってありますよ」
日本で起こされて、家族に何かあったら面倒すぎる。
アテなんて女神だから、神様関係に巻き込まれやすいし。俺は俺で神様をひきつけるから、普通のカンピオーネよりも神様との遭遇率が高いし・・・自分で言ってて、少し悲しくなってきた。
「では、今回は私がサポート役につかせてもらいますね。治癒などもお任せください」
「うん。サポートは嬉しいですけど、治癒は別にいいです。何があっても死にませんし」
「沈まぬ太陽でしたか。ですが、傷が治ることはないと聞きましたけど」
「俺自身の自然回復は一切残らず消えますね。ついでに言えば、俺自身の治癒の術は一切効きません」
と言うか、それ以前に突っ込んどくことがあるよな・・・
「それより、梅先輩は俺たちカンピオーネに治癒の術をかける方法を知っているのですか?」
「知っていますよ。キスでしょう?」
「なら、簡単に治癒の術をかけるとか言わない方が・・・」
ウチの家族もそうだけど、何でこうも軽い気持ちでやろうとするのか・・・
「ですが、今回は王のために動くのが私の使命です。それくらいのことは・・・」
「それくらい、じゃないですよ。梅先輩も綺麗な女性なんですから、それくらいは気をつけてください」
俺が呆れながらそういったら、梅先輩は顔を赤くした。
普段表情がないから、こんな反応をするのは意外だ・・・
「あ、えっと・・・」
「どうしました、梅先輩?」
「いえ、ですね・・・これまでに、そんな事を言われたことがなかったもので・・・」
「ないんですか?少し・・・いえ、かなり意外なんですけど・・・」
「そんなことはないですよ!私なんて、そんな可愛くも・・・」
「ああ・・・可愛いと言うふうに思うことも何度かありますけど、それよりは綺麗の方が強いんですよね。もしかしたら、それもあって話しかけづらかったのかもしれません」
そんなふうに、何てことのない会話をしていたら、先ほどの人たちの中から連絡があった。
なんでも、三輪山にいる可能性が高いらしい。
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