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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その7

 
前書き
その6の続きです。
 

 
今日訪ねてきた会いたくもない客は、とてつもない厄介事を連れてきた。
今まで持ってこられた厄介事の中でもダントツに近い。
自分の動向一つで、幾つもの未来が変わる。
医療忍者として、戦争中に人の生死と対峙していた時のようなとてつもないプレッシャーが綱手を襲ってきていた。

「ちっ」

苛立ちに思わず舌打ちが漏れる。

厄介だった。
希望があるからこそなお厄介だった。

けれど、ここで綱手が突き放してしまえば、その時は、里は闇に落ちる。
ぞっとなった時、一人、晩酌をしていた綱手の後ろから声がかけられた。

「綱手。どうじゃ、あの子は」
「自来也か。お前こそ、あれをどう思う」
「さあのォ。類い稀な才能を持って生まれた天才じゃという事は分かるがの。類い稀すぎる才能を持ちすぎている、と言ったほうが良いかもしれんのォ……」

能天気に明るい声で答えているが、やはり自来也も綱手と同じ危惧を抱いているらしい。
あれと同じようなものを、綱手と自来也は身近な存在として良く知っていた。
けれど、全く同じでもなく、そしてその心の根底に、希望をかけたくなる心根を垣間見せていた。
それに。

「あの子は、忍には向いていない。人柱力にするべきではなかった。人の生き死にに耐えられる器ではないだろう」
「それは、四代目に言う事じゃの……。何もしてやる事が出来んかったワシらが口を出すことではない。ワシらにできるのは、残された者に手を貸してやる事だけだ」
「ふん。サルトビの爺め。とんでもないものを作り上げてくれたな」

忌々しさが胸にこみ上げ、綱手は湯呑に注いだ酒を呷った。

「そんなにとんでもないかの?ワシにはただの子供に見えるがな。だいぶこまっしゃくれているけどのォ」
「自来也。お前、あの子がどんな境遇にあったか知っているか?」
「……知らん。ただ、人伝に聞いた話では、大分酷な状況にあったようだの。お前が荒れておるのはそのせいか」

綱手の隣に腰を下ろし、空になった綱手の湯呑に酒を注ぎ、自分も空の湯呑を手に取り自来也は問いかけた。
その問いに、やりきれない物を堪え切れず、綱手は胸中に溜まったものを吐き出した。

「ああ!!三代目はあの子の素性を里人に隠すべきではなかった!今からでも遅くはない。広く里に公表させた方が良いだろう。でなければ、本当に取り返しのつかない事になってしまう!自来也。知っているか?あの子はな、クシナの腹にいた時から、ずっと記憶があるらしい」
「何!?」
「そしてその頃から、あの子供は九尾の干渉を受けていたらしいぞ。だからあの子の心の距離は、人間よりも九尾に近い。そして里の人間のあの子に対する対応がそれに拍車をかけた。あれは、人柱力としては完全に不完全な存在だな。このまま成長すれば、真っ先にその力の矛先をあの子は里へと向けるだろう。封印の解除法を身に付ければ、九尾を自ら望んで解放しかねない。尋常ではないほどの悪意と憎悪を里に対して持っている。あの子にとっては、木の葉の里は守るべき物ではなく、殲滅すべき敵と認識されているだろう。あの子と九尾は敵を同じくする同志という訳だ」

綱手の言葉に、自来也が狼狽え始める。

「まさか、そんな……。そこまでの悪意をあの子はワシには見せなかったぞ。里に対しての嫌悪感は少し見せはしたが……」

自来也の言葉に、綱手は少し遠い目をして、先ほど聞いたナルトの記憶を思い出す。

「自来也。あの子は赤ん坊の頃の記憶もあるらしい。そしてな、泣けば窒息させられて意識を奪われていたそうだ。むろん、そんな対応ばかりだった訳でもなく、そうではない対応を取った人間に対する好感もあの子の中に存在しているようだが、動けない自分に対して繰り返されるそれは、どれほどの恐怖だったのだろうな?人としてまともな心を持ち続けられるはずもないだろう。生まれたばかりの赤ん坊だったんだぞ?根本的に、あの子にとっては人としての倫理観や善悪は存在せず、自分を害する敵か味方かの二択しかない。医者としてあの子の心を分析すれば、非常に寒々しく空恐ろしくなる。熟練の暗部と同じ非情の鉄の心をあの子は既に持ち合わせているんだ」
「なんじゃと!?」

昔馴染みの驚きの声を遠く感じながら、綱手は先ほど感じた事を述べ続けた。
医療に携わるものとして、公平な目で綱手がナルトから感じ取った事だ。

「その反面、命を奪うという事に、酷い拒否感を持っている。あれは、本来あの子が持っている気質なのだろうな。戦いを好まず、人が傷つく事を嫌がっている。本能でそれを避けようとしている、とても優しい子だ。けれど、だからこそ私はあの子が恐ろしい。あの子は、人を助ける為ではなく、殺さない為に私に医療忍術を求めたぞ。ミナトとクシナの為に、ミナトとクシナの守ったものを殺してしまうのはいけないと思い留まっているようだが、傷つけたいとは思っているらしい。それを我慢できなくなる時がいつか必ず来るとも思っているようだ。今私達が引き留めねば、あの子は必ず道を踏み外す。あいつと同じようにだ!!」

話し続けるうちに感情的になった綱手は、湯呑を卓へ叩きつけた。
そして、そのままの姿勢で首を項垂れて小さく呟いた。

「何故こんな事になってしまっているのだろうな。あんなものを子供が抱えるべきではないのに。何故子供にあんな闇を抱えさせてしまっているんだ!!闇を抱えている癖に、あの子は本当に人を殺したくないと思っているらしい。本気で、医療忍術を欲している。自分の抱える闇が人を傷つけないように。いっそ落ちてしまっていれば、あの子も楽だろうに……」

悄然として、あまりにも痛々しい綱手の様子に何も言えなくなった自来也は、無言を通す。
けれど、綱手の口から更なる懸念が漏らされた。

「だがな。あの子は医療忍者になる事は出来ない」

自来也は綱手の言に耳を疑った。

「何!?」

綱手に出会い、驚くほど明るい笑顔を振りまいて、大っぴらに医療忍者になると公言してはしゃいでいたナルトの姿が脳裏をよぎる。

木の葉の里で出会ってから二週間。
漸く自来也の前でも子供らしい姿を見せて、そしてなにより、人間らしい感情も見せ始めたというのに。

綱手に出会う前のナルトはまるでよくできた人形のようだった。
我儘もろくに言わず、言いつけをよく守り、与えられるものを淡々と受け取るだけだったナルトが、初めて自分から志した物が医療という分野だった事に自来也は安堵していた。
ミナトの跡を継ぐ気がないというのは残念だが、それも現状を考えれば致し方ない。
しかし、無表情で張り付けたような笑みで笑うナルトに、子供らしい笑顔を浮かべさせた夢を、自来也は好ましく思っていたのだ。
その道を志すというのならば、いつか、ナルトの為に目の前の知己に頭を下げてやろうとも心に決めかけていた。
それなのに、ナルトに劇的な変化をもたらしたナルトの夢いを叶える事はできないとの宣告に、自来也は知らず身を固くしていた。

「あの子のチャクラには九尾のチャクラが還元され、混じっている。今はその封印の上に更に封印を追加して、あの子自身がチャクラを操れないようにしているようだが、あの子のチャクラはあの子以外の人間にとっては身体を蝕む毒になりうる。九尾のチャクラなのだからな。確かに潜在的なチャクラ量を思えば、私以上の医療忍者になれる可能性もあるかもしれない。だが、それ以上に、あの子はあの子の患者となったものに死を齎す死神になってしまう可能性の方が高い。それをもしあの子が知ってしまったら。そうしたら、あの子は一体どうするのだろう!どんな判断をして、どう生きようとしていくのだろう!!私には、どうしても嫌な予感しか湧いてこない!!!!」

湯呑を叩きつけた卓に伏せて頭を抱える綱手に、自来也は息を呑んだ。
出会い頭に綱手から桜花掌を食らい、目覚めた自来也が見たものは、今までの子供らしくないほど取り澄ました姿とは一転、子供らしい羨望と憧れの眼差しで綱手を見上げ、纏いついているナルトの姿だった。
きらきらと好奇心に輝く瞳で綱手を慕い、ようやく子供らしい顔を見る事ができた、と安堵していたのだが。

だが、ここまで深く綱手が悲嘆するほど、よほど根深く、ナルトには里に対する害意が染みついているらしい。
何をどう声をかけていいのか分からず、自来也は沈黙する。
綱手の懸念の半分も、自来也にとっては実は分からない。
何か良くない気配は感じるのだが、ナルトの何が綱手をここまで追い詰めているのだろうか。

「のォ、綱手。お前、何をそんなに悲嘆している?」

自来也の問いかけに、綱手は嘆きを口にする。

「私があの子を恐ろしいと思うのは、あの聡明さだ!あの子はあの年で、周りの人間が、何故、自分を厭い、拒絶しているのか、理由すらも把握して理解し、その上で、自分の心の動きを見つめ、負の感情を理性で制御している!それを制御しきれなくなっているという所まであの子は理解しているんだぞ!だが、あの子はまだ子供なんだ。子供だぞ!?お前は見たか!?あの子の能面のような表情のない顔に浮かぶ虚無のような瞳を!!」

自来也は三代目に引き合わされた時のナルトの顔を思い出す。
子供らしくない、一部の隙もない取り繕った綺麗な笑顔を浮かべて、冷たい瞳でずっとこちらを観察していた。

「ああ。ワシも驚いた。クシナとミナトの子だと聞いておったのにのォ…」

話しかければ、笑顔を向ける。
けれど、子供らしい笑顔ではない。
弾けるような天真爛漫さも、落ち着いた穏やかさも全く感じさせない、冷えた拒絶を思わせる硬い笑顔だった。

「正直、お前と話をしているあの子の姿にワシは驚いたぞ。あんなに嬉々として子供らしい姿を見せたのは出会ってから初めてじゃ。年相応という姿かと聞かれると、ちと首を傾げてしまうが、まあ、子供らしいと言えば言える姿じゃのォ」
「あれでか……」

それは、弟を持っていた綱手にしてみれば、子供らしさの欠片も見えない姿だった。
嬉しそうにしているのは知っていた。
けれど、その姿は、里の忍達が綱手の前でとる姿と何も変わらない。
礼儀良く弁え、常に邪魔にならないように控え、欲しいと思う時にそっと手助けを申し出る。
どこまでも子供らしくなさすぎる姿だった。

「……いっそ、暗部に入れてしまうのも手かもしれない」
「何?」
「あれ程聡明な子なのならば、きっと、里で普通の幸せを掴む事は出来ないだろう。ならば、いっそ、さっさと暗部に入れてしまった方が良いのかもしれないと言ったんだ」
「綱手!本気で言っておるのか!」
「分かっている!だがな、自来也。あの子は私にこう言ったぞ。サルトビの爺が言うから、忍者になる事にして、そのついでに試しているそうだ。要約すれば、里の人間を好きになれるか、それとも里の人間を殺してもいいと思える覚悟が自分にできるのかどうかをな!!」

子供の物らしくない主張に、ようやく自来也もナルトの異常さが呑み込めた。
更に綱手は続けていく。

「しかもな、どうやらあの子が大人しくしているのは、ただ単にあの子が生き物を殺したくないと思っているからに過ぎないようだぞ。そして自分のせいで死んだ人間をみるのが嫌だから、九尾を表に出してないだけのようだ。出そうと思えばあの状態でも十分表に出せるらしい。あの子に掛けられた封印は、あの子にチャクラを練りにくくさせているだけで、九尾に対する封印という意味では全く意味がない!あの子は九尾と同調しすぎている!!」

その話を聞いて戦慄を覚えた自来也は、自分の知る事を綱手に打ち明けた。

「実はの、綱手。あの子供なんだがの。不完全ながらもお前の桜花掌に似た術と、螺旋丸を発動しよった。あの年での。聞いてみるとな、他にする事がなかったから、毎日チャクラを練って遊んでおったそうだ。テンゾウの話だと、その遊びはほぼ荒行と大差ない状態らしい。いやはや、子供の適応力というものは恐ろしいのォ。なまじ忍びとしての才能があったせいかもしれんがのォ。今の封印の処置が駄目だとすると、本当にもう、後がないのォ……」

自来也の話に息を呑んだ綱手は、押し殺した声で同じことを繰り返した。

「……だから、あの子の素性を里に公開させろと言ったんだ。そうすれば、嫌でも里人の見る目は変わる。少なくとも悪化はせん。そうすれば、あの子の心も解れるだろう。解れる事を祈りたい!でなければ、あの子を生かす道などない!!」
「お前の気持ちがようやく分かった。大分絶望的な状況じゃのう……」

ナルトは自来也の弟子だったミナトの子だ。
そして、『ナルト』と名付けたのはこの自来也なのだ。
お人好しのこの男が無関心でいられるはずもない。
それに、女が生まれるとは思っておらず、男の名しか用意していなかった事に呵責の念も感じているらしい。
そして綱手自身も、ナルトを気にかけるに足る理由を見つけてしまった。
もう、二度と、あの子のあの笑顔は見る事は出来ないと思っていたというのに。

沈鬱な響きの自来也の声に、綱手は溜息を吐いて応えた。

「ああ。正直、私にもどうすればいいのか分からない……。三代目の爺では役不足だ。あの子の観察眼を誤魔化しきれないだろう。事実、あの子は気付いているぞ。自分が爺に観察され、量られている事をな。火影としてそれが必要な事だから、あの子は爺の行動を黙認しているらしい。なぁ、自来也。私達はあの子をどうすればいい。こちらを見透かす子供を、ただの子供として扱い、接することがお前にできるか!?私には無理だ。あの子の事が恐ろしい……。それなのにあの子は私のこの迷いも見透かしたうえで、心からの敬意の目を向けてくる。それこそ、無垢な子供の瞳のままで……。いったい、この私に何をどうしろというんだ……」

卓に伏せたまま、ぶつぶつと呟いていた綱手は、酔いが回ったのかそのまま眠りについて行った。
その姿を見ながら、自来也はほろ苦い感想を持つ。
情の深い綱手には、ナルトはあまり相性の良くない相手だったのかもしれない。
顔立ちも、立ち振る舞いや雰囲気も、どちらかといえばミナトに似ている。
そして、一番良くミナトに似ているのは、綱手に出会って浮かべるようになった満面の笑みだ。
綱手だけに向けられるその笑みは、綱手の弟の物にもよく似ていた。
髪の色はうずまき一族特有のクシナ譲りの赤い色なのに、どこかしら、ナルトの立ち居振る舞いはミナトの血を強く感じさせる。
綱手が惚れた男によく似た穏やかさを持っていたミナトによく似た、立ち居振る舞いだ。
平和を愛し、里の礎を築いた初代火影もそのような男だったと聞く。
そしてそれは綱手の心を強くを揺さぶる。
思えばクシナのうずまき一族も、元をたどれば千手の血を引いていた。
千手の血が色濃く出ていた綱手の弟に、ナルトが似るのも仕方ない事だったのかもしれない。

だが……。

「何ができるかワシにも分からん……。だが、できる限り、ワシがナルトから目は離さん。それくらいしか、ミナト達の為にワシがしてやれる事はないからのォ」

眠りについた綱手に向けて自来也が溢した言葉を、眠っている綱手が耳にする事は二度となかった。 
 

 
後書き
本編は一人称なので、ナルトの知らない事は書けないので、小話を書き始めてしまいました。
更新はゆっくりになると思います。
これからお世話になります。
よろしくお願いします。 
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