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神器持ちの魔法使い

作者:リリック
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フェニックス
  第12話 婚約だって?

堕天使が起こした騒動はあの後、文字通りグレモリーさんの手で終わりを迎えた。
いろいろと事情聴取的なやり取りがあった際に上がった一つの議題。
悲劇のヒロイン、アーシア・アルジェントのことである。

教会を追われ、堕天使に騙されていたこともあるのだが、彼女はシスターで聖女だ。
悪魔とは相反する存在。

それをわかっていながらも本人は一誠と居たいと希望した。
一誠もそれを擁護して主であるグレモリーさんに頭を下げた。

「部長、お願いします!」

その一言にどれだけの想いが詰まっているのかを知っているが、グレモリーさんは目をつぶったまま思案顔を崩さない。
アルジェントさんを保護するメリットとデメリットを頭の中で巡らせているのだろう。
とはいえ、答えは決まっているようだった。
聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)という悪魔をも治癒する神器。
アーシア・アルジェントという娘の人柄を気に入ったこと。
そして何より、深い情愛で眷属を慈しむ―――悪く言えば眷属に甘々なグレモリーさんだ。
真剣で真っ直ぐな想いをぶつける一誠に主として何らかの喜びを感じているからだろうか。

で、答えはというと、

「あなた、悪魔に転生してみない?」

そうして事件は幕を閉じた。
アーシアは僧侶の駒で転生し、グレモリー眷属となった。


◇―――――――――◇


とまあ、この前のことはこれくらいにしておいて問題は現在だ。
朝を迎え、いつものように目が覚めたわけなのだが、覚めた途端に感じた違和感。
腰あたりに何かがくっついており、掛け布団にもそんな凹凸が見られる。

「なんだこれ」

布団をめくってみたのはライトグリーンが二つ。
というか、

「……イルとネルじゃん。なんで俺の布団中いるんだよ」

くか~、すぴ~、と寝息をたてる二人。
ライザーの眷属の一員である双子がどうしてここにいる?
まあ、とりあえずは

「えーっと確か―――落ち着いた暮らしをし、自分の仕事に励み、自分の手で働くように努めなさい。アーメン」

アーシアさんに教えてもらった聖書の一文を口にしながら十字を切って切って切りまくる。

「「に、にゃあぁぁっぁあぁ!?」」

何ということでしょう、先程まできもちよさげに寝ていた二人が強烈な頭痛と共に目を覚ましたではありませんか。

「秋人! いったいどうした!?」

「秋人さま!」

「ん?」

イルとネルの悲鳴に慌てたような足音が鳴り響く。
勢いよく開かれたドアから入ってきたのはこれまたライザーの眷属のイザベラとライザー妹のレイヴェル。
さらに言えば何故かレイヴェルはエプロンを纏っている。

「……どうしてイルとネルがここにいる? それにしても今の悲鳴は」

「それは俺が聞きたい。ついでに言えばレイヴェルとイザベラがいる理由もな。悲鳴に関しては、目が覚めたら布団にもぐりこんでいたから適当に聖書の一文読んで十字切った」

「はぁ、朝から何やっているんだお前たちは……。朝食の準備ができているから着替えてくるといい」

イザベラに溜息を吐かれ、そしてイルとネルを抱えて部屋を出て行った。
けれどもレイヴェルはその場を動かずベットに目を向けたまま動かない。
眉間にしわが寄ってるけどどして?
まあともかくだ、

「で、レイヴェルはいつまでいるのさ? 俺の着替えを見るのか?」

「っ!? し、失礼します!!」

ぼふっ、と爆発する音を立てたかのように顔を一気に紅潮させ慌てて出ていく。

「なんだったんだ?」


◇―――――――――◇


「縁談? ライザーがグレモリーさんと?」

「はい」

朝食を食べながら話を聞くと、きっかけがこれらしい。
なんでも数年前からライザーが婚約者候補として挙がっていたのは少し前に知ったのだが、正式になったと聞くのは初耳だ。
数日後に控えた顔合わせのため人間界へやってくるライザー達に先行して準備云々のためにこの四人がやってきたとか。
とはいっても宿泊地はここで、レイヴェルと双子が自ら行きたいと言って、イザベラがお目付け役として付いてきた。

「何というか、釣り合わなくないか? ライザーが、というよりグレモリーさんが」

「……あまり、そういう言葉を口にしない方がいいですわ。人目がないとはいえ思ったことを口にするのは……それに……」

「わかってる。とはいえ、グレモリーさんをこれまで見てきた感じじゃそんな評価しかできない。悪魔が純血を残そうとしているとはいえ、今更フェニックス家とグレモリー家はそんなことを気にしないと思うんだけどな」

これで合致した。
だから最近になってグレモリーさんは俺を見ては負の感情を隠そうと眉をひそめていたのか。
フェニックス家の庇護を受けていることを知っているからな。
器が小さいというかなんというか……

「で、誰が今回の黒幕だ? あの事があるからフェニックス家じゃないと信じたいけど」

「あぅ」

「ああ、あれが」

「おにーさん凄かったよねー」

「力ずくのごり押しだったもんねー」

レイヴェル顔を赤くさせうつむき、イザベラは苦笑し、イルとネルはうんうんたと頷いた。

とういのも、数年前レイヴェルに婚約の話題が上がった。
仕掛人はじい様らで、フェニックス家の更なる発展に繋がるだのなんだのと言っていた。
もちろんレイヴェルは拒絶したが、強行させようと相手方が動いたためレイヴェルは家出までして拒絶したのだが意味はなかった。

「仕方ないだろ、俺だって納得してなかったんだ。レイヴェルのあんな顔見たらいろいろ妨害したくなるさ。でも、結果としてじい様らもレイヴェルも被害を受けずに済んだんだ」

「そうだな。まさかあの者たちが裏でテロ組織らしき集団と繋がってたとはな」

そのことが公になって縁談は白紙に戻った。
理由は不明なのだがおそらくフェニックス家の何かを狙っていたに違いない。
本人に尋問しようにもその前に何者かによって殺害されて聞けずじまいだ。

「でもでもおにーさん一人で行っちゃったからみんな心配してたんだよ?」

「そのことは何度も謝っただろ。まあ、反省はしてるけど後悔はしてないけどな」

当時は向こうの屋敷に単身で乗り込んで大暴れした。
そう言われるけど、本当のところは相手方に正論をぶつけると皮が剥がれて多人数で俺を殺そうとしたから抵抗して返り討ちにしただけ。

とはいえ心の奥底にあったのは、レイヴェルを泣かせた奴を許さない、レイヴェルを守りたいとかいう子供じみた感情だったな。
でも、そんな想いでも神器は応えてくれた。
おかげで、大きな怪我をすることもなかった。

「でも、本当にレイヴェルが無事でよかったよ」

心からホッとしたような笑みが自然に浮かぶ。

「あ、ありがとうございました」

いつもと違い、尻すぼみの言葉にうん、とだけ答える。

そんな様子にイルとネルからニヤニヤと含み笑いをされる。

「い、イル、ネル!!」

ハッとしたレイヴェルが顔を赤くさせ叫けんだ。

「全く、秋人がいると一段と騒がしくなるな」

「だな。でも、嫌いじゃないよ」

イザベラと苦笑しながら三人を見守る。
しばらく続くそうなやり取りを。 
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