たすけ
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第四章
第四章
「半年だったのですか」
「普通はもう駄目だって思うよね」
「はい」
その通りだ。僕もどうなってしまうか本当にわからない。だが多くの人は間違いなくそれで絶望してしまうと思う。おそらく僕も、と話を聞くうちに考えた。
「それは」
「僕もそうだったんだ。終わりだと思ったよ」
「そうですか」
「うん。本当に終わりだと思ったよ」
そのことを思い出すような目で語られるのだった。
「本当にね。それで思ったんだよ」
「何かをしようとですね」
「そうなんだよ。もう残り半年しか生きられないのなら」
「そして何をされたのですか?」
「その人との話のままだよ」
また述べられるのだった。
「そのね。話のね」
「枕元でのお話ですね」
「そう。あの時のね」
昔を見るその目はさらに暖かく懐かしむものになったのだった。
「やってみようと思ったさ。どうせ半年しか生きられないのなら」
「それで」
「いや、本当に思いついただけだったんだ」
また言う三神さんだった。
「それでね。まずは」
「どうされたのですか?」
「癌のことを家族に話して」
「はい」
「そして」
それからまた三神さんの話がはじまるのだった。
三神さんは家族に病名を話された。まず奥さんがこう言ったという。
「そう。半年なの」
「そうだ」
蒼ざめた顔で奥さんに言われたのだという。
「半年だ。あとな」
「それでその半年の間どうするの?」
「まず酒を止める」
最初に決めたのはそれだった。
「酒を止めてだ」
「お酒を?」
「ああ。止める」
また言うのだった。
「完全にな」
「本当なのね」
「そして博打もだ」
「えっ!?」
「それも止める」
博打についても止めるのを決意されたのだった。
「そして女もだ」
「女もって」
「当然喧嘩もだ」
「じゃああんたが今までしたこと全部じゃない」
「ああ。全部止める」
強い言葉と共に語ったのだという。
「そして漁師に専念する」
「本気なのね」
「本気も何も決めたんだ」
腕を組んでしっかりとした声で話し続けられた。
「俺はな。そうしたことは全部止める」
「半年の間でも」
「とりあえずはそうしてみる」
「とりあえずは?」
「そうだ。残り半年」
その半年という言葉がこれまでになく重いものになっていた。そうなったのはやはり枕元での男との会話の結果だった。それこそがはじまりであった。
「やってみる」
「あんた・・・・・・」
「疑ってるか?俺のことは」
「そもそもあんたそんなこと言ったことなかったわよね」
「俺は嘘は言わない」
これは三神さんのこの時からの誇りだったという。何があっても嘘はつかない、どれだけ悪事を続けていてもだ。その心定めだけはずっとしていたのだという。
「それは御前も知ってるよな」
「ええ、それはね」
「その通りだ。それでだ」
「やるのね」
「ああ。絶対にだ」
三神さんの決意は不変だった。
「やるからな」
こうして三神さんはまず生活をあらためられた。そうして真面目に働き三ヶ月を過ごされた。その間三神さんを見る周りの目は変わっていった。
「嘘みたいだな」
「ああ、全くだ」
「あの人がな。あんなに真面目に」
「どういうことなんだ?」
中には首を傾げさせていぶかしむ人もいたという。
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