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あかりの碁

作者:くるみ
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それが、好きだってことだから

ダンスダンスレボリューション。
そのルールは簡単。 前の少女がやるのを見ていたから分かる。
矢印が重なった時に、対応する場所を踏む。 それだけ。

曲を踊りきるまでに上のゲージが切れたら終了だけど、
そんなこと別に気にしなくてもいい。 さあ、踊りましょう。

1曲目は、簡単な足1つの曲から。
どんなに曲が簡単とは言っても、始めてだからぎこちなく踊る。

2曲目は、後ろの少女におすすめしてもらった、私も聞いたことがある曲。
少しレベルの上がった動きが必要になったのと、2曲めだったこともあって
この曲の中盤辺りで、二人とも疲れてきた。

3曲目、明日美さんに候補の中から選んでもらう。
途中でかなり息が上がってきて、足の動きが鈍くなって……
終わった時には、もうゲージが2割ちょっと。 明日美さんに至っては真っ黒だった。

「お疲れ様。とっても良かったよ」

ゲームが終わる。 それを見た後ろの少女が、声をかけてくれる。
正直だいぶ疲れたけど、彼女の笑顔と言葉に励まされて、
そして私も同時に気づいた。

私は、さっきの対局中笑顔でいただろうか?
彼女のように、笑顔で見守ることができるだろうか?

答えは出ない。 けど、もう出す必要はない。
これから気をつけるから。

「もう一回やる?」

「いや、疲れたからいいよ。明日美さんはどうする?」

「私も疲れた……。 休みましょ……」

近くのイスに座って、周りを見ながら息を整える。
その傍ら、近くのいろんなゲームを遊ぶ人たちを見る。

呼吸も、だいぶ整ってきた。 明日美さんもそろそろ動けるだろう。

「さ、行こっか」

「うん……」

いろいろ見て回る。
もう一度、今度はゲームを探すためじゃなくて、それを遊んでいる人を見るために。

1ゲームの勝った負けたで、一喜一憂する彼らは勝つと眩しいほどの笑顔をして、
負けると悔しいと言いながらもう一度対戦しようとする。

彼らが勝負師でいられるのは、きっとこの表情ができるからだろう。

「ほら、明日美さん…… 皆の表情、見てよ。
ここで遊んでる人は、一人だって悲しそうな顔はしていない。
皆真剣に、挑戦するのが楽しいから100円投入してがんばってるの。

負けたら負けたで、悔しいって言いながらもう一回戦って……
次はきっと勝つんだって信じてる」

「…………うん」

明日美さんもそれを見て、懐かしさと、寂しさを覚えたんだろう。

「始めて、私が囲碁を打った時は、
相手の打ち方に感動して……ああやって打てたらって思ったのを覚えてる。
明日美さんは、どう?」

「私は…… 石を置いて、たくさん取っていくのが楽しかったから
囲碁を始めたんだった。 最初に勝った時は、いっぱいはしゃいで……。
今更だけど、私も…… この人達みたいに楽しく碁が打てるかな?」

「きっと、打てるよ…… 気づいたから、必ず取り戻せる。」

「そうだよね。 そう信じるよ。
今日はありがと、あかりちゃん」

「もう、4時か……長居しすぎちゃった。
私もそろそろ帰らなきゃ。ありがと、明日美さん。
今度は最後まで打とうね!」

「うん!」

そう言う明日美さんの晴れやかな笑顔に、ついドキっとしてしまって
固まったまま動けずに……走り去る彼女の後ろ姿を見送った。


こうして私は明日美さんに楽しく囲碁を打ってもらうという当初の目的を果たした。
そして、私も改めて思った。 楽しく碁を打てるようにしようって。

明日美さんと行くゲームセンターは疲れたけど、とっても楽しかった。
でも、囲碁だって負けてない。 ゲームセンターには負けない。

一手一手が相手との対話である囲碁は、局が進むごとに形を変えて
時に人を翻弄し、時に人を導いていく。
その過程で勝ったり負けたりしながら、たくさんの人と夢を見る。

それはきっと、ゲームセンターでも変わりはしないのだろうけど……
それでも、自分のいる場所が一番優れていると根拠もなく信じるんだ。

それが、好きだってことだから。 
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