とある女性の非日常
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とある彼女の非日常
『(…ここ…どこ…?)』
目が覚めると 知らないところにいた。…自分が座っているのはベンチ。よくよく辺りを見回せば 遊具や砂場などが揃っている。
『…公園?』
自分はいつの間に公園に来たのか。
そして 左手に何かを握っている。何だろう これ?
それは紫色の袋に入れられ 赤い紐で結ばれた 細長い棒のようでもあった。
私は紐を解いて中身を確認し…絶句した。
『獅子王…!?』
装飾の施された鞘 鈍く光る刃。
紛れもなく 「喰霊」に出てくる宝刀・獅子王が 私の腕の中にあった。
その頃。
「ヒヒヒ…来たか…」
地獄堂の中 いつものように水晶玉を磨いていたオヤジは笑った。
「来たって何がだ?オヤジ」
「まっ…まさかユーレイじゃないよね?!」
「落ち着けリョーチン」
上からてつし リョーチン 椎名がオヤジの元に集まる。
「別の世界からの客だ お前たち公園に迎えに行ってやれ」
「「「別の世界!?」」」
三人悪は驚きながらも 互いの顔を見合せ ダッシュで公園まで走った。
『…』
何故 獅子王がこの手の中にあるのか ここはどこの公園なのか そしてもう一つ。
『私…黄泉の高校の制服着てる…』
お世辞にもセーラー服とはもう縁のない歳だ これは夢なのかと思おうとした瞬間。
ダダダッと駆け足。そして公園の入り口から 私を見る三人の子供たちが居た。
『…!!!?』
あれは 上院町の三人悪ではないか?
『…てっちゃん?リョーチン?椎名?』
声が震えた。
小説で コミックスで 嫌というほど読み込んだ「地獄堂霊界通信」その登場人物(しかも主役)が目の前に登場したのだ 無理はない。
『ねーちゃん どうして俺らの名前 知ってんだ?』
『うーん…別に危ない感じはしないけど』
『リョーチン。少なくとも俺らの知り合いに 日本刀持ったねーちゃんなんか居ないだろ』
私は はっとして刀を鞘に戻した。
『えっと…私もどうしてここに居るのか分からなくて…』
「「「分からない?」」」
三人の顔がさっと青くなった。
あ…もしかして 由宇ちゃんのことを思い出したんじゃないかな…
私は慌てて
「ちっ違うの 由宇ちゃんみたいな記憶喪失とかじゃないか…」
『ら』と言おうとした私に 椎名の強い一瞥が走った。
「由宇ねーちゃんを知ってるなんて ねーちゃん何者だ?」
あ 墓穴掘った。
『えっと…』
どうしよう どうしよう。
私が困っていると 横からてっちゃんがひょいっと目の前に立った。あ…意外と身長あるんだ…
「ねーちゃん。地獄堂のオヤジが 迎えに行ってやれ って言ったんだ。多分 ねーちゃんのことだ」
『私を…?』
地獄堂のオヤジさんなら 確かに何故私がここに居て どうしたらいいのかも教えてくれると 思った。
『…うん。連れて行って』
私は獅子王をしっかり袋に戻して紐を結び ベンチから立ち上がった。
左手に獅子王を持っているので 空いている右手を 三人が引っ張る。
「オヤジ!!連れてきたぜ!!」
『…こんにち は…』
本で見るより 店の入り口の人体模型はリアルだったし 店の中は薄暗く 得体の知れない瓶も並んだ棚。私はこの空間に 激しくビビっていた。
「ヒヒヒ…連れてきたか…」
その嗄れ声!!
私はさらにビビった。
『あの…どうして私 ここに…?』
やっとの思いで絞り出した声は 情けなく震えていた。
「空間がの ねじ曲がって お前さんのことを連れてきたのよ…ヒヒヒ…」
『トリップ ってやつですか…?じゃあ獅子王とこの格好は…?』
「ヒヒヒ…お前さんは賢いのぅ。そうじゃ お前さんの力が必要なのよ」
『力!?私 霊能力とか何もないですよ!?』
呆気に取られる私に オヤジさんは畳み掛けるように話し出した。
イラズの森に巣食う妖たちの数が多すぎる と。それを退治するために私が呼ばれたのだ と。
ちなみに制服なのは 様になるからだ と。(そこかい!!と突っ込みたくなった)
「とにかく 妖たちを こいつらと退治してほしいのよ」
『…』
私は無言で頷いた。ここは「地獄堂霊界通信」の世界なのだから 妖を倒し終えたら 元の世界に帰れるはずだと。
「お前たち。ちょっと街を案内してやれ」
オヤジさんのその声で ポカンと私を見ていた三人悪は 一気に私に質問してきた。
「ねーちゃん 違う世界から来たの!?」
「この刀はどんな力があるの!?」
「ていうか名前…」
椎名の鋭い突っ込みに 慌てて私は頭を下げた。
「一ノ瀬菜摘。霊感とか全然ないのに呼ばれてきちゃったみたい!!よろしくね?」
三人悪は賑やかに私に笑いかけてくれた。
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