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フェアリーテイルの終わり方

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九幕 湖畔のコントラスト
  4幕

 
前書き
 黄昏 に 沈む 家 

 
 パートナーであり未来の娘だった少女、エル。彼が選択に失敗したせいで永遠に喪った。

 ラルが子を出産する時に、少しも彼女を思い出さなかったと言えば嘘になる。また〈エル〉に会えるという事実は確かに彼を心の底で昏く悦ばせた。
 そして産まれた娘に、彼は予定調和のまま〈エル〉の名を与え、育んだ。

 だが、喜びの日々は長くは続かなかった。〈エル〉と同じで〈クルスニクの鍵〉だったエルを、ジュードたちが世界のために差し出せと迫ったのだ。

 仲間たちもまた待っていたのだ。〈エル〉が彼のもとに産まれるべくして産まれる子だと知っていて、再びの〈鍵〉の出現を。

 そう理解した時、彼の心に大きな空ろが生じた。
 彼は、かつて仲間であった人々を殺し、湖に沈めた。

 後悔も恐怖もなかった。今度は己が仮面を被り、いつか愛娘を過去の己にくれてやるまで生きねばならないと思えば、友人殺しくらい何のことはなかった。

 …………

 ……

 …

 カタマルカ高原を越え、黄昏時に至り、フェイはついに着いてしまった。
 眼下には、湖に突き出るデザインハウス。エルと父と――フェイが、暮らしていた、家。

 フェイは自分の呼吸が乱れて行くのを止められなかった。

(パパはわたしを見てフェイリオだって分かってくれるかな? パパはまだフェイがキライなままじゃないかな? わたしが「ただいま」なんて言ったら「出ていけ」って言われるんじゃないかな? 知らんぷりして、口も利いてくれないんじゃないかな?)

 不安が心臓を圧迫し、息ができなくなってゆく。

「フェイ! ――ジュード、フェイが!」
「ちょっとごめん」

 ジュードがフェイの口にハンカチを当てさせた。ゆっくり深呼吸するように言われる。フェイはジュードの言うリズムに合わせて呼吸をくり返した。
 それでも酸素が入ってくる気がしなくて、浅い呼吸になるたびに、ジュードは根気よく「大丈夫だから」と言い聞かせていた。

 ようやく、深呼吸でなければ息ができないものの、意識を取り戻せた。

「フェイ。もしお父さんと会うのが怖いんなら、ここで待っててもいいんだよ。あえて辛いとこに自分を追い込む必要はないんだ」
「え…? でも、そんな…いいの?」

 フェイは強くならなければならない。「ミラ」を死なせた自分にできる償い。せめてこの人知を超えた力の助けを必要とする人々のために使う。

 ただ力が強ければいい、ただ精霊が味方に付いていればいいというものではない。フェイ・メア・オベローンが内面から強くならなければならない。

(そのために、パパはさけて通れない大っきな壁)

 父との過去に、自分の中で決着を付けなければ、フェイはいつまでもヒキョウモノのままだ。

「……ううん。行くよ」
「大丈夫? 本当にいいんだね?」
「うん。わたし、行かなくちゃ。ちゃんとパパに会うの。会いたい」
「……分かった。その代わり、ちょっとでも具合が悪いと思ったら僕に言うんだよ。すぐ連れ出してあげるから」
「ごめんなさい。メーワクばっかかけて」
「これが医者の仕事だし、フェイは友達だ。10年も心に溜まったモノを今日一日で解決しろなんて、心療医学的にも不可能だ。フェイは重荷に思わないでいいんだよ」
「うん」

 やがてエルが一番に駆け出した。ルドガー、ミラ、ローエンが追って窪地へ降りていく。フェイはジュードときつく手を繋いで、坂を下りた。

 エルたちと同じ窪地から見える、湖に突出した形のデザインハウス。記憶の中ではあまりに褪せ過ぎて、本当に自分の家なのか疑わしい。

 考えていると、屋敷の玄関ドアが開いて、陸側のテラスに出てきた者がいた。

 その人物を見て、フェイは大きく息を呑んだ。 
 

 
後書き
 正確にはジュードは医者ではないのですが、オリ主に分かりやすいようそう名乗っています。手を繋いだりしてあげてるのは治療行為の一環ですのでジュミラ派の方々ご了承ください<(_ _)>
 次回ついにパパさん登場です。 
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