線路は続くよ
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第三章
「やっぱり」
「目指すなら目指すことだ」
「車掌さんになることもね」
「難しいにしても」
「それでもね」
「わかりました、頑張ります」
僕は確かな顔で応えた、だが。
国鉄は丁度JRになろうかという時だった、それで。
余計な騒動が起こっていたと思った、僕はこの騒動に対して同期に研修中にこうしたことを言っていた。
「僕JRとかはいいんだ」
「そうした騒ぎはか」
「うん、興味がないんだ」
こう言った。
「別にね」
「じゃあ興味があるのは」
「うん、線路のことだよ」
このことだけだった、この時も。
「そのことは興味があるけれど。駅や電車のことも」
「JRはいいんだ」
「どっちにしても鉄道に関われればいいよ」
「国鉄の労争は」
「そういうの興味ないんだ」
「そうか」
「別にね」
本当にそう思っていた、そんな組合とかそういうものはただ騒がしいだけだと思っていた、興味は全くなかった。
「いいよ」
「じゃあJRになってもか」
「鉄道に関わっていられればいいいよ」
本当にそれだけでよかった。
「どの駅にいてもどの路線に関わっていてもね」
「人気のない駅でもいいんだ」
「いいよ、別に」
国鉄はそれこそ色々な駅があった、中にはとんでもない過疎地の駅もあった。そしてローカル線でもだ。
かなり人がいない路線もあった、けれど僕はそれでもだった。
「何処でもね」
「言うな、そんなに鉄道が好きか」
「好きだから入ったしね」
国鉄にだ。
「だからいいよ」
「そうか、じゃあ御前は御前で頑張れよ」
「そうするよ。車掌になれなくてもね」
鉄道に関われるのならそれでよかった、そして。
僕は研修が終わってから車掌にはなれなかった、駅員になってとある大きめの駅での勤務となった。そこで働きながらだった。
毎朝毎晩ホームと線路を見た、そうして働いていた。
その日々の中で結婚してだ、子供が出来て。
僕は子供にだ、ある日こんなことを言われた。
「お父さん駅員さんだよね」
「うん、そうだよ」
その通りだとだ、仕事から帰ってお家の中で娘に答えた。
「ずっと駅にいるよ」
「そうよね。ただね」
「ただ?」
「お父さん電車は動かさないのよね」
「「お父さんは違うよ」
残念ながら車掌にはなれなかった、娘にこのことも話した。
「駅員さんだよ」
「そうよね。けれど電車は好きなの」
「好きだよ」
JRになってもだ、このことは変わらなかった。
「今もね」
「じゃあ電車に乗ることも」
「好きだよ、勿論ね」
この気持ちは変わらなかった、今も。
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