問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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乙 ④
一輝たちは肉屋のおっさんのゲームの後ノーネームの本拠に戻っていたのだが、フェルナがお礼に、と持ってきたサーカスのチケットにより、再び町へと来ていた。
「そういえば、公演はいつからなのでしょうか?」
「えーっと・・・お昼過ぎからだって。」
黒ウサギに聞かれたフェルナはそう答えた。
「このサーカスって一日一回しか公演してないのに、あちこちから観客が集まってきてるから・・・」
「なるほど・・・つまりとても貴重なチケットなのですね!?」
黒ウサギは感極まってフェルナを抱きしめた。
「そのようなものを黒ウサギ達のためにわざわざ四枚も集めてきてくださったなんて・・・フェルナさんはなんと良い方なのでしょう!」
「く・・・苦しいよ・・・」
フェルナは顔を黒ウサギの胸に押し付けられ、息が出来ずにもがく。
「それに比べてウチの問題児達と来たらもう大変でしてね!?いつもほんの少し目を離した隙に・・・」
黒ウサギが振り返ると、そこに四人の姿はなかった。
「やっぱり突然の自由行動してたー!?」
「わあああっ」
フェルナも若干呆れている。
そして、一人ずつ黒ウサギのまえに姿を現していく。
「ねえ黒ウサギ見て!そこの露店のおじさまが『幸福になれるツボ』を格安で売ってくれたわよっ。」
「詐欺られてるんで今すぐリリースしてきてくださいッ!!」
世間知らずー。
「ポップコーンメガ盛りにしてもらった・・・。」
「もはや屋台荒らしじゃないですかッ!!」
大食らいー。
「着ぐるみが喧嘩売ってきたからボコっといたぞ。」
「謝ってくださいッ!!」
やんちゃー。
「悪霊に取り付かれてる人たちがいたから、ちょっと御払いして来た。魔王の残党かな、あれ。」
「あれ、予想外なことに問題児的行動じゃない!?」
「ついでに、屋台荒らししてきた。」
「って、あなたもですかッ!!」
ヤンチャな陰陽師ー。
「「「「祭りの空気に浮かれてやった。今は反省している。」」」」
「せっかくの休日だと言うのに胃がねじ切れそうですぅ・・・」
「た・・・大変なんだね・・・」
そんなことをしているうちに、サーカスへ着いた。
「アハハハ皆様いらっしゃいマし。サーカス一座“トリックスター”へ。お手持ちの平穏とお別れスる準備はいいかな?アハハハハ!!」
なんとも陽気なピエロに出迎えられ、中へ入るよう促される。
「もうショーは始まってイルよ。お早く着席っ!!アハハハハー!!」
そして中へ入ると、派手にサーカスが繰り広げられていた。
「イッツ、ショータイム!!」
そう、団長らしき人が言うと、猛獣使い、ピエロによる芸、小さな動物による音楽隊、猫娘による曲芸など、様々な形で観客を楽しませる。
「さあさあショーもいよいよクライマックス!ラストは大マジックで締めくくりますどえ!」
そう言いながら、団長らしき人物は観客に向けて大声を出す。
「これからそのマジックの主役を一名、お客はんの中から選ぶさかい!」
そして、団長に当たっていたスポットライトが客席中を回るように照らしていく。
「それは・・・この方!」
そして、スポットライトが照らしたのは・・・黒ウサギだった。
「えっ!!えっ!?く・・・黒ウサギですかっ!?」
「おめでとうどすウサギはん。さあ、舞台の方へおいでやす。」
黒ウサギはあわあわしつつも、舞台まで下りていった。
「で・・・でも、何をすればよいのやら・・・」
「ご心配なく。ここに座ってるだけでええので。」
そんな黒ウサギの様子を見て耀が羨ましがるが、飛鳥がそれをたしなめる。
「・・・黒ウサギが選ばれたのって、偶然なのか?」
「どういう意味だ?」
「いや・・・これだけの観客がいる中で、今日急に来ることになった黒ウサギが選ばれるもんかな、と・・・」
「まあ、さくらを仕込んでおくことが多いからな・・・まあ、箱庭の貴族なら、こうして目立つのにもちょうどいいから、じゃないか?」
「そんなもんか。」
一輝はどこか納得いかないようだったが、十六夜の説明にとりあえず納得する。
「ほんでは今から、こちらのウサギはんの姿を変えてみせるどす。」
そう言いながら黒ウサギに手を向け、カウントを始める。
「スリー!ツー!!ワン!!」
その瞬間、黒ウサギの姿が巨大な竜へと変わる。
「竜か・・・張りぼてかな?」
「さあ、な・・・」
「これで本日の公演は終了どす。皆様のまたのお越しを、待っとります。」
問題児達もあっけに取られている中、サーカスは終了した。
「・・・すごい・・・けど・・・」
「ええ・・・」
「黒ウサギ、どこに行ったんだろうな?」
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「・・・お待たせ。」
「ああ。どうだった、お嬢様?」
「黒ウサギはどうしたって?」
テントから出てきた飛鳥に、十六夜と一輝が尋ねた。
「それが、スタッフに聞いたら黒ウサギは裏口から退場させた、の一点張りなのよ。」
「ふぅん・・・じゃあ、今頃この辺りでもうろついてるんじゃないか、ってか?」
「ったく、面倒なことだな・・・」
「うん、先に帰るわけにもいかないしね・・・探す?」
「それしかない、な。」
そう会話をしながら、方針を決めていく。
「春日部の五感や、一輝の霊格探知である程度の居場所が把握できたりしないか?」
「それが・・・そう思ってさっき匂いをたどってみたんだけど、この町、漠然としすぎてて匂いの判別がつかなかったの。」
「俺のほうでも簡単に探ってみたりしたんだが、どうしてか黒ウサギが見つからん。式神も投入したんだがな・・・」
全くどうしていいかわからずにいると、フェルナが四人の元に駆け寄ってきた。
「とりあえず、向こうに宿を取っておいたの。どっちにしろ、今から帰っても暗くなっちゃうし、今夜はこの町に滞在したらどうかと思って・・・」
「・・・それもそうね。とりあえず、一休みして、すぐに探しましょう。」
「一輝、帰るのが遅くなるって連絡してもらえるか?」
「了解。」
一輝はDフォンを使って、念のために音央と鳴央の二人にメールを送る。
内容としては、『黒ウサギが行方不明になった。探してくるから、今日は帰れない』というものだ。
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