| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

無限の太陽

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章

「こっちは人手が足りないからな」
「こっちに来てだね」
「ああ、働けってな」
 こう声をかけたというのだ。
「それでこっちに来てもらったんだよ」
「そういえば娘さんいたんだったね」
 ゲンナジーはお爺さんと話しながらこのことを思い出した。
「僕が子供の頃にモスクワに出てたんだ」
「そうだよ、けれど戻って来たからな」
「その分賑やかになったんだね」
「そうだよ、娘夫婦に」
 それにだというのだ。
「孫娘も来たんだよ」
「お爺さんのだね」
「そうだよ、息子夫婦に三人」
 モスクワに言った娘さんのお兄さんだ、こちらは男の子が二人に女の子が一人だ。三人共ゲンナジーの馴染みで既に結婚している。
「そこにもう一人来たんだよ」
「成程ね」
「女の子だよ」
 つまりお爺さんから見れば孫娘だ。
「その娘も来たからね」
「賑やかになったんだ」
「その分、いや嬉しいよ」
 お爺さんはゲンナジーに上機嫌で語る。
「娘が帰ってきて明るくなって人手も増えて」
「いいこと尽くめだね」
「家族は多くないとな」
「そうそう」
 ゲンナジーの家にしてもそうだ、彼には弟が二人、妹が二人いて従兄の一家も一緒に住んでいる。農家には人手が必要なのだ。
「だからいいことだね」
「うん、そして」
「そして?」
「その孫が」
 孫娘がというのだ。
「またいいんだよ」
「可愛いんだ」
「この村で一番かもしれないね」
 そこまでだというのだ。
「凄い美人なんだよ」
「本当に?」
「わしが嘘を言ったことがあるかい?」
 お爺さんは冗談めいて返すゲンナジーに問うた。
「これまで」
「いや、ないよ」
 ゲンナジーは今度は純粋な笑顔で答えた。
「それはね」
「それならわかるな」
「うん、そのお孫さんは凄く可愛いんだね」
「うちの婆さんの若い頃そっくりだよ」
 今度はこんなことを言ったお爺さんだった。
「いや、本当にいい娘だよ」
「おのろけが入ってるよね」
「入ってるよ」
 ここでも正直なお爺さんだった。
「実際にね」
「そのことは認めるんだね」
「だからわしは嘘は吐かないんだよ」
 それは決してというのだ。
「だからだよ」
「そうなんだ」
「そう、だからね」
「一度その娘と会ってみたいね」
 ゲンナジーはお爺さんと話していてこう思った。
「それなら」
「そうしてみればいい、そういえば御前さんは」
「僕は?」
「相手がまだおらんかったな」
「ああ、奥さんだね」
「そうだよな」
「うん、そうだよ」
 今度はゲンナジーが答える、素直に。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧