無限の太陽
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第一章
無限の太陽
ひまわりはロシアの国花だ、しかしロシアは寒い。
その為咲いている場所は少ない、そのせいか咲いている場所ではとにかく持て囃される。
ゲンナジー=ボローゾフはソチの近辺のある村に住んでいる青年だ、家は農業をしていてジャガイモを主に作っている。
彼は両親にだ、よくこう言われていた。
「とにかくジャガイモを作るんだよ」
「これがあれば死なないからね」
「人間はやっぱり食わないと駄目だからな」
「まずはジャガイモよ」
「ジャガイモは他の作物よりも楽に作れる」
「しかも色々な食材に出来るし料理も多いでしょ」
両親はジャガイモに対して信仰すら持っていてそれで言うのだった。
「だから一杯作るんだ」
「絶対に売れるものだから」
「まずはジャガイモを作れ」
「いいわね」
こう言って息子である彼にジャガイモ作りを勧めていた、そして実際にゲンナジーにしてもジャガイモ作りに専念していた。
高校を卒業して家業に入ってだ、彼は家の仕事をそのジャガイモを愛している両親と共に積極的にした。その結果。
確かにジャガイモは作れば売れるし家畜の飼料にもなった、料理にしても色々なものにすることが出来た。
農業としてはよかった、彼もまたジャガイモを愛することが出来た。
しかしだ、ある日ふとこのことに気付いたのだった。
ジャガイモだけでいいのか、それで両親に尋ねた。
「うちはジャガイモだけでいいのかな」
「他の作物も作れっていうのか?」
「そう言うの?」
「うん、どうかな」
こう両親に尋ねたのだ。夕食の場でそうしたがその夕食の食卓もジャガイモが当然の様に顔を見せている。
「他のも」
「野菜も作ってるじゃないか」
まずは父のイワノフが言ってきた。細面の息子と違いがっしりとした顔だ、ただし大柄な身体と黒い目は一緒だ。
「人参だの玉葱もな」
「そうよ、作ってるじゃない」
母のマトーシカも言う、見事に太っていて若い頃は息子にも遺伝で送った細面も面影がない。青い目とこれまた息子に受け継がせた茶色の髪である。
その二人がだ、息子に何を言っているんだという顔で返してきた。
「それで他に何を作るんだ?」
「他にあるの?」
「そう言われると」
ゲンナジーも返事に困るといった顔だった。
「ちょっとね」
「今で充分だと思うがな」
「ジャガイモに他のお野菜でね」
「麦を作るのはうちの畑じゃ無理だからな」
「うちの畑はそういうのじゃないから」
あくまでジャガイモや他の野菜の為だというのだ。
「ジャガイモの品種、作るのなら別だがな」
「そういうのはね」
どうかというのだ。
「うちじゃ無理だしな」
「果物もね」
「そうなんだ」
「ああ、とにかくジャガイモだ」
「ジャガイモはうちの守り神だからね」
ここでまたジャガイモを言う両親だった。
「これからもどんどん作るぞ」
「それで売るわよ」
「それで生きるんだね、うちは」
「ソ連の頃とはまた違うからな」
「そう、あの頃とはね」
両親はもうロシアでも歴史になっている頃のことも言った。ゲンナジーの幼い頃に崩壊してなくなった国である。
「コルホーズとかソフホーズと違うからな」
「作って皆に売る時代だから」
「だからいいものを沢山作って売らないとな」
「生きていけないから」
それでだというのだ。
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