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豹頭王異伝

作者:fw187
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邂逅
  新たな疑問

「向かい風だってのに、平気で近寄って来やがった。
 櫓も帆柱も無ぇってのに凄ぇ速さで、荒波を突っ切ってたんだぜ!
 豹の大将も後で言ってたけどな、他にも妙な事があんだよ。
 奴が甲板に落ちた時、光に包まれた人影が出て来て船の中へ引っ張り込んだらしい。
 そいつは見ちゃいねぇが無人島へ上陸した後、洞窟ん中で奇天烈な物に出くわしたぜ。
 でっかい光の塊みてぇなもんだったがよ、他にも在り得ねぇ様な化け物が出て来たっけ。

 俺達が海へ逃げ出した直後、でっかい光の玉が島を焼き払って空に消えて行っちまった。
 誰も信じちゃくれまいから言った事は無ぇが、あんなもんは後にも先にも見た事が無ぇ。
 死の都ゾルーディアに棲む不死身の怪物、氷雪の国を護る妖獣もやっつけたけどよ。
 嘘だと思うなら伝説の豹頭王グイン様に聞けよ、いつもの法螺話なんかじゃねぇからな!」

(どうやら突拍子も無い法螺話では無い様だ、大変興味深い内容だが君の意見を聞きたい。
 イシュトヴァーンの話を真実と仮定すれば、レントの海に古代機械が在った事になる。
 空の彼方へ消え失せた様だが魔道師の塔は未調査か、或いは情報を隠匿したのか?
 情勢が落ち着いた暁には、時系列を整理し一見無関係な報告も精査の必要があるね)
(当時の私は下っ端でしたが、感知していれば噂の形で流失は不可避と思われます。
 カロン大導師へ関連の疑われる情報の提供、可及的速やかな返答を要請します)

(魔道師の塔には情報を加工せず憶測、推定の類は一切入れるなと強調する様に。
 判断を邪魔する脚色は不要だ、古代機械の事を私以上に知る者は皆無だからね。
 あの機械は瞬間移動の原理を秘め隠し、私の質問を無視する生意気な奴だ。
 イシュトの話を基に誘導尋問を仕掛け、同類に関する情報を白状させてやる。
 人間と機械の知恵比べ、論理(ロジック)の決闘には快く協力して貰いたい。
 パロ最高の策謀家には詭弁の術も大いに期待する、その心算で居てくれ給え)
 貴方には逆立ちしたって敵いませんよ、と呟き掛けたが。
 ヴァレリウスは慌てて、心話の《声》を抑え込む。

「そなたの見た物は私が密かに温めていた推論、荒唐無稽な夢想を裏付けてくれそうだ。
 論理に悖る多種多様な事象を解明する重要な鍵、実に論理的な物的証拠と推察される。
 グインに聞くまでも無く非常に面白いね、今夜ゆっくりと話を聞かせてくれないか。
 もう陽が暮れる刻限も遠くない、次の行軍を終え夜営の準備に入る頃までには戻るよ。
 酒でも飲み交わしながら一晩ゆっくり語り明かそう、親愛なるイシュトヴァーン。
 そなたはやはり私の夢に翼を与え、運命の扉を開いてくれる大切な人なのだね」
 ナリスの賛辞を受け、闇夜に煌く星の如き黒い瞳が煌いた。

 ヴァレリウスは雄弁な視線に沈黙で応え、ナリスの護衛3班に同行を指示。
 ゴーラ軍の警戒は見習い魔道師、下級魔道師に委ね閉じた空間の術を起動。
 ベック公ファーンを護送後サラミスに残留、結界を張る遊撃班6名と合流。
 魔の胞子に冒された犠牲者の精神測定を試み、慎重に掌を翳し反応を見る。
 パロ最強の魔道師は灰色の眼を曇らせ、深い溜息を吐いた。

「ここまで進行した状態は、初めて見ます。
 あまりにも異質で解読不能ですが、強力な思念波を発信中。
 黒魔道の術師に距離と方角を報せる標識灯、遠隔攻撃を誘導する格好の標的となります」
「ファーンを見棄てる訳には行かないよ、一刻も早く私と同じ治療を施さないと」
 ヴァレリウスは無言の儘で接触心話を選択、ナリスと掌を合わせ従兄弟の思念波を中継。

 ナリスが常に着用する精神遮蔽の障壁、内心を窺わせぬ鉄壁の仮面も外れ表情が歪んだ。
「魔の胞子は脳細胞を喰い荒らす異次元の微生物と聞くが、ここまで酷いとは!
 精神活動が極端に低下していると覚悟していたが、正常な意識が全く感知出来ない。
 鉄仮面の男と似た様な状況なら何とかなる、と思っていたが予想を遙かに超えている。
 パロ魔道師ギルドの総力を挙げても意識の回復、治療の見込みは立たないのだね?」
 肉体を接触させる接触心話、言葉と異なり純粋な思考を偽る事は事実上不可能。
 魔道師の言葉に出来ぬ苦渋を読み取り、アルシス王家の正統後継者は次なる手段を選択。

 古代機械の認める《マスター》の権限を駆使、不可視の障壁に思念波を投射。
 《パスワード》を念じた直後、3千年を経て錆一つ無い光の船が現出。
 継ぎ目は皆無と見えた滑らかな水晶の壁、舷側の一部が扉と化し無音で左右に開いた。
 異文明の秘蹟は主《マスター》に応え光り輝き、銀色の光が溢れる内部を公開。
 勝手を知る者の強み、アルド・ナリスは光り輝く通路の奥へ悠然と歩を進める。

 何度も足を踏み入れた研究者、ヨナ・ハンゼ博士が続き立ち竦む魔道師達を先導。
 可動式の寝台に横たわる意識不明の重態者、ベック公を中心に従者達は滑る様に移動。
 鋼鉄を連想させる硬直した感触の異質な念波、機械化された思考記号が精神の視野に点滅。
 侵入者を威嚇し警告する思考元素、誤解の余地を持たぬ警戒信号の暗示波が一行を制止。

(一時に入室の可能な随行者の数は最大、非A級の場合3人までに制限されています。
 セカンド・マスターを含め人数制限を超過、該当する人員は直ちに退出してください )
「古代機械には何度も出入りしているが、こんな反応は初めてだね。
 ヨナとヴァレリウスを除き、他の者は一旦退出してくれ」
 灰色の瞳は安堵、不満を秘めた感情の渦を映すが異論を唱えず黙礼。
 上級魔道師4名、下級魔道師20名は滑る様に移動し周囲に結界を展開する。

「ベック公ファーンに、私と同じ治療を施す様に」
( 次席管理者《セカンド・マスター》の指示、命令入力は権限外の事項に相当します。
 公開適用除外指定技術《シークレット・テクノロジー》に該当の為、施術は認められません。
 パロ聖王国の代理者に認可の実行権限、公開可能な範囲の超過に該当し要請を却下。
 未開惑星調整事務局の許可、或いは同等の権限を有する担当者の承認が必須です )
 古代機械は運動神経も再生させる秘策、松果腺刺激方式の手術を完璧に拒絶。
 アルド・ナリスの顔色が急激に蒼褪め、音を立てて一瞬で血の気が引いた。

 パロ聖王家が誇る最大の資質、本人は弱点と勘違いしているが人々の心を魅了する真の美点。
 普段は秘め隠し誰にも見せぬ本当の自分、ヴァレリウスの魂を呪縛した無垢の魂が露呈。
 傲岸な仮面が消し飛び藁をも掴む必死の形相、頼り無い幼子の素顔を曝すが自覚の余裕は皆無。
 動転する主に劣らず魂の従者ヴァレリウス、古代機械に関する第2の権威ヨナも同様であるが。
 アルド・ナリスは辛うじて自制心を掻き集め、多少の震えを隠せぬ声で第二の矢を放った。
「私には既に該当する治療が行われた筈、当惑星文明には公開済みではないのか?」

( 最高管理者の指示に基き、已むを得ぬ特別の処置と認定された為です。
 繰り返しますが脳細胞の刺激、再生手術の申請は補欠管理者の権限を越えています )
 ナリスは絶対的な自信が崩壊、蒼白な表情を繕う余裕も無い。
 比較的冷静な共同研究者ヨナが、ヴァレリウスを通じ助け舟を出した。
「ファイナル・マスター、ランドックのグインと念話コンタクトを希望する」

( 超上級ランクへの念話コンタクト申請は、下級ランクに認定された権限を逸脱しています。
 特S級エマージェンシー発現、スペシャル・ケース発動には該当せず要求は却下されます )
 起死回生の奇跡を求め、一念を籠め放った第三の矢も無残に打ち砕かれた。
 ナリスは呼吸困難な風情で喉元へ手を当てヴァレリウス、ヨナが駆け寄る。
 困惑し視線を交錯させる腹心2人を見て、強引に態勢を立て直す闇と炎の王子。
 懸命に気力を奮い立たせ、反撃を試みる。

「どうやら表現を間違えた様だ、発言を訂正する。
 ファイナル・マスターに可否の判断を仰ぎたい、私が手術の許可を求めていると伝えて欲しい」
( 了解しました、セカンド・マスターの要請を受け容れます。
 ファイナル・マスターの意向を確認します、許可が下りるまでの間のみ在室を認めます )
 ナリスは想定外の拒絶を一時的に回避、時間を稼ぐ事に成功し大きく息を吐いた。 
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