『八神はやて』は舞い降りた
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第2章 赤龍帝と不死鳥の騎士団
第21話 誰が為に鐘は鳴る
前書き
・戦闘準備編
――――午前0時
試合の開始時刻になった瞬間、結界につつまれた。
外の世界に影響を与えない異空間に包まれた戦闘用の世界らしい。
『そこではどんなに派手なことをしても構いません。使い捨ての空間なので存分にどうぞ』
とは、グレイフィアの説明である。いまも、グレイフィアの説明が、校内放送を通して聞こえてくる。
ボクたちが使う魔法にある封鎖領域とは、微妙に異なるようだ。
「わざわざ駒王学園そっくりのステージを用意するとはね……」というリアス・グレモリーの発言がそれを裏付けている。
封鎖領域は、結界で包んだ現実世界の位相をずらし、対象を取り込む魔法だ。
予めステージを設定しなければいけないのならば、シミュレーターに近いのかもしれない。悪魔の技術力も侮れない。
『今回の「レーティングゲーム」は両家の皆様も中継で今回のゲームの戦闘をご覧になります。更に、魔王ルシファー様も今回のゲームを拝見されております』
魔王が来ると聞いた兵藤一誠は、驚いていた。
しかも、現魔王がリアス・グレモリーの兄だと聞くと、さらに驚いていた。
原作知識通りの展開であり、面識もあるボクも、一応形だけは驚いて見せた。
はぐれ悪魔に両親が殺害された一件以来、彼にはお世話になっている。
力ある純血悪魔は、人間を見下す傾向が強い――にも関わらず、いろいろと便宜を図ってもらえた。さすが、情に厚いリアス・グレモリーの兄といったところだろうか。
明らかに異質な神器である『夜天の書』(そもそも神器ではないのだから当たり前だ)を所有しているボクを、守ってくれたのも彼だ。
全てが善意ではないだろうが、悪意――利用しようと、あるいは危険だから殺害しようとする連中はいただろう――から身を守ってもらえた。
(感謝をして当然だし、信頼もしていてもいいはずだが、なかなか素直に態度で表せない。ボクは捻くれているな。これが、「ツンデレ」というやつだろうか)
当初の約束通り、グレモリー家からの依頼は、少なくない数を引き受けていた。
受ける依頼の大抵は、はぐれ悪魔退治だ。憂さ晴らしができて、実戦経験も積める、おいしい仕事だった。
(いや、変だな。ボクは、捻くれてはいるが、礼儀を忘れるほどじゃないはずだ。生理的な嫌悪感とでもいうべきか。反抗期、か?リインフォースにもいわれたが、憎悪、か)
ボクが中学に入学する前までは、生活から護衛まで、守護騎士たちは必ず傍にいてくれた――実は、小学校と中学校は、ヴィータと一緒に通学し、同級生として仲良く学校生活を楽しんでいた。
守護騎士たちが、朝から晩まで傍にいたおかげで、ボクは寂しい思いをせずに済んだ。
(――どうした?はやて)
(ん?昔を思い出していてね。高校生になってから、ヴィータ姉と一緒に過ごせなくて少しさみしいなあ、と)
(うれしいことを言ってくれるじゃねえか)
高校進学と同時に、彼女と通学できなくなった。
その理由は――身体にある。
(ヴィータ姉は、成長しないからなあ。成長しないヴィータ姉は、一部で大人気だったっけ)
(うるせえよ。あたしに嫌なことを思い出させるな。はやても変身魔法を解けばおなじだろうが)
ボクは、いまとおなじように常に変身魔法をつかっていた。
彼女も、変身魔法をつかえるが、常時展開することはできない。
向き不向きもあるが、常に人間(しかも成長した姿)に変身するためには、膨大な魔力と緻密な術式、それを運用する技術が必要だ。
いまでこそ、楽に大人モードでいられるが、必要に迫られ、最優先で努力した成果である。
(はやてちゃんは、必死に努力したものね。実際、高度な変身魔法を維持し続ける技術は、驚異的よ?)
(主はやては、努力家だからな。ヴィータも練習はしていたが、長時間の維持は難しかったようだ)
ある程度、ボクが身を守る術を会得し、社会的にも自由な行動が許されるようになってからは、家族と共に積極的に仕事をしていた。
単に依頼を受けるだけではなく、こちらからも、協力を積極的に申し込みもした。
(はやてが異常なんだよ。常に、変身魔法の維持に意識を振り分けながら、生活するんだ。あたしには無理だった)
(日常生活をしながら集中力を維持するためには、何事にも動じない精神が必要だ。主は、鋼の精神をお持ちでいらっしゃる)
シャマルが臨時保険医だったり、シグナムが臨時剣道顧問だったりするのは、その一環である。
駒王学園を職場に指定したのは、原作の舞台でとなることを「知っている」ためだ――ボクの護衛が表向きの理由だが、間違ってはいない。
(ボクが「鉄の女」とでもいいたいのかい、ザフィーラ?)
(いえ、そのような意味では断じて――)
わんこモードではないザフィーラをからかう。
合宿のときからザフィーラは人型でいることが多い。
いつもわんこモードで自宅警備にいそしむ彼が、立派になりやがって。
戸籍や金銭といった面で支援を受ける以上、必要以上に借りを作りたくなかったことが、協力を申し出た大きな理由だ。
ボク自身、どこかの勢力に肩入れするつもりはない。
マルチタスクで、家族とのコミュニケーションをしつつも、辺りに意識を巡らす。
魔王の妹が参戦するだけあって、このレーティングゲームは注目の的らしい。
大勢の悪魔たち――おそらくは上級悪魔だろう――が、観戦に来ていた。
「さて、事前の取り決め通りいくわよ」
「はい、部長。では、二手に分かれましょう。よろしくお願いします、シグナムさん」
「ああ。木場祐斗もよろしく頼む」
リアス・グレモリーが、指揮官として、作戦の確認を行う。
堂々とした振る舞いは、非常に様になっている。
生まれ持ったカリスマと、たゆまぬ研鑽は、彼女に王者の風格を漂わせる。
シグナムと木場悠斗が口を交わす。
お互い剣士なので、同じチームになっている。
「怪我をしたら、わたしに言って頂戴ね?」
「わ、わたしも『聖女の微笑』で治療します。遠慮なく怪我していいですよ」
「いや、それはちょっと――」
シャマルとアーシア・アルジェントは、頼れる回復役である。
アーシア・アルジェントの天然な発言に兵藤一誠が苦笑する。
「よし、あたしたち行くぞッ!」
「久々の実戦だな。塔城子猫も、油断しないように」
「ヴィータさん、ザフィーラさん。部長と八神先輩のために。いっしょに頑張りましょう」
「もちろんだ。はやてに手を出す奴は、アイゼンで潰してやる」
口々に気炎を上げるのは、ヴィータチーム。
人数に余裕ができたグレモリー陣営だが、原作通り、二方向から攻めることになっている。
つまり、本陣と合わせて、3チームに分かれるわけだ。
攻め手の内訳は、木場祐斗、シグナム、シャマルチーム。塔城子猫、ヴィータ、ザフィーラチーム。となっている。
残る本陣に詰めるのは、『王』(キング)であるリアス・グレモリー、姫島朱乃、アーシア・アルジェント、リインフォース。そして――
「リインフォース。主はやての身を頼んだ」
「必ずマスターのことは、守って見せます。烈火の将たちも油断しないように」
「当然だろ。はやてを焼き鳥野郎に渡してたまるかよ」
ボクの身を案じるヴォルケンズたち。
グレモリー眷属たちも、本陣に残る人物に声をかける。
「兵藤くん。部長のこと、僕たちの分まで守ってくれ」
「任せておけ。お前たちも、急がないと。大勝首を俺が取るかもしれないぜ?」
「ずいぶんと大口を叩きますね――――兵藤先輩、期待しています」
――兵藤一誠、ボクの5人である。原作では、本陣に詰めていたのは、今のメンバーから、八神家、兵藤一誠を除くリアス・グレモリーたち3人だった。
切り札に近い赤龍帝の兵藤一誠を、なぜ本陣に置いたのか。それは――
「兵藤くん、ボクたちの役割は、わかっているね」
「もちろん。『予備戦力』として、本陣に待機するんだな?」
――予備戦力とするためである。戦略予備、後詰とも呼ばれ、前線後方に待機する戦力のことだ。
ときに劣勢な味方の増援として派遣され、戦線の崩壊を防ぐ。ときに優勢な味方の増援として派遣され、敵陣を突破する。
ときに別動隊として敵を包囲する。ときに撤退時の殿として、敵の攻撃を防ぐ。などなど。
このように、予備戦力は、多様な使い道を誇る。前線に出ている部隊の交替要因と誤解されがちだが、決定的な場面を左右する重要な戦力なのだ。
予備戦力の運用をみれば、指揮官の能力が分かると言っても過言ではない。
人数に余力のない原作ならまだしも、現在は、予備戦力は重要な意味をもつ。
使いどころは、『王』で指揮官のリアス・グレモリー次第だ。
おそらくは、本陣の旧校舎にあるオカルト研究部に割り当てられた部室の護衛、と敵本陣の新校舎に ある生徒会室の強襲、に使われるだろうか。
それと、隠しているがもう一つ理由がある。
それは、リアス・グレモリーに投了をさせないためだ。
原作では、彼女は本陣でライザー・フェニックスと一対一で戦い敗れて、ゲームに負けた。
ボクとリインフォースは、おそらく襲来するであろうライザー・フェニックスとリアス・グレモリーが一対一になることを防ぐことを目的としているのだ。
それぞれが心中に思いを抱きながら、レーティングゲームの幕開けを待つのであった。
後書き
・ヴィータとは、小学校と中学校を通じてクラスメイトでした。戸籍その他は、グレモリー家の好意です。
・姉御肌な「ヴィータ姉」とボーイッシュな「お姉さま」のコンビは有名――っていう設定です。
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