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あかりの碁

作者:くるみ
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プロローグ
あかりvs水橋紫三段
  この子、本当に強いわ……

 
前書き
日刊ランキングを見たら、ふとオレンジ色に輝く「あかりの碁」の表示が。
なんかこの作品がランキング入りしてるんですけど!?

ポイント見たら意外と低かった。これでランク入るのね……。

さて。本日は水橋プロサイドです。 

 
「あれ、女の子?」

3日後の囲碁教室の打ち合わせをするために日本棋院に入ると、見慣れないと言うか
一見場違いな小学生っぽい女の子が一人で囲碁雑誌を読みながら放心していた。

こう言った女の子が囲碁に興味を持ってくれるのは本当にありがたい。
願わくばあたしと同じ舞台にまで上がって欲しいと思う。
けど、こんなところで、しかも親もいないのに何をやってるんだろう?

ちょっと気になったので、聞いてみることにした。

「ねえあなた、ここで何をしてるの? お父さん、お母さんは?」

「いえ、人を待ってるんです。 院生なんですけど」

「院生?」

兄か姉が院生なんだと思ったのだけど、
それにしてはその後の言葉が釈然としなかった。

「どうしても、今のうちに会いたくて」

そう。今のうちに。
兄や姉なら、毎日会えているから今のうちなんて言葉はできないはず。

「そう。会って…… 何をするの? まさか、囲碁とか?」

「……はい」

院生と、囲碁? この子が?
確かに囲碁雑誌を読んでるから、囲碁はできるんだろうけど……
一体なんで?

その意味は全くよくわからない。けど、確かなことは一つ。

「あなた、自分が強いって思ってる?」

「…………はい。」

院生と囲碁なんて考えができるくらいには、彼女は強い。
少なくとも、そう信じている。

「どのくらい?」

「はっきりとは言えないですけど」

彼女は口ではそう言った。
けど、答える時あたしに向けた双瞳ははっきりとした実力はわからないと答えるものではなく……

まるで、私はあなたよりも強いんだと言っているようだった。



そう思ったのは偶然だろうか。その実力は本当だろうか。
もし実力が本当だったら、彼女は塔矢アキラに並ぶ逸材になり得る。

囲碁は将棋と違って、女性が少ない世界。
その理由はいろいろあるけれど、男が土台を作り上げてしまって、
そこに女が入り込む余地がないからだと思ってる。

強い棋士と当たることができない。
いつの間にか強い棋士が男の世界を作り上げていて、入る余地がない。

入ろうとしたこともあった。 あたしが入って3ヶ月で見事瓦解した。
その時気づいたんだ。これが男のほうが強い理由なんだって。

今強い人は皆男で、そして彼らは女であるあたし達を一人の棋士として見てくれないんだ。
だから男女差が全然埋まらない。
何か解決策をと考えて、今まではずっともしアキラが女だったらと思っていた。
けど、もし彼女があたしより強いなら。


全て彼女に任せてしまえる。 もう何も心配しなくて済む。
つい、そんなことを思ってしまった。

だからだろうか。
彼女の実力を試す。それで心がいっぱいになってしまったのは。

「じゃあ、あたしが打ってあげる。それで実力を思い知ったら帰りなさい」

「は、はあ」

「ほら、行くわよ。院生に会いたいんでしょ?」



そう言って院生たちのいる部屋に行く。彼女を無理やり連れて。
そして部屋の開いた碁盤を無理やり占拠して彼女を座らせる。

「さー打ちますか。ハンデはいくつがいい?」

「うーん…… すみませんが、互先でいいですか?」

「そう。 わかったわ」

互先、か。 プロのあたし相手に、ね。
何を望んでいるのかは知らないけれど、期待させたぶんの力は見させてもらうわよ。

「いいわ。叩き潰してあげる。」







強かった。 圧倒的な強さ。……本気で打ってるのに。
弱かったら、60目くらい差をつけて終わらせてやろうと思ってたのに。

一手一秒もかけていない適当にしか見えない打ち筋なのに、ちっとも差がつかない。
むしろ差を付けられてるような感じさえする。

相手はこれまで3回ミスをしてる。でもどれも、最低限の損失で凌がれた。
それどころか、ミスだったはずの石の1つが今あたしを切り崩さんとしている。
普通ならそう言ったミスをしのぎきれないまま、あたしの勝ちという展開になるはず。

けど現実は、それらのミスのおかげで何とか戦えている状況ね。
もしあのミスがなかったら、とっくの間に投了……。

末恐ろしい。これが小学生の打ち筋なの?
まあ塔矢アキラとか、そう言う異常なのはいるけど。
そいつは、普通碁石なんてものを持たせようものなら喉に詰まらせそうな時期から
ずっと囲碁を習っていたからこそできるものであって。

まさか、目の前の彼女もそんな育ち方をしたのだろうか。
だとしたら、その親はどれだけ囲碁好きで、どれだけ偏屈な親なんだろう。
あたしなら、そんな親の娘になんかなりたくない。

……と言うかそろそろ終局が見えるわね。冷静になれ、あたし。
しっかり考えろあたし。こんなに感情の起伏が大きいと勝てる戦いも勝てなくなるわ。

と言うか……ああ、もう終わってるわこれ。
このまま行けば黒56目、白55目半。あたしの半目負けじゃん。
これまでミスをいくつかしているあの子が寄せでミスすればあたしの勝ち。
だからまだ可能性はあるけど、小学生の相手のミスを待ってつけ込むとかプロのやることじゃないよね……。


それに、もう目的は達している。 認めるしかない。
彼女こそ私達を、女流棋士を救う逸材になりえる、最高の原石だと。
そう思ってたら。

「負けました。ありがとうございました。」

なんとあの子の方から、投了してきた。 
 

 
後書き
原作におけるこの時代では現実と違い、女流棋士特別枠がありません。
それで勝ち上がってきたと言うことは、入る時は男女関係なく強いはず。
しかし以下の状況から、現実的には棋力は男性より下になる傾向にあると予想しています。

0:そもそも女性のプロがあまりいない。
1:解説役としての需要が多いため必然的にそちらの出番が多くなる。
2:必然的に対局できる機会が減る。
3:その間に男性陣はいろいろ対局して強くなる。
4:気がついたら置いていかれる。

4になる頃には男どもは結婚相手として見るようになります。
この時代は、まだ引退して専業主婦になってよみたいな雰囲気残ってますからね。

そう。彼女が抱いている悩みの本当の原因は、女性が働いて収入を得るというイメージが
あまり成立していないことです。 
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