魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos13さぁ踊れ踊れ、舞台はかの者の手の平の上~Begegnung~
前書き
Begegnung/ベゲーグヌング/出会い
†††Sideなのは†††
日曜日の今日、私はある目的の為にすずかちゃんのお家へとやって来た。ファリンさんの案内ですずかちゃんのお部屋に通されると、そこにはすでにアリサちゃんが居た。
「すずかちゃん、アリサちゃん、おはよー♪」
「なのはちゃん、おはよう♪」
「おはよう、なのは♪」
挨拶を交わしてすぐ、アリサちゃんが「ちゃんと忘れずに持ってきた、なのは?」って確認してきた。
「忘れないよ~。ほら~」
私、そこまで忘れっぽくないよ。背負ってたカバンを降ろして、その中からデータディスクを1枚取り出す。ケースにはフェイトちゃんの名前がフルで書かれてて、ディスク表面にはフェイトちゃん、シャルちゃん、アルフさん、そしてアリシアちゃんの顔写真が映ってるシールが張られてる。そのディスクをアリサちゃんに見せると、「よしっ。えらいぞ、なのは」なんて思いっきり子ども扱い(まぁ子供だけど)してきた。私たち同い年だよ!
「フェイトちゃん達とのビデオレターも、もう半年くらいになるよね」
「そうね」
「うん」
お互いの近況をビデオに撮ってディスクに焼いて、それを管理局の助力で送り合う。そのおかげでフェイトちゃん達と逢えない時間を寂しく過ごさずに済んだ。日に日にフェイトちゃんが明るくなっていくのを、私たちは嬉しく見守れた。
思い出話に花を咲かせていると、ファリンさんがティーポットとティーカップ3セット、クッキーの乗ったトレイを持って来てくれた。それにお礼を言って、美味しくお茶とクッキーを頂く。すずかちゃんはファリンさんを下がらせてから(魔法関係の話が入るから)、フェイトちゃん達からのビデオレターを早速再生。黒い画面が最初に入って・・・。
『・・・ねぇ、ちゃんと映ってる~?』
「「「ぶふぅーっ?」」」
いきなり映り込んだ大きくて真ん丸な紅い瞳に私たちは驚いて、飲んでいたお茶を霧吹きみたいに噴いちゃった。
『ちゃんと映ってるから、離れてアリシア。なのは達がビックリしちゃう』
フェイトちゃんの声が聞こえたと思ったら『は~い!』画面いっぱいに映り込んでた綺麗な瞳が離れてく。でもねフェイトちゃん、もう手遅れだよ、お茶噴いちゃったよ私たち。そして私たちにお茶を噴かせた原因、アリシアちゃんの全身が映った。奥にはフェイトちゃんとアルフさんが居て、アリシアちゃんの今の行動にちょっと困惑気味。
「アリシアも無事に目を覚まして良かったわよね」
「うん。はじめてフェイトちゃんからアリシアちゃんを紹介された時は驚いたけど」
「にゃはは。テンションがすごく高かったもんね~」
3人で零れたお茶を拭きながら当時を思い返す。離れ離れになってるフェイトちゃん達とのコミュニケーション方法としてリンディさんが考えてくれたビデオレターのやり取り、その最初のビデオレターで私たちはアリシアちゃんと会った。
◦―◦―◦回想だよ♪◦―◦―◦
半日授業だった学校から帰ってすぐ、ポストに大きな包みが入っているのを見つけた。ポストから出して包みを眺める。と、差出人の名前を見つけたから声に出して読んだ。
「わ、英語?だ。えっと・・・Fate Testarossa・・フェ・・イト・・テスタ・・ロッサ・・・? フェイトちゃん!?」
なんとビックリ、フェイトちゃんの名前が記されてた。急いで玄関の鍵を開けて自分の部屋に戻る。鞄をベッドに放って包みの封を切って中身を確認する。出て来たのはDVDケースが1枚。それと折り畳まれてる手紙が1通。
拙い漢字とひらがなで、高町なのは様へ、って書かれてた。手紙を開ける。出だしは、全略。たぶん前略って書きたかったんだと思う。フェイトちゃんは頑張って日本語を勉強してくれたんだろうなぁって、微笑ましくなっちゃった。
――なのは、元気? アリサもすずかも元気にしてるかな。私、フェイトは、管理局のみんなのおかげで元気です。こうして手紙を差し上げたのは、同封しておいたデータディスクの事について伝えておきたかったから――
同封されたDVDはビデオレターとのことだった。自分たちの近況を私やアリサちゃん、すずかちゃんに知らせる為に作ってくれたって。それはすごく嬉しいことで。あと、魔法関連のお話も入っちゃうから、観る時は気を付けてって注意書きも。
――でね。なのは達もお返事をくれたら嬉しいなって。宛先は要らなくて、シャルの知人が取りに行ってくれるって言うから、時間や置き場所を指定してくれたらいいよ。それじゃあ、続きはビデオレターで。早々――
「フェイトちゃん・・・。うん、必ずお返事のビデオレター、送るよ!」
そうと決まれば早速アリサちゃんとすずかちゃんに教えないと。うわぁ、なんかテンションが上がり過ぎて手が震えちゃう。
「フェイトちゃんからビデオレターが届いたから、一緒に観ようね・・・っと」
携帯電話からメールを一斉送信。するとすぐに2人から返信が来た。内容はフェイトちゃんからビデオレターが届いたことへの驚き、そして今すぐ私の家に来てくれるとのこと。それからしばらく。早く観たい気持ちに駆られてソワソワしてる時、呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃい、アリサちゃん、すずかちゃん!」
「お邪魔します、なのはちゃん」
「で、どれよ、フェイトからのビデオレターって。早く観ましょ!」
う~ん、すずかちゃんは挨拶を返してくれたのに、アリサちゃんはスタスタと家の中に入って行っちゃう。同じお嬢様なのに、どうしてこう違うんだろう。とりあえず私の家に来てくれたアリサちゃんとすずかちゃんをテレビのあるリビングに招く。そして私は「コレだよ、フェイトちゃんから送られてきたDVDと手紙」2人にDVDと手紙を見せる。
2人に手紙を渡して、私はDVDをプレーヤーにセット。今日は夕方まで1人でお留守番ということで、気兼ねなく下のテレビで観ることが出来る。お茶とお菓子を用意して、「それじゃあ、スタート♪」リモコンの再生ボタンをポチっと押す。最初は黒い画面一色。でもすぐに変化が。
『ア~スラ~~通~信っ!! 遠く離れた友達を想って始まる乙女たちの近況報告、アースラ通信! その第1回! 提供は時空管理局・本局所属、アースラ!』
「「シャルちゃん・・・」」「シャル・・・」
シャルちゃんによるナレーションが始まったかと思えば黒い画面に流れ星がキラキラ流れて、時空管理局のエンブレムが奥からフェードイン、そしてデフォルメされたフェイトちゃん、アルフさん、シャルちゃんの似顔絵が現れた。
「無駄に凝ってるわね」
「そ、そうだね」
「シャルちゃんも元気そうで何よりだよ」
シャルちゃんの破天荒さは相変わらず、ということみたい。画面がパっと変わる。どこかの白いお部屋。そして・・・
「「フェイトちゃん!」」「フェイト!」
ベッドに腰掛けているフェイトちゃんが映った。フェイトちゃん、私があげたリボンをしてくれてる。それだけでもう涙が出そうだったけど、なんとか耐えた。遅れて『うん、カメラの位置はこんなもんだね』アルフさんの声が画面外から聞こえたら、アルフさんも画面端から姿を見せて、フェイトちゃんの座るベッドに向かって行った。
『えっと・・・久しぶり、こんにちは、なのは、アリサ、すずか。フェイトです』
『アルフだよ。久しぶりだね』
フェイトちゃんとアルフさんがこれまでのことを話してくれた。アースラのみんなには優しくしてもらってること、シャルちゃんやクロノ君と模擬戦をしてまだ1度も勝ててないこと、本局と言うのはどんな場所か、裁判で有利になる資格を取るために勉強を始めたこと、空き時間があると暇で手持無沙汰になること。全てが新鮮で、楽しいって笑うフェイトちゃん。
本当だったらユーノ君、シャルちゃんやクロノ君たちも今回のビデオレターに登場する予定だったけど、ユーノ君はミッドチルダに降りていて、シャルちゃんとクロノ君は仕事で居ないということで断念したそう。ちょっと残念。
『――あと、本局に来るまでに、大事件って言っていいのかな?があったんだけど・・・』
『大事件と言えば大事件だね』
フェイトちゃんとアルフさんが画面の端、どこかに視線を送った。そしてフェイトちゃんがそっちに向かって手招きしたら、『やっと~? 遅~い』女の子の声が聞こえてきた。
聞き覚えの無い声だ。
『フェイト、アルフ。早くわたしを紹介してよ』
『あ、うん。なのは、アリサ、すずか。紹介するね。私のお姉ちゃんの・・・』
『どうも~、アリシア・テスタロッサで~す♪ 妹のフェイトがお世話になりました!』
「「「っ!!?」」」
画面端から出て来たのはフェイトちゃん・・・じゃなくてアリシアさん?(それともアリシアちゃん?)だった。フェイトちゃんを幼くした見た目だけど、表情や纏ってる雰囲気はとびっきり明るいものだ。ぴょこんとフェイトちゃんの隣に座って、私たちに満面の笑みを向けてくれている。
アリシアさんに腕に抱きつかれながらフェイトちゃんは、アリシアさんの目覚めの時のことも話してくれた。驚くべきことに、アリシアさんは亡くなってから蘇るまでの20数年の記憶があるとのこと。でもそのおかげで、フェイトちゃんと不仲にならず、ああして仲良し姉妹になったよう。うん、これはきっと喜ぶべきことだ。
◦―◦―◦回想終わりです♪◦―◦―◦
終始アリシアちゃんのターンだったっけ、あの後は。でもフェイトちゃんの笑顔をたくさん見ることが出来て良かったって思う。
『アリサ、すずか。2人が送ってくれた映画ディスクと本、ありがとう♪ アリサの送ってくれたホラームービー。フェイトやアルフ、シャル達と一緒に観たよ。ゾンビとか、初めて見たからドキドキハラハラしちゃった♪』
『うん。・・・すずか。すずかが貸してくれた冒険小説、すごく面白くて一気に読破しちゃった』
フェイトちゃんとアリシアちゃんは、アリサちゃんとすずかちゃんがビデオレターの返事と一緒に送ったDVDと小説に満足してるみたい。2人の感想を聞いたアリサちゃん達はとても嬉しそう。私が送ったものと言えば返事のビデオレター、写真や遊びに出かけた時の動画くらい。それの感想は貰えるのかなぁ?
『なのはの写真や動画、どれも素敵だった。ハロウィンだっけ? そっちの世界は楽しいイベントがあるんだね』
『トリック・オア・トリート~♪ お菓子を貰いに変装して友達でお出かけって良いなぁ。わたしも、いつかやってみたい♪』
フェイトちゃんとアリシアちゃんにも大好評だったようで、私としても嬉しい。2人から私たちの送った物への感想を聞き終えた頃、フェイトちゃんが何かそわそわしだした。
『・・・なのは、アリサ、すずか。・・・私、リンディ艦長たちのおかげで無罪になったんだ』
「「「え・・・」」」
フェイトちゃんから聞かされた、たった2文字の言葉、無罪。私たちはあまりにあっさり聞かされてボーっとしちゃったけど、すぐに頭の中に浸透して「やったぁぁぁ!!」私たちは抱き合ってフェイトちゃんの無罪を喜び合った。
シャルちゃんとクロノ君たちはちゃんと約束を果たしてくれたんだ。そんな2人に心からお礼を言いたい。と言うか今すぐ逢いたい。お礼をたくさんしたい。
そしてフェイトちゃんはこれから嘱託魔導師っていう形で働くことで、管理局――リンディさん達に恩返しをしたいってことも話してくれた。
『だからビデオレターはこれで終わりになると思う。それとね、もう1つお知らせがあるんだ。私とアリシアとアルフは、リンディ艦長たちより一足先にそっちに遊びに行けることになったよ。実は――』
フェイトちゃんの口から立て続けに嬉しいお知らせを聴くがことが出来た。リンディさん達が海鳴市は藤見町、つまり私の家の在る町に引っ越してくるんだって。引っ越し先の住所を聴けば、私の家から歩いて15分くらいのところにあるマンション。
ここでもう私たちのテンションは最高潮。一時停止してからお引っ越し祝いのパーティをアリサちゃん家かすずかちゃん家で盛大に開こうとか、翠屋を貸し切っての普通のパーティにしようとか、話し合う。
「――ま、今回はなのはの案で行きましょ。いきなし盛大なパーティを開いて逆に引かせるのもなんか嫌だし」
「確かにそうかも・・・」
「うん、うん。何事もやり過ぎはダメってことだよ」
そういう感じでお引っ越し祝いのパーティは、翠屋でやることに決定・・・って確約できないけど。あとでお父さんとお母さんに相談してみなきゃ。
「じゃ、続きを観ましょ。いつ来るか、まだ聞いてないし」
アリサちゃんに先を促されて、再生ボタンを押す。
『えっと、そっちに行く予定日なんだけど、12月の2日になると思う』
「「「明日!!?」」」
あまりにも急な来訪にビックリ。あー、翠屋の貸し切りはたぶん無理っぽい。最低でも1週間前じゃないと。
『それでね。良かったらなんだけど、私たちがお別れした場所――あの公園の、あの場所で待ち合わせしたい、って思ってるんだけど・・・』
『わたしも魂状態でフェイトとなのはの決闘や、送ってもらった写真で観たけど、綺麗な場所だよね。シャルが教えてくれたけど、そっちの12月2日は休日だって話だし、迎えに来てほしいかも♪ ううん、来てね!』
『アリシア。なのは達も予定があるかもしれないから無理強いはダメだよ。でも・・・うん、来てくれると嬉しいな』
『友達、ううん、親友なら遠慮してちゃダメだよ、フェイト』
『でも・・・うぅ・・・』
悩むフェイトちゃんが、ちょっと可愛いって思っちゃう。
「アリサちゃん、すずかちゃん」
「当然っ」
「迎えに行くよ」
「だね♪」
そう頷き合う。アリシアちゃんの言う通りだ。親友に遠慮は無用。もし予定があったとしても、フェイトちゃん達の為なら時間をずらすとか、キャンセルだってする。それくらい大切な友達なんだもん。それから到着予定時刻、午前8時から9時までの間だっていうことも確認して、ビデオレターは終わった。プレーヤーからDVDを取り出してケースにしまう。あとで私の部屋、宝物容れにしまっておかないと。
†††Sideなのは⇒イリス†††
「フェイト、アリシア、アルフ。もう準備できた?」
これから海鳴市へ旅立つ先発隊、フェイト達の部屋に訪れた。3人は準備万端とでも言うようにトロリーバッグの取っ手を手に部屋の中央に立ってた。
「うん」「はーい!」
「忘れ物も無しっと」
フェイトは小さく頷いて、アリシアは元気よく手を挙げて返事。やっぱり子供だよ、31歳でも。アルフは部屋中を見渡して確認。つうかさ、「なんでわたしは置いてけぼりなのぉぉぉ!?」だよホント。
「ごめんね、シャル」
「シャルの分までなのは達と楽しくお喋りして来るよ♪」
「くっ、おのれ・・・アリシア」
わたしが行けないからってそんな挑発めいたことを言うなんて。ギリギリ歯軋りしたいのを耐えて、「うん、なのは達によろしくぅぅ」笑みを浮かべる。
「じ、じゃあ、シャル。・・・お世話になりました」
「なりました~♪」
「っ・・・うん。楽しかったよ、この半年。いってらっしゃい」
「「いってきます!」」「行ってくるよ」
半年と少し、居住地としていたアースラで寝食を共にしたフェイト達が今日、アースラを出て行く。とは言ってもフェイトは嘱託としてこれからも管理局に勤務するから、配属希望によってはまたアルフと一緒に乗艦するだろうけど。でもアリシアは管理局に入るかどうか判らないから、これで最後かもね。
本局のトランスポーターを利用するために下艦するフェイト達を見送る。これから自分の部屋で仕事が無ければ最後までついて行って見送るんだけどな~。それはエイミィに任せよう。
「まったく。ロストロギアを管理局施設から盗むなんて面倒を起こしてくれちゃってさ」
自室に戻って、執務部に籍を置く全執務官・補佐官に回されてきた情報に目を通す。読めば読むほど憂鬱になる。第一級秘匿指定ロストロギア、運命を捻じ曲げ征服する者。出自不明の最恐最悪のロストロギアって認定される両刃剣だ。
名前の通り運命の征服者っていう言う意味を持つ、通称征服剣。何十何百って言う人の命――運命を吸収し、持ち主の運命を好き勝手操ることが出来る。特に高魔力持ちの人の命を奪うといいらしい。その征服剣をようやく機動一課が発見、回収。施設へ移送し終えた直後を狙われて強奪された。
「この強奪犯たちも、パラディース・ヴェヒターが潰してくれないかなぁ~」
先日、何百人っていう犯罪者が一斉検挙された。デスペラードパーティなんていう魔導犯罪者の祭典に参加していた連中だ。それにパラディース・ヴェヒターが参加し、犯罪者たちを狩りに狩ったっていう。それに乗じて成功した今回の検挙。けど突入前に内乱の如く犯罪者たちが争っていて、死亡者も多数出ている。
死亡者リストの中には管理世界の政治家や軍部関係者も居たそう。その政治家や軍人とかっていう連中は、お金や権力で自分の罪をもみ消していた常習犯。殺されたって言うのも自業自得、罰が当たったんだ。トントンと机を指で叩きながら強奪犯、そしてデスペラードパーティの参加者だった連中の簡略リストを眺める。
「ロウダウナー・・・。レインジャー、サーベイヤー、マゼラン、メイヴン、ドーン。以上5名からなるフリーランス魔導師。犯罪歴無しってことで厳重注意の後に解放。その結果がこれって・・・」
やるせないものよね~。もしコイツらに犯罪歴があれば、きっとパラディース・ヴェヒターに潰されていたでしょうに。そんなIFを考えながら、連中の足取りの調査資料に目を通す。と、そんなところにPiPiPi♪と呼び出しコールが鳴った。「はい」って出ると、少し焦ったような顔をしたクロノがモニターに映った。
『イリス、まずいことが判明した! 例の征服剣の強奪犯たち、ロウダウナーの向かっているであろう世界が判明した!』
「どこ!?」
『・・・第97管理外世界・・・! なのは達が居る、そして今、フェイト達が向かっている世界だ!』
「っ!・・・よりによって管理外世界で殺人を行おうって言うのロウダウナー!!」
怒りに駆られてデスクに拳を振り下ろす。偶然連中が海鳴市に転移して、最悪なのは達の魔力反応を察知、そして遭遇でもしたら・・・絶対に戦闘になる。慌てて椅子から立ち上って部屋を出る。クロノの映るモニターが追ってくるから、「行かせて、クロノ!」アースラの通路を走りながら懇願する。
『僕もすでに申請中だ! とにかく今はトランスポーターで合流だ! 出撃許可が下りていつでも転移できるように!』
「了解!」
クロノとの通信が切れる。そしてわたしはひたすら走る。アースラを出、艦船ドックの通路を駆け、本局の廊下をダッシュ。トランスポーターまであと少しと言うところで、クロノから通信が入った。
『イリス! 僕と君に出撃の許可が降りた! トランスポーターに付き次第、すぐに第97管理外世界に発つ!』
「了解!」
わたしのデバイスである“キルシュブリューテ”の待機形態、首から提げてる指環の首飾りを手に取る。
(お願いだから下手に首を突っ込まないでよ、みんな!)
ロウダウナー5人の魔導師としてのレベルは高い。だけどPT事件を、そしてあのテスタメントとの戦いを切り抜けたなのは達なら何とかなりそう。でもだからと言って危ない目に自ら遭いに行ってほしくない。だから本気で願うよ。なのは、アリサ、すずか、そしてフェイトにアルフ、アリシア。変な気だけは起こさないで。
†††Sideイリス⇒フェイト†††
管理局施設のトランスポーターを乗り継ぐ中、「みんな・・・」色んな感情で心臓がドキドキ。なのは、アリサ、すずかと再会できることでドキドキ。そして待ち合わせのあの場所に来てくれているかでドキドキ。
こちらからの一方的なお願いだし、なのは達の世界が休日だと言っても何か予定があるかもだし。このハッキリしない感じの所為でちょっと不安。次の転送で海鳴市に着くってことみたいだから、ドキドキは最高潮。転送するときに生まれる光が私たちを包み込む。次に視界が開けた時、そこはなのは達の住む世界だ。
(・・・っ、潮の香り、優しい海風・・・!)
足から伝わる地面の感触、肌を撫でるちょっと冷たい海風、頭上から降り注ぐ陽の光。着いた、私が始まりを見つけることの出来た大切な場所に。
「「フェイトちゃん!」」「フェイト!」
「っ!」
耳に届く、私の大切な友達の声。キョロキョロと見回す。
「なのは、アリサ、すずか・・・!」
3人が私たちの所に駆けて来る。待っていてくれた。嬉しすぎて鼻の奥がツンとする。と、背中をトンと押された。振り向けばアルフとアリシアが笑みを浮かべていて。私は「ありがとう2人とも」お礼を言ってなのは達に向かって駆ける。そして4人で抱き合って再会を喜び合う。
「ありがとう、なのは、アリサ、すずか。来てくれて嬉しい!」
「当たり前だよ、大切な友達が来るって言うんだもん!」
「うんっ。ビデオレターが届いた日から待ち遠しくかったよ!・・・昨日だったけど」
「まったく。そんななのはとすずかのおかげで、あたしはちょっと寝不足よ。でもま、あたしも待ち望んでたわ、フェイトと逢える今日を」
体を離して今度は4人で両手を取り合う。
「「おかえり、フェイトちゃん」」「おかえり、フェイト」
「ただいま。・・・なのは、アリサ、すずか・・・ただいま!」
私は帰って来たんだ。みんなと触れ合えて、声を聴いて、言葉を交わして、改めて実感する。
「アルフさんも久しぶり!」
「ああ、久しぶりだね。元気そうで何よりだよ。ま、あたしよりは、こっちに気を掛けてやってくれ」
なのはに挨拶を返したアルフがアリシアの背中を押して前に出した。
「コホン。こうして直接会うのは初めてだから・・・はじめまして、アリシア・テスタロッサです♪」
アリシアが浮かべたとびっきりの笑顔に、「か、可愛い♪」なのはとすずかは惚けて、アリサも「これは・・・」なんて言って何か考え込み始めた。アリシアの笑顔って、なんていうか人を魅了する力を持っているんだ。
シャルもリンディ提督もエイミィ、あのクロノだって魅了されちゃったし。同じ女の子でも魅了されちゃうんだからしょうがないと思う。クロノの場合はシャルにロリコンや変態呼ばわりされたけど。なのは達がアリシアと挨拶を交わしているのを眺めながら、シャルに変態呼ばわりされてショックを受けていたクロノを思い返す。と、そんな時。
≪スズカ、付近に転移反応ですわ!≫
すずかのデバイス、“スノーホワイト”がそう告げた直後、私たちの居る場所より10数mと離れた宙に男の人が2人、女の人が1人と転移してきた。私たちはその人たちを警戒して距離を取るべく後退、近くの茂みに身を隠す。
『なんなのよ、あの人たち。フェイト達の知り合い?』
『ううん、違う。見たことない』
『うん。たぶん管理局員でもない。局の制服じゃないし、武装隊のバリアジャケットでもない』
その人オリジナルのバリアジャケット(クロノやシャルの騎士甲冑みたいな)の可能性もあるけど、私たちの他にこの世界に転移する局員が居るって聞いてない。
「クソっ! よりによってこんな辺境のど田舎世界に逃げる羽目になっちまうなんて!」
「それよりサーベイヤーとドーンはどうした!? まさかはぐれたのか!?」
「ちょっとうるさい! あの2人なら追手からちゃんと逃げられるでしょ! それより私たちのこれからの心配をしなさいよ!」
「ふざけんなっ、征服剣はドーンが持っているんだぞ!」
何かあったのか騒いでいる。会話からして関わり合ったらいけない人たちだってすぐに理解できた。でも、嘱託とは言え私は管理局員。アルフに『事情聴取するよ』って念話を送ると、アルフは『あいよ』って頷いてくれた。
『なのは達は離れてて。私とアルフで声を掛けてみる』
『フェイトちゃん!? じゃ、じゃあ私たちも!』
『ううん。これは私の、管理局員としての仕事だか――』
そこまで言いかけたところで“スノーホワイト”が≪新たに3つの転移反応ですわ!≫って知らせてくれた。と、ゾワッと背筋を走る悪寒。なのは達もそうみたいで体を震わせていた。何か、何かまずいのが来る。
≪来ますわ!≫
その一言の直後、さっき現れた3人とは別の3人が転移してきた。その3人には見覚えがあった。以前シャルに見せてもらったデータで見たことがある。
「「パラディース・ヴェヒター・・・!」」
私とアリシアの声が重なる。なのは達にそれが何かを訊かれ、私は答えた。魔法を使って悪事を働く犯罪者を倒すベルカ式の騎士で、その行為から被害者たちには英雄視されて、犯罪者たちからは恐れられているって。
いま姿を見せているのは確か、チーターの頭はランサー、ライオンの頭はセイバー、ウサギの頭はバスター。パラディース・ヴェヒターの中でも戦闘に特化した騎士って聞いてる。
「管理局施設からロストロギアを強奪」
「そん時に局員、研究者、民間人へ魔法攻撃を仕掛けた」
「死者は出なかったが重傷者は出た」
「「「ヒッ・・・!」」」
強奪犯だって言う3人に向けられたのは、離れた私たちですらビリビリと感じるほどの敵意。直接向けられているあの3人がどんなふうに感じているのか想像もしたくない。
「デスペラードパーティん時。あたしらはあえてテメェらを潰さなかった。何でだか解るか? テメェらのその魔法の才を潰したくなかったからだ。なのに!!」
――テートリヒ・シュラーク――
私たちよりもさらに小さい、赤い服に身を包んだ女の子バスターが、携えていた鉄槌で1人の男の人を殴打。その人はものすごい勢いで地面に叩き付けられて動かなくなった。他の2人はそれを見て「ごめんなさい!」って泣きながら謝ったけど、でも・・・。
「残念だよ、ロウダウナー。お前たちの未来を潰すことになって」
――集い纏え、汝の雷撃槍――
「一時の過ちだと見過ごすわけにはいかんのだ、お前たちの行った所業は・・・!」
――紫電一閃――
ランサーとセイバーのデバイスがシャルやアリサのデバイスと同じようにカートリッジをロード。ランサーの槍には雷が、セイバーの剣には炎が付加された。そしてランサーとセイバーは問答無用で強奪犯の残り2人を斬り伏せた。
「は、犯罪者だからって容赦が無さすぎない・・・?」
「あの人たち、ちゃんと謝っていたのに・・・」
「確かに悪いことをしたかもしれないけど。・・・お話しで終われなかったのかな・・・」
アリサとすずか、なのはがランサー達の行いにちょっとばかり非難した。でもここからがあの騎士たちの本当の狙いなんだ。騎士たちは地面に倒れ伏して苦痛に呻いている3人の胸に手を突き入れた。
「「「えっ・・・!?」」」
その光景に目を見開くなのは達。実際にその行為を見る私とアリシア、アルフも驚かざるを得なかった。騎士たちは勢いよく手を抜く。
「「「ぎゃぁぁぁあああああああ!!」」」
そして私たちは見た。騎士たちの手に収まっているリンカーコアを。
「ちょっ、あんた達なにやってんのよ!!」
「アリサ!?」「「アリサちゃん!?」」
ここであまり良くない事態が。騎士たちがリンカーコアを抜き取ったその行いを見たアリサが怒りを爆発させて、騎士たちに向かって怒鳴った。しかもズンズン向かおうとしているし。私たちはそんなアリサを止めるために姿を現す。
私たちに騎士たちが目を(つぶらな目だから怖くはないけど)向けて来た。すると「あ? なんだテメェら。つうか、一般人に見られた!?」バスターが慌て始めた。
「あんた達が英雄かは知らないけど、こっちにはフェイトっていう管――」
「フェイト?・・・フェイト・テスタロッサ?」
「え?」
ランサーに私の名前を呼ばれた。顔見知りでもないのに。改めて「相違ないな?」って訊かれたから、「はい、そうです」って答えた。
――あなたに沈黙の贈り物を――
するとこの付近一帯に結界が張られたのが判った。一体どういうつもりなのかを問い質そうとして口を開いた・・・のはいいけど「っ・・・!?」どれだけ声を出そうとしても出せない。なのは達を見れば、なのは達も同じように口をパクパクさせているだけ。じゃあ念話なら。そう思って念話を通そうとしても繋がらない。
「フェイト・テスタロッサ。この世界で起きた事件の首謀者、プレシア・テスタロッサの娘」
「事件? この平和な世界で魔法関連の事件が起きていたのか?」
「ああ。ジュエルシードと言うロストロギアを巡っての、次元断層を起こしかねない争い。フェイト・テスタロッサ、そして隣の使い魔らしき女はその先兵らしい」
「次元断層!? そんなヤバいことを起こそうとしてんのか、アイツの母親は!」
バスターから敵意が向けられてくる。心臓が早鐘を打つ。もしかして完全に私は狩りの対象者になってしまった・・・? すぐにでも誤解を解きたい。事件はもう終わって、母さんは亡くなって、私は裁判を経て無罪になったってことを。だけど出来ない。声や念話が封じられている今は。
「ガキのクセしてなんて危ねぇことしやがる!」
ガキって。どう見てもそっちの方が子供だと思う。
「ランサー。どうする?」
「次元断層発生未遂、次元震発生。許し難し。プレシア・テスタロッサの所在を問う前に、罰を与えよう」
まずい、完全に敵対するつもりだ。騎士たちはそれぞれデバイスを構えて、私たちに向かって走って来た。誤解なんかで戦いたくない。でも戦わないと、あの人たちのようにリンカーコアを奪われる。だったら。私はバリアジャケットに変身。迎撃の用意をする。と、なのは達も変身してくれた。
「すまんな。罪には相応の罰を、なのだ」
――紫電一閃――
≪来なっ、同じ炎熱変換持ちの勘違い女!≫
――ラウンドシールド――
「デカい魔力持ちっていうのがあたしらにとっちゃ嬉しいよな! ガキだからって犯罪者、その仲間にゃ手加減はしねぇぞ!」
――テートリヒ・シュラーク――
≪Protection !≫
――プロテクション――
「ついでにジュエルシードの在処も教えてもらおうか」
――集い纏え、汝の閃光槍――
≪スズカに触れないでくださいまし!≫
――アイスミラー――
私とアルフが動く前になのは達が騎士たちの攻撃を防いだ。守ってくれたんだ。でもダメだった。セイバーの炎の斬撃はアリサのシールドを斬り裂いて、ランサーの光の刺突はすずかのシールドを砕いた。その衝撃でアリサとすずかが大きく弾き飛ばされた。そしてなのはのシールドはバスターの一撃でも破壊されることはなかったけど、受けた衝撃には耐えきれずに遠くに弾き飛ばされた。
(なのは、アリサ、すずか!!)
――フォトンランサー・マルチショット――
セイバーはアリサとすずか、バスターはなのは、ランサーは私とアルフを標的にした。シャルの話じゃランサーのランクは推定S+。
(でも、誤解されたまま倒されるなんて嫌だ!!)
私のマントを掴む不安そうな表情を浮かべるアリシアを下がらせて、私はフォトンランサー5発を一斉発射。ランサーは槍を振るって全て弾き飛ばした。間髪入れずにアルフがランサーに向かって突進。格闘戦を仕掛ける。アルフの猛攻をランサーは槍を持っていない片手だけで捌いている。強い。
――サイズスラッシュ――
でもアルフに集中していることは間違いない。私は高速移動魔法、ブリッツアクションでランサーの背後へ瞬間的に回り込む。サイズフォームの“バルディッシュ”に展開されている魔力刃にバリア貫通・魔力強化に付加した一撃。
(捉えた!)
ランサーは私に気付いているようだけど、アルフの激しくなった猛攻に掛かりっきりで反応しきれていない。確実に決まる、そう思った。ううん、確かに決まった私の一撃。
(うそ・・・!?)
サイズスラッシュの刃はランサーに直撃してる。それなのに効果が届いてない。どれだけ力を籠めて押してもピクリともしない。
「お前の攻撃魔法と、私の防御魔法の性能差だ。障壁貫通効果。悪くはないが、私の防御力を突破するには少々足りなかったな」
――吹雪け、汝の凍波――
「っ・・・!?」
ランサーの足元にベルカ魔法陣が展開されたと思えば、ランサーとアルフを覆い包む強烈な吹雪が生まれた。その勢いに目を閉じる。吹雪はすぐに治まった。目を開けると、アルフが氷の柱に捕らわれている光景が・・・。
(アルフ!)
駆け寄って氷の柱を叩く。何度もアルフの名前を呼ぼうとしても、やっぱり声が出ず、念話も使えない。ジャリっと地面を踏みしめる音が背後からして、私は慌てて振り返る。ランサーがすでに槍を振り下ろしている体勢だった。完全に懐に入られているから防御魔法はダメ。出来ることと言えばブリッツアクションでの急速離脱。考える間もなく実行して、ランサーの振り降ろしを回避する。
「移動後のことも考えなければ無駄なことになるぞ」
ハッとして顔を上げればランサーが目の前に佇んでいた。しかもさっきのように槍を振り降ろしている最中。ブリッツアクションも使用直後で、すぐには使えない。なら最後は「っ!!」“バルディッシュ”を盾にするしかない。
「咄嗟の判断力と行動力、見事。その歳で素晴らしい。だが・・・」
「っ!?」
水平に掲げた“バルディッシュ”から、キンッ、と一音。たったそれだけで柄が切断された。あまりにあっさりとした破壊。シャルの鋭い剣撃でもこうはならなかったのに。思い知る。目の前に居る騎士は、誰よりも強い騎士なんだって。呆けること一瞬。頭上や背後から爆発音・破壊音・金属音、いろんな音が聞こえてきた。
(アリサ・・すず、か・・・! なの、は・・・なのはぁぁぁぁぁ!!)
セイバーとバスターに撃墜された私の大切な友達が地面に倒れ伏していた。“フレイムアイズ”の刀身は折れて、“スノーホワイト”の爪は折れて、“レイジングハート”の柄やヘッドは酷く損傷していて・・・。
「この娘、粗削りだが良い筋をしている。真っ直ぐで、純粋な。それにこの剣筋、懐かしい。こちらの娘も良い補助魔法の使い手だ。・・・ランサー。この娘たちは本当に悪か? 私にはどうもそうは思えん」
「それは間違いないだろう。プレシア・テスタロッサの先兵、フェイト・テスタロッサと共に行動していたのだから」
「こっちの白い方はゆるさねぇ。は――オーナーから貰ったあたしの帽子を砲撃で壊しやがった・・・!」
(私の所為?・・・私と一緒に居たから、なのは達はこんな酷い目に遭ったの?)
私の心の中に何か嫌なモヤモヤが生まれる。知らず流れる涙で滲んだ視界の中、「とりあえずリンカーコアの蒐集だな」ランサーがなのは達に右手を翳した。
(ダメ・・・!)
なのは達の胸からリンカーコアが浮かび上がって来た。シャルの話が脳裏を過ぎった。リンカーコアを奪われた犯罪者は、魔導師として再起不能にされた、って。リンカーコアは、どこからともなく現れた分厚い本へ吸い込まれるかのようにその光を伸ばしていく。直感で解った。今まで奪われたリンカーコアはああやってアノ本に吸収されたんだって。
「っっっっ!!!!」
折れた“バルディッシュ”の柄をランサーに勢いよく投げつける。当然槍で弾かれた。すぐさまブリッツアクションを発動、ランサーに突撃を仕掛ける。途中、セイバーが立ち塞がった。
(どけぇぇぇぇぇぇっ!!!)
――サイズスラッシュ――
短い柄になった“バルディッシュ”を振り回してセイバーに攻撃。でもセイバーもまた強かった。剣で“バルディッシュ”を弾き返して、左手に持っていた鞘で私を殴打。私は軽々と弾き飛ばされた。
(まだまだぁぁぁぁぁぁ!!!)
地面に足をつけた瞬間にすぐブリッツアクション。セイバーを回り込んで、ランサーの側面に移動。すぐに全力で攻撃を繰りだす。それなのに・・・!
(私は・・・!)
ランサーは片手で振るう槍で私の連続攻撃を、私を見ることなく防いでいた。
(私は、こんなに・・・!)
少しずつ光が弱くなるなのは達のリンカーコアに、私は焦る。
(弱かったの・・・!?)
シャルやクロノとの模擬戦で鍛えられて少しは強くなったって思っていた。なのはを、アリサを、すずかを、大切なみんなを守れるだけの力を付けたって。
(それなのに・・・!)
私の全力で必死な攻撃はランサーに見向きもされないで簡単に防がれ続ける。
(私は・・・こんな簡単に防がれるような強さしか・・・得られなかったの!?)
どんどん溢れて来る涙で視界がぼやけて、ランサーすら認識できなくなってきた。
(こんな、こんな、こんな、こんな・・・!)
悲しさと悔しさと、そして怒りで今まで以上に大振りになった一撃。しまった、って思ってももう手遅れ。ランサーの槍は私の手から“バルディッシュ”を弾き飛ばした。
「しつこいぞ」
――煌き示せ、汝の閃輝――
「っ!?」
「おい、ランサー!」「待て、ランサー!」
目の前が綺麗な蒼い光でいっぱいになる。砲撃だって気づくのに、直撃を受けて吹き飛ばされ、地面に叩き付けられるまで掛かった。全身を襲う痛み、揺れる視界、薄れていく意識。その中で見たのは、両腕を広げて私を庇っているアリシアの後ろ姿だった。
後書き
ニ・サ・ヤドラ。ブラ。ニ・サ・ボンギ。
ええ、読者の皆様方、言いたい事が山ほどあるでしょう。ですが、私はこの道を選んだ。前作とは違い、原作とも違う第1話を描こうと! その結果がMOVIE 2ndみたいな初戦。出来る限り全く別のA’s編にしたい、と思う次第です。ええ、出来る限り・・出来る限り・・出来る限り・・・・・・。
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