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IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~

作者:龍使い
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第二章『凰鈴音』
  第三十四話『雲を裂いて』

 
前書き
本日のIBGM

○潜入!黛薫子
侵入(Xenogears)
http://www.nicovideo.jp/watch/nm3232380

○薫子終了のお知らせ
グラーフ~闇の覇者~(Xenogears)
http://www.nicovideo.jp/watch/nm3232018

○一年2組の観戦
Corridor(ペルソナ4)
http://www.youtube.com/watch?v=rH3CYAcjnjc

○試合終盤~悪魔からのいざない~
Scavengers(ARMORED CORE VERTICT DAY)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm22117021

○ラストチェイス~二つの本気~
Blod Pain(BLAZBLUE)
http://www.nicovideo.jp/watch/nm6639792
 

 
第一アリーナ、館内。

Bモニタールーム近くで、茶色い髪をまとめた眼鏡の生徒が息をひそめていた。
「ふふっ、試合内容は後輩に録画してもらいつつ、私の本命はこっちよ……!」
懲りない女、(まゆずみ)薫子(かおるこ)である。
――学園内に見たことのない美女が来訪している。
和服を改造したコスプレのような衣装をまとったウソのような銀髪の美女だという。しかも彼女は、複数人の証言から“期待の男子生徒”の何かしらの芸の師匠だとも、親だとも、はたまた年上の恋人だとも噂されているのだ。
四月の“霍乱《かくらん》”以来、息をひそめていた黛だったが、先日の謎の試合乱入事件以来、その人物がこの学園に滞在していると聞いて、いてもたってもいられず復活の狼煙を上げんと画策したのだった。
「さっき掴んだ情報によれば、目標はBモニタールーム側に向かっていったと聞いたわ……」
妖しさ満点で独語しつつ、美女が化粧直しなどで席を立つ瞬間を待っていた。
最悪、退室の瞬間を狙ってでもその顔と姿、そして彼女の大まかの素性を得たい。
「前回はどこのハッカーは知らないけど、スクープをオシャカにされちゃったわ。でも今回は突撃取材、むしろこれこそ私の十八番、最速で生地に仕立ててみせるわよ!」
壁に向かって独語しつつ、ドヤ顔を突きつける黛薫子。
相変わらず賑やかな少女である。
そんなことをしているうちに、Bモニタールームのドアが開閉する音が聞こえた。
再び息をひそめて廊下の影に隠れると、そこには和服とも大陸系のものともとれる奇抜な衣装をまとった美女が歩いていた。
(あれが噂の……!)
顔はよく見えないが、その佇まいから普通の女性とは一線を隠す雰囲気が醸されている。
それはモニター越しに世間を魅了する、美人実力派女優のそれに近い気分を持っていた。
お団子髪(シニヨン)から垂れる三筋のお下げ髪が、生き物の尾のように妖しげに揺れる。
行く先はどうやら化粧室のようだ。
(千載一遇のチャンス!!)
慣れた様子で物音一つ立てず、すばやく目標を追尾する。
美女が化粧室のある廊下の角へと曲がるのを確認し、自分もそっと角を覗き込んだ。
「え……?」
ところが角を曲がってあと数メートルはある地点で、美女は忽然と姿を消した。
走ったような音は無かった。ましてトイレから先は袋小路で、抜け出せる場所がない。
「なんで…、どこに行ったのよ……!?」
思わず狼狽する黛。


「わしゃ、こっちじゃよ」


その背後から、さっきまで負っていたはずの人物が唐突に出現した。
「ぅわあぁぁぁぁあっ!?」
あまりに不覚な出来事に、黛は思わず声を上げて驚く。
振り返ればそこには、噂に違わぬ――いや噂以上の美貌を持つ麗人が微笑みながら佇んていた。
抜群のスタイル、奇抜な衣装、肌は陶器か雪のように白く、髪は見事なまでの銀色。
特にその金色(こんじき)の瞳に、心まで引き寄せてしまいそうな磁力を少女は感じる。
驚いた端から今度は魅了される黛を、麗人は魔の瞳を介して見つめ続ける。
「……で、何の要件で付けておった?」
麗人は笑みは崩さないまま、その声色に背筋に伝うものを含める。
「あ……、あっ、はい。私IS学園新聞部副部長の黛薫子と申します!
 実は今あなたのことが学園の噂になっておりまして、出来れば取材なんかを少々……」
ぞくりとする感覚で夢から目覚め、黛は弾かれたように、立て板に水で用件を話す。
その中身を記録しようと、片手には最近買った最新式のUSB接続式マイク型ボイスレコーダーを握り、戦闘態勢を整える。
すると麗人は、にこやかな笑みを浮かべながら、
「そうかそうか……。貴様が馬鹿弟子の言っていた無礼千万な阿呆か、それはよかった。
 一度きっちり、色々と話しておきたかったからのう……!」
背筋も凍る未知の黒いオーラを発して、黛にじりじりと詰め寄って来た。
(……私、死んだ)
少女は本能的に自分の死を悟り、何もかも真っ白になるのを体感していた。
――せめてイケメンの彼氏をつくって、イチャイチャしてから死にたかったな……。
そんなことをぼんやりと思いながら、迫る美女型の殺意に詰め寄られる黛だった。
しかし……、
「……待て、お前さん“新聞部”で、取材は十八番なんじゃな?」
「…………ぇ、ぁ……は、はい……!」
麗人は何を思い至ったのか、先ほどまでの殺意をあっさり引っ込め、黛を問いただしはじめる。
突然の変化に少女は混乱し、とにかく「はい」の返事だけが口から飛び出す。
「そうか……」
納得した麗人は、自分を見つめたまま何やら腕を組んで試案をはじめた。
怒ったかと思うと、今度は自分の立場を問いただし、何かを考えだす。
まるで意図が掴めないが、自分の生殺与奪の権利がまだ握られたままなのは変わりない。
信心深い方ではないが、黛もこのときばかりは、神に采配の奇跡を願うばかりだった。
寸の間の沈黙と思考の後、麗人は腕を解いてまた少女に微笑みかけた。
「黛といったか、わしは夜都衣(やとい)白夜(びゃくや)というものじゃ。
 もし今からわしのやることに付き合うてくれるなら、お前さんの望み聞こうではないか」
自らを白夜と名乗った麗人は、黛に不思議な提案を持ちかけた。
乾坤一擲(けんこんいってき)……という風ではあるが、実際の選択肢は皆無に等しい。
従えば目的は達成できるが、何を頼まれるかまったくわからない。だが拒めば最悪の場合、自分は明日の朝日どころか、今日の夕日すら拝めずに人生が終わる危険がある。
(も……、もうこうなればヤケよっ!)
とてつもなく理不尽な一択に、黛はすべてをかけるしかないのだった。


――――


第一アリーナ観客席。

二組の生徒数人が、一夏たちのいる席から少し離れた位置で固まっていた。
一人は、鈴に代表を下ろされた少女・外崎(とのさき)美生(みよ)。少し長い髪を後ろでまとめ、茶筅(ちゃせん)のようにしているのが特徴的だ。
簡易適性はBと上々で、学績・実力ともに良好。面倒見の良さと親しみやすさも手伝い、満場一致でのクラス代表に選出された。
しかしながらその栄光も三日天下と終わり、今は傷心を抱えながらも、現クラス代表の手並みを拝見している。
その傍らには2組の担任であるクリス・カワハラが、保護者のように寄り添っている。赤縁眼鏡と黒のタイトスカートのスーツに身を包んだ、理知的ながらどこか優しい雰囲気を持つ日系の女性教師である。
カワハラとしては外崎をこの場に出したくはなかったのだが、外崎本人たっての希望とあって、自分の同伴を条件に許可した。
ほか、二組の外崎の友人や2組のクラスメイトたちの数名が、彼女の周りを囲っている。
彼女たちもまた、先ほどから始まったあまりに締まらない試合内容に、不安と動揺と困惑を隠せずに呆然としていた。
クラス内でも鈴は“代表下ろし”の一見から、抜き身の刃を見るようにクラス中から警戒され、誰からも敬遠されていた。
鈴も鈴で、蛙の面に水とばかりに周囲からの扱いなど意にも介さず、クラス内で孤独に甘んじていた。
2組としては非常に強力な戦力ではあるが、大変扱いに困る人材であり、出来れば数メートル以内には近付きたくないとまで思われていた。
そんな取扱注意の危険人物が、今まさに目の前でうろたえながら怒りに任せて暴れている。
しかも相手は今を時めく話題の“男子生徒”で、強い・イケメン・料理上手と、三拍子揃っていると話題の男前のはずなのだが、その男前は噂とは程遠い低めの変なテンションで、自分たちのクラス代表を弄り倒している。
弄るネタに至っては、どれもこれも個人的かつ2組の生徒が知る(ファン)鈴音(リンイン)の剣呑なイメージからは程遠い、あまりに人間臭くバカバカしいものばかりであった。
(あれホントに、凰さんなの……?)
二週間前に外崎が対峙した鈴は、それこそ歩く人切り包丁そのものであり、同じ血が通った人間とは思えないほど冷血な戦い方で彼女を打ちのめしていた。
そして今日の試合も、はじめは自分を打ちのめした時と同じ雰囲気を放ち、先ほどに至ってはそれ以上の恐怖を感じる冷たさを見せていた。
それが今では、ただの怒りっぽくて気の強くそのクセ情に弱い、いわゆる典型的な“ツンデレ”の女の子にしか見えない。
外崎をはじめ、2組一同はこの奇天烈な光景に、思考能力が停止していた。
ところが外崎を筆頭に呆然とする2組の一同を余所に、ふと妙な声が聞こえてくる。

――くすくすくす……

笑い声である。
しかもそれは一カ所ではなく、会場のあちこちから、ちらほらと耳に入ってくる。
特に大きく笑いを噛み殺す声が、2組一同のすぐ後ろから聞こえてきた。
見ればセミロングの女子と、一本結びの女子が試合の現状を見ながら、何やら愉しげにしていたのだ。一本結びの方は胸のリボンの色から二年生であることが窺えた。
何か知っているのか。
「あの、すみません……!」
そう思ったときには、思わず外崎はその二人に声をかけていた。
「あの……、凰鈴音さんのこと、何か知っているんですか……!?」
不意に前の席から、しかも身を乗り出して質問が飛んできたことに、後ろの二人は思わず面食らった。
一瞬どちらも戸惑ったが、外崎の態度から何かを察したか、二年生の方が外崎に向き合う。
「私たち、あの二人と同じ中学校だったの。それで“あの二人”が対決するって聞いて、二人で来ちゃった訳なのよ」
「先輩と話してたの、『やっといつもの二人らしくなってきたなぁ~』って」
訊いた一同は、困惑せざるを得なかった。
2組の中では歩く凶器という認識しかない人物が、実は至って普通の年頃の少女だというのだ。
しかも目の前で繰り広げられるくだらないケンカを、日常的にやっていたというではないか。
「ねぇ、今日はどっちが勝つと思う?」
「ん~、真行寺君におやつの『チョコドーナッツ』!」
「ちょっと、真行寺君は私が『明日の学食で出汁巻き玉子』って、決めてたのに……!?」
「先輩の訊き方が悪かったですね、こういうのは早い者勝ちですよ~?」
そのうえ二人は、この勝負を利用して賭け事にまで興じはじめる。
「こら、ISの試合を賭け事にするんじゃないの!」
カワハラはそれを不健全と感じて注意する。
しかし注意された二人は、目を丸くして叱られた意味をイマイチ理解できていなかった。
「いや、だって先生、それがあの二人のケンカ見物の醍醐味なんだもん」
「そうそう、うちの中学じゃ先生も交じって、あれで給食やおやつを賭けてましたから」
まったく悪びれる様子もなく、先輩後輩コンビはとんでもない事実を話してみせた。
そこまで“あの光景”が常態化し、しかも一種の娯楽と化していたなど、2組の一同は遠い外国の風習を聞かされいるようで、まったく想像がつかなかった。
そんな話を聞いているうちに、外崎の中で何かが渦を巻きはじめる。
(ねぇ、どっちなの。どっちが本物のあなたなの……?)
冷血な野蛮人か、年頃の女の子か。
もう外崎には、凰鈴音という少女が何者なのかが分からなくなっていた。
外崎がこの試合の見学を強く望んだのは、鈴の実力を知るためだった。
先日の一夏と鈴の試合は部外者の乱入で中断され、彼女自身も鈴に叩きのめされた恐怖からまだ立ち直れず、試合会場には行けなかった。
だからこの試合で鈴の実力を知り、自分の気持ちに一区切りつけたかった。
勝てばそのときは、自分の実力不足を呪えばいい。もし無様に負けようものなら、そのときには思い切り罵って泣かしてやるとも思った。
でも外崎の目の前には、あの凰鈴音が前代未聞の姿で翻弄されている。自分と何も変わらない、普通の女の子の顔をして……。
自分の見てきたものが、彼女の中で大きく揺らいでいた。
それでも外崎は試合を見続ける。
自分を打ちのめした少女が、何者なのかをもう一度見定めるために。


そしてその列の後方の入口にもまた、一人の観察者が目を光らせていた。
観察者はフィールドの様子をじっと見つめた後、大型のタブレットを取り出し、慣れた手つきで操作をはじめるのだった。


――――

第一アリーナ、フィールド内。

依然として暴露大会を続ける修夜を、鈴が必死に追いまわしていた。
傍目には、猛攻を仕掛ける鈴とそれを華麗にかわす修夜による熱戦だが、飛び交うのが暴露と雑言では緊張感もへったくれもない。
鈴は鬼の形相、修夜は気だるげな無表情、観衆は困惑で豆鉄砲を食らった顔、一部の人間は回想と談笑による笑顔……。
四者四様の心境が、その顔にありありと映っていた。
「おい鈴、いつになったら本気なんだ?」
「黙れっていってんでしょ、この変態っ!!」
「変態は無いだろ、単にお前の失敗談を語ってるだけなんだし」
「それが以外の何があるってんのよ、この馬鹿のバカぁ!!」
呆然とする周囲など見ることなく、相変わらずの調子で猫はネズミに弄ばれている。
猛然とした攻撃だが、どれもが頭に血が上った一手であり、正確さに欠いていた。
息を上げながらも、それでも自分の恥部を吹聴し続ける馬鹿を食い止めようと攻撃を繰り出す。
そんな鈴に、ちょっとした変化が起きていた。
(もう、なんでこんなに瞼が重いのよ……!)
強制的な深層同調稼働(ディープシンクロ・ドライブ)の反動か、試合中にもかかわらず意識がはっきりとしなくなってきているのだ。
目の前で自分をコケにする馬鹿に、一発を見舞いたい。だが眠気とも眩暈ともとれる朦朧とした感覚が邪魔をして、踏み込みが甘くなる。
(一発、一発で良いのに……!)
そう思うそばから、今度は徐々に耳鳴りも起きはじめ、より意識は朦朧としてくる。
勝ちたいのに、あの馬鹿に一発を見舞いたいのに……。

――勝チタイ?
当然の話である。

――勝ッテドウスルノ?
恥をかかせた修夜に土下座で謝らせる。

――他ニハ?
他に……。

――他ニモット大切ナコトガアルデショウ?
大切なこと……。

――アナタニハ“モット大事ナコト”ガアッタハズ。
大事なこと……

――勝ッテ……“取リ戻ス”ンデショウ?
……取り戻す……
……家族を……?

――ソウ、他ニモ沢山……。
他にも……お店……一夏の隣……
……あたしの……幸せな……未来……

――ナラ“戦イナサイ”、ソシテ“勝ツ”ノデス。
――タトエソレガ、アナタノ昔ノ思イ入レダッタトシテモ……!
……勝つ……
……何があっても……
……どんな……犠牲……でも……


(そうです、凰鈴音。あなたは勝たなければならない。勝利だけが、あなたを運命という苦輪から解き放つのです……!)
そんな歯の浮くような文字列を、軽快に入力して送っていく。
膨大な情報が入り乱れる大型タブレットの画面を、慣れた手つきと尋常でない速度で操作しつつ、清周英は鈴への工作を進めている。
清にしてみて、この度の過ぎたふざけた試合が続くのに耐えかね、彼はついに自ら手を打った。
複数のサーバーを介して遠回りに甲龍のコアリンクシステムに介入し、甲龍に保険として仕組んでおいた“催眠導入プログラム”を機動させているのだ。
常人はおろか、並のIS技術者でも不可能なことを、清は自分用に改造したタブレットを駆使して平然と敢行する。
当然だが、ばれれば自分の首が飛ぶ。
――ISの試合において、選手とそのサポーター以外が何かしらの工作をおこなった時点で、その試合は無効であり、かつ工作をおこなったものには重大な罰則が下される。
立派な妨害の一種であるからこそ厳罰に処せられる。IS競技のみならず、スポーツ競技全般に共通する観念である。
だがそんなことなどお構いなしに、清は猛然とタブレットを操作する。
(この貴重な試合(サンプル)を、下らない茶番で汚すのは承服しかねます)
自分のプログラムには自身がある、贔屓目なしでも敗北の確率は限りなく低い。
勝てる。
だがその勝利を、こんな下らない三文芝居で茶化されるなど、品性の欠片もない。
そもそも“あの程度の挑発”で精神を揺さぶられているのでは、さらに“先の段階へ移る計画”も延期しなければならない。
(凰、あなたには悪いですが、ここから先は少し眠って頂きます。
目を覚ます頃には、また確実な勝利(データ)が手に入りますからね……)
内心でほくそ笑みながら、悪魔の魔手は電脳空間から少女の精神を侵食していく。

その異変に感づいたのは、電脳の妖精だった。
(この感じ、まさか……?)
自身がプログラムであるがゆえの感覚なのか、シルフィーは鈴の動きと甲龍からの信号に違和感を覚える。
するとしばらくしないうちに、鈴の動きが見る見るふらついていくではないか。
この段階になって、修夜も鈴の異変に気がついた。
「おいどうした鈴、まさかもうバテてんじゃないだろうな?」
「うる……さいっ……!」
だが修夜からしてみれば、それは先刻の深層同調稼働の反動によるものという認識であり、シルフィーほどに違和感は感じていない。
そうこうしているうちに、とうとう鈴の動きが完全に止まってしまった。
(本当にバテているだけ……?)
一見すると疲労によるガス欠だが、それにしては呼吸の乱れ方が変に大人しい。
もしかすると――
そう思い立ったシルフィーは、再び鈴を分析機能(アナライズ・スキル)透視(スキャニング)してみる。
(これって……!?)
分析結果には、再び猛烈な勢いで上昇する同調率の数値が、ありありと示されていた。
しかも先ほどよりも、さらに急激な上がり方をしている。
(おかしい、こんなの異常だ……!)
そして数値は鈴自身の状態にも現れはじめる。
眼はまどろんでいき、体は規則的に揺れはじめ、先ほどまでの威勢も急に失せはじめる。
(また、アレが来る!?)
それは先ほどの深層同調稼働の前段階と、ほとんど符合していた。
《マスター、あの子の意識をこっちに向けさせて!》
慌てて主人に事の重大性を伝えようと、妖精はとっさに叫んだ。
「どうしたんだ、シルフィー……」
《また来るんだよ、さっきの深層同調稼働が!》
「はぁ?」
《はもへもないよっ、さっきよりも異常な上がり方でどんどん同調率が上がってるんだよぉ!》
慌てふためく相棒の様子を見て、事態が尋常でないことを修夜は悟る。
またあの幽鬼が暴れ来る。
そう考えると、悠長に鈴を挑発している場合ではない。
止めなければ負ける。それどころか、手加減のないあのパワーでねじ伏せられたら、次に目を覚ますのは確実に病院のベットの上だろう。
だが止めると言っても、こちらが突っ込んでいくあいだに同調が完了すれば、危ういだけだ。
《マスター早くして、もう時間がないよ!?》
時間がない。
ならばこの場で出来る、鈴をかき乱す奥の手があるとするなら……。

「……あれだな」
少年に、神が閃きを与えた。

(さぁ仕上げです、目覚めなさい、私の最高傑作よ!!)
悪魔が王手をかけ、最後のひと押しを振り落とす。

それと同時に修夜も一息吸い、奥の手を放った――
「いい加減に起きたらどうだっ、そこの……」



「【 (あず) () 洗 い】!」



小豆洗い。
日本の妖怪の一種。
小柄で貧乏くさく、目玉のでかいオッサンの姿をしている。
小川で小豆を研ぐ音を立てて人の気を引き、驚かせる。
場合によっては、悪戯が過ぎて溺死させる。


「|《だれが……》」



「誰 が 小 豆 洗 い で す っ て ぇ ぇ ぇ ぇ え ッ ッ !?」



アリーナ中に響く、とても人間が出せるとは思えない怒声を小豆洗……もとい小柄な少女が、腹の底からぶちまけた。
あまりの迫力に、アリーナ中の観客が思わず後ろに引き下がり、中には勢い余って座席から転げるものまでいた。

小豆洗い。
それは鈴に付いた数々のあだ名の中でも、【最も鈴がムカついた名前】である。
まず小柄なオッサンであること、続いて格好が貧乏くさいこと、そして『小豆』という【わざわざ“小さい豆”と書く物体】をいそいそと洗っていること、ついでに妖怪なので人には見えないこと。
小学六年生の頃、奇しくも子供向けアニメで妖怪ものが放映され、クラス中で妖怪ブームが起きたことがあった。
そのなかで、よくある『クラスメイトを妖怪に例える』という遊びが流行し、鈴にあてがわれた妖怪こそ小豆洗いだった。
それだけならまだしも、鈴にこの名を命名した悪ガキは、鈴を“本物の小豆洗い”として扱ってからかい、「あれ、誰か何か言った気がするけど、誰なのかなぁ~?」などの悪ふざけを、再三にわたって繰り返したのだ。
いつか飽きると堪えてはみた鈴だったが、それをいいことに悪ガキの悪戯はエスカレート。ついには「小豆洗いの乳首って小豆みたいなのかな~?」などと言いだし、鈴を数人がかりで鈴をひん剥こうとする最悪の事態に発展。修夜と一夏のみならず、温厚な鈴の父親さえも本気で怒らせる事態となった。
なお悪ガキどもは修夜による“地獄のシバキ・フルコース”に加え、泰山府君(たいざんふくん)と化した鈴の父親によって、監督不行届きと断じられた親や教師ら共々にこってりと絞られたのだった。
のちに町内会において、この一件は暗黙の内に知られることとなり、同時に鈴の父親を決して怒らせてはならいないと周知させた。
白夜をして、「あれを怒らせるのは駄目じゃ」と真顔で言わしめさせたほどである。
この一件以来、鈴にとって“小豆洗い”は一種の禁句となり、出れば最後、どんなに上機嫌だろうと怒りが一気に噴出するようになった。

「そこのクソ馬鹿修夜……、どうやら命が惜しくないみたいね……!?」
怒りが催眠状態を軽くぶっちぎり、完全に怒りで覚醒している鈴。
どこかゆらゆらと揺れているようにも見えるが、それは先ほどの無気力なふらつきと違う、炎天下の陽炎を思わせる闘志に漲るものだ。
「……いいわ、もう時間もないし、……一気にすり潰してやろうじゃないッッ!!!!」
吼えるや否や、赤紫の機影は急発進して修夜に接近する。
とりあえず軽く構えに入る修夜だったが、次の瞬間にその態度を改める。

――急旋回からの龍砲による連射モード。
鈴はその牽制を壁に、渦を巻くようにしてにじり寄っててくる。

のらくらとした雰囲気を払い、修夜は低空から上昇し、弾丸の旋風を踊るように器用に躱す。
鈴もまた、地上から離れて上空へと翔け上がり、縦横無尽に飛び回って何かを狙っている。
《マスター気を付けて、ちょっとさっきまでと動きが違うかも……!?》
「あぁ、分かっているさ、こっちもそろそろ気合入れていくぞ……!」
――やっと“らしくなって”きやがった。
弾幕を軸に接敵し、隙を見て切り込む一撃離脱の接近戦法。
鈴が無人機戦で多用した、彼女の十八番である。
しかも動きのキレは、以前とは断然に違っていた。
《すごい、無人機戦で見たときよりも、速度も機動力も上がってる……!》
「はっ、なんだ。やれば出来るじゃねぇか……!」
ならばと、今度は修夜が動く。
不可視の衝撃を雨を、砲口から予測して掻い潜り、鈴に向けて詰め寄っていく。
鈴もその動きに合わせて間合いを取るが、決して試合中盤のように逃げ腰にはならない。
(来るなら来い、叩き落としてやる!)
龍砲で牽制しつつ、その手に握る双天月牙を握り直し、接近の一瞬に備える。
そして龍砲がエネルギーの充填に入った、その寸の間――
「「!!」」

――びょう

白い獅子は風となり、赤い龍の懐目がけて飛び込んだ。

――ガツンッ

龍もまた、獅子の二本の牙を正面から受け止め、両者は鍔競り合う。
数秒の押し合いを経て離れたかと思うと、今度は龍が獅子の懐に踏み込んでいく。
飛び込んで右を一閃、獅子がその牙で受け止める。
すると体を捻り、さらに左を一閃。白い影が一瞬の判断で後退し、これを躱す。
躱して間合いと取ると、また獅子が。それを受けて躱せばまた龍が……。
一合、二合、三合と、再びアリーナに鋭い刃の音が響き出す。

(負けない、この馬鹿にだけは……!)

自分の悲劇も、目標も、掴みたい未来も、確かにとても大事だ。
でも、それでも……。
この一瞬においては、もはやそれさえも“無粋”だ。
勝つ。
勝ちたいヤツがいる。
勝って今の自分を認めさせたい相手がいる。
そいつに勝つ。
今戦っている、この馬鹿に勝つ。

――それ以外は、今は何もいらない。

「馬鹿な、何故あんな下らない罵倒一つで……!?」
男は、観客席で打ちひしがれながら呟いた。
(チン)周英(ジョウイン)は確かに、鈴を戦闘兵器に変える悪魔のボタンに手をかけた。
だがそれと同時に発せられた対戦相手の言葉が、あっさりと自分の催眠誘導(プログラム)を上回り、あまつさえ戦況を一変させている。
「あるはずがない、こんなふざけた現象など……!!」
そう頭を抱えていると――

「在り得ぬことなどないさ、現にぬしの目の前で起きたではないか」

背後からする幼老姫娼(ようろうきしょう)入り混じった奇異して妖艶なる声に振り返ると、そこには声に似つかわしい奇抜な風体の美女がいた。
銀絹金玉(ぎんけんこんぎょく)の美貌に、和と大陸の入り混じった不可思議な衣装、男なら目を奪われて然るべき艶やかな肢体――。
「先ほどから、その板切れで随分と愉しそうに遊んでおったな?」
「……誰ですか、あなたは?」
色を含めた笑みを浮かべる美女に、清は切れ長な目をより鋭くして問いただす。
「そうさね、あの宙を舞って楽しそうに遊んでおる子供たちの顔馴染みじゃよ」
妖艶な笑みが、一瞬だけ母親のような顔を覗かせた。
「それで……何の御用です?」
取り乱していたことなどなかったように、清は平静を装いながら美女に問いかける。
「何、ぬしの先の言葉の意味を、のぅ……?」
「……さて、何のことでしょう。私は彼女の、凰鈴音の中国本省での教官でしてね。少々みっともない戦いをしていたもので、つい熱くなってしまっていたんですよ」
妖しく微笑む銀髪の美女に、優男は涼しげに答える。
「おぉ、そうか、それはそれは。鈴が世話になったのう、えー……」
「清です、清周英と申します」
「わしは“白都(バイドウ)(リー)”」
「ほう、二字姓とは珍しい方で」
互いにあくまでにこやかに、さり気なく名を明かす。
「よく言われる。ところで、清周英どの――」
何気なく、ただ清は白都麗に視線を合わせた。
「何でしょう?」
そして返事をした。

『――我 ノ 眼 ヲ 見 ヨ』

一瞬、その金色の瞳が光ったかと思うと、清はそこからの記憶を失ってしまった。
事切れる寸前に、“ビャクヤ”という意図の知れない言葉を耳にしながら……。


そんな観客席の寸劇も知ることなく、二つの機体は押して引いての熱戦を繰り広げていた。
鈴が突っ込めば修夜がそれを的確に受け、修夜が攻めれば鈴も必死に食い下がる。
残りわずか五分という時間の中、惜しむことなく全力を出し合う二人に、徐々に客席の熱もヒートアップし、遮断シールドの内部は人もまばらながらに気温を上げていた。
「凰のヤツ、動きが変わったな」
「ええ、先ほどまでと違って、まるで水を得た魚のようですわ」
篠ノ之(しののの)(ほうき)とセシリア・オルコットは、互いに修夜と戦う今の鈴に対する率直な感想を述べ合う。
前半での殺伐とした差し合いとも、中盤の暴力の押収とも、先刻までの気の抜けた喜劇とも違う、無人機を相手に共闘したときの鈴が、二人の間の前にたしかに存在していた。
「いいな、あぁいうのは……」
箒はぽつりと呟いた。
それをセシリアが不思議そうに見つめていたことに気がつくと、箒は思わずはっとする。
「あ、いや、その、だな……。私はあぁしてぶつかり合えた友達が少なかったからだな、その、なんだ、あぁいうのが……う、羨ましい……というか……」
いつもはハキハキしゃべる箒だが、最後の方で顔を赤くしながら口ごもってしまった。
口は固い方だと自負していただけに、ここしばらく心情が口からこぼれやすくなっていることに、箒は戸惑いを覚えていた。
「わたくしも羨ましいと思いますわ」
縮こまる箒に対し、セシリアは温かい笑みを向けながら同意する。
それから目を丸くする箒にから試合へと顔を向け直し、また話しはじめた。
「わたくしも小さい頃からの友人はチェルシーさんぐらいでしたので、あのような遠慮を必要としない関係というものを、あまり深くは知りません。ISに携わるようになってからは、わたくし自身もすっかり余裕を失くしていましたから、訓練校で切磋琢磨し合える友人を得ることはありませんでした……」
だからこそ、あの二人のような絆が少し羨ましい。そんな風に、英国淑女は正直に告白した。
心の内を明かしたその顔は、眩しくもどこか切なげだった。
箒には一夏や修夜がいるが、彼らと鈴ほどのケンカをやり合った経験は無い。
「私も、一夏や修夜と揉めたときは、結局いつも誰かが退いて丸く収まっていた」
それゆえ修夜と鈴のような、遠慮のない絆があれば自分はもっと違ったのかもしれない。
もっと自由に、もっと素直に、真っ直ぐでいれたかもしれない。
「二人の素直さが、私には羨ましい……」
ただ純粋に箒はそう思い、セシリアの告白に応じた。
セシリアはただそれを素直に聞いてくれていた。
「……でしたら箒さんも、してみます?」
「……なにを、だ?」
「勝負を、ですよ。わたくしは敢えて、凰さんが勝つ方に賭けましょう」
「……は?」
英国淑女は何を思い立ったか、いきなり賭けを持ちかけ出した。
「わたくしは代表候補生の端くれとして、凰さんの片を持ちますわ。もし負けた場合には、箒さんだけでなく、いつもの皆さんにもなにかご馳走してさしあげましょう」
「いや、ちょっと、セシリア……!?」
「というわけで、箒さんは修夜さんに賭け(ベット)で、よろしいですわね?」
「いやいや待ってくれ、どこをどうしたらそうなる!?」
ぐいぐいと話を進めていくセシリアに付いていけず、箒はただただ混乱する。
「仲良くするだけが友情でないのでしたら、わたくしたちもと思いまして……」
ようするに、自分と勝負してみないかと、セシリアは箒を誘っているのだ。
ようやく要領を得た箒は、眉間にしわを寄せてついため息をついてしまう。
「いきなり過ぎたでしょうか……?」
「当たり前だ……」
少し気まずそうに笑うセシリアに、箒はうなだれたまま力無く答える。
それから、
「……だったら、私も何か美味しいものをみんなに食べさせよう」
そういって、何だかんだとセシリアの提案に乗ってみることにしたのだった。


剣閃と銃弾が舞い、その音が上がりはじめた雨の中で響いている。
何度刃を競り合っただろう、何度その砲身と熱しただろう、何度互いをその目で追い続けただろう……。
でもそれも、あと数分で終わる。
このまま飛び続けるだけでは、おそらく勝負はつかない。
欲しい、確実な一手が、勝負を決するための一撃が――!
その考えはどうやら修夜も鈴も同じだったらしく、両者はもう何度目かの鍔競り合いを終えた瞬間に、アリーナ中空からフィールドのほぼ真ん中の低空へと、距離をおいて向かい合った。
「ねぇ、そろそろいいんじゃない……?」
鈴がぶっきらぼうに問いかける。
「そうだな、もう時間も三分と無いしな……」
修夜もそれに短く答えると、二人はさらに距離を空けて向き合う。
そして鈴も修夜も、無言のまま構えなおし、じっと睨み合う。
これ以上、言葉はいらない。
必要なのは“勝つ”という意志だけだ。
ただ強く刻む、勝ちたいと、勝ってみせると、その心に強く……。
賑わいを見せていた観客席も、また緊張感で静まっていく。同時にアリーナの内側に向かって、一種の熱のようなものが集中しはじめる。
戦場の二人はまだ睨み合ったまま、微動だにしない。
先に不用意動きた方が負けるのを、修夜は武人の経験として、鈴は直感として捉える。
呼吸を整え、刃の柄を握り締め、ただ飛び出す一瞬を待つ。


――ファン! ファン! ファン!

「「 ! 」」


試合終了の一分前を告げるアラームが響くと同時に、両者は弾丸のように飛び出していく。
まるで溜まりに溜まったアリーナの熱が、一気に噴き出すのを表すかのように。
まずは一合、それから離れてフィールドを旋回して二合で、そこから両者ともフィールドを周回する。

龍は飛ぶ、白い獅子に自分のすべてを叩き付けんと。
もっと速く。
もっと鋭く。
もっと力強く。
もっと、もっと。
(もっと、もっと、もっと……)
一瞬でいい、相手よりもより真っ直ぐで純粋な力を――

「あたしに力を貸しなさい、甲龍(シェンロン)っ!!」

瞬間、少女の叫びとともに、鋼鉄の龍はさらに加速し、フィールド中央へと翔けた。
その軌跡は一筋の淡く青い光の尾を発し、白い獅子に向かって猛然と向かっていく。
甲龍の変化に観客席の一同が驚きどよめく。
「あのエネルギー残滓は……!」
「織斑先生、あれって……!?」
「……あぁ、今度こそ間違いない」
Aモニタールームの一同は、鈴の変化に“ある現象”の名前を想起し、目を見張った。
そして鈴自身は、今までにない感覚を味わっていた。
高速で飛んでいるのに、すべてをはっきりと認識できる。
思考は澄み切り、ISパーツを体の一部のように感じる。
イケる、これで勝ってみせる。
握る刃に力を込め、修夜を見据えて突撃していく。


尋常でない鈴の動きに驚きつつも、修夜はすぐさま彼女の動きに応じ、対角から中央への突撃を開始する。
「いくぞ、シルフィー!」
《『プログラム<SO>』承認、PIC出力上昇を確認!》
少年は相棒を呼び、相棒はその意を汲んで必殺の一撃を見舞うためのプログラムを発動させる。
“プログラム<SO>”とは、修夜の扱う剣技『四詠桜花流(しえいおうかりゅう)剣術』を、ISで最大限に起動させるための補助プログラムである。ISに搭乗した状態でも、普段に限りなく近い動きを可能にする。
修夜は繰り出す剣技を心に決める。
二刀を左に寄せて下段に構え、その目を見開き、向かい来る鈴の動きを見定める。
思えば随分長く戦っていた気がする。
最初は押され、その次はグズグズの追撃戦で、そのあとは挑発と暴露大会と、ずいぶんな試合内容だった。
でも最後に、こうして昔からの彼女に出会えた。
やっぱりこいつは、考えるより感じて行動する方が“らしい”。
今のお前の方が、あんな戦闘マシンになっているときより、よっぽど楽しい。
きっとこれからは、あの日々のように下らないケンカで睨みあう、なんとも億劫でとても賑やかな生活になっていくのだろう。
正直、とても面倒だ。
それでも俺は、そんな騒々しい日常の方が、お前とのケンカに付き合うならベストだろう。
そうだろ、鈴?

「四詠桜花流、真傳之三(しんでんのさん)……」

だから……


獅子と龍が、互いの全力をその一撃に込める。


「はぁぁぁぁぁぁぁあっっ!!」
「おぉぉおぉぉぉぁあっっ!!」


瞬きの一時、間一髪の間で放たれた両者の全力。
その衝突が泥と飛沫を巻き上げ、フィールドの中央で爆発を起こした。
舞い上がる飛沫が水煙となり、二人の姿を隠す。

――どっちが勝った?

アリーナ中の人間が、水煙の中を覗こうと身を乗り出した。


漣迅(れんじん)蒼狼牙(そうろうが)丙形(へいけい)重 新 月(ちょうしんげつ)……!」


水煙の晴れた先で、白い獅子が前傾姿勢で二本の剣を右から天に突き上げ、残心して佇んでいた。
二刀による、昇り袈裟の重ね斬り。
赤紫の龍はその背後で、シールドを切らして機能を止めている。


「だから【今日は】俺が勝ちを貰うぜ、鈴?」

試合終了のアラームとともに、一条の光がフィールドに差し込んだ。
 
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