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少年少女の戦極時代

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第48話 どうしてもできない

 咲のスマートホンに着信が入った。液晶に映った名前はモン太。咲は急いで電話に出た。

「もしもし、モン太?」
《咲、咲! 出た! 見つけたぜ、写メのインベス!》

 紘汰にも聞こえたらしい。咲は顔を上げ、紘汰と顔を見合わせた。

「モン太、今どこにいる?」
《公園。ほら、あれ、噴水の階段と池があるとこ!》
「わかった。あたしと紘汰くんで行くから、モン太はすぐそこからにげて」
《おうっ》

 電話を切り、咲は紘汰を見上げる。肯き返してくれると思いきや、紘汰は硬い表情で拳を握っている。

「咲ちゃんはここで待っててくれ。俺の仲間がガレージにいるから。舞に言えば待たせてもらえるはずだ」
「な、何で? あたしもいっしょに」
「ダメだ!!」

 声の限りに拒絶された。

 涙が、咲の意思とは関係なく溜まって、零れた。
 いつも明るく優しい紘汰に、拒絶、された。

「っ…ご、ごめん…でも、俺、咲ちゃんにはこんなことしてほしくないんだ…」

 紘汰が咲の頬を両手で包み、親指で目尻の涙を拭う。何て温かい指だろう。

「あ、たし…でも、あたしぃ…ヒッぐ…うぇっ」
「ほんと、ごめん。俺、一人でちゃんとやるから。だから――頼むよ」

 咲は泣いた。なのに紘汰は、咲が落ち着くまでずっと頬から手を離さないでくれた。
 咲は、紘汰が頬に添える両手に、自分の両手を重ねた。

「っぐ…わか、た。紘汰くん…おねがい、する。でも、あたしも行く。何もしないから、見届け、させて」
「咲ちゃん」
「あたし、も、アーマードライダー、だから。ベルトの持ち主、だから」
「―――分かった」

 …………

 ……

 …

 咲と紘汰は目撃情報が入った公園へ急行した。
 そこには暴れるヘキジャインベスと逃げ惑う人々がいた。

 紘汰がすぐさまヘキジャインベスに体当たりし、咲は襲われかけた親子に手を貸し、逃げるように伝えた。
 やがて公園には紘汰と咲、そしてヘキジャインベスしかいなくなった。

 紘汰が咲を顧みた。咲は肯き、公園の階段の上に避難した。


 紘汰が戦極ドライバーとオレンジの錠前を出して、鎧武に変身した。

 鎧武は大橙丸を手に、ヘキジャインベスに斬りかかった。だが途中から、何故か鎧武は大橙丸を投げ捨て、素手でヘキジャインベスに殴りかかった。

『おお――ッ! おおおおおおッ!』

 まるで泣いているような咆哮。咲はとっさに顔を横に逸らして――そうした自分に対し、愕然とした。

(見届けさせて、なんてえらそうなこと言って。けっきょく怖かっただけだ、あたし)

 事態に置いて行かれるのが怖かった。インベスになった初瀬を放って後戻りすることで損なわれる何かがあるということだけは予感していたから。

 逃げ出すことも進むことも怖くて、こうして紘汰に押しつけて立ち尽くしているだけ。

 咲はしゃくり上げる。自分の情けなさ、その役目を負ってくれた紘汰への罪の念で。
 何度も袖で目元をこすり、せめてちゃんと紘汰と初瀬の結果を目に焼きつけようとした。

 鎧武が水路の階段でヘキジャインベスを追い詰める。無双セイバーを構える。トドメの構えだ。咲は祈るように手を組み合わせた。

 だが、鎧武は無双セイバーを放り捨て、その場に膝を屈した。拳を水面に打ちつけた。

『できるわけないだろ!! こいつは初瀬だ!! 初瀬なんだ…!』

 それを聞いた咲は、堪らず水路に飛び込み、泣き伏す鎧武に抱きついた。


「紘汰くんっ!」
『頼む……っ、目を覚ましてくれよ、初瀬! こんなのはイヤだッ! 初瀬ぇ!』
「もういい! もういいよ、紘汰くん! もういいんだよぉ!」
『うあ、あ…うおぉ…うあああ…っ!』

 ――その時、悲憤に暮れる咲と紘汰には気づく由もなかった。
 音もなく現れた4人の男女が、アーマードライダーに変身し、彼女たちを狙撃しようとしていたなど。 
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