言う程もてない
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第三章
「だからいいのよ」
「やれやれね、これはね」
「この娘本気だし」
「本当にやるつもりなのね」
「実際にその目で確かめるのね」
「うん、そうするから」
藍はまさに本気だった、そしてその本気でだった。
その秀幸を一日見張ることにした、まずは学校にいて。
いつも彼と一緒にいる、秀幸は長身でかなり痩せている。あどけない感じの顔で薄茶色の自毛をショートにした感じだ。黒い詰襟とシューズがよく似合う。
その彼の傍にいてだ、藍は周囲を見張る様に見回していた。クラスメイト達はそんな彼女を見て呆れて言った。
「番犬?あれ」
「あんなのいたら誰も近寄れないわよ」
「というか凄い目で周り見てるじゃない」
皆藍のその目を見て言う。
「睨んで周りをじろじろと」
「何、あれ」
「威嚇してない?見てくる娘を」
「今にも飛びかからんばかりで」
「猫みたいじゃない」
警戒する猫だ、毛を逆立たせてそうする。
「あれで見張ってるの?」
「見張ってるってああしてなの」
「探偵っていうか番犬じゃない」
「それか猫か」
そうした動物にしか見えないというのだ。
「何でああしてるのよ」
「何考えてるのよ」
「全く、あれじゃあね」
「ボディーガードなんてものじゃないでしょうに」
周りはやれやれといった呆れ顔で藍を見た、藍はこの日ずっと秀幸の傍を離れなかった。そのうえで彼の机の中や靴箱、鞄の中までこっそりと見た。あくまで彼の傍にいたので覗き見したのだ。
その彼女にだ、クラスメイト達は体育の授業、藍と秀幸は同じクラスなのでいつも一緒だが流石に体育は男女別なのでそこで彼女に言った。
この日の授業はバスケだ、体育館の中でそれぞれ同じ半ズボンと体操服を着ているその中で言ったのである。
「あのね、何考えてるのよ」
「秀幸君から離れないってどうなのよ」
「それで見張ってるっていうの?」
「そうしてるの?」
「駄目?だって若し秀幸君が誰かに声をかけられたら」
そう思うとだとだ、藍は彼女達の言葉に眉を顰めさせて言った。
「大変じゃない」
「いや、大変っていうかね」
「今のあんたおかしいから」
「どう見ても番犬だから」
「ガードマンにしてもいき過ぎだから」
こう言うのだった、藍に。
「あんたがいつも一緒にいたら誰も声かけないでしょ」
「ずっと秀幸君の手を身体全体で掴んでて」
「しかも周りを凄い目で見回してるし」
「自衛隊の門でもそこまで凄くないわよ」
実は案外警護は気楽な自衛隊の門だ、たまに訳のわからない市民活動家が抗議活動をする位である。
「幾ら何でもね」
「そこまではないから」
「そうなのね」
「そうよ、本当に」
「ストーカーの方がまだましよ」
「そんなね、ずっと張り付いてるんじゃなくて」
「普通にしなさい、普通に」
幾ら何でも今の状況はないというのだ、周りは。
「だからいいわね」
「せめて離れてね」
「そうして周りにいてね」
「そうしなさいね」
「けれどね」
まだ言う藍だった、全然わかっていない顔だ。
それでだ、周りにこうも言うのだった。
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