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魚屋繁盛

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第二章

「幼稚園の頃あいつから喧嘩売ってきたんだぞ」
「あいつからだぞ」
 二人共仕掛けてきたのは向こうからだというのだ。
「物心ついたらいきなりだぞ」
「蹴ってきたんだぞ」
「石を投げてきやがってよ」
「ぶん殴ってやってからだよ」
「あいつだけはいけ好かねえ」
「あいつだけは許せねえ」 
 それぞれの家で全く同じことを言う。
「大人しくなんか出来るかよ」
「一生ものなんだよ」
「全く、どうしたものだよ」
「困ったねえ」
 女房達も言いはするが止められるもんどえはなかった、とにかく二人の喧嘩は毎日一回は行われ止まることはなかった。
 だが、だ。二人にも家庭はあり。
 それぞれ子供がいた。稲葉には息子が、真中には娘がだ。稲葉の息子は準也という。一七五程のすらりとした青年で目の光が強い、その目の形はアーモンド型でまゆの形も凛々しい。顔は細面で口も鼻も整ったしっかりとした作りだ。黒髪をショートにしてやや脱色している。
 真中の娘は麻琴という。波がかったj黒髪を長く伸ばしておりあどけないまだ幼さの残る顔立ちだ。目元は優しく唇は綺麗なピンクだ。眉は薄めで細く横に長い。背は一五二と小柄だが整ったスタイルをしている。
 この二人は同じ高校だがこのことについてもそれぞれの親父達は言うのだった。
「ったく、何であいつの娘と同じ高校なんだ」
「中学まで同じだってのにかよ」
「大学まで同じじゃねえだろうな」
「大学も行くのなら行っていいけれどな」
 金の心配はするなとは言う、だがだった。
「大学は違うところに行けよ」
「何で高校まで一緒なんだよ」
「違う高校に行けばいいのによ」
「俺達みたいになりやがって」
 高校まで同じだった二人の様にだ、そして。
 お互いにだ、こんなことを言い合うのだった。
「学校の成績は負けるなよ」
「俺だって負けなかったからな」
 二人共学園でビリを争っていたのだ、どっちがブービーになるのかをとにかく必死に争っていたのである。
「何でもあいつの娘には負けるな」
「あいつの息子には負けるなよ」
「やるのなら徹底的にだよ」
「負けるんじゃねえぞ」
 こうそれぞれの子供に言う、しかし。
 準也と麻琴は同じ高校だ、尚且つ。
 幼稚園から一緒だ、それでだった。
 学校ではだ、こうだった。商店街では顔を合わせることもしないが。
 準也がだ、難しい顔で麻琴に言うのだった。
「うちの親父どう思う」
「困ってるでしょ」
 これが麻琴の返答だった。
「うちと同じで」
「どうもな」
 こう返す準也だった、難しい顔で。
「言えないな」
「そうよね、ちょっとね」
「親父に言ったらどうなると思う?」
 準也はその難しい顔でまた麻琴に問うた。
「俺達のことな」
「怒り狂うでしょうね、うちもね」
 麻琴は横にいる準也を見上げつつ答えた。
「凄い馬鹿だから」
「俺の親父も馬鹿だからな」
「そっちの親父も馬鹿だからね」
「困るな、馬鹿な親父は」
「全くよ」
 こう二人で言うのだった。 
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