逆リバウンド
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第一章
逆リバウンド
岡本泰は痩せている、痩せた顔に角刈り、それに眼鏡といった外見はかつて活躍した漫才師にそっくりだ。
彼には悩みがあった、それは何かというと。
「わしは太りたいんや」
職場の同僚であり中学の頃からずっと一緒にいる東海清に言う。
「もっとな」
「太りたいんかいな」
「そや、こうしたガリガリの身体やなくてな」
太めで目が大きく愛嬌のある顔の清に言う、清は髪を七三にしている。
「もっと太りたいんや」
「太るなあ」
清はその泰を見て言う。
「ちょっと難しいんちゃうか」
「わしにはか」
「そや、やっさん昔からやろが」
清は泰のその痩せた身体を見ながら言う、今二人は社内の喫茶店でコーヒーを飲みつつお互いに話をしている。
「痩せてるやろ」
「中学の時からな」
「高校でもな。そやからな」
「難しいか」
「体質ってあるからな」
それでだというのだ。
「太りにくいやろ」
「そうか、けどわしはな」
「太りたいんやな」
「あれや、相撲取りみたいになりたいんや」
そこまで太りたいというのだ。
「ああした風にな」
「やっさんが褌締めるんかいな」
「トランクスからな、ってほんまに力士になるんちゃうんや」
泰は冗談を入れて清に返した。
「普通にや」
「太りたいんやな」
「そや、まあその辺りにおる太ったおっさん位にな」
そのレベルでだというのだ。
「アメリカ人位とは言わんわ」
「あそこまで太るのは無理やろ」
清は泰の痩せ過ぎと言っていい身体を見て答えた。
「どう考えても」
「そやからな」
「普通のレベルでええんか」
「太るにしてもや。わしはちょっと太るで」
泰は左手を強く振って言い切った。
「気合入れてな」
「ほなこれからどうするかやな」
「まず甘いもんをようさん食う」
糖分は太る、このことから来た言葉だ。
「そんで夜遅く食うんや」
「晩御飯をやな」
「昼休みも寝る」
食ってすぐに寝るというのだ。
「おつまみも脂っこいもんにするわ」
「やっさん酒は好きやけどな」
「ついでに言えば甘いもんもいけるわ」
元々口には合っているというのだ、泰に好き嫌いは特にない。
「そやからこれからはおやつをようさん食うて夜遅く脂っこい晩飯を酒と一緒にたらふく食うわ」
「やるんやな、そうして」
「そや、太らん体質やけどな」
だがそれでもだというのだ。
「わしはやったるで」
「そうか。じゃあわしも応援するわ」
「きー坊、見とけや」
泰は確かな顔で清に宣言した。
「二人でデブコンビになるで」
「これまでは痩せとデブやったけどな」
もっとも清も普通の太り方だ、泰が痩せ過ぎなのだ。
「これからはデブ二人や」
「そうなるんやな」
「さて、かみさんにも言おうか」
泰の妻にもだというのだ、尚清も既に結婚している。
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