チコリ
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第六章
「全力でね」
「あれこれ悩むよりも」
「そう、やりきりなさい」
「チコリを見て」
「そう、そうするのよ」
こう娘に話す。
「じゃあいいわね」
「うん、それじゃあ」
「わかったらね」
「わかったら?」
「これ持って行きなさい」
母は微笑んであるものを出してきた、それはというと。
チコリだった、その青く可愛い花を差し出してそのうえで言うのだった。
「いいわね」
「あっ、チコリね」
「わかるわね」
「ええ、そういうことね」
「そう、これさえあればね」
チコリ、それさえあればだというのだ。
「お守りがあれば」
「じゃあそれを持ってそれで行けば」
「コンテストも大丈夫よ」
「そうね。いつも私チコリのお花に守ってもらったから」
「今もね」
今のコンテストもだというのだ。
「安心していいわ」
「そうね、それじゃあ」
「頑張ってね」
「うん」
薫は笑顔でその花を受け取った、そうして。
その花を持ってコンテストに赴いた、花はその髪に飾りアクセサリーの様にした。一緒にコンテストに出る先輩達は薫の頭のその花を見て言った。
「あれっ、チコリやん」
「今日はチコリアクセサリーにしてるん」
「結構可愛いで」
「似合ってるで」
「はい、有り難うございます」
確かな笑顔で答える薫だった、今は。
「それで今回も」
「ああ、頑張りや」
「全力でいくんやで」
「全力でいくことに意義があるさかい」
「恥ずかしがらんとな」
「前向きにな」
「そうですよね」
薫は先輩達の言葉に応える、母のくれたチコリのお陰で今は前向きに考えることが出来た。それでなのだった。
コンテストに向かう、自分で考えていたヘアースタイルをマネキンにセットされたウィッグに出していく。その動きにはもう迷いはなかった。
無心になってそのうえで切る、それを終えてから。
満足した顔で先輩達にこう言えたのだった。
「全力、出せました」
「よかったやん、それやったらええねん」
「こういうのって怯んだらあかんさかい」
「がつんといけばええねん」
「全力でな」
「それが肝心やねんで」
「そうですよね」
開き直ったかの様に応える薫だった。
「うじうじせずに」
「何でもうじうじしたらあかんで」
先輩の一人が薫に言う、今薫達は喫茶店でコーヒーや紅茶を飲みながら話をしている。薫が飲んでいるのはレモンティーだ。
そのレモンで色が薄くなり酸味が加わった紅茶を飲みつつだ、薫は先輩達のその言葉を確かな顔で聞いていた。先輩達もさらに言う。
「当たって砕けろや」
「当たって、ですか」
「そや、砕けてもくっつけばええねん」
先輩はあえて無茶なことを言ってみせた。
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