LONG ROAD
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第一章
第一章
LONG ROAD
「ここまでさ」
「どうしたの?」
彼女はその奇麗な顔を僕に向けて。そのうえで僕の今の言葉に尋ね返してきた。
「何かあったの?」
「うん、色々あったよね」
僕はこうその彼女の言葉に笑顔で答えた。微笑んでいるのが自分でもわかる。
「これまで本当に」
「そうね。嬉しいことも一杯あって」
「悲しいことも一杯あったわよね」
「そうだよね。色々あったよ」
僕はまた彼女に言った。
「覚えてる?君のお父さんのところに行ってさ」
「あの時ね」
彼女も僕の今の言葉を聞いてだ。少しだけ悲しい顔になった。そしてそのうえで僕に言ってきた。その悲しい顔をしたままで。
「あの時お父さん物凄く怒って」
「御前みたいな奴に娘はやれないってね」
「ええ、カンカンに怒って」
「君はどうしてもって言ってね」
「けれど貴方は」
「あの時は駄目だって思ったよ」
実際にそう思った。その時は。
「いや、もう終わったって思ったよ」
「完全になのね」
「あの人凄い剣幕だったし。もう何があってもって言い出して」
「刀まで持ち出しそうだったし」
「後ろに実際にあったし」
僕もその時は死を覚悟した。本当にだ。
「それで駄目だと思ったのね」
「もう完全にね」
その時のことを思い出すと今でもぞっとする。首と胴が離れることも覚悟していた。
「物凄い反対したしね」
「そうだったわね。お父さんってね」
「うん」
「私のこと、昔からずっと大事にしてくれて」
それはよくわかる。父親にとって娘がどれだけ大切なものかは僕も知っているつもりだ。しかも彼女は一人娘だ。それだけにだった。
「だから」
「それで娘をだったんだね」
「ええ」
僕の言葉にこくりと頷いて答えてくれた。
「そういうことだったの」
「そうか。それで」
「貴方はまだあの時はね」
「ほんの駆け出しだったからね」
今でこそ結構立派になったつもりだった。しかし今はそうじゃない。しっかりとしているつもりだ。少なくともあの時よりはそうなっているつもりだ。
「そんな不安な奴にってことなんだね」
「それでだったの。悪気はなかったのよ」
「それはわかるよ。だから僕は」
「諦めかけたけれどなのね」
「うん、そうなんだ」
本当に諦めかけた。けれどそれでもだった。
僕は何とか踏み止まった。その時は彼女が傍にいてくれた。
「君がいてくれたから」
「私がなの」
「そうだよ、君がいてくれたから」
だからだと答えた。
「励ましてくれたじゃない」
「だからだったの」
「それで何とか踏み止まれたんだよ」
彼女の笑顔を見てだ。そのうえでにこりと笑って言った。そのことをだ。
「何とかね」
「それで頑張ったの」
「頑張れたんだ」
彼女のその顔を見ての言葉を続ける。
「君がいてくれたから」
「有り難う」
「御礼はいいよ」
そんなものは本当によかった。それはだ。
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