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ジム&ジェーンの伝説

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第一章


第一章

                    ジム&ジェーンの伝説
「どうしても行くんだね」
 俺はもう一度ジェーンに尋ねた。
「・・・・・・ええ」
 ジェーンはこくりとそれに頷いた。それで全ては決まった。
「・・・・・・わかったよ」
 俺もそれに頷いた。そしてジェーンに声をかける。
「じゃあ案内するよ。後ろに乗りな」
「・・・・・・御免なさい」
「謝ることはないって。そこへ連れて行くだけなんだからさ」
「そうね」
「そうさ。だから気にするなって」
「・・・・・・うん」
 いつものジェーンじゃなかった。その青い目がとても悲しげだった。
 俺は自分のバイクの後ろにジェーンを乗せた。そしてハイウェイに出る。
 ジェーンは俺の背中を抱いて後ろにいる。俺はそのまま道を走って行った。
(馬鹿野郎が)
 俺は心の中で呟いた。ジムに対してだ。
 ジェーンはそもそも俺が好きだった。この掃き溜めみたいな生活の中で彼女はやっと見つけた花みたいなもんだった。けれどジェーンが好きだったのは俺じゃない。ジムだった。これはよくある話だ。
 そこからもよくある話だった。俺達はバーガーショップの前で話をした。
 そこで言ってやった。彼女は御前が好きだと。それで俺の恋は終わった。ジムとジェーンは恋人同士になり一件落着だ。一人だけ少し指を咥えれば済む話だった。
 その筈だった。けれどそうはいかなかった。
「・・・・・・何でだよ」
 ジムが事故って死んだって話をバーガーショップの駐車場で聞いた時俺はまずこう言った。
「何であいつが死ななくちゃいけねえんだよ」
「そんなこと俺に言われてもよ」
 それを俺に伝えてくれたダチは俺の剣幕に困った顔をした。
「俺だってまさかあいつがこんなことになっちまうなんてよ」
「・・・・・・そうだったな」
 それを言われてやっと落ち着きを取り戻した。
「すまねえ。カッとなっちまった」
「いや、いいさ」
 ダチもそれに優しく返してくれた。俺の気持ちを察してくれたからだった。
「けど、大変なことになったな」
「ああ」
 俺はそれに応えた。
「とりあえず遺体は病院行きだ」
「そうか」
「即死だったらしい。頭をやたら強く打ってな。メットが粉々だったらしいぜ」
 バイク乗りの事故なんてそんなものだ。一歩間違えればそれでお陀仏だ。酷い場合なんか死体がグチャグチャになっちまってる。ジムの奴がどんな有り様だったかある程度は予想がつく。嫌な話だ。
「家族とかは」
「一応連絡つけとくか?確かシアトルかどっかだったよな」
「あれ、あいつあっちの生まれか」
「自分で言ってたぜ。詳しいことはハイスクールの方に聞けばわかるだろ」
「じゃあそっちには俺から連絡つけとくな」
「ああ、頼む」
「それでジェーンだけどな」
 話が本題に入った。
「あいつにも知らせないと駄目だろうな」
「そうだな」
 それだ。俺が一番気にしていたことだった。
 恋人が死んじまったってことは絶対に伝えないといけねえ。だがそれを誰が、どうやって伝えるかだ。それが問題だった。けれどそれができるのは俺には一人しかいないように思えた。
「俺が行くよ」
 そう、俺しかいなかった。
「御前がか」
「ああ、だから任せておいてくれよ」
 にっと口の端を歪めさせた。作り笑いだ。
「それでいいよな」
「ああ、じゃあ頼むぜ」
 俺の話を聞いてくれた。これで決まりだった。
「じゃあ今からジェーンのところへ行って来るな」
「それじゃあな」
「他のことは頼んだぜ」
「わかった」
 こうしてバイクに乗ってジェーンのところへ向かう。そしてジムのことを伝えたのだ。
「嘘・・・・・・」
 アパートの玄関でそれを伝えた時ジェーンの顔が割れそうになったのは今でもはっきりと覚えている。忘れられるものじゃない。
「昨日まであんなに元気だったのに」
「バイクさ」
 俺は言った。
「ハイウェイでな。事故っちまって」
「そう、それで」
「ああ、即死だったらしい」
 俺はそれも伝えた。
「そういうことだよ。じゃあ」
「待って」
 ジェーンは立ち去ろうとする俺を呼び止めた。
「ジムは・・・・・・死んだのよね」
「ああ」
 俺はまた答えた。
「何度でも言うぜ。あいつはもう」
「・・・・・・わかったわ」
 それを聞いたうえで小さく頷いた。それから彼女は言った。
「私もそこに行きたいわ」
「そこへって?」
「ジムが死んだ場所に。それでお別れを告げたいのよ」
「ジェーン・・・・・・」
 俺はジェーンを見た。その顔には今にも泣きそうで、それでも強い決心があった。そんな彼を見せられちゃ俺もどうしようもなかった。頷くしかなかった。
「じゃあ行くか」
「お願いできる?」
 ジェーンは俺に問い掛けた。俺はもう一度聞いた。
「どうしても行くんだね」
 と。ジェーンはまた頷いた。それで俺達は今ここにいる。

 
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