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久遠の神話

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第七十話 富と地と名とその四

「私のしたことを知ってくれたうえで」
「いじめ、ですか」
「そうです、理事長も御存知です」
 八条学園のだというのだ。
「そのうえでここに置いてもらっています」
「もう来ないですよね、そのNGOは」
「おそらく。今も糾弾相手を見つけて責めている様ですが」
 それでもだというのだ。
「私のところには来ていません」
「よかったですね」
「本当にそう思います」
 心からだ、高代は言った。
「実は今もあの頃のこと、いじめをしている時も夢に見ます」
「そうなんですか」
「そしてうなされています」
「何かそれって」
「いじめは人間が行う中で最も醜い行為の一つです」 
 悔恨、この感情を心に抱いての言葉だった。
「それを行うと必ず報いがあります」
「今もその報いを受けているんですか、先生を」
「糾弾者はいなくなりました」
 今はだ、かつてとは違い。
「しかし私の過去は残ります、永遠に」
「だからなんですね、先生は今も」
「はい、私はそうした人間です」
 視線は俯いていた、そのうえでの言葉だった。
「醜く、そして弱い人間です」
「だからですか」
「私を誤解しないで欲しいのです」
 間違っても高潔な人間とは思わないで欲しいというのだ、今の誤解はそうした意味での誤解であった。
「そうしてもらえるでしょうか」
「誤解じゃないと思います」
 上城も俯いていた、高代の顔派見ていない。
 だがそれでもだ、こう彼に言った。
「僕も皆も」
「私の過去を知ってそう言えますか」
「皆って言いましたけれど言えない人はいると思います」
 人それぞれの考えだ、だから違いはあるだろうというのだ。
「ですがそれでも」
「君はですか」
「僕も村山さんも」
 樹里、彼女もだというのだ。
「先生の過去を知ってもです」
「それでもですか」
「先生を立派な人だと言えます」
「そうなのですか」
「確かに過去先生は酷いことをしたと思います」
 このことは否定出来ないというのだ、過去はどうしても消せはしない。捏造している過去ならともかく真実ならば。
「ですがそれでも今は」
「今の私ですか」
「はい、今の先生は素晴らしい人です」
「そうでしょうか」
「本当にいじめは最低の行為です」
 上城もこのことは否定しない、彼はいじめは大嫌いだ。だから高代が過去それをしていたことにショックも受けている。
 だがそれでもだとだ、彼は言うのだ。
「ですが今はしていないですね」
「勿論です」
 高代もはっきりと言えた、今の彼はしていないと。
「あの時によくわかりましたので」
「そうですよね」
「いじめは最低の行為であり人の心を傷付け」
 そしてだというのだ。
「自分に返ってきます、必ず」
「それで多くの人を不幸にしてしまいますね」
「両親はオーストラリアから助け舟がなければ完全に壊れていました」
 そこまで追い詰められていたというのだ。
「私の仲間も全員家庭が崩壊したり自分自身が崩壊しました」
「そんなに酷い糾弾だったのですね」
「あの岩清水という人間はいじめを憎みいじめをした者も憎みました」
 罪を憎んで人を憎まずではない、それこそ坊主憎ければ袈裟まで憎いといった人間だったというのである。 
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