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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第二十七話

 
前書き
注意
この話には、作者の真神に対する独自解釈が多分に含まれています。 

 
「アンタは日本にかつて生息していた獰猛な獣、日本狼を神格化した存在だ」

 ここまでの戦いにおいて、真神はただの一度も冷静さを失わなかった。
 まあ、こんな植物だらけの場所、真神からしてみれば戦いやすいことこの上ないのだから、当然といえば当然だ。
 とはいえ、そんな中で戦っていては、俺が不利過ぎる。

 だから・・・まつろわぬ神が嫌う、正体を語っていくとしよう。
 そう思い、小回りの効く短剣を両手に持って、隙を狙いながら口を動かす。

「何故そんな、獰猛な存在を神格化・・・それも、田畑を守る善なる神として奉られることになったのか。それは、日本狼が田畑を荒らす獣、猪や鹿を喰らうことから、田畑の守護者と考えられ、豊穣神としての神格を与えられたからだ!」

 ちょこまかと動いて背後を取ってみるが、植物が急成長して邪魔をしてくる。まだ、冷静さを欠いてはいないか。

「だがしかし、そんな真神の神聖さは失われていく。日本狼が喰らったのは、何も獣だけじゃない。人間が山に入り、狼の生息圏に入ったことで、人間も狼の襲う対象になった。そうして、田畑の守護神としての神格も薄れていった!」
「ワオォォォォォオォオオォン!!!」

 この、神格を失っていく歴史は、効果があったようだ。
 真神は俺を睨み、植物を急成長させてこちらに放ってくる。

 その動きはただただ殺意だけがあり・・・今までの動きに比べて、はるかに避けやすい。
 このまま行けば、何とかなるだろう。きっと。

「そうして真神の信仰は薄れ、人々の記憶からも消えていく。だが、完全に消えることはなかった。人々の生活の糧を守る豊穣神、人々を食らう狼の神、その二面性は、神とは別の存在となり、語り継がれていく」

 ここから先を語られたくないのか、もう真神自身が突っ込んできた。
 よしよし、冷静さを失ってきてる。

「いまだにオマエが人々を守る存在としての特徴を残しているのも、そのための行動をとってしまうのも、その語り継がれているものが原因だ。さっき俺が落とした雷、あれで山火事になってても可笑しくないのに、そうなっていない。それは、火のついた木をオマエが全部消滅させたからなんだろう?」

 神格の都合上、まだ守護者としての属性が残っているから、そうせざるを得なかった。それで、火がついていた木を全て権能で消し去ったのだろう。

 そう考えると、俺が悪で真神が正義、という構図がこの場ではなり立っているように思える。

「お前が得た新しい形・・・それは、日本の民間伝承の一つ、妖怪としての形だ。それも、日本各地で伝承が存在する妖怪・・・送り狼として」

 本格的に冷静さに欠けてきたのか、一撃一撃が大振りになってきた。
 避けるだけじゃなく、攻撃も加えれるな、これなら。

「送り狼は名前の通り、人間を家まで送ってくれる・・・家に着くまで後ろから見守ってくれる妖怪だ。だが、送り狼が持つ側面はそれだけじゃない。家に着くまでに躓いてしまったり転んでしまったものには襲い掛かる、そんな側面も持つ。家まで送り、そのものを守護する善。試練を与え、それに失敗してしまったものを食い殺す悪。こうして、二面性は残っている」

 そこで、ようやく一撃を加えることが出来た。
 飛んできたところをしゃがみ、腹を思いっきり割いてやった。

「送り狼の持つ伝承はこれだけじゃない。家まで無事にたどり着けたものが送り狼に捧げ物・・・握り飯や草履を与えると、その家には幸福が訪れる。豊穣の神に田畑で取れたものを供えるのは必然のこと。こういったところにも、真神としての名残が残っている!」
「ウガアアアアアアァァァァァァァアァァァァァ!!!!」

 真神は怒りから来たであろう雄たけびを上げ、今までのものとは比べ物にならない速度で植物が向かってきた。
 あ、マズイ・・・やりすぎたかも・・・

 そう思った次の瞬間、浮遊感に襲われた。

「ソウ兄、やりすぎ!」
「悪い!少し楽しかったからつい・・・」

 どうやら立夏が俺を抱えて飛翔の術を使ってくれたらしく、向かってきた植物から逃げることが出来た。やっベー・・・かっこわりー、俺。

 そして、立夏はもう目視すら出来ない速さで迫ってくる植物を、ほぼ勘だけで、最小限の動きで避け続けている。
 みれば瞳の色が翡翠色に変わっているから、天啓も使っているのかもしれない。

「で、ここからどうするの!?もう避けるのもいっぱいいっぱいなんだけど!」
「そうだな・・・多分、あいつが狙ってるのは俺だけだし・・・立夏!まだ操られてない植物がある辺りに俺を投げろ!」
「何言ってるの!?」

 まあ驚いて当然だが、時間がない。立夏自身が言っているようにいつまで避けられるかわからない以上、思いついたことをやっていくしかないのだ。

「いいから、早く!」
「・・・ああもう!分かった!行ってらっしゃい!」

 立夏はヤケクソ気味に俺を投げた。
 そのまま落ちると武器を取れない可能性があるため、蚩尤の権能で金属糸を作り出し、木々に投げつけることで勢いを殺した。いや、それでも痛かったけど。

「ふう・・・あの様子だと、すぐに来るよな。なら・・・穿て、ブリューナク!」

 とりあえず、真神がいるであろう方向に向かってブリューナクを投げる。
 もちろん、そんなことをすれば真神が操っている植物にも当たることになるが・・・むしろ、それが狙いだ。

「ガア!」
「お、やっぱり来た・・・ってイテエ!」

 真神は、自分の操る植物を傷つけられたら裁きをくださなければならない。
 だから、こんな手段をとれば、簡単に出てくる。

 そして、俺は腕に噛み付いている真神を近くの木にたたきつけ、腕から離す。

 腕から離れた真神は再び植物を操ってくるが、俺はそれを槍で切り裂き、再び真神が攻撃してくるのにあわせて、槍で腹の傷口を抉る。
 向こうの攻撃は必ず当たるため、首を思いっきり抉られ、血を大量に失ったが・・・意地でたち、ゲイ・ボルグを構えて真神に向かって走る。
真神も、こちらの攻撃が効いていたのか足が震えていたが、それでも立ち上がり、植物を放ってくる。

 もう、今の俺にはその植物に対処するだけの力は残っていなかったので、全て避けず、払わず、体中を穴だらけにしながらも走り・・・真神の頭を、ゲイ・ボルグで貫いた。

「これで、終わり・・・だ・・・」

 背中に何か重みが加わるのを感じながら、俺は意識を手放した。



◇◆◇◆◇



「久しぶり、ムソー!今回は苦戦したみたいね!」
「ああ、ママか。久しぶり」

 本当に久しぶりに、ママに会った。

「でも、俺、ちゃんとウィツィロポチトリは発動しといたはずなんだけど?」
「確かに発動してるけど、あれ、死んでは生き返っての繰り返しだからね~。死ぬ以上、ここに連れ込むのは可能なのよ!」
「ああ、そういう・・・」

 確かに、あの権能は傷を治してくれないから、一秒当たり十数回のペースで死んで生き返ってを繰り返す。
 で、ちょうどいいから俺を連れ込んだわけか。

「まあ、久しぶりに顔が見たかっただけで特に話とかないんだけどね~」
「ないのかよ・・・あ、そうだ。護堂とヴォバンの戦いってもう終わったのか?」
「ああ、あの子達?」

 どうやら、ママからしてみればヴォバンも子供らしい。
 ものすごい年上の兄だな・・・

「そうねえ・・・まだ殺り合ってるわよ?」
「長いな、また・・・まあ、上手く纏るだろ」

 護堂の権能は本当に多様性がある。
 どうにかして引き分けくらいには引き込むはずだ。

「考えてみれば、まだゴドーに勝ったのって、ムソーだけなのよね」
「そういや、そうみたいだな。引き分けはあったらしいが」
「やっぱり、プロメテウスの権能が役に立ったのよ!」

 うん、確かにあの場においてはかなり役に立った。
 だが、この人からそのことを話されるたんびに頭に浮かぶのが・・・

「いや、ホント・・・義理の父親と義理の兄殺しちゃって、スイマセン・・・」
「もう、またそれ!?」

 実際、ゼウスはママの父親みたいなもんだし、エピメテウスの兄であるプロメテウスは、パンドラの義兄だ。
 罪悪感を感じないといえば、うそでしかない。

「別に気にしなくていいんだってば!さすがに旦那を殺されたら私もどうなるかわかんないけど・・・それ以外は別に気にしない!」
「さいですか・・・」

 まあ、形だけでも謝っていおきたいだけだから、これくらいでいいだろう。

「あ、そろそろ生死の繰り返しも終わるみたいね。ムソーの妹さんが、頑張ってるわよ?」
「・・・そろそろ、兄妹(姉弟)とキスとかしすぎな気がする・・・」

 後悔してもどうしようもないから、考えるのはこれくらいにしておこう。

「じゃあムソー。これからも頑張るのよ!」
「まあ、最低でも家族だけは守れるくらいには頑張るとするよ。またね、ママ」

 俺はそこで、意識を失った。

 次に起きたとき、立夏が唇を貪っていて、驚いたことを、ここに書いておこう。
 
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