魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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傲慢の先にあったモノ ~Lucifer~
前書き
どうでもいい話。サブタイトルでLucifer/ルシファーか、Baël/バエルで悩んだ末、ルシファーに決定。ホントにどうでもいい話でした。
バエル戦イメージBGM
BAYONETTA『The Greatest Jubilee』
http://youtu.be/A6r_8HWUOe4
VS・―・―・―・―・―・―・
其は大罪より反逆せし傲慢バエル
・―・―・―・―・―・―・VS
玉座の間を翔る3つの閃光。蒼色、桜色、虹色の3つだ。
「バエル!!」
「ハッ、先程から力のない攻撃ばかりで、つまらないぞ?」
ルシリオン1人に標的を絞り、激しい攻撃を続ける天秤崩す者たるバエル。しかしルシリオンは一向にバエルへと大した攻撃を仕掛けない。行っている事と言えばバエルの剣を、大鎌を、魔力弾を弾いては逸らして、その上で体術を駆使して姿勢を崩したりするだけに留まっている。
『・・・ママ・・・パパ・・・』
何故なら、いま戦っているバエルの体に原因がある。その体とは、期間限定とはいえルシリオンの娘となったヴィヴィオのものだからこそ、ルシリオンは躊躇っていた。自分の攻撃が必要以上にヴィヴィオの体にダメージを与えてしまうのではないか、と。
「つまらないな・・・!」
ルシリオンが弾いたバエルの左手に新しく大鎌が握られる。そしてバエルは、虹色の光で構成された大鎌と“ルートゥス”の翼を消す。その場で反時計回りに回転し、遠心力の乗った一撃をルシリオンの首へ目掛けて一気に薙ごうとする。
「ここだ・・・っ!」
ルシリオンは回避ではなく、真正面からバエルの左上腕部に左手の掌底を繰り出すことで、左腕の運動を停止させた。ここでルシリオンは足元にミッド式の魔法陣を展開し足場とする。そのまま左手でバエルの左腕を取り、背負い投げのような体勢に入った。
――鉄山靠――
八極拳における技の1つ。クロスレンジでの背面からの体当たりが直撃。“聖王の鎧”が展開されているにも拘らず、バエルが吹っ飛ぶ。
「っ、まただ。・・・魔力は乗せられているが、まったく威力がない。らしくないな、欠陥品。本来のお前なら命など度外視して簡単にころ――」
「黙れ!」
怒号によってバエルの言葉を遮るルシリオン。再度お互いが距離を詰めるために飛行する。
「ハ・・・っ!」
バエルは短く息を吐き、大鎌をルシリオンへと投げつけた。ルシリオンは回転しながら飛んでくる大鎌の刃の側面を足場として踏みつけ、跳躍した。突撃して来るルシリオンを迎撃するために、バエルは“ルートゥス”を15本と射出する。
「フッ・・・!」
ルシリオンはすぐさま“グングニル”を再具現化し、迫る“ルートゥス”を弾いていく。ルシリオンが攻撃を捌く中、バエルの技後硬直が生まれた。そこで「なのは!!」彼と共に戦う、ヴィヴィオの保護者、なのはの名前を叫ぶ。
「うん! レイジングハート!!」
なのははそれに応え、愛機“レイジングハート”の先端をバエルに向ける。
≪Divine buster. Extension≫
“レイジングハート”から使用魔法の名が告げられ、そして放たれた桜色の砲撃がルシリオンの真横を掠めるように過ぎ、バエルへと一直線に向かう。
――聖王の鎧――
ヴィヴィオのオリジナルである聖王の防衛能力が働き、なのはの砲撃を防ぎきる。バエルと交戦を開始してからは、こうした攻防が何度も繰り返されていた。なのはは攻撃が防がれるたびに徐々に威力を上げていき、肩で息をするようになった。
「やはりあの防御をどうにかしないといけないな・・・!」
「ヴィヴィオ・・・!」
『・・・なのはママ・・・ルシルパパ・・・』
ヴィヴィオの念話は今でも届く。その声が聞こえてくる以上はヴィヴィオの精神は無事だ。だからこそなのはとルシリオンは諦めずに戦えている。
「そろそろこの展開も飽きてきたな。そうだ。これでもう少し楽しくなるだろう?」
「「っ!」」
バエルが楽しそうにそう告げ、指を鳴らす。そしてなのは達の前に何体ものバエルが現れた。
――シルバーカーテンver.Σ――
幻影。それは戦闘機人ナンバーズのⅣ・クアットロから複製した能力シルバーカーテンによるもの。対象の知覚を騙すことの出来る能力。バエルはその能力に阻害の概念を加え、ルシリオンの魔術による幻影解析を妨げることに成功した。とはいえ、それも短時間なものとなる。いつまでもルシリオンの知覚を騙し続けることが出来ないからだ。
「「「さぁ、どれが本当の私なのか当ててみるといい」」」
それぞれのヴィヴィオの口から発せられるバエルの声が同時に3つ。そこにルシリオンは違和感を覚え、よくバエルの姿を見ていく。
「・・・チッ、やってくれた・・・!」
ルシリオンは舌打ちし、歯噛みした。視界に入るバエルは4体。1体は本物。そして2体は幻影。そして残りのもう1体は「なのは!」だ。しかしなのはと知覚できない。ルシリオンは知覚を妨害され、なのはの姿をバエルと認識されてしてしまっていた。
「ルシル君!」
ルシリオンを呼ぶ声。しかしそれはバエルの声で、だ。それは本当になのはの呼びかけなのか、それともバエルの罠か。判別できないほどに知覚を妨害されている。
「なのは! 私がバエル押さえている間に撃て!」
「なにっ・・・むぐっ!?」
ルシリオンが後ろから本物のバエルに羽交い締めにされ、口を塞がれてしまう。そしてバエルは、ルシリオンの声でなのはに自分もろともバエルを撃つようにそう告げたのだ。
「私諸共で構わない!」
「で、でも・・・」
「ヒット直前に離脱するから問題ない!」
「・・・わ、判った!」
ルシリオンの声ということで、なのはは少し躊躇いながらも砲撃の準備を行う。なのはにはルシリオンがバエルに見え、羽交い締めにしているバエルがルシリオンに見えていた。
「ヴィヴィオ! 少しだけ我慢して!」
バエルの姿をしたルシリオンに向けて、なのはが“レイジングハート”を構える。
「フフ、大事な友達とやらに撃たれるがいい、欠陥品」
「っ!! バエルぅぅーーーッ!」
耳元で囁かれたその言葉に、無理やり口を塞いでいる手から逃れてルシリオンは吼えた。
「エクセリオン・・・バスタァァァーーーーッ!」
なのはから砲撃が放たれた。射線上にはルシリオンとバエル。バエルはすでに“聖王の鎧”で防御準備を終えているが、ルシリオンは阻害によって魔術が使えなくなっているため、防御することが出来ない状態だった。
元許されざる傲慢たるルシファーの能力であり、現許されざる支配にして天秤崩す者バエルの能力・阻害。それがルシリオンの魔術発動の妨害をしていた。そのために魔法の念話すら妨害され、なのはに伝えることが出来ないでいた。
「決まった・・・!?」
なのはの砲撃がルシリオンに直撃した。桜色の閃光が爆ぜる。ヴィヴィオの体を気遣っての一撃にも関わらず、ルシリオンの意識を飛ばした。唯一の救いは戦闘甲冑までキャンセルされなかったことだ。戦闘甲冑までキャンセルされていたら、ルシリオンは気絶程度では済まなかった。次第に煙が晴れていき、そしてなのはは見た。床に倒れ伏している傷ついたルシリオンと、未だ健在なバエルを。
「・・・え? なん・・・で・・・ルシル君・・・?」
なのはの掠れた疑問の声。床に降り立って、ルシリオンへと駆け寄る。
「ルシル君!? ルシル君!? しっかりしてルシル君!!」
『・・・パ・・・パ・・・や・・・やだ・・・』
なのはの悲鳴とヴィヴィオの涙声が、バエルに笑みを浮かばせた。
「ハッ、ハハ、アハハハハハハ! ハァー、いい様だ!」
バエルが高らかに笑い声を発し続ける。そして他の幻影も同時に消滅していった。それを見たなのははようやく理解した。自分の砲撃がルシリオンを撃ったことを。
「っ、ルシル君!」
「さて、高町なのは。お前には用はない。大人しく退くか、それともここで死ぬか、好きな方を選べ」
「っ!」
ルシリオンを抱え、バエルを睨みつけるなのは。たとえ睨んでいる相手がヴィヴィオの体と顔だとしても、睨むことはやめれなかった。それほどまでになのはのバエルへの怒りは頂点に達していた。ヴィヴィオの体を乗っ取り、幻術を使って親友のルシリオンに攻撃させた。その上倒れたルシリオンを見て大笑い。バエルの笑い声を聞いて、なのはは自分の中に確かな怒りを感じた。
『マ・・・マ・・・にげ・・・て・・・』
「ヴィヴィオ!」
「くっ・・・ヴィヴィ・・・オを置いて・・・逃げる・・・?」
「ルシル君!」
「・・・そうでないとな」
『パ・・・パ・・・!』
ヴィヴィオの涙声の念話にルシリオンが目を覚まして、なのはの両腕から離れる。そしてゆっくりとなのはに支えられながら立ち上がる。視線はヴィヴィオへ。いや、その体の中にいるバエルへ向ける。
「そんなこと出来るわけが・・・ない!」
――傷つきし者に、汝の癒しを――
ルシリオンの体を包み込む蒼く優しい光。徐々に、しかし確実にダメージを癒していく。
「ごめんなさい! ごめんなさい、ルシル君!」
両目に涙を浮かべたなのはが何度も謝る。バエルの策に簡単に嵌って、ルシリオンを撃ったことを。
「・・・いや、あれは仕方ない。こちらの油断の所為もあったからな。だからなのはが謝る必要はどこにもない」
“グングニル”が光の粒子となって消えていく。
「・・・うん。ごめんね、ありがとう、ルシル君」
涙の浮かぶ両目を袖で拭ったなのはは頷いて応えた。ルシリオンは思考する。バエル攻略のための戦法を。相手は知覚を阻害し、“聖王の鎧”という防衛能力を以ってなのはの攻撃を防ぐ。その上どこから流れて来ているのか判らないが、バエルは魔力供給を行っている。
「次はどうすればいい、ルシル君・・・?」
そして最大の問題は、なのはのどこか辛そうな表情。原因は知れている。このゆりかご内に展開されているAMFだ。それがなのはの魔力と体力を必要以上に奪っているのだ。
「・・・ああ。やることは大して変わらない。ただ、さっきと同じような知覚阻害を受けた時は出来るだけ動かないこと。その間に私が何とかして知覚妨害を解除させる」
知覚阻害は兎も角として、AMFからなのはを解放する術はある。ルシリオンはヴィヴィオを救うために、その術を使用することを決める。それは魔術師の目指す4つの頂き、“神の力ディヴァイン・ポイント”が1つ、創世結界。使用するのは“聖天の極壁ヒミンビョルグ”。宝庫と居館は、さすがにヴィヴィオの体を必要以上に傷つけると考えた末の結論。
「うん。判った。その時はルシル君に任せるよ」
「話し合いはもういいか? なら続きと行こう。この体の持ち主もそろそろ限界だろうからな。意識が完全に途絶えてしまう前に、欠陥品の最期を見せてあげなければ・・・!」
バエルの背に、骨組みのようにも見える左右非対称の翼が展開された。
「やってみろ。・・・ヴィヴィオ! もう少しだけ頑張ってくれ!」
「すぐに助けるからね!」
ルシリオンとなのはがヴィヴィオに声援を贈る。負けるな、と。助けるから頑張って、と。
『ママ・・・パパ、うん・・・』
「不愉快だ。もういい」
バエルは表情を怒りに変え、ギリッと歯噛みする。背にしている骨組みのような翼が強く虹色に輝く。
『なのは。AMFの対応策をこれから行う。その方がなのはも楽だろ?』
『え? そんなことが出来るの・・・?』
ルシリオンは念話でなのはにそう告げ、なのははそれが出来るのか訊き返す。もしそれが可能なら、なのははこれ以上自分に負担を掛けさせるようなことをしなくともよくなる。そしてルシリオンはそれを行うことで、バエルの魔力供給をも防げると考えている。
『ああ。詳しい説明は全てが終わってからにさせてもらうが、それは可能だ。今からこの玉座の間に黒い穴を開けることになる』
『黒い・・・穴・・・?』
念話の最中にもルシリオンはバエルへと近付き、「ヴィヴィオは返してもらうぞ、バエル!」宙へと飛び立った、ルシリオンを追って飛ぶバエル。高機動の空戦が再開された。彼はバエルの繰り出す虹色の光を纏う拳打を捌きながら、“ヒミンビョルグ”の術式発動の準備をしていく。
『そう、黒い穴。そこにバエルを誘い込む。そして次に私が入る。なのはは後からそこに飛び込んでくれ』
「何を企んでいる欠陥品!」
「何だと思う? 当てられたらプレゼントを贈ろう!」
2人の拳が衝突し、玉座の間を揺らすほどの衝撃が生まれる。そこから拳打の応酬が始まる。バエルは必殺の一撃を、ルシリオンはそれを裏拳で捌いていく。
「我が手に携えしは確かなる幻想!」
ルシリオンが複製術式などを使用する際に必要な呪文を詠唱。それを聞いたバエルは直感的に距離を取ろうとする。
「アクセルシューター!」
バエルの離脱を拒むように、なのははアクセルシューター15発による弾幕結界を展開。しかしバエルは“聖王の鎧”を展開し、アクセルシューターを受けながら無理やり突破する。
「取り込みやすいようにバラバラにしてくれる!」
“ルートゥス”14本がバエルの周囲に展開される。そして全弾ルシリオンへと向けて射出されていく。ルシリオンの「その程度の速さで、私の翼を落とせると思うな!」怒声が響き渡った。
――瞬神の飛翔――
12枚の剣翼アンピエルが彼の背から離れ、新たなに薄く細長いひし形の翼が10枚展開された。空戦形態ヘルモーズへと瞬時に移行し、“ルートゥス”の射線上から離脱する。
「空戦形態――それの対抗策くらいは組んでいる」
バエルの翼の先端からジェット噴射のような閃光が噴出する。
「いくぞ!」
ルシリオンへと一気に突進していくバエル。ここでルシリオンが笑みを浮かべながら同様に突進していく。ルシリオンの笑み。それに気付いたバエルが警戒する。しかし、その時にはすでに手遅れだった。
――聖天の極壁――
ルシリオンとバエルの間に黒い穴が開く。
「っ!」
バエルは目の前で開いた穴に気付くが、今さら軌道修正が出来るような低速飛行でないため、そのまま穴に突っ込むしかなかった。創世結界。名は知らずともどういうものかバエルは知っていた。許されざる強欲たるマモンと許されざる色欲たるアスモデウスを取り込んだ際に手に入れた情報からによるものだ。
「行こうか、バエル。・・・この戦いの決着の場へ」
ルシリオンとバエルは同時に穴へと突っ込んで行き、玉座の間から姿を消した。
†††Sideなのは†††
ルシル君とバエルが、突如2人の間に出来た黒い穴に入って行って消えた。
「これに入れば・・・いいんだよね・・・?」
目の前に開いている穴に近付く。AMFをどうにか出来るらしいけど、少し不安がある。
「・・・ヴィヴィオ」
でもそんな弱気なことなんて言ってられない。ルシル君がたぶんこの穴の向こう側で待ってるはずだから、「よし・・・!」気合いを入れて、黒い穴に入る。穴に入った瞬間に判った。さっきまで辛かったAMFから解放されたことが。穴の中を少し進んでいたら「うあ・・・?」すごい光が私の視界を邪魔した。あまりの眩しさに両腕を目の前に構えて、その光から目を守る。
「なのは!」
私を呼ぶルシルの声。ここで光が弱くなったことで目を開ける。
「え・・・っ!? ここは、どこ・・・?」
さっきまでのゆりかご内に比べてあまりにも激変した光景が目の前に広がっていた。そこはすごく広くて薄暗い。唯一の明かりと言えば、地平線にある曙光らしいものだけ。上も下にも雲が渦巻いていて、どっちが空で陸地か判らない。
「AMFはどうだ、なのは?」
「ルシル君・・・?」
何かの文字が多く刻まれている蒼い球体の上に立っているルシル君がそう訊いてきた。私はルシル君のところまで飛んで、蒼い球体の上に降り立つ。するとさっきまでに消費していた魔力がすごい勢いで回復していくのが判る。この蒼い球体に乗っていると魔力が回復するみたい。それじゃあ他の赤色や黄色、緑色はどんな効果があるんだろう?
「あ、えっと・・・うん、大丈夫。AMFの影響はないよ。ねぇ、ルシル君。ここって・・・?」
「話はあとだ、なのは。来るぞ」
ルシル君の視線の先――大体500m先に、ヴィヴィオの体を乗っ取ったバエルが居た。いろいろと訊きたいことがたくさんあるけど、ルシル君の言うとおり今は戦いに集中しないと。
「さすがに魔力供給を妨害できなかったか。まぁ、AMFをどうにか出来ただけで十分か」
「魔力供給・・・?」
「ああ。バエルはどこからか――おそらく駆動炉から魔力を供給しているんだろう。AMFの中にあろうとバエルの魔力は一向に消費されてなかった。つまりは消費してもすぐそばから回復している、と思ったわけだ」
気付かなかった。でも言われてみれば思い当たる。私ばっかり魔力を消費して、バエルの方は全然堪えてる様子はなかった。それがルシル君たちの言う神秘なのかな?って思っていたけど、そういうことだったんだ。
「残念だったな、欠陥品」
あんなに離れているのにハッキリと声が聞こえる。この空間の影響なのかもしれないけど、私にはよく判らない。それにしてもまただ。バエルはどうしてルシル君を欠陥品って呼ぶんだろう。そしてそれに反論をしないルシル君。それは自分が欠陥品であると認めてるから? 欠陥品。これだとルシル君がまるで作られた物みたいで・・・。
「なのは!」
「う、うん!」
ダメだ。そんなことを考えてる場合じゃない。“レイジングハート”の先端をバエルに向けて臨戦態勢に入る。
「確かに少し予定が狂ったが、なのはをAMFから解放することが本来の目的として発動したのがこの結界だ」
(結界・・・この世界が、結界・・・!?)
私たち魔導師が知って、そして使うものとは全然違いすぎる。これが魔術師にとっての結界ということなのかな。
「そんななのはと、お前の神秘に対抗する術を持つ私。さっきまでの展開とはいかないぞ」
「面白い。その方が飽きないから楽しみだよ!」
バエルの骨組みのような翼から、また虹色の光が噴出される。ルシル君とバエルの間に背筋が凍るほどの殺気が満ちる。ルシル君が一拍置いて、「その余裕面、すぐに変えてやるよ」そう言って消えた。
「おおおおおおッ!」
それは消えたように見えるほどの速い移動だった。バエルまでの距離を一瞬で縮めたルシル君がバエルに突っ込む。私もルシル君を追って飛ぶ、んだけど・・・
「速い・・・!」
追いついた時には始まっていた、ルシル君とバエルの殴り合いとも言える戦いに、私は干渉できない。しかもあまりにも速い打撃の応酬。下手に撃つと、さっきみたいにルシル君に当たる。でも待ってるだけじゃルシル君を手伝えないし、ヴィヴィオも救えない。
「レイジングハート。いつでも砲撃撃てるようにお願い」
≪All right. My master≫
『なのは。そこからバインドいけるか?』
ルシル君からの念話。正直あんな速いバエルにバインドを掛けられるかどうか。でも『やってみる! タイミングは!?』必ず掛けてみせる。やる前から出来ないなんて言えない。集中しろ、なのは。ヴィヴィオを思えばきっと出来る。パンッ!って大きな音がした。それはバエルの拳打をルシル君が掴み取った音。そしてバエルを抱くようにして、近くにある黄色い球体へと突っ込んで叩きつけた。
『今だ!』
≪Restrict Lock≫
ルシル君の合図に合わせて使ったのは、私が一番最初に覚えた魔法レストリクトロック。そして私が扱える捕獲魔法の中で最高の練度を持っている魔法で、砲撃ディバインバスター、射撃ディバインシューターやアクセルシューターと共にもっとも信頼してる。
「捕えよ、縛鎖レーディング!」
私のレストリクトロックとルシル君の鎖(レーディングっていう名前みたい)で、その球体に縫いつけられるようにして完全に動きを封じられたバエル。これでもう動けないはずだ。あとはどうやってヴィヴィオを救い出すか、なんだけど。魔力ダメージでの“レリック”破壊って決めてたけど、出来ればヴィヴィオの体に負担は掛けたくないのが私の本音。
「っく・・・これは力が・・・!?」
バエルがどうにかして脱出しようともがくけど、抜け出せるようなものじゃない。ルシル君はそれでも警戒は解かないでバエルへと近寄る。
「今すぐにヴィヴィオを解放しろ、バエル」
ルシル君の命令口調の言葉がヴィヴィオを乗っ取っているバエルに浴びせられる。バエルは最初は黙っていたけど、何かを閃いたのかニヤリって口端を歪めて、嫌な笑みを作った。
「くっ・・・ハハ、知っているか、欠陥品、そして高町なのは。お前たちの守ろうとしているこの体の持ち主――ヴィヴィオ、だったか?」
『・・・やだ・・・や・・・』
「「ヴィヴィオ!」」
「この際だ。聞いてもらおうじゃないか」
『いやぁ・・・やだ・・・』
バエルが何かを言おうとするたび、ヴィヴィオの泣いている声が聞こえる。それに合わせてヴィヴィオの目から大粒の涙が溢れてくる。
「バエル! ヴィヴィオに何をしている!?」
ルシル君がヴィヴィオの両肩を掴んで激昂している。
「この体の持ち主に教えてあげているんだ。自分という存在の正体を。ヴィヴィオは過去の存在――聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローン・・・」
「っ! やめて・・・」
それはヴィヴィオの知らないこと。だから言わないでほしかった。いつかヴィヴィオが大きくなってから教えようと思っていたのに・・・。
「高町なのはと欠陥品が、本当の親ではないと・・・」
「お願い・・・やめて・・・」
「この聖王のゆりかごと呼ばれる船を飛ばすためだけの一部品であり、自分が座する玉座を守り、ただ敵対者を滅するだけの生体兵器」
「やめて・・・お願い、もうやめてぇぇぇぇッ!!」
叫んだ。これ以上ヴィヴィオを傷つけないでほしかった。
「バエルっ、貴様ぁぁぁーーーーっ!」
「自らを保護してもらい、魔法のデータ収集をさせてくれる者を探していた。それがたまたまお前たちの居場所だった、というわけだ。残念だったな」
私の叫びも、ルシル君の怒りも、それを無視するかのようにバエルは話を続けていく。
「そうだろう、ヴィヴィオ?」
『っ・・・悲しい・・・のも、痛いのも・・・全部作りものの偽物・・・。わたしは・・・この世界にいちゃ・・・ダメな子・・・なんだ・・・!』
「「っ!」」
ヴィヴィオの涙声の念話。でも今までのものと全然違う。言葉に籠められた感情が、救いを求めるものから自分の否定になっていた。
「「違う!」」
ルシル君の声と重なる。お互いを見合わして、バエルに再び視線を移す。
『違わない! もう・・・もういいの。なのはさん、ルシルさん。もう全部わかったの。2人は、フェイトさんも、本当の親じゃないって。わたしは兵器・・・なんだ。ゆりかごを動かすためだけの鍵・・・』
「そんなことはない! ヴィヴィオ、そうじゃない!」
「そうだよヴィヴィオ! そんなの違う!!」
『そうなんだよ! わたしは、この世界にいない方がいいんだ・・・! わたしがいたら、なのはさんやルシルさん、フェイトさんに、みんな。今すごく迷惑かけてる! わたしがいるからこの船が動いてる! だからわたしなんて・・・いなくなればいいんだ!』
ダメ。これ以上言わせたらヴィヴィオは本当にいなくなっちゃう。自分を否定するだけの言葉。それがどれほど自分を壊していくか。それをどうにか止めようとして口を開こうとした時、パンッって音が響く。
『「っ!?」』
「ルシル君・・・?」
それはルシル君がヴィヴィオの頬に平手打ちした音だった。ルシル君は真っ直ぐヴィヴィオの涙の溢れる目を見ている。そんなルシル君の目に宿るのは、怒りの色。その突然の行動に私はおろか、バエルすらも目を点にしている。
「要らない? 居なくなればいい? 怒るぞ、それ以上馬鹿を言えば。私は――もちろんなのはもそう思ってはいない。それだけは絶対に、だ。それは今までヴィヴィオと過ごしてきたみんなもきっと同じだ・・・」
ヴィヴィオの頬を叩いた右手を強く握って、辛そうにルシル君がそう言った。
「そうだよ。たとえ生まれ方が違っても、そうやって泣いてるヴィヴィオは作り物なんかじゃないんだよ。すぐ泣いちゃうのも、甘えんぼなのも、他にもたくさんのもの、全部を合わせてヴィヴィオなんだから。ヴィヴィオは、私にとってもういなくちゃダメなほど大切で大事で、大好きな娘なんだよ』
偽物だなんてことはないんだ。生まれ方なんて関係ない。ヴィヴィオがヴィヴィオであることに変わりないんだから。
「やめろ・・・やめ・・・っ!?」
「邪魔するなよ。クズが」
ルシル君がヴィヴィオの口を押さえて、バエルが喋れないようにした。
「確かに私は本当のママじゃない。でもこれからはヴィヴィオのママだって胸を張れるような、ママになって見せるから。だから、いちゃいけないなんて哀しい事を言わないで・・・ヴィヴィオ!」
ヴィヴィオはここに居る。それだけは確か。だからそれを否定することは許さない。たとえそれがヴィヴィオ本人だったとしても。
「ヴィヴィオ。お前の本当の、心の奥からの想いを聞かせてくれ・・・」
ルシル君と頷き合って、しっかりと答えを聞くためにヴィヴィオを見る。
『わたしは・・・わたしは、なのはママとルシルパパが大好き・・・! これからもずっと・・・ママとパパと・・・ずっとずっと一緒にいたい!・・・ママ、パパ・・・ヴィヴィオを・・・助けて!』
それが聞きたかった。自分の真実を知って、それでも私たちと一緒に居たい、って。だから助けるよ。私が、ルシル君が、とても大切なヴィヴィオを。
「助けるよ、ヴィヴィオ。いつまでもどこでも、ママとパパが、守ってあげるから!」
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
ヴィヴィオの本心は聞けた。これからもずっと一緒にいたい。助けてほしいって。助けるよ、どんな手を使ってでも。だだ、ずっと一緒というのだけは・・・。いや、今はそんなことよりヴィヴィオを解放することが大事だ。
「・・・実に不愉快だ。人間のくだらない心云々・・・」
私が手を離したことでバエルが喋り出す。
「虫唾が走る! 反吐が出る!」
「「くっ・・・!?」」
『っ・・・ぅぅあああ・・・!?』
力、というものを例外なく封じ込める束縛のルーンである“ニード”と、制止・遅延・犠牲の必要性・望まれぬ活動力の封印の意を持つルーン、“イス”が刻まれた、この減衰の球体に縛り付けているのにこの力・・・。
「はあああああああッ!」
「うあぅ・・・!」
「っ! なのは・・・!」
バエルの神秘の奔流からなのはを抱きしめるようにして庇う。直後「ぐあ・・・っ!」私の背中に叩きつけられる強大な神秘の衝撃波。
「ルシル君!?」
一瞬気を失いかけたが、なのはの私を呼ぶ声に何とか踏み止まる。揺れる視線の先に、私たちに向かって飛んで来るバエルを視認する。どうやら今の衝撃波でかなりの距離を飛ばされたようだ。
「下がれ、なのは・・・」
なのはを庇うようにして後ろに下がらせ、バエルと真っ向から向き合う。蒼翼アンピエルとヘルモーズの無事を確認。助かった。バエルとの高機動戦には必要不可欠だ。
「くだらない・・・!」
――セイクリッドクラスター――
バエルの周辺から7つの虹色の光球が展開され、射出される。それにしても大した速さのないものだが・・・。
「あれは私の・・・!?」
後ろでなのはが驚いている。そう言えば魔法データの収集とか言っていたな。あの言葉の意味はこういうことだったらしい。
「レイジングハート!」
≪Oval Protection≫
私たちを覆うように球体のバリアが張られた。確かこれは防御に専念するようなときに使うものだったはず。遅れてあの魔法の効果が表れた。7つの魔力弾が突如爆散し、無数の小型魔力弾となって全方位から私たちに襲いかかってきた。なるほど。なのはがオーヴァルプロテクションを選択した意味が解る。
「くっ・・・!」
なのはが苦悶の表情を浮かべた。魔力弾を防ぎきることが難しいようだ。ならば、多少の無理をしてでもなのはを守り抜かねば。それが、フェイトとシャルとの約束だから。
「我が手に携えしは戦友が誇りし至高の幻想・・・!」
――天花麗盾――
複製術式を“英知の書庫アルヴィト”から引っ張り出し、発動する。白銀色の雪結晶の盾を全方位に展開。この術式の持ち主は、当時の恋人シェフィリス・クレスケンス・ニヴルヘイム。氷雪系最強の魔術師シェフィの、最高クラスの防性術式。使用許可が下りていない最高位の複製術式の発動。激しい頭痛だが、なのはの負担を軽減させるためだ。だが、『逃げて・・・ママ! パパ!』ヴィヴィオの焦るような念話が届く。
「遅い!」
バエルが両手を私たちに向けて翳す。その両手に集まるのは、見覚えのある黄緑色の閃光。バエルから放たれたのは、「馬鹿な!」サタンのレーザー群だった。しかも今までのような直線的なものではなく、湾曲しての全方位からの集中砲火だった。
――知らしめよ、汝の力――
発動中の術式を強化させるゼルエルを発動させる。強化対象は、私が現在発動しているクリュスタッロス・アントスだ。
「うそ・・・!?」
まずは麗盾の隙間から入ったレーザーがオーヴァルプロテクションを一瞬で砕く。開いた穴を防ぐように麗盾を追加する。迫るレーザー群を次々と弾いていき、視認できるレーザーの数は1桁台へと減った。
「やるな、さすがは欠陥品。だが・・・・ん? 許されざる色欲が敗れた・・・?」
アスモデウスが敗れた、か。シャルとフェイトは無事に仕事を果たしたようだ。
「大丈夫か、なのは?」
「大丈夫。問題、ないよ」
疲労を見せるなのはを心配するが、やはりなのはは弱音を出さない。
「しかも・・・どうやら許されざる暴食がこの世界に来たらしいな。お前たちと遊んでいる場合じゃなくなった。もう終わりにさせてもらう」
今まで姿を現さなかったベルゼブブが来たらしいことで、バエルが何故か焦っている。詳しいことはよく判らないが、大罪は思っている以上に複雑な状況にあるらしい。だがもう終わりにしよう、というのには賛成しよう。これ以上はヴィヴィオが耐えられないだろうからな。
「こちらとしても早々に終わらせて帰りたいからな。ヴィヴィオ、もう少しで帰れるから、もうひと頑張りだ」
ベルゼブブはシャルに任せておけば問題だろう。なら私はヴィヴィオからバエルを引き摺り出し、それはもう散々苦しませてから消す。
『うん・・・!』
偉いぞ、ヴィヴィオ。意識はしっかりしているようだ。それにしても驚きだ。人間であるヴィヴィオの意識がここまで保つとは。こういうのを嬉しい誤算と言うのだろう。
「なのはも。もう少しだけ付き合ってくれ」
「大丈夫だよ、ルシル君。ヴィヴィオを助けるまでは落ちないよ」
私は無手で構え、なのはは“レイジングハート”を構える。対するバエルは構えようとせず、ただ不動だ。しかも何やら表情が硬い。
「・・・っ、おおおおおお!」
突然の咆哮。なんだ、今のバエルの様子がおかしい。が、そのまま私たちへと突撃してくるバエルを迎撃するために動く。
「いくよ、ルシル君!」
「ああ!」
≪Blaster 2nd≫
なのはの魔力が跳ね上がる。ブラスターモードは自己ブーストの一種とのこと。ここに来るまでに聞いていたが、実際に目にすると随分無茶をしている方法だ。これはシャルとフェイトに怒られるだろうか? なのはを無茶させないと約束していてこれでは・・・・。
「ブラスタービット!」
“レイジングハート”のヘッド部分みたいな遠隔操作機が2基。それがバエルに向けて飛んでいく。
「なのは。頼むからこれ以上の無茶はしないこと・・・!」
「私は大丈夫・・・!」
そう告げてバエルを迎え撃つ。が、なのはの“大丈夫”は信じられないんだよな、悪いが。そんなことを考えているうちに、バエルが目前という距離となる。
「これ以上私の邪魔をするなら・・・!」
ん? どこを見て言っているんだ? 確かに視線は私に向けられているが、話している相手はおそらく私じゃない。
「我が手に携えしは確かなる幻想!」
ともかく、まずはバエルの動きを封じることを優先だな。私とバエルの高機動戦になのはがついて来られない。
――天の鎖――
――レストリクトロック――
ぎこちない動きで拳打を打ってきたバエルの右腕を弾き、ゼロ距離で神性あるものに効果を発揮する天の鎖を発動させる。そしてブラスタービット2基からもバインドが掛けられる。合計32重の捕縛結界。捕えた。完璧に極まった。が、「・・・フッ」笑みを浮かべるバエル。
『ルシルパパ! なのはママが・・・!』
ヴィヴィオの念話でようやく気付いた。バエルの笑みの正体を。今まで私しか狙っていなかったから油断した。
「くそっ!」
すぐさま後ろに居るなのはへと向かう。視界に入るのは、なのはの頭上に輝く無数の黄緑色の光球と“ルートゥス”が7。サタンのレーザーと、ルシファーの“ルートゥス”だ。なのはには神秘らを防ぐことは出来ない。
「なのは!」
「っ・・・!?」
私の声に、なのはもようやく自分が置かれた立場が解ったようだ。頭上を見上げ、すぐさまそこから離脱しようとするがおそらく間に合わない。今から防性の複製術式じゃ遅すぎる。ならば・・・
「女神の聖楯!!」
制限の解かれていない上級術式を使用する。レーザー群ならもっとランクの低い術式でもいい。だが“ルートゥス”は別だ。アレを防ぐなら相応の神秘がないといけない。魔力炉が軋みを上げる。だから何だと言うんだ。私よりなのはの命を優先しろっ。
『ルシルパパ!』
胸の痛みを無視してバエルの方へと視線を戻す。そこには捕縛結界を粉砕し、“ルートゥス”を右手にしたバエルが居た。虹色の閃光を噴き出す翼。一気に加速してすぐ目の前に現れ、バエルは“ルートゥス”を振り上げる。
「捕縛結界をこうも簡単に・・・!?」
もう少しはイケると思っていたが、これには驚きを隠せない。すぐさま“グングニル”を取り出し迎撃に移る。“グングニル”を「はぁぁぁああああっ!」“ルートゥス”に向けて斬り上げる。だが“グングニル”は “ルートゥス”を――そしてバエルをすり抜ける。私は勢い余って体勢を崩してしまった。
「っ、幻影・・・!? しまっ・・・!」
気付いた時にはすでに遅く、バエルが私の懐深くに侵入し・・・
――プラズマスマッシャー――
フェイトの砲撃魔法プラズマスマッシャーを放った。虹色の雷光が至近距離で爆ぜる。
「っぐぅぅぅ・・・!」
全ての魔力を防御に回す。リン発動の所為で上手く魔力が精製できないが、ないよりはマシだ。本来、ただの魔法ならこうも苦労しないが、神秘が加算されている以上はこれくらいはしないと落とされる。
『ルシルパパ!』
「しぶといな・・・!」
「ルシル君!」
未だに続くレーザー斉射の中、なのはが心配してくれる。ヴィヴィオも自分の方が辛いというのに・・・。
「だから、負けられない!」
ようやく砲撃が途切れた。結構危なかったが、なんとか耐えきることが出来た。だがそれでバエルの攻撃が終わったわけじゃなかった。バエルに頭を鷲掴みされる。それを外そうとするが思っている以上に力が強い。
「潰れてしまえ!」
私の頭を掴んだまま高速飛行に入るバエル。これから何をするのか嫌でも解る。この“聖天の極壁ヒミンビョルグ”での戦い方だ。私がよく使う、結界内に点在する球体にでも叩きつけるつもりだろう。
「高町なのはと共に逝くがいい。その後でゆっくりと取り込んでやる」
「っ! 逃げろ、なのは!!」
バエルは私を一度なのはに叩きつけてから、なのはともども球体に突っ込むつもりだ。そんなことをすれば、私は兎も角としてなのはが耐えられない。
「くそっ、離せ!」
「無駄だ。さぁ、もう少しで――なにっ!?」
急にバエルが停止した。浮かべる表情は苦悶、驚愕、憤怒。ゆっくりと私の頭から右手が離れていく。
「ルシル君・・・」
なのはが私の側へと来た。なのはへの攻撃は終わっているということだ。ならリンはもう必要ないな。これ以上持続展開させておくのはまずい。
「どうなって・・・?」
なのはの疑問に答えられない。私にも判らないからだ。
『これ以上・・・なのはママとルシルパパを傷つけるなんて許さない!』
「「ヴィヴィオ!」」
「おのれ・・・たかが人間が、しかもさらに下等な子供に!」
バエルが自分の頭を抱え、苦しみ始める。まさか、バエルが動きを止めたのは、ヴィヴィオの意思によるものなのか?
『なのはママ。ルシルパパ。今の内に・・・わたしがバエルを止めてる間に・・・!』
「ヴィヴィオ・・・。ルシル君・・・!」
「ああ。ヴィヴィオ、なのはママからキツイ一撃だ。耐えられるか?」
『うん・・・耐えるよ・・・!』
強い意志だ。これならヴィヴィオは大丈夫だろう。なら私は、私に出来ることをしよう。
我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想!」
使用するのは、大戦時においては最強の捕獲結界と謳われた結界術式。そして以前、“ジュエルシード”の暴走を抑え込んだものだ。あの時は使用そのものを禁じられていて、その上魔力量がAAということもあり死にかけたが、今は使用の制限も受けていないし、魔力量もSSSだ。それでも圧倒的に足りていないが、前に比べればペナルティは弱くなるのは間違いない。
「バエル。これが人間の強さだ。お前は、“意志”を計り損なったんだ」
「馬鹿・・・な・・・有り得ない――」
「わたしを返して」
「この・・・ような・・・」
バエルの言葉の中に、少し大人びたヴィヴィオの声が混ざる。バエルの意識が、ヴィヴィオの意識に負け始めている証拠だ。
「結界王の名に基づき具現せよ。一方通行の聖域!」
バエルを閉じ込める桃色の正八面体の捕獲結界・サンダルフォンの聖域。その効果は以前と同じ。結界内に捕えた対象の魔力行使を全てキャンセル。そして外からはいくらでも内に魔力干渉が行えるという、当時、反則術式の一角を担っていたものだ。これで一切の魔力行使は出来ない。あとはバエルの持つ神秘による防衛力だが、それに対しての策もある。
「ヴィヴィオ、いくよ」
「・・・うん!」
バエルが――いや、ヴィヴィオが頷く。バエルはもうヴィヴィオの身体を支配することすら出来ないようだ。
「やめ・・・わた・・・なるんだ・・・亡失・・・」
(亡失になる? まさか、バエルがやろうとしていたことは・・・!)
もしそうなら、ここで確実に斃さなければならない。“絶対殲滅対象アポリュオン”の空席を埋めるような真似だけは絶対にさせない。ナンバーⅣ亡失のアーミッティムス。・・・嫌なことを思い出してしまった。
「レイジングハート・・・!」
≪Excellion Buster≫
“レイジングハート”、ブラスタービット2基の先端に桜色の閃光が生まれる。なのははカートリッジを何発かロードし、さらにその威力を高める。
「エクセリオン――」
ここでバエルの神秘への対抗策を使う。
「神器王の名において・・・!」
「バスタァァァーーーーーーッ!」
エクセリオンバスターが発射されたと同時に、射線上にアースガルド魔法陣を展開する。これが対抗策。エクセリオンバスターに、私の持つ神秘を乗せる。これは私の真技のひとつ、神断福音グロリアス・エヴァンジェルに使われる術式の1つだ。神秘と威力を加算させる魔法陣を展開する術式。今回は神秘限定としたが。
「っううううああああああああ・・・!」
エクセリオンバスターの直撃。防御という術が出来ないためにクリーンヒット。そしてサンダルフォンの聖域内部で爆発が起き、すぐさま術式を解除する。
「「ヴィヴィオ!」」
未だ晴れない煙の中から、煙を引きながら何かが真下にある白いルーンの球体へと落下していく。あれはヴィヴィオで間違いない。すぐになのはが落下するヴィヴィオへと追い縋る。そして私は落下するヴィヴィオとは違う方に飛ぶ。何故なら煙の中で輝く“レリック”を目にしたからだ。バエルが健在なら、相手をしないといけない。
「ヴィヴィオは任せた」
もうなのはには聞こえないだろうが言っておく。
「何故だ・・・何故・・・こんな!」
バエルの姿を視認。所々が砕け落ちてはいるものの、確実に存在していた。ああ、よかった。この手でお前を斃せることが出来て・・・。
「バエルーーーーッ!」
「っ! 欠陥品・・・!」
――殲滅せよ、汝の軍勢――
もう手加減する必要はない。後先考えずにカマエルの槍群を全力で放つ。頭の中は怒りで沸騰している。こいつだけは散々痛めつけてから、消し飛ばしてやる。
「おおおおおおおッ!」
カマエルに対抗するように“ルートゥス”が19本と射出される。同時にページによる防御や、サタンのレーザー群も来るが、関係ない。
――崇め讃えよ、汝の其の御名を――
爆散する無数の蒼い閃光。そこに中級術式最強の連続砲撃ミカエルを発動。背にある22枚の蒼翼をバエルに向かわせ、連続砲撃を叩き込む。それと同時にバエルを閉じ込める檻を形成していく。砲撃なんて間接的な滅びではなく、この手による直接的な滅びのために。
「これで私たちの勝ちだ、バエル・・・!」
檻が完成する前に飛び込み、完成した檻の中で向かい合う。
「イヤダ・・・オレハ・・・・ミトメナイ・・・」
両腕両足を完全に砕かれ、残すところ胴体と頭部のみのバエルが呻く。
「認めない? それこそ私が認めない。バエル、貴様はやりすぎた。私の大切な友を傷つけた罪。この世界の本来辿るべき道筋を混乱させた罪。スカリエッティに代わって、貴様が償え・・・」
バエルの頭を鷲掴みにする。
「これで終幕だ・・・!」
バエルの体内に、私の神秘を侵食させる。その結果起こるのは、
「ッアアアアアア・・・――」
内部からの破裂。胴体部の至るところから破裂が連続して起きる。そして最後は鷲掴みにしている頭部が破裂した。
「・・・さらばだ」
レリックは完全に砕け、バエルも消滅した。
†††Sideルシリオン⇒なのは†††
ヴィヴィオが煙を引きながら白い球体に落ちていく。
「レイジングハート!」
≪Floater≫
ヴィヴィオに浮遊効果の魔法フローターを使う。これで、あの球体に叩きつけられる心配はなくなった。
「ヴィヴィオ!」
頭上で起こっているルシル君とバエルのとんどもない戦いを余所に、白い球体の上で倒れているヴィヴィオに近付こうとした。
「来ないで・・・!」
だけどヴィヴィオは私を制止させる言葉を言い放った。どうして?って思う前に、必死に立ち上がろうとするヴィヴィオを見て思い出す。それは以前、ヴィヴィオが転んだ時のこと。
「1人で・・・立てるよ・・・。ママと、約束したから・・・大丈夫だよ・・・わたし、強くなるから・・・」
あの時は1人で立てなくて、フェイトちゃんとシャルちゃんに起こしてもらった。そして今、ヴィヴィオは1人で立とうとしている。
「ヴィヴィオ・・・!」
ゆっくりと立ち上がったヴィヴィオの元に急いで向かって、強く抱きしめる。
「なのはママ・・・」
「ん? なに、ヴィヴィオ・・・?」
「大好き・・・」
「っ! うん・・・うん。ママも、ヴィヴィオのことが大好き・・・!」
無事で良かった。帰ってきてくれて良かった。こんなにも辛い目に遭っても、それでも強くなってくれて良かった。
「ヴィヴィオ・・・」
「ルシルパパ・・・。ありがとう・・・」
「ああ。どういたしまして・・・ヴィヴィオ」
見ればルシル君の目にも涙が浮かんでいる。ルシル君が泣いてる姿を見るの初めてかもしれないなぁ。
「さぁ、帰ろう。みんなの待つ場所へ」
†††Sideなのは⇒はやて†††
玉座の間に来たのに誰も居らへん。よく見れば壁に大きな穴が開いとるから、この先に居るんかと思って行ってみると、そこに居たのは1人の戦闘機人。随分ボロボロやけど命に別状はなさそうや。その戦闘機人を背負って玉座の間に戻ってみれば「なのはちゃん! ルシル君! ヴィヴィオ!」探していた3人が居った。
「3人ともどこに居ったん!? 探しても居らんかったで心配し――」
とそこに、ゆりかごの緊急放送が流れ始めた。内容はと言うと、聖王の器であるヴィヴィオが居なくなったことと、傷ついた艦内を修復する為に魔力リンクを切るって。そんな放送が流れた直後、その内容通りに魔力結合がキャンセルされて、「わっ・・・?」リインとのユニゾンも強制的に解除されてしもた。
「はやて、詳しい話は後だ。まずはここか――」
私が背負っていた戦闘機人を肩に担いで、ルシル君が出口に向かおうとした時、また放送が流れた。内容は、破損部の応急処置をするというもの。すぐに壊れたところが修復のための障壁が展開され始めた。それを見て「アカン! 急いで出口へ向かうんや!」って走ろうとしたけど、でも間に合わんかった。出口も閉じられてしもうた。
「・・・はやて。この戦闘機人を頼む」
「え? ちょっ・・・ルシル君・・・?」
もう一度私に戦闘機人を預けて、ルシル君はゆっくりと閉じられた扉に向かう。そこで解った。この場でただ1人魔力を扱えるんがルシル君だけなんやて。
「ルシル君、無茶しないでね? この中で一番ダメージ負ってるのルシル君なんだから」
「出口の1つや2つを破壊するなんて、そんな大した――っ!?」
「「「「っ!!」」」」
(なんやこれ・・・? アカン、体が震える・・・! これは・・・恐怖・・・?)
「あぁ、許されざる傲慢は斃れたのですか・・・。なら、僕がここに来たことは無駄足だったというわけですね」
背後から聞こえた男の人の声。私の震えの原因である威圧感は、その人から発せられるものや。恐る恐る振り返ってみる。正直、本能がこう告げてくる。見るな、って。そやけど振り返った先、玉座に座っているのは神父さんの着るようなキャソックを身に纏った男の人。そして、左手に持っているのは刀身が赤い血に染まった・・・
「キルシュブリューテ・・・だと? 何故お前がそれを持っている!?」
ルシル君が私たちをあの人から庇うように前に躍り出る。ルシル君の言うとおり、あの人が持っているのはシャルちゃんの刀、“キルシュブリューテ”やった。
後書き
散々暗躍したルシファーもようやく退場となりました。さようなら~。
実はこの対ルシファー(バエル)戦、もう少し粘りたかったんですけどね・・・。
やめました。もういいよ、ヴィヴィオを傷つけるなんて・・・と思いまして。
それだと言うのにここまで長く?なってすいませんでした。
あと、なのはのブラスター3とスターライトブレイカーex-fbの出番なし。
これは前回のフェイトと同様に理由がありますので、ご了承のほどを。
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