真剣で清楚に恋しなさい!
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一部 高校一年
風間ファミリー
新たな出会いは新たな火種?
「これより川神学園伝統、決闘の儀を執り行う。両者、前へ出て名乗りを上げぃ!」
決闘は基本的に鉄心か、ルー師範代が立ち会うことになっている。
「一年F組 川神一子!!」
「今日より一年F組、クリスティアーネ・フリードリヒ!!」
「この決闘はわしが取り仕切らせてもらう。勝負が決まるまで一切手出しはせぬ。じゃが、勝負が決まってからも手を出そうというなら、わしが介入させてもらう。よいな?」
「承知したわ!!」
「承った!」
両者頷いて一歩前に踏み出し、お互いに武器、といってもレプリカだが、それを構える。
「ではいざ尋常に、始めいっ!!」
「先手必勝!!」
まずはクリスが素早い動きでワンコに肉迫し、レイピアで鋭い一閃を放つ。が、
「そんな攻撃当たんないわ!!」
ワン子は頭の動きだけでそれを交わし、クリスに薙刀の柄の部分で突きを当てる。
「くっ!!」
攻撃が外れた隙と、ワン子の肉体的死角をつく攻撃にクリスはもろに喰らってしまった。
「ふっ、やるな。 だが!!」
クリスは再びワン子に突撃していく。
その様子をF組の面々は工程の箸から見守っていた。
「なぁ、龍斗 クリスとワン子ってどっちが強いんだ?」
「単純な話ではないけど、相性的にはどっちとも言えないな。クリスは今の突撃を見てもわかると思うが、まっすぐ攻撃したがるタイプだ。ワン子は俺との特訓であれくらいの動きなんて少し体を動かせば避けれるレベルだ」
「じゃあ、ワン子が有利なんじゃ?」
「結論を慌てるなよ、大和。ワン子は確かに強くなった。けど、誰に対してもあの時みたいな力が出せるわけじゃない」
「思いの差ってことか? そんなに変わるか?」
大和が怪訝そうな顔をする。
「思いも時として凄まじい力を発揮するが、今はそうじゃないんだ。まずは、相手の動きをまだ知らないこと。どんなに実戦を行っても、直接戦う相手の癖自体はその場で見つけなきゃなんねーからな。その点、モモ先輩はずっと一緒に暮らしてきたんだ。一番やりやすい相手といっても言いくらいだ。一方、クリスは今日転校してきたばかり、まだ何もわからない状態だ。そしてなにより・・・
「なるほど、最適な動きで避けられているらしいな。だが!!」
クリスは三度目の突撃を見せる。
「自分の動きの最適な避け方など、自分が一番知っている!!!」
クリスのレイピアが避けたワン子の方へ先読みして放たれた。
「ぐぅっ!!」
ワン子はたまらず後ろへ飛び退く。だが、それを待っていたかのようにクリスが追撃をかける。
「零距離 刺突!!」
「なめないで!!」
ガキンッ!! ワンコはかろうじて、クリスの追撃を薙刀で防いだ。
「ほう、今のを防ぐか。だが、さっきの一撃はかなり深かったはずだ。おとなしく降参することをすすめるぞ」
「舐めないでって言ってんでしょ!!」
ワン子は痛みに耐えながら薙刀を構えた。
「・・・失礼した。真剣勝負だったな、非礼を詫びよう。全力を持って沈めさせてもらおう。行くぞ!!」
・・・ワン子の避け方は回避には最適でも、まだ戦闘に最適じゃない。クリスが追撃できたのはそのためだな。逆にモモ先輩だと戦闘に適して避け方じゃ読まれちまう。ワン子の才能は絶妙なとこを突かなきゃならねえから扱いが難しいんだよ。クリスも俺と組手した時より格段に強くなってるし、今回はクリスの勝ちかな?」
クリスは先ほどのように突進し、今までで一番鋭い一閃を放つ。
「・・・・・・そこ!!」
ワン子は以前百代にやられたように、薙刀を捨て、体を倒すようにクリスのレイピアを躱し懐に潜り込む。肩にレイピアが掠るも、直撃はしていない。
「何!?」
クリスはいきなり懐に潜り込まれたことにより、思わず飛び退いてしまう。
「今度はこっちの番ね、川神流 蠍撃ち!!」
ドスっ!! という鈍い音と共にクリスの体にワンコの拳がめり込む。そして、クリスは音もなく崩れ落ちた。
「勝負あり!! 勝者、川神一子!!」
「オッス!! ありがとうございました!!」
「担架じゃ、急げ!!」
鉄心がそう叫ぶが、
「・・・・・・く、必要ない」
何とクリスはふらつきながらも自力でたった。
「ほう、あれをくらって立ち上がるとはたいしたものじゃのう。じゃが、医務室には行くが良い。二人共な」
「ギクッ!! アハハ、バレてた?」
「当たり前じゃ、あんなにいい一撃をもらっといてバレんと思っとったか!」
ワン子は観念したとばかりに、一撃くらった場所を抑えながらフラフラとした足取りでクリスのもとへ向かう。
「一子さんか、自分の負けだ。」
「ワン子でいいわよ、アタシもいい勉強になったわ。また試合しましょう」
「ああ、そうだな」
そう言って二人は握手をする。
「いい試合だったぞーー!!」
「これからよろしくな、クリス!!」
校庭の向こうからは、歓声が飛び交っていた。
「まさか、自分で最適な動きを見つけるとは、予想外だったな」
「解説してたのに、予想が外れるとか恥ずかしいなぁ、龍斗」
「うっせー、ってモモ先輩!? いつの間に」
気がついたら龍斗の隣に立っていたのは大和ではなく百代に変わっていた。ちなみに大和は京に襲われていた。
「モモ先輩はどう思いましたか?」
「ああ、やっぱり白人は可愛いなぁ、金髪とかたまらん!」
「そうですねぇ、やっぱり肌が白いのがって、そうじゃなくて試合の話ですから」
「う~ん、ワンコの成長云々よりはクリの攻略方法に驚いたな。自分の攻撃の最適な避け方か、考えたこともなかった」
「そりゃ、先輩の攻撃はまず避けられないですしね。あの攻略方法は昔俺が同じようなことしてからかってたから編み出したんだと思いますけど」
「なんだ、知り合いなのか?」
「旅の時にいろいろあって知り合いました。」
「ほう。旅といえばまだ戦いを挑んでこないな。早くしないと襲っちゃうゾ?」
百代が悪そうな笑みを浮かべる。
「洒落になんないんでやめてください。ってなんかもめてますね」
「自分はクリスだ!! クリなどという呼び名ではない!!」
「なによ、いいでしょ! そのほうが親しみやすいのよ!!」
「そうか、ならば自分もお前のことは犬と呼ぼう!!」
「犬ってなによ、もはや動物の名前じゃない!!」
「早く保健室に行かんかい!!」
二人は鉄心に怒られ、渋々言い合いをやめて保健室に向かった。
「あいつら仲良くなんのはやいなぁ。てか、モモ先輩とネーミングセンスが一緒とは・・・あわr「何か言ったか?」いえいえ、滅相もない!」
こうして、ワン子とクリスの決闘は幕を閉じた。
その日の金曜集会
「よし、みんな集まったな。今日の議題はこれだ。ずばり、クリスを仲間に入れたい!! あいつは面白ぇ、俺の勘がそう言ってるぜ!!」
「言うと思ったよ」
「反対」
「それも言うと思った」
「まさか、私たち以心伝心? 付き合って大和!」
「普通にわかるわ! あとお友達で」
「じゃあ、まずはみんなの意見を聞くぜ。京は反対で、ワン子は?」
キャップがみんなの意見を聞いていく。
「クリはいらん子だと思うわよ 戦える相手がいるのはいいけど」
「反対か、モモ先輩は?」
「当然賛成だ。あんなかわゆいの放って置けるか」
「俺様もその意見に賛成だ」
「ガクトとモモ先輩は賛成か、モロと大和は?」
「僕は反対かな」
「俺は保留で。今の段階じゃどうにもな」
「俺も直江と同意見だな」
「モロが反対の、ゲンさんと大和が保留か」
「龍斗は? 知り合いなんだろ?」
「俺は賛成と言いたいところだが、あいつ自身の性格上、結構揉めそうな予感がするから保留かな?」
「綺麗に三つに分かれたか。じゃあ、ここは一旦ゲストとして招いて様子を見る方向で!」
「俺から、もう一つだけいいか?」
「どうした龍斗?」
「来週、連休があるだろ? そんときに俺の知り合いが遊びに来るんだけど、そいつ変わった性格しててあんまり友達いないんだ。よかったら一緒に遊んでくれないか? そいつの面白さと可愛さは俺が保証する」
「へ~、龍斗が保証する面白さね、いいんじゃねーか? に旅行を計画してるからクリスとその子を混ぜて一緒に行くか!!」
「可愛いのは大歓迎だな」
「おうよ、年はどうなんだ? そこ重要だぜ」
「来年川神学園に入学する予定って言ってたから、今は中三だな」
「何だよ、年下かよ」
ガクトのテンションが一気に下がる。
「失礼なやつだな、そんなんだからモテないんだぞ」
「うるせー、俺様は年上のお姉様がいいんだよ!」
「名前は何ていうんだ?」
大和が話の軌道修正をする。
「黛由紀江って子だ」
「ほう、剣聖の娘じゃないか。ますます面白そうだ」
モモ先輩がいつもの鷹揚とした感じから戦闘をする時の鋭い表情へと変わる。
「出たよ、いきなり襲ったらダメですからね」
「それくらいわかっているさ。ふふふ、楽しくなりそうだな」
「それじゃあ、今日は俺がバイト先でもらってきた寿司で盛り上がるぜぇ!!」
こうして金曜集会は今日も平和に過ぎていく。
クリスが風間ファミリーにゲストとして加わってから一週間、大和とは前にドイツで少し揉めたことがあるらしく、さらにその信条の違いからちょくちょく小さな言い合いのようなものが起きていた。が、今回はさすがにファミリー全員の怒りを買ってしまった。
秘密基地のことを何と無駄で危険なものだから取り壊すべきなどと言ってしまったのだ。これにファミリーを何よりも大切にしている京が激怒したが、もともと、自分が正しいと常に教わり、そう思って生きてきたクリスには自分が間違っているということがわからなかった。だが、大和の説明で自分が悪いということを知り、もう一度チャンスが欲しいというクリスに対してキャップが今度の旅行までに決めるという判断を下した。
そして今日がその旅行前日にして、まゆっちこと黛由紀江が川神に来る日だった。
秘密基地
「は、ははは初めまして、ま、黛由紀江と申します。龍斗さんとは仲良くしていただいてて、みみ皆さんとも仲良く出来たらと思っています。よ、よよろしくお願いします!!」
「オラは松風ってんだ。この子シャイなんだけどいいやつだからさ、仲良くしてあげてくれよー」
黛由紀江と名乗る少女は整っている顔を強ばらせ威嚇するかのような表情で丁寧な挨拶と腹話術?を見せてきた。
「まゆっち、表情硬いよ。しかも、挨拶も硬いよ」
「龍斗さん、お久しぶりです」
「久しぶりだなぁ、龍坊」
「おう、久しぶりだな。まゆっちに松風」
龍斗には慣れているのか、普通の柔らかい表情で挨拶をするまゆっち。だが、龍斗以外のメンバーはあまりのキャラの濃さにモモ先輩ですら呆然としていた。
「ははは、龍斗の言ってた通り面白ぇな!! よろしくな、まゆっち!!」
・・・キャップを除いては。
「はい、よろしくお願いします!!」
「まさか、ここまでキャラが濃いとは・・・予想外だわ」
「てか、後ろに背負ってる日本刀はいいのか?」
「う~む、めんこいなぁ、大和撫子って感じだ」
「これで年上ならなぁ」
「まさに侍という感じだな!」
ようやく、我に返ったメンバー達が口々に感想を言い始めた。
「まゆっち、注目されてるぞ! 今がチャンスだ、やるしかねぇ!」
「ですが、松風 本当にうまくいくでしょうか?」
「まゆっちならいけるって、やれるって!」
「分かりました。 やってみます!」
「なぁ? さっきから一体何と話しているんだ?」
「はぅ! 先手を取られてしまいました。こ、これはですね松風と言って、私の父が作ってくれたストラップに九十九神が宿ったものでして」
傍から見ると腹話術をやってるとしか思えない光景に思わずクリスが突っ込んだ。それにまゆっちがおどおどしながら答えるが、あたりは気まずい沈黙に包まれた。
「はっ!? この気まずい沈黙は、やはり携帯ストラップと会話する上に厨二病までこじらせている奴と思われているのでしょうか、松風」
「大丈夫、将棋で言えばまだ二歩かましたようなもんだ」
「それ、負けじゃないですか!!」
「ははは、なんだかオモシロカワユイなぁ。うん、実にいい体だ」
そう言ってモモ先輩がまゆっちの背後から抱きつき、セクハラをはじめる。
「はぅ! あうあう、えーと、どうすれば」
まゆっちは困ったように龍斗に視線を送るが、龍斗は諦めろと首を横に振るだけだった。
「なんだか、今回の旅行は色々と大変なことになりそうね。たっちゃんが来られないのは残念だけど」
「そうだなぁ、明日は箱根か。何にせよ楽しみだな」
「お前は向こうでも風呂を覗くんじゃないだろうな?」
クリスはここ最近、最早こういうキャラなんじゃないかという位、大和と風呂場で遭遇してしまい、その度に恥ずかしい思いをしているため、少し尖った言い方をする。
「だから、わざとじゃないって言ってるだろ」
「ふん、お前は卑怯なところがあるからな、どうだか」
「はぁ」
この二人は未だに和解できておらず、近々また問題が起きるかもしれないな。早く何とかしなきゃな。そんなことを考えていると思わずため息が漏れた。
ようやくモモ先輩から解放されたまゆっちは少しずつだが、みんなと打ち解けていった。
「なぁ、龍斗。まゆまゆは強いだろ」
いつもの如く、考え事をしていたらモモ先輩が隣にいた
「まぁ、強いですけど、俺も本気の本気を見たことはありませんからね。壁は超えてるし、ワン子よりは強いですね」
「ふふふ、いろいろとたまらん奴だな」
「まゆっちは戦いを好まない性格なんで、無理に強要しちゃダメっすよ?」
「わかってるさ、ああいう手合いは本人がその気じゃないと意味ないからな。お前と同じで」
「じゃあ、なんで俺には戦いを強要しようとしてるんですか?」
「別に本気で言ってるわけじゃないだろ。それに、もしかしたらOKが出るかもしれないしな」
「まぁ、いずれ挑みますよ」
モモ先輩と話していると、まゆっちとこっちへ寄ってきた。
「龍斗さんたちは何をお話しているんですか?」
「うん? まゆまゆの強さについてだ。なぁ、今から勝負しないか?」
「えぇ!?」
「言ったそばからふっかけてるし。 あ、電話かかってきたんで一回抜けますけど、あんまりまゆっちいじめちゃダメっすよ」
「ふ、邪魔者が消えたな。で、どうだ?」
「わ、私などではモモ先輩のお相手なんて」
「まぁ、今はそういうことにしてやろう。それより、明日の準備はしてあるとして今夜はどこに泊まる予定だったんだ?」
「一応、ここに滞在する間は島津寮の一室を貸してもらえることになってるんです。私は推薦で川神学園への入学も決まってますので、入学してからもそこに住むことになっているんです。」
「そうか。なぁ、今夜だけ川神院に泊まらないか?」
「ふぇ? 何でですか?」
「いや、一足先に交流を深めようと思ってな。はぁ、はぁ、大丈夫だから、はぁ、先っぽだけだから」
百代は手をわきわきさせながらまゆっちに接近していく。
「あうあう、ま、またしても」
「こら! いじめんなって言ったでしょうが」
電話から戻ってきた龍斗になんとか危機を救われるまゆっち。
「ちっ! もう戻ってきたか。で、何の電話だったんだ?」
「ああ、ワン子の修行のための道具を作ってくれた人からだよ、九鬼がスポンサーについたって大喜びしてた」
「そうか、その人のもいずれお礼を言いに行かなきゃな」
「ちなみにまゆっちも協力者の一人です。協力の仕方は言えませんが」
「なに!? そうか、その節は本当に感謝している。ありがとう」
百代は真剣な表情でお礼を言う。
「いえ、私も詳しい事情は知りませんが、一子さんや百代先輩の役に立ててなによりです」
「ますます、気に入ったぞ。今夜は家に泊まっていけ。歓迎する」
「では、お言葉に甘えさせてもらいます」
「・・・いい流れで口が挟めなかったけど、まゆっちがピンチなのでは?」
龍斗の想像通り、その夜、川神院ではまゆっちの悲鳴がこだましたという。
さらに同時刻、寮ではまたしても大和がクリスとラブコメ的お約束をしてしまい、仲がさらに悪化したという。
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