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鳥になった少年の唄

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第三章


第三章

「それじゃあ」
「よかった。それじゃあね」
「うん」
「こっちだよ」
 ここで右に曲がってきた。
「こっちに来て。いいよね」
「うん。それじゃあ」
 僕は小鳥の言葉に従って彼の後をついていった。案内されたのは一軒の古ぼけた家だった。古い洋館でもう随分と長い時間が経っているのがわかる。白い壁に蔦がまとわりついている。 僕達はそこに来た。そうしてその洋館の二階の窓のところに止まった。その二階の窓のガラスは割れていてそこからベールが見える。白いけれど埃まみれのベールだった。
「ここが?」
「うん、ここなんだ」
 小鳥は僕に顔を向けて答えてくれた。僕達はその窓のところに並んでいる。
「ここにね。来て欲しかったんだ」
「どうしてここに」
「覚えてる筈だよ」
 小鳥は不意にこんなことを僕に言ってきたのだった。
「君はね。絶対にね」
「僕が覚えてるって?」
「そうだよ」
 小鳥は僕に顔を向けて優しい声で答えてくれた。
「この洋館をね」
「この洋館に」
「ほら、昔のことで」
 小鳥はまた僕に言ってきた。
「来たことがあった筈だよ」
「ええと?」
 僕は小鳥の言葉を聞いて何かを思い出そうとした。そういえばこの洋館は。
「前に来たことが」
「あったよね」
「うん、そういえばね」
 小鳥に言われるまま何となく思い出してきた。
「ここにね。来たことがあったね」
「それは一度だけだったかな」
「いや、違うよ」
 僕はこのことも思い出した。
「何度も来たよ、ここに」
「そうだよね。それに一人で来ていた?」
 小鳥の問いは続いた。
「一人だった?ここに」
「ううん、一人でもなかったよ」
 僕はこのことも思い出した。
「そうだ、そういえば」
「思い出してくれた?」
「うん、僕は一人でここに来ていたんじゃない」
 はっきりと思い出した。
「二人だ。二人で来たんだ」
「そうだったよね。二人だったよね」
「うん。いつも二人でここに来ていた」
 そのことをさらに思い出した。
「あの彼と」
「彼とだよね」
「ずっと僕の側にいてくれた彼と一緒に」
 その遠くへ行った友達と一緒にいつもここに来ていた。このことを思い出した。
「来ていたんだ、ずっと」
「思い出してくれたね」
「うん」
 小鳥は僕の顔を見て微笑んでくれていた。どういうわけか僕は頬から涙が流れるのを感じた。鳥が涙を流すことがあるなんて夢にも思わなかった。
「思い出したよ、それも」
「だから君に来て欲しかったんだ」
 小鳥はさらに僕に言ってくれた。
「ここにね」
「そうだったんだ」
「ずっと探してたんだ」
 小鳥の言葉は続いた。
 
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