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ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~

作者:神話巡り
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第Ⅰ章:剣の世界の魔法使い
  剣の世界の魔法使い

 シェリーナはアインクラッド第七十四層のフィールドマップを歩いていた。あの後、キリト達とは別れて、シェリーナは1人でクエストに向かっていた。

 シェリーナが受注しているクエストは、特定アイテムの入手だ。アインクラッド第七十四層フィールドダンジョン《仄暗き森》に生える《黒輪茸》の採取が目的だった。《仄暗き森》は最前線近くのフィールドダンジョンということもあってか、比較的強力なモンスターが出現する。おもに《ネオゴブリン》《デモニッションウォーリアー》《ハイリザードマン》などのモンスターで、それらの上位種が第七十四層迷宮区のモンスターとなっていることからも、彼らが強者であることが伺える。

 シェリーナのレベルは87。全プレイヤーから見れば比較的高い方ではあるが、攻略組にはキリトの様にレベル90を超え、もうすぐレベル100に届くプレイヤーすら存在する。アスナの所属するアインクラッド最強のギルド、《血盟騎士団》の団長に至っては100レベルを超えているという噂もある。シェリーナのレベルは決して高いとは言い難いのだ。

 そんなシェリーナが、しかも顔を隠しているとはいえ女性プレイヤー……声で女性だとばれる……が一人でダンジョンを歩くのはいろいろな意味で危険でもある。そのため、シェリーナはどんな状況に陥っても脱出が可能なように準備をしていた。まず、スキル《索敵》の上位Modである《索敵範囲強化》《索敵アラート》などによる事前の警戒。もしもの時のために《隠蔽スキル》と共にすでに熟練度最高である1000まで上げてある。武器には最上級の鉱石(インゴット)をふんだんに使用し、最前線プレイヤーでも持っていないほど強力な武器をいくつも隠し持っている。先ほどのピックなどがそれだ。あのピックはボスモンスターの武器に匹敵すると思しき強度を誇る、シェリーナ自慢の一品だ。

 さて、《仄暗き森》に入ったシェリーナが、まず見たのはプレイヤーの足跡だった。スキル《索敵》のModで、直前にここを通ったプレイヤーの足跡がないかどうか探すことができる。シェリーナは、可能ならばあまり人と会いたくなかった。それは彼女が女性のソロプレイヤーであるということもそうだが、先ほどのデュエルでは使わなかった彼女の主武装にも理由がある。
 
 シェリーナは普段アイテムを詰め込んでいる簡易ポーチではなく、本来のアイテムストレージから一本の片手剣を取り出した。


 それは、奇妙な剣だった。刀身は黄色い水晶で構成され、持ち手の部分を銀色の金属が覆っている。《アシュレィの秘石》《リユシィの魔晶》を超えるSSS級インゴットの一種類で、《三大魔石》と言われるアイテムの一つ、《アスタルテの雫》で作られた剣。シェリーナが所持していたそれをすべてつぎ込んで作られた、《バールドライヴ》という銘のこの剣こそが、シェリーナの主武装にして切り札だった。付与効果もさることながら、この剣のすごい所はその基本性能に有った。

 非常に軽いうえに、非常に切れ味が良い。水晶でできているという設定なので石でできた磨製石器なのだが、金属でできた剣なのではないかと思わせるほど切れ味が良い。五十層あたりのモンスターなら一刀のもとに斬り伏せられる。

 シェリーナは剣を装備すると、《仄暗き森》の奥部へと足を進めた。



 ***



 《彼》が()()に気が付いたのは、《彼》が今日の分の食料を料理し終えた直後だった。普段なら()()を気にすることはない《彼》。なぜなら()()も《彼ら》の本性なのであって、少し気をつければ《彼》にとってはなんの問題もないことだからであった。しかし、今日ばかりはそうとも言い切れない。つい先ほど、《来客》の気を感じた。《彼》だけがここにいるのであれば《彼ら》に気を配ることは無いが、《来客》は()()を知らないだろう。それに、《来客》は《あれ》の元へと一直線に進んでいる。恐らく町で依頼を受けてきたのだろうが、今日この時期に《あれ》に近づくのはあまりにも危険。《来客》がそれを知っているとは思えない。

 一瞬、《彼》の中に迷いが生まれる。《来客》を見捨て、《彼ら》の好きにさせるか。それとも、《彼ら》を傷つけ、《来客》を救うか。《彼》にとって《彼ら》は友だった。もっとも、実際に面識があるわけではない。けれども、《彼》の《仲間》の中には、この地に住む《彼ら》と友人関係にあるものも多い。友を傷つけるのはいたたまれないが、《来客》を見捨てるのはもっといたたまれない。

「……許してください、友たちよ。私には、ここに来たものを守る義務があります」

 《彼》は小さくつぶやくと、立ち上がった。


 

 ***



 シェリーナは《仄暗き森》を、マップに記された道どおりに歩いていた。

 《黒輪茸》はアインクラッドの食材アイテムの中でも貴重とされる《A級食材》だった。《ラグー・ラビットの肉》や《黒豚茸(ブラック・トリュフ)》《嵐鮫の卵(メイルストロムシャーク・キャビア)》などの《S級食材》と比べれば手に入れやすい食材ではあるが、決して『手に入れやすい』食材ではない。《黒輪茸》はさらに、高級ポーションの材料にもなる。今回のクエストはこれをとってきてアインクラッド第六十七層の古城の姫君に献上するクエスト。報酬は《魔喰い石》。属性系攻撃全てを無効化することができる石だ。加工してアクセサリーにすれば、属性攻撃を使うモンスターや、状態異常などと遭遇した時に安心だ。

 今まで遭遇したモンスターは《ハイゴブリン》《ネオゴブリン》《ハイリザードマン》など全12種。倒した対数は三十体近くにのぼる。それでも危険なダメージは負わず、ここまで来ることができた。マップによると、目的の《黒輪茸》が生えているエリアはすぐそこだ。シェリーナは歩く速度を速めた。

 そう歩かないうちに、開けた場所に出た。頭上には木々が生い茂っているため空を見ることはできないが、周辺に淡い光を放つ茸が生えているため、灯りには困らない。《光輪茸》と言って、麻痺毒の材料にもなる茸だ。

「あ……」

 ふと目が留まったところに、漆黒のカサを持つ茸が生えていた。漆黒を周辺にばらまいているかのように、淡い光はそこだけ塗りつぶされたかのようになかった。《黒輪茸》の、光を吸収する習性によるものだ。

「あった……」

 シェリーナは《黒輪茸》をとるべく、そこに近づいた。《黒輪茸》には強力な毒性がある。シェリーナはアイテムストレージから、紫色の石のついたネックレスを取り出して、装備した。ダメージ毒を無効にする《デスヴァイオレット》という銘のアクセサリーだ。

 《黒輪茸》に手を伸ばし、優しくむしりとる。一瞬真黒い光を発してから、《黒輪茸》は光を失った。シェリーナはそれをアイテムボックスにしまう。

「よし……これで……」

 その直後。

 ビィー!ビィー!という音が聴覚いっぱいに響いた。《索敵アラート》だ。すぐに視界右端の簡易マップに視点を合わせる。そこには、モンスターを示す赤色のカーソルが三十近く表示されていた。

「……モンスターハウス!?」

 《モンスターハウス》。ダンジョンの特定エリアにまれに存在するエリアで、そこにプレイヤーが踏み込むとモンスターが一斉に襲ってくるのだ。場所はランダムだったり、固定だったり。出現周期も不明のため、厄介なトラップとして知られていた。

 モンスターが次々と姿を現す。中には今まで戦闘にならなかった、高位のモンスターさえもいた。シェリーナの実力ではこれらを突破していくことは難しい……。

 かくなるうえは。シェリーナは《隠蔽》のスキルを起動させると、通路めがけて走り出した。シェリーナの装備しているフード付きローブ(フーデッドローブ)には、隠蔽率をあげる効果(ハイディング・ボーナス)があるのだ。少し激しい動きをしたところでは、《隠蔽》を看破されることはない。

 しかし。モンスターたちは、そんなシェリーナの予測を裏切る行為に出た。モンスターたちの中から、目を布切れのようなもので隠した鬼が現れた。その鬼の体が発光したかと思うと……次の瞬間には、シェリーナの隠蔽が看破されていた。

「な!?」

 《サトリ・チェイサー》と言う名のそのモンスターが、にやりと笑った気がした。

「オオオオッ!!」

 モンスターたちが雪崩て襲ってくる。《バールドライヴ》を振ってモンスターたちを打ち返す。しかし、いかんせん彼らは数が多い。すでに光点の数である30は斬ったと思われるが、まだまだ、あとからあとからモンスターがわいてくる。

「(これじゃぁ……受けきれない!!)」

 ソードスキルを発動。《ホリゾンタル・スクエア》の四連撃の水平切りが、モンスターたちを薙ぐ。シェリーナの戦いは、基本《ヒット&アウェイ》だ。かつてシェリーナが前線で戦っていたころの攻略パートナーの戦い方に起因する。

「きゃぇあ―――――!!」

 一体のゴブリンが奇声をあげて飛び掛かる。シェリーナの剣が叩き落される。武器を落とさせる行動をとってくるモンスターにはこのダンジョンで遭遇していなかったので、シェリーナに隙が生まれる。

「しまった!!」

 その隙を狙ったかのように、モンスターが打ちかかってくる。シェリーナの装備は決して弱くはないが、重装備ともいえない。フード付きローブ(フーデッドローブ)の耐久値が突き、消滅する。シェリーナの美貌があらわになる。一体のリザードマンの蛮刀が振り上げられる。ソードスキルが発動。視認できない速度で打ち下ろされる剣。シェリーナは死を覚悟した。

「(キリトさん……キリトさん……!!)」

 目をぎゅっとつむるシェリーナ。

 しかし。切り裂かれる衝撃は、いつまでたっても来なかった。代わりに感じたのは、爆発の衝撃。凄まじい熱気。モンスターたちの悲鳴……。

 
 目をあけると、そこにモンスターは一体もいなかった。

 代わりにそこにいたのは……魔導服(ウィザードローブ)とでもいうのか、そんなフード付きローブ(フーデッドローブ)に身を包んだ、一人のプレイヤーだった。そのプレイヤーはシェリーナを一瞥すると、逃げるようにその場を去って行った。 
 

 
後書き
 いかがでしたでしょうか。次回からは一日一話の公開を目指します。ALO編からは更新がストップしますがご了承ください。

 それでは次回もお楽しみに。 
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