少年と女神の物語
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第二十二話
俺が学校からかえって来たら、急になにかに抱きつかれた。
「ちょ、なに・・・って、林姉か」
俺は一瞬焦ったが、林姉だと分かり一気に冷静になる。
「さて、何でこんな状況?」
「だって・・・学校に行ってる間家族の誰とも会えないんだよ?これまでは耐えれたけど・・・もう限界!」
要するに、半日近い間家族に会えないことに耐えられなくなったらしい。
家族への依存度が高くなったよなぁ・・・
「そういえば、同じ学校に家族がいないのは初なのか」
「うん・・・だから、誰かが帰ってきたらギューってするの!」
新手のトラップか、と突っ込みたい気持ちをおさえ、ソファでくつろいでいるリズ姉に視線を送る。
「リズ姉も、これ喰らったの?」
「いや、私は避けた。私の時は急に飛び込んできたから、避けやすかったな」
「リズちゃんったらね、当然のように避けて、そのまま見捨てていったんだよ?酷いと思わない?」
「当然の反応だろ・・・はぁ、林姉、少し離れて」
と言いながら、俺は林姉をなかば引き剥がすようにして離れ、リズ姉の座っているのとは別のソファに座る。
そして、泣きそうな顔になっている林姉に、声をかける。
「林姉、あんまり抱きつかれてると理性が限界を迎えそうだから、膝枕に変えてもいい?」
その瞬間、林姉の顔が一気に笑顔になり、
「ありがとう!ムー君大好きっ!」
「おわ!?」
結局抱きつかれた。
それも、助走をつけて思いっきり飛び込んできたので、俺はソファごとひっくり返った。
「じゃあ、遠慮なく~」
そして、ソファを戻したら、林姉はすぐにねっころがったので、取り合えず頭を撫でることにした。
「優しいんだな、武双は。私なら、無視して自分の部屋に戻っていたぞ」
「まあ、そこまで面倒でもないしね。ただし、帰ってきたところを急に抱きつくのは禁止。いいね、林姉?」
「は~い!!」
もう、どっちが年上なのか分かったもんじゃない。
少なくとも、絵だけを見れば俺が年上だろう。
「そういえば、他にも誰か被害に会ってるの?俺、今日はかなり早くに帰ってきてるけど」
いつもなら生徒会の仕事の分遅いのだが、今日は昼に開いた分放課後の会議は中止になり、部活をやっている面々より早く帰ってこれたのだ。
「ああ、御崎だけが被害にあったな。受験で部活を引退したのが裏目に出た」
「なるほど。崎姉はどんなリアクションを?」
「抱き締めながら頭を撫でて、慰めていたよ。さも、姉が泣きじゃくる妹をあやすように」
「簡単に目に浮かぶな・・・」
本当に、年齢は逆なのだろうか?
実は一個くらい違うんじゃ・・・
「すぅ・・・すぅ・・・」
「もう寝た・・・」
「相変わらず、イーリンは子供っぽいな。武双よりも年下なんじゃないか?」
「いや、そこまで年下ではないだろ・・・ないよな?」
リズ姉に言われて、少し心配になってきた。
「ところで、武双の膝はもう一つ空いてるよな?」
「なんだろう・・・最近読んだ本でこんな流れがあった気が・・・」
確か、三バカに借りたライトノベルだった気がする。
「知ってるなら話は早いな。私も寝る」
「間違いなく、自分の部屋で寝た方が楽だぞ?」
「部屋に戻るのが面倒くさい」
「怠惰だなぁ・・・」
言ってる間にリズ姉は俺の膝を枕にして横になり、一つ大きなあくびをして、
「じゃあ、おやすみ。夕飯の時間になったら起こしてくれ」
すぐに寝息をたて始めた。
疲れていたのか?・・・いや、リズ姉はいつでもどこでも寝れる人だった。
何でわざわざ俺の膝を選んだんだか・・・・
◇◆◇◆◇
さて、あの後二人が起きて夕食を食べてから、俺はある場所を訪れていた。
世界中を飛び回っている両親から、ここに同族が来ている、と連絡を受けたのだ。
「さて、来たはいいけどどうしようか・・・」
入り口は目の前にあるけど、バカ正直に入っていったら面倒な気がする。
とはいえ、他に入るところは・・・お、あそこでいいか。
「侵入キットの中には・・・あった、ガムテープ」
そして、軽く跳躍して窓ガラスの柵に手をかけ、ガムテープを張り、窓ガラスを力づくで割って中に侵入した。
持って来てよかった、侵入キット。押し付けてきたマリーに感謝だな。
「ガラスから王に会いに来るとは、いささか礼に欠けているのではないか?神代武双よ」
「そうか?同じ王が会いに来るなら問題ないと思うぜ、俺は」
そこにお目当ての人がいたことには驚いたが、俺はすぐに自分のペースに戻る。
「貴様、何者だ!王の前で無礼であるぞ!」
なんかそんなことを言っている人がいるが、無視でいいのだろうか?
いや、なんか剣を構えてるし・・・死ぬことはないとは言え、変に攻撃されても困るか。
「一応、無礼って言うなら君のほうなんだけどね・・・さっきヴォバンが言ってはいたけど俺は神代武双。七人目のカンピオーネだよ」
一瞬固まった後にすぐかしこまり始めたので、俺はかしこまる必要がないことと変に口出しをしないことを頼んだ。
「さて、今回はなんのようだ?前回同様、決闘と言うわけでもあるまい?」
「当然だ。最近は八人目とも手合わせしたし、そこまで戦いに飢えてない。ただ、少し確認にきただけだ」
俺は何かあったらすぐに対応できるだけの準備はしつつ、ヴォバンにたずねる。
「今回、アンタは何が目的で日本に来た?まさかとは思うが、契約を破る気じゃないだろうな?」
「無論だ。あの契約は貴様が勝利して私と交わしたもの。今回来たのは、我が無聊を慰めるものを呼ぶためだ」
カンピオーネの無聊を慰められる存在なんて、二つしか存在しない。
呼ぶ、となるとどちらなのかは簡単に絞ることが出来る。
「そういや、昔やってたな。まつろわぬ神将来の儀だっけ?」
「その通りだ。私は才能のある東国の巫女が一人いたのをよく覚えていてな」
「へえ、アンタがいたことを覚えてるって、結構なことじゃないか?名前は?」
「ふむ、なんだったか・・・覚えているかね、クラニチャール?」
「万里谷祐理でございます、公爵」
あら、知り合いの名前が出た。
確かに、祐理はかなり才に恵まれてるし、目をつけるのも当然だろう。
だが、となると護堂がこの件にかかわってくるのは確定で・・・
「まあいいや。くれぐれも、この件にうちの家族を巻き込むなよ?」
「無論だ。二次被害に巻き込まれることはあるかもしれんが、直接手を出すことはない。それはそれで楽しいかもしれんがな」
まあ、皆かなりの実力者だし、一人はまつろわぬ神だ。
こう思うくらいは、許すしかない。
「それだけ聞ければ十分だ。じゃあ最後に一つ忠告を。新米だからってなめてかかると痛い目を見るぞ」
「そうか。頭の片隅に位は置いておこう」
ヴォバンがそう言うのを聞いて、俺は来た窓から帰っていった。
さて、今回の件は観客に回って、邪魔が入らないようにするとしよう。
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