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お正月

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第五章

 けれど朝起きるとだった、部屋の中にはいるにはいたが。
 部屋の中で従兄弟連中のうち何人か、特に仲のいい面子と雑魚寝になっていた、部屋の中には酒瓶とコップ、それとつまみがあった。
 目を覚ますと頭が痛い、完全に二日酔いだった。
 それでも何か起きて部屋から出て廊下を歩いているとだ、お袋前から来て俺に言ってきた。
「かなり辛そうね」
「ああ、飲んだからさ」
 それでだとだ、俺も返す。
「かなり」
「お風呂あるわよ」
 お袋はその俺にこう言って来た。
「入る?」
「それで二日酔いをだよな」
「もう結構人入ってるけれどね」
「いいさ、流石に吐いてたりしてたらまずいけれどさ」
「それはなかったから」
 幸いだ、風呂場の中で吐いた人はいないというのだ。
「というか皆飲んでも吐かないでしょ」
「強い面子ばかりだからな、親父の血筋って」
「そうでしょ、だからね」
「皆大丈夫か、そこまでは」
「二日酔いになってる人多いけれどね」
「俺もだよ、今も頭がさ」
 痛くて叶わない、死にそうな位だ。
「じゃあ風呂に入って」
「そう、二日酔い解消しなさい」
「やっぱり二日酔いには風呂だよな」 
 これが一番だと思う、実際に。
「じゃあな」
「ええ、皆今日はね」
「今日は?」
「それぞれのお家に帰るから」
 二日はだ、そうするというのだ。
「早いうちに復活しなさい」
「わかったよ、じゃあな」
「ただ。今日は今日で檀家の人が来るから」
「そっちか、今度は」
「三日もね」
 二日と三日は檀家の人達がお寺に来てだというのだ。
「色々と飲んで食べるから」
「正月だよな、本当に」
「お寺のお正月も忙しいわよ」
 神社は一年で一番忙しい時だ、けれど寺も年始は忙しい。昨日みたいなこともあれば檀家の人達が来てくれるからだ。
 それでだ、今日は何かというとお袋が言ってきた。
「お寿司頼んでるから」
「寿司か、今日は」
「お酒もね、じゃあいいわね」
「ああ、寝正月返上でな」
「というかあんた毎年寝正月しようとするわね」
 お袋は俺にこうも言って来た。
「本当に」
「だってさ、たまにはさ」
「無理なのわかってるでしょ」
「まあな、それでも」
 夢の一つだ、それでなのだ。
 俺は今年こそは寝正月を決めようと思っていたのだ、けれどそれは親戚が集まって檀家の人達が来てだった。
 今年もない、その俺にお袋はさらに言う。
「お寺にいたら寝正月はないわよ」
「絶対にか」
「当たり前でしょ、神社もお寺も年末年始は忙しいのよ」
 師走という言葉も実はお坊さんが走るかららしい、親父が言うには。
「だからいいわね」
「ああ、今日も」
「今年もよ、これからも」
 寺は俺が継ぐことになっている、俺もそれを受け入れているしそれならだった。
「お正月は寝られないから」
「そうだよな、じゃあな」
「ええ、お風呂ね」
「今から行って来るよ」
 俺は一旦お袋と別れて風呂に入って酒を抜いた、それで親戚の人達を見送ってから入れ替わりで来た檀家の人達の相手をした。俺の夢の寝正月は今年もこれからもなかった。


お正月   完


                      2014・1・2 
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