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緋弾のアリアGS  Genius Scientist

作者:白崎黒絵
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イ・ウー編
武偵殺し
  9弾 理子との密会

 (あや)に頼まれて青海に買い物に行った翌日。

「理子」

 メールで呼び出しておいた通り、理子は女子寮の前の温室にいた。温室とはつまりでかいビニールハウスで、いつも基本的に人気(ひとけ)が無く、秘密の打ち合わせには便利な場所なのだ。

「ミーくぅーん!」

 バラ園の奥で、理子(りこ)がくるっと振り返る。

 理子はアリアと同じくらいチビでこれまたアリアと同じく、いわゆる美少女の部類に入る。ふたえの目はキラキラと大きく、緩いウェーブのかかった髪はツーサイドアップ。ふんわり背中に垂らした長い髪に加えて、ツインテールを増設した欲張りな髪型だ。

 そして何よりも注目すべき理子の最大の特徴が、

「相変わらずの改造制服だな。今回は白ロリ風か?」

「正解正解!大正解!これは武偵校(ぶていこう)の女子制服・白ロリ風アレンジだよ!見て見て!この白いフワフワのところがポイントなの!可愛いでしょ!」

「はいはいそうだな。というか、見るたびに服が違う気がするんだが、おまえはいったい何着(改造)制服を持ってるんだ?」

 そう言われて指を折り折り改造制服の種類を数えはじめた理子を見下ろしつつ、俺は(かばん)からゲームの箱が入った紙袋を取り出した。

「理子、数えるのは後にしてこっち向け。ここでの事はアリアには秘密だぞ。いいな」

「うー!らじゃー!」

 びしっ。

 理子はキヲツケの姿勢になり、両手でびびしっと敬礼(なのか?あれは)ポーズを取る。

 俺が紙袋を差し出すと、理子は袋をびりびりと破いていった。ふんふんふん。荒い鼻息。まるでケモノみたいだな。

「うっっっわぁーーーーー!『しろくろっ!』と『白詰草(しろつめくさ)物語』と『(マイ)ゴス』だよぉー!」

 ぴょんぴょん跳びはねながら理子がぶんぶん振り回しているのは、R-15指定、つまり15歳以上でないと購入できないギャルゲーだ。

 ――――服装からも分かる通り、理子はオタだ。

 しかも女のクセにギャルゲーのマニアという、最近売れた某妹ものライトノベルのメインヒロインみたいな奇特な趣味の持ち主なのだ。中でも自分と同じようなヒラヒラでフワフワデな服を着たヒロインが出てくる物に強い関心を示す。

 もちろん理子も15歳以上なので、これらのゲームを買うことはできる。しかし先日、理子はゲームショップも兼ねている学園島のビデオ屋で、R-15のゲームを売ってもらえなかったとぶちぶち言っていた。どうやらバイトのお姉さんが理子の身長を見て中学生と判断したらしい。そこで俺が代わりに俺が買ってきてやったというわけだ。

 自分のでもないゲームを買いに行くなんてのは滅茶苦茶めんどくさかったが、これもアリア対策のためだ。

 ――――アリアはなぜ、俺をドレイにしたがるのか?

 さすがにそろそろ鬱陶しくなってきたアリアを追い払うために、最初に解き明かすべきは、その謎なのだ。

 何か明確な理由があるのなら、それを取り除かねばならない。

 で、その理由をアリアが教えてくれない以上、こっちでアリアの事を多角的に調べ、推測するしかない。武偵(ぶてい)同士の戦いは、まずは情報戦と相場が決まってるからな。

「あ……これと、これはいらない。理子はこういうの、キライなの」

 あれ。全て理子好みのゲームだったはずなんだが。

 ぶっすぅー、と、ふくれっ(つら)で理子が突っ返してきたのは『(マイ)ゴス』の2と3、続編だ。

「なんでだ?これ、『(マイ)ゴス』の続編だろ、『(マイ)ゴス』と話以外変わらないじゃねえか」

「全然ちがう。『2』とか『3』なんて、蔑称(べっしょう)。個々の作品に対する侮辱(ぶじょく)。イヤな呼び方」

 理子の価値観はよく分からないな。いや、それは誰に対しても同じなんだけどさ。アリアの価値観もよく分からないし、そこもきちんと理解していかないと、アリアが俺をドレイにしたがる理由もわからないかもな。

「まぁ……とにかく、この2つ以外のゲームをくれてやる。そのかわり、昨日の夜に依頼した通り、アリアについて調査したことをきっちり話せよ?」

「――――あい!」

 理子はバカだ。まごうことなきバカだ。しかしこのバカ、バカなりにいくつか長所を持っている。その1つが情報収集だ。ネット中毒患者な上にノゾキ・盗聴・盗撮・ハッキング等々といった、まことに武偵向きの趣味を持った理子は情報収集能力がとても高く、言うなれば現代の情報怪盗である。おかげで武偵ランクはAだとか。

「よし。それじゃあとっとしろ。俺はトイレに行くフリをして小窓からベルトのワイヤーを使って脱出してきたんだ。アリアにバレて捕捉されるのは時間の問題なんだからな」

 俺は周囲を見回してから、そこら辺にあった柵に腰を下ろす。

 理子はゲームをなんでか服にしまいつつ、ちょっとジャンプしながら俺の隣に座ってきた。

「ねーねー、ミーくんはアリアのお尻に敷かれてるの?カノジョなんだからプロフィールくらい自分で聞けばいいのに」

「カノジョじゃねえし、聞いたけど教えてくれなかったんだよ」

 自分のことを聞かれるとすぐはぐらかすからな、アリアは。他のことは聞いてもいないのに話してくるくせに。

「えー?2人は完全にデキてるって噂だよ?昨日、ミーくんとアリアが一緒に青海の公園を歩いてったっていうんで、アリアファンクラブの男子は「ミズキ殺す!」って言ってて、ミーくんのファンクラブの女子は「アリア暗殺作戦を実行するべきときがきたようね!」って大騒ぎになってたもん。がおー」

「指でツノを作らんでいいから。というか俺のファンクラブなんてあるわけないだろうが」

 アリアと一緒に青海の公園を歩いてたことは否定しない。嘘じゃないしな。見られる可能性があるのに離れて歩かなかったアリアが悪い。

「ねえねえ、どこまでしたの!?」

「どこまでって、何がだよ」

「えっちいこと」

「するわけねえだろうが。そもそも、アリアは俺の趣味じゃない」

 いくら顔が可愛かろうと、アリアは性格が悪すぎる。

「ふむふむ。ミーくんは貧乳より巨乳の方が好きと」

「誰が胸で判断したと言った。性格の問題に決まってるだろ」

「性格が良くて胸が大きい娘……つまりミーくんの理想の女の子は理子みたいな女の子ってことだね!?」

「違うから。ったく、理子はいつもそっち方向に話を飛躍させるな。それ、悪いクセだぞ」

「ちぇー」

「それより本題だ。アリアの情報……そうだな、まずは強襲科(アサルト)での評価を教えろ」

「はーい。んと……まずはランクだけど、Sだったね。2年でSって、片手で数えられるくらいしかいないんだよ」

 理子の話に、俺は別段驚きはしなかった。

 アリアの、チャリジャックの時の身のこなし。

 あれはどう考えても常人のレベルじゃなかったからな。

「理子よりもちびっこなのに、徒手格闘もうまくてね。流派は、ボクシングから関節技まで何でもありの……えっと、バーリ、バーリ……バリツゥ……」

「バーリ・トゥードか?」

「そうそうそれそれ。それを使えるの。イギリスでは縮めてバリツって呼ぶんだって」

 俺は体育倉庫でアリアにぶん投げられた時のことを思い出す。

 確かにあれは凄かった。受け身を取るので精一杯だったからな。

拳銃(けんじゅう)とナイフはもう天才の域。どっちも二刀流なの。両利きなんだよあの子」

「それは知ってる」

 実際に見たことあるし。

「じゃあ、2つ名も知ってる?」

 2つ名――――豊富な実績を誇る有能な武偵(ぶてい)には、国際武偵連盟から2つ名がつけられる。

 アリアは若干16歳にして、すでに2つ名を持っているのか。

 俺が首を横に振ると、理子はニヤリと笑う。

双剣双銃(カドラ)のアリア」

 ――――双剣双銃(カドラ)

 武偵用語では、二丁拳銃ないし二刀流のことを、ダブラと呼ぶ。

 これは英語のダブルから来てるのだが、そこから類推するに4つ――――つまりカトロの武器を持つという意味の2つ名なんだろう。たぶん。

「笑っちゃうよね。双剣双銃だってさ」

「笑いどころがよくわからないんだが……まあいい。他には……そうだな、アリア武偵としての活動について知りたい。アリアにはどんな実績がある?」

「あ、そこはスゴイ情報があるよ。今は休職してるみたいなんだけど、アリアは14歳のからロンドン武偵局(ぶていきょく)の武偵としてヨーロッパの各地で活動してたらしいんだけど……」

 少し声をシリアスにさせながら、理子はその大きな眼で俺を見上げてきた。

「その間、一度も犯罪者(ターゲット)を逃がしたことがないんだって」

「逃がしたことが……ない?」

「狙った相手を全員捕まえてるんだよ。99回連続、しかも全員たった一度の強襲(きょううしゅう)でね」

「なんだよ……それ……」

 信じられない。Sランクという高ランクや、16歳にして2つ名持ちということから凄い奴だってことはわかっていたが……。

 犯罪者の逮捕などという仕事が武偵に降りてくる時は、たいてい警察の手に負えないような奴を押しつけられるのが常だ。武偵はそれをしつこく何度も追って(これを武偵用語で強襲と言う)やっと逮捕するものなのだ、普通。しかしアリアは99回も連続で、しかもすべて一発逮捕らしい。

 そんなバケモノみたいな奴に追われてるのか、俺は。

 そう思うと気が滅入りそうだったので、俺は話題を変えることにした。

「あー……他には、そうだな。体質とかは?アリアは見た目的にハーフっぽいが」

 髪も眼も赤いし、日本人離れしてぱっちりした二重まぶただし。

 そもそも名前も、『神崎・H・アリア』だしな。

「惜しい。ハーフじゃなくてクォーターなんだよ、アリアって。お父さんがイギリス人とのハーフなんだって」

「ほうほう」

「そんでね。イギリスの方の家がミドルネームの<H>家なんだよね。すっごく高名な一族らしいよ。おばあちゃんがDameの称号を持ってるんだって」

「Dameって、おいおい。ってことはアリアって貴族じゃねえーか」

「そうだよ。リアル貴族。でも、アリアは『H』家の人たちとはうまくいってないらしいんだよね。だから家の名前を言いたがらないんだよ。理子は調べたから知っちゃってるけどー。あの一族はちょっとねぇー」

 イギリスの一族で、高名で、しかも貴族ってことは……

「まさか、『H』家ってあの有名な探偵の一族なのか?」

「さあ、それはどうでしょう。理子は親の七光りとかそういうの大っキライだからねー。このことに関してはさっきあげた以上の情報はあげない」

 理子は頑なに言おうとしないが、その態度で逆に確信を持てた。それにしても、マズイな。アリアが本当にあの有名な探偵の血を引いているのだとしたら、追い払うのは不可能かもしれない。

「はあ。どうやって追い払ったもんかな……」

「がんばれやー!」

 と、俺の背中を叩こうとしたらしい理子のちっこい手が――――

 ぶんっ。

 思いっきり空振った。

 そして、ばし、と俺の手首をブッ叩く。

「うぉ?」

 がちゃ。

 その勢いで、俺の腕時計が外れて足元に落ちた。

 ……拾い上げると、金属バンドの三つ折れ部分が外れてしまっている。

「うぁー!ごっ、ごめーん!」

「別にいいよ。これくらいなら余裕で修理できるし」

「だめ!理子に修理させて!いっぱい修理させて!依頼人(クライアント)の持ち物を壊したなんていったら、理子の信頼に関わっちゃうから!」

 俺から腕時計をむしり取ると、理子はセーラー服の襟首をぐいーっと引っ張って開け、すぽっと胸の谷間にそれを入れて……っておい!

 俺は慌てて目を逸らす。危なかった、あのまま見てたら理子に「ミーくんは人の胸を覗いてくる変態」という噂を流されるのは目に見えてるからな。

「ミーくん、どうしたの?なんか顔が赤いけど」

「な、なんでもない!」

「そう?じゃあ、他に何か欲しい情報ある?」

「い、いや、もうそのくらいでいい」

 このまま話してると胸を見そうになった(決して見てはいない!)ことがバレそうだったので、俺は慌ててそう言うと、そそくさと温室を後にした。 
 

 
後書き
皆さんこんばんは!白崎黒絵です!
今回はあまり間隔をあけずに投稿できました!奇跡ですね!まあ、冬休み中でやることがないからなんですけど。宿題?何それ?美味しいの?
さて、これ以上冬休みの話を続けると厄介なことになりそうなので、話の内容について書いておきましょうか!
えっと、今回の話は……タイトルにもあるように、ミズキと理子の密会ですね。明かされるアリアの秘密!(秘密というほどのものは無かったような気がしますが)<H>家の正体!(正体も何もモロバレですよね)と色々なことが明かされています。ついでにミズキと理子がイチャついて?おります。おのれミズキ、前回はアリア、さらにその前はあやや、そして今回は理子とイチャついているだと!?許すまじ!ミズキ!
と、自分で作った主人公への怒りのコメントはこのくらいにして、恒例のアレやりますか。
今回は、現代に生きる情報怪盗の理子からです!

「みーんなー!また次回も、<緋弾のアリアGS   Genius Scientist>をよろしくね!」

それでは皆様、また次回も早めに投稿するべく努力しますので、気が向いたら読んでやってください!
疑問、質問、感想などがありましたらコメントしてください!待ってます! 
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