WANDERER
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第三章
第三章
「本当にね」
「しかしな」
「しかし?何よ」
「俺、まだ別れたと思われてないんだよ」
「それは私もよ」
「そっちもか」
「ええ」
その通りだというのである。
「誰もね。まだ知らないわ」
「そうか」
「それでよ」
また言ってきた彼女だった。
「私ね」
「ああ、どうしたんだよ」
「今フリーだけれど」
「俺もな」
「部屋、家帰ってもないのよ」
憮然とした顔で話すのだった。
「何処にもね」
「実家なのにか」
「妹達が部屋取ったのよ」
それでだというのだ。
「それで。自分の部屋がなくてね」
「それはまた災難な話だな」
「反省してる?」
女はここでこう男に問うてきた。
「それで」
「反省か」
「浮気。二度としないわよね」
「どう思う?」
「そうね」
女は男の言葉に応えて彼の顔を見る。その顔は疲れきりぼろぼろになっていた。そのことは彼女にもよくわかることであった。
それでだ。女は言った。
「もうしないわね」
「そう思うんだな」
「懲りたみたいね。それだったらね」
女の方からの言葉だ。
「いいわ、もうね」
「そうか」
「部屋、そのままよね」
「手をつけられる状況じゃなかった」
これが男の返答だった。
「とてもな」
「そうなのね」
「鍵、これだったな」
男はだ。今度は自分から鍵を出してきた。無論あの鍵である。
「返すな」
「有り難う。それじゃあね」
「ああ。また一緒だな」
「正直。私も疲れてたし」
女は酒も目の前にあるソーセージやピザにも手をつけずにだ。話をしていた。それは男も同じだ。
「また二人でね」
「そうだな。一緒にな」
「いましょう」
こう話して元の鞘に戻った二人だった。
しかし周りはそんなことを知らずにだ。二人に言うのであった。
「さあ、食べて食べて」
「飲んで飲んで」
「彼氏持ち彼女持ちでもさ」
「飲んだり食べたりはいいから」
元々二人は数合わせだからだ。そうしろというのである。見れば彼氏彼女がいない面子はそれぞれお互いに楽しく話している。そちらは別世界だった。
「好きにしてさ」
「楽しくやろうよ」
「ああ、わかった」
「そうさせてもらうわ」
二人も周りの言葉に頷いた。そうしてだった。
顔を見合わせてだ。お互いに言う。
「そういうことでね」
「また二人だな」
二人で仲直りの乾杯をささやかにして飲んで食べる。だが周りはそんな二人のことを知らず勝手に騒いでいる。だが二人は確かに元に戻ったのだった。
WANDERER 完
2010・11・5
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