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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第41話 ティアナの迷い

「これがあの事件の真相よ………私がいけないの。狙われているって分かっていたのに油断して捕まった挙句バルトを間違った道へ進めてしまった………もしあそこで私がバルトを拒絶しなければバルトマン・ゲーハルトは生まれていなかったのかもしれない………結局私はあの時大事なものを2つ失ったわ。お父様とバルトをね………」

そんなカリムの悲しそうな顔を見て誰も返す言葉が無かった。
しかしそんな中、1人だけカリムに声をかけた人物がいた。

「じゃあバルトマンに会おうよ」
「ちょっと、ヴィヴィオちゃん!?」

いきなりそんな事を言うヴィヴィオになのはだけでなくはやてやフェイトも慌てた。

「だって悪い事して喧嘩したら謝るのが1番だよ!!なのはお姉ちゃんとバルトだって喧嘩したら戦ってその後謝るんだよ。戦って謝ればスッキリするよ!!」
「何やその物騒な仲直り方法は………」
「なのはのオハナシだね………私もそれで仲良くなったけど、世間から見たら危ない人だよね………」
「私だって普通にお話して仲良くなりたいよ?でも最初会ったときのフェイトちゃんやヴィータちゃんはみんな聞く耳持たないから………」
「だから先ずは痛めつけてから………」
「恐ろしいわ………バルトさん見つけて正解やな………」

昔のなのはの所業を思い出しながら呟くフェイトとはやて。

「なのはおねえちゃん流石だね!!」
「それ誉めてるよね!?」

そんななのはの言葉に皆笑い合う。

「でもそれで仲良くなるよ?だから先ずは会って謝るべきなんだよ!!あの時はごめんなさいって」

そんな迷いのないヴィヴィオの真っ直ぐな言葉。

「謝るか………そうね、先ずはそれが最初よね………でもまた会えるかしら………?」
「会えるよ!!バルトに連れてきてもらおう!!ヴィヴィオも協力する!!」

自分が狙われていたも事などすっかり頭から飛んでいたヴィヴィオ。

「ヴィヴィオちゃん!?ヴィヴィオちゃん狙われてるんだよ!?」
「大丈夫、バルトもいるし、なのはお姉ちゃんやみんながいるもん」
「そうだけど………」
「………まあヴィヴィオちゃんの言う通りや。悪いと思ったらちゃんと謝る。それって1番大事な事や。………こうなったら私も協力するしかないやな………」
「はやて………」
「そうですね………私も協力します」
「フェイトさん………」

そんな皆がヴィヴィオの声に賛同したのを聞き、1人渋っていたなのはも大きくため息を吐いた。

「分かったよ。じゃあみんなでバルトマン・ゲーハルトを捕まえよう!そしてカリムさんと合わせよう!!」

拳を込めて力強く言うなのはに皆が頷いた。

「ありがとう、みんな………」

そんな皆にカリムは深く頭を下げたのだった……













「…………」

機動六課の隊舎の前、バルトは気まずそうに1人立っていた。

「………予想以上に早く帰ってきちまったな………」

あれだけカッコつけて出て行ったのにまさか本当に3日ほどで戻ってしまったバルト。

『取り敢えず今は動くほどの情報がない。私の方でも引き続き調査はするからバルト君は引き続き六課で働いててくれ』
『いや、だが俺にも手伝える事が………』
『ハッキリ言って邪魔だね。だったらヴィヴィオ君のそばに居て守ってもらった方が良い』

………とバッサリ切られたバルト。
その日はイーグレイ家に泊まり、本日六課に帰ってきたのだった。

「さてどうするか………」
「何突っ立ってるんや?」

いきなり後ろから声を掛けられ振り向くとそこには六課の制服を着たはやてがいた。

「はやて!?何でここに!?」
「本局へ定期報告しに行ったんや。………それよりバルトさんこそ1人突っ立って何しとるんや?」
「いや、俺は………」
「まさか自分がバルトマン・ゲーハルトと同じって言うことを気にしとるんか?」
「いや………まあ…そうか………」

否定しようとしたが、考えてみるとそっちの方が格好がつくと思ったバルトはそうすることにした。

「別に気にせんでええで。カリムからバルトマンの事は聞いたし、私やフェイトちゃん、なのはちゃんの中ではそんなに悪い印象じゃなくなってるから」
「カリムが来てたのか!?………奴はまだバルトマンを?」
「待っとるよ。せやから私達は決めたんよ、バルトマンをカリムの所に連れて行くって」

そんなはやての言葉にバルトは口を開けて驚いていた。
そして、我に返ると………

「クク、ハハハハハ!!!」

大きな声で笑い始めた。

「何やいきなり………」
「いやな、バルトマンの野郎もこれじゃ諦めざるおえんだろうと思ってな………」

腹を抑え、笑うのを堪えながら答えるバルト。

「まあそれよりもバルトさん休み扱いにしといたから休んだ分仕事してな」
「ん?ちょっと待てはやて、有給はどうした?」
「いくら何でもいきなり、しかも大した理由も無しに取れるわけ無いやんか」
「そこは………ほら………はやての腕の見せ所だろ………」
「無理言うなや。………ってこんな感じで私と話している場合やないやろ?さっさとなのはちゃんとヴィヴィオちゃんに会いに行け!!」

バシン!!と大きな音を立てるバルトの背中。
はやては言葉の最後に背中に平手をしたのだ。

「報告は後でええから………さあ、行った行った!!」
「この野郎………」

痛む背中をさすりながら俺は隊舎の中へ入って行った………
















「………」
「あ…れ?バルト………さん?」
「あっ、バルトだ!!」

水着姿でバルトにタックルをかますヴィヴィオ。
しかしヴィヴィオにタックルをされてもバルトはビクともしない。

「何を………してるんだ?」

バルトのベットの上でなのはは上半身裸で水着を持っていた。
慌てて胸を腕で隠すがそれでもボリュームのある胸の大きさは良く分かる。

「なのはお姉ちゃんと水着を着てたの」
「ほう………それでなのはは裸女になっていたと………」
「ら、裸女じゃありません!!っていつまで見ているんですか!!」

顔を真っ赤のしながら叫ぶなのはだがバルトは気にせず冷蔵庫に向かって中から飲み物を取り出した。

「な、何で出て行かないんですか!!」
「いや、何で絶景から目を背ける必要がある?俺の事は気にせず着替えな」
「気にします!!」
「じゃあ俺を女と思って」
「思えません!!」
「お前処女だろ?」
「怒りますよ!!ってヴィヴィオちゃんの前で何て事言ってるんですか!!!」

なのはの言う通りヴィヴィオは興味を持ってなのはに「処女ってどんな女の子の事?なのはお姉ちゃんがそうなの?」と聞いてきた。

「えっとね、えっとね………お、大人な事だからまだヴィヴィオちゃんには早いかな………」
「私大人だもん!!」

子供扱いしたことで更に意固地になるヴィヴィオ。

「教えないとなのはお姉ちゃんの事こちょこちょするよ!!」
「えっ………」

手が塞がっている今、そんな事をされれば耐えきれなく自分の胸を晒すことになるかもしれない。

「さあどうするの………」

にじり寄るヴィヴィオになのはも後ずさるが無駄な抵抗に近い。

「ヴィ、ヴィヴィオちゃん………止めよう、ね?」
「嫌だ」

そう言ってくすぐろうとしたヴィヴィオだったがいきなり体は空に浮いた。

「いい加減にしろ、これでもしなのはが声を上げたら俺が無理矢理手を出したみてえじゃねえか」
「だって意地悪するんだもん………」
「お前にはまだ早い。なのは位に成長しないとな」
「なのはお姉ちゃんに………」

そう呟いて品定めするように今だ胸を腕で隠すなのはを見る。

「………あんなに大きくなるかな?」
「さあな。こればっかりは良く分からん」
「こんなに大きなブラジャーだよ?」
「ちょ!?」

持ち上げてバルトに見せるヴィヴィオからブラジャーを奪い取ろうとするが、片手な上に動けば見えてしまうかもしれない恐怖で弱々しい動きであるため、全く意味がない。

「誰がどれくらい成長するだなんて分からんものさ。もしかしたらフェイト以上に大きくなるかもしれないぞ」
「本当!?私頑張る!!」

そう元気よく言ってブラジャーから手を放すヴィヴィオ。
そんなヴィヴィオの発言にホッとするなのは。その内にブラジャーを回収した。

「それになのは」
「………何ですか?恥ずかしいのであまりじろじろ見ないで下さい」
「………だったら先ずはその乗っているタオルケットで体を隠したらどうだ?」

バルトにそう言われ、一瞬固まったが、直ぐにしたからタオルケットを引っ張り上げマントの様に体に巻き付けた。

「………何で早く教えてくれなかったんですか………?」
「だから絶景をわざわざ見ない奴がどこにいる。そうやって隠されたら綺麗な肌も見れねえだろうが」
「綺麗………?」
「………あっ。………ああ、まあな」

そんな素っ気ない答えだったが、言われたなのはは今すぐにでも飛び上がれる位嬉しい瞬間だった。

(滅多に誉めないバルトさんに褒められた!!!)

「ニヤニヤすんな気持ち悪い………」
「えっ〜可愛いでしょ私の笑顔?」
「ヴィヴィオ、着替えて飯に行くか」
「うん!!」
「流さないで下さい!!それにちょっと待って下さい!!」
「なのはも行くならさっさと着替えろよ」
「えっ?ここでですか!?………って着替えられるわけないじゃないですか!!」

そんな叫ぶなのはを置いて、ヴィヴィオはさっさと着替え終わってしまった。

「さあ行くか」
「うん」
「ま、待って………」














「………しかし人が全然いねえな」

昼時から少々時間が過ぎた食堂にはほとんど人がいなかった。

「今日はミッドの祝日ですよ?忘れたんですか?」
「いや、忘れちゃいねえが………だがこんなに人がいなくていいのか?」
「人数は少ないですけど今日に関してはローテーションで休みを交代しているので人数は少ないですけど問題は無いです」
「因みに部隊の奴等は?」
「ライトニングは全員地球の学校ですね。スターズのメンバーは皆元居た部隊の応援に向かいました」
「ほう………ここにいる誰かさんとは違ってスターズは忙しそうだ」
「わ、私も午前中は働いていました!!」

とそんな会話をしている内に食事の準備が終わった。

「はい、ヴィヴィオちゃん」
「ありがとう!!」

一番最初に受け取ったヴィヴィオは席をキョロキョロ見渡し、空いていた窓側の席に座った。

「2人共こっちこっち!!」
「………ったく、何でああテンションが高いんだが………」
「嬉しいんですよ、バルトさんと居られるのが」
「なのは、お前もだぞ」
「はい、ありがとうございます。………それでですねバルトさん、実はバルトさんの部屋で水着に着替えていた件なんですけど、今度3人で室内プールに行きませんか?夏に入る前にヴィヴィオちゃんに泳ぎを教えてって言われたんです。だから水着に着替えていたんですけど………」
「俺に自慢の胸を見せたと………」
「見せたんじゃ無いです!!見られたんです!!!」

そんななのはの叫びの後、ガシャーンと食器が落ちる音が響いた。

「なのはちゃん、とうとうそこまで大胆に………」

落とした食器を拾いながらはやてが呟いた。

「はやてちゃん!?違うよ、違うからね!!」











「バルトさん、なのはちゃんの胸どうやった?」

はやてとリインが加わり5人で食事を始める。
最もこの話にはリインとヴィヴィオは加わらず2人で楽しそうに話しているが………

「こいつ結構着痩せするんだな。予想以上に出かかったし、スタイルも良かった」
「一緒に住んでいた時は見てないんか?」
「住んでないから!!ただよくお邪魔してただけだから!!」
「まあそんなラブコメの主人公みたいな展開は無かったな」
「ええ~つまらへんなぁ………零治君なら普通に何か起こしてくれるんやけどなぁ………」
「………確かに零治君なら何か起こしてくれそうだね」
「零治、何やってるんだ………」

と呟くバルトだった。

「まあそれでもフェイトちゃんはもっとでかいで」
「ってかてめえら全員エロい体してるよな」
「エロい言わないでよ………」

もう諦めたのか小さく縮こまりご飯をつまみながら呟く。

「何の話ですか?」
「なのはお姉ちゃんね、バルトの前で裸になったの!」
「ええ~!?」
「違うよ、違うからね!!」

慌ててヴィヴィオの言った事を一生懸命否定するがリインは驚き戸惑っている。

「まあその件は置いておいて………この際やし、3日間何してたんか教えてもらってええか?」

そうはやてが切り出すと食事をしていたバルトの手が止まる。
そして周りを見回して、皆聞きたそうな顔をしたのを確認して口を開いた。

「協力者を探していた」
「協力者?」
「誰の事や?」

「蛇の道は蛇って事さ。今は全く活動していないが過去に色々やっていた奴にな」
「………過去、犯罪を犯してた人って事?」
「ああ。因みに1度捕まった奴じゃないぞ」
「………って事は次元犯罪者って事なんか?」
「ああ」

淡々と肯定したバルトを見て流石に驚きを隠せないなのはとはやて。

「バルトさん………」
「なのは、言いたいことは大体分かる。………だが俺はヴィヴィオの為ならどんな手段でも使うつもりだ。例え俺自身が犯罪者になってもな」
「バルトさんそれじゃあ………」
「ダメだよ!!」

机を叩き立ち上がったヴィヴィオは睨みつけながらバルトの顔を見た。

「バルトもなのはお姉ちゃんもみんなも一緒にいるの!!絶対に誰もかけちゃいけないの分かった!?」
「お、おう………」

いつも以上の勢いのヴィヴィオに押され、つい返事を返してしまった。

「バルトさん、もうバルトさんとヴィヴィオちゃんは一心同体なんです。離れちゃ駄目なんです。それはちゃんと理解してください」
「………ああ」

ありがたく思いながら素っ気ない返事しか出来ないバルト。

「………それは取り敢えず保留にしとこか。どっちにしろ逮捕出来へんかったら明るみに出ることのない話やしな。それでも協力者って一体誰なんや?」
「………教えられない。奴との約束なんでな」
「そうですよね………でなきゃ管理局員のバルトさんに協力するなんて言わないはずですぅ………」
「そやなぁ………」

リインの言葉に仕方あらへんなぁ………と呟きながらお茶を飲むはやて。

「後バルトさん、バルトマン以外にもヴィヴィオちゃんを狙ってる人って誰なんです?バルトさん知ってそうな言い方ですけど………」
「………それは言えない」
「また言えないんか?結局秘密ばっかりやな」
「知ったことが分かれば六課を取り潰されるかもしれん。それでも良ければ話すが………」
「………どういう事や?」
「はやて、お前なら気がつくかもな。だが今の所口に出すのはやめた方がいい」

そう言われて考え始めるはやてだったが、途端に顔が真っ青になった。

「まさか………でもバルトさんこれは元帥自ら………嘘やろ………?」
「お前が誰の事を思ったかは分からんが、その人物が黒かは分からん。だが必ず居る筈だ。………取り敢えず頭の隅に置いておいてくれ」
「………分かった。せやけどバルトさんは平気なんか?そこまで知っていてここにいるのは危険なんやないか?」
「………実は高町家に泊まった時、映像だったがその本人と話した。だが奴は俺には興味が無く、何かの鍵を探していた。それが恐らくヴィヴィオお前の事だ」

「ふぇ!?」

難しい話で飽きていたヴィヴィオだったがいきなり話に入れられ変な声を上げてしまった。

「………何でヴィヴィオちゃんなんです?」
「それは………俺にも分からん。だが、ヴィヴィオの元の人間が重要な人物でそれを利用したいのかもな………」

少し悩んだバルトはヴィヴィオの事、そして残っていたゆりかごの件については秘密にした。

「ヴィヴィオちゃんがね………ヴィヴィオちゃんの珍しい所って言えばやっぱり………」
「な、何………?」

じっと皆から見つめられ、流石のヴィヴィオも視線から逃れるように椅子から立ち上がった。

「その綺麗な目だよね………」
「厨二やな」
「厨二?」
「はやてちゃん、ふざけない」

首をかしげるリインを見ながらなのはが言った。

「せやな。………せやけど、やっぱり珍しいのってこの綺麗なオッドアイやな」
「………あれ?そういえばはやてちゃん、この目の色って何処かで見たことありませんでした?」
「何処か………う~ん、確かにリインの言う通り何処かで見たような………どこやったっけ?」
「思い出せないですぅ………」
「御馳走様」
「あっ、ヴィヴィオちゃん食べ終わったんですね。私達も先に行きましょうか?」
「だな、こいつらは頭を使うのに集中しているみたいだしな」
「先行ってるね~」

そう言って一生懸命思い出そうと苦悩する2人を尻目に、3人は食器を片付け、食堂を後にしたのだった………


























「ねえねえティア、これからどうする?」
「当然、訓練よ。私には少しも休んでいる余裕は無いの」

なのは達が食事をしている同時刻。
早々と仕事が終わったティアナとスバルは丁度部隊を後にしていた時だった。

「ねえティア最近どうしたの?ちょっとハイペース過ぎだと思うよ。なのはさんにも言われてたじゃん、動きが悪いって。自分で訓練して実際の訓練で失敗したら意味ないよ」
「………それでもみんなより弱い私は人一倍努力するしかないの………スバルは休んでれば良いわ。私は六課のシミュレーター室を借りて訓練するから」
「ティア………」

スバルに背を向け、歩いて行くティアナを見ながらスバルはしばらくその場で立ち尽くしていた………







「………って事があったんです」
「なるほど……… ティーダも心配していたが、やはりそうなったか………」

ランスター家。あの後、スバルは真っ直ぐランスター家に向かった。
祝日な為訓練校も休みの状態であり、スバルが訪れた際にはトーレがいた。

「その……ティーダ先生は何処へ行ったんですか?」
「昔馴染みの会いに行くと出て行った」
「せっかく休みなんだし一緒に出掛ければいいのに………」
「全くだ」

そう言って互いに笑い合う2人。

「さて、話を戻すか。ティアナの件だがティアナは近いうちに必ず失敗する」
「失敗………ですか?」
「ああ。ティアナは自分の事を分かっているようで分かっていない。だから今している訓練も全く意味が無いとは言わないが自分の為にはならないだろう」
「そんな………ティア誰よりも一生懸命に取り組んでいるんですよ!?」
「だが、そのやり方を間違えていれば意味も無くなる」
「そ、それは………確かに」
「全く、困ったものだ………」

と呟きながら自分で淹れたコーヒーを飲むトーレ。

「私は………どうすれば良いんでしょうか?」
「スバルはどうしたい?」
「私は………例え失敗だとしてもティアが後悔しないのであればそれで良いと思います」
「それは今のままティアナの無理に目を瞑ると言う事か?」
「だから私はティアに付き合うことにします。互いに互いを見てれば更に良くなると思うし、限界だと思ったら私が力ずくでも止めます!」

真っ直ぐにそう言うスバル。

(全く、昔からそこは変わらんな。………相棒のためなら自分もと言う事か………)

「ああ、それでいい。今の所ティアナは誰がどう言っても聞こうとはしないだろうし、無理矢理止めてもまた始めるだろう。例えティーダでもな。だから自分で気がつくしかない、自分のコンプレックスを解消するにはな。恐らくそれまでにたくさん挫折を味わうだろう。………私からのお願いだ、ティアナを支えてやってくれ」
「任せてください!私はティアの相棒ですから!!」

元気にそう答えたスバルにトーレは優しく微笑んだ。

(スバルも卒業した後随分と逞しくなった………これで本当に互いが互いを支えあえるようになるだろう………)

「………」
「ん?どうしたスバル?」
「何かトーレ先生雰囲気変わりましたね。まるでお母さんみたい………」
「お母さんか………」

そう呟いて少し俯くトーレ。

「トーレ先生………?」
「ああ、いや何でもない。気のしないでくれ」

そう笑顔で返すトーレだったが、スバルは引かなかった。

「あの………トーレ先生、私じゃ頼りないかもしれないですけど、私でよければいつでも相談してくださいね」
「………ああ。その時はよろしく頼む」

(母親か………)

スバルの優しさを感じながらトーレはそう思うのだった………












さて、スバルがランスター家にお邪魔しているちょうどその時………

「ティーダさんすいません、遅れました………」

ミッドのとあるカフェのテラス、その内の1つにティーダが居た。

「久し振りだなヴァイス。最後に会ったのは上官殴ってその後の辞令で管理局を訪れた時のすれ違いざまに会った時だったな」
「そうっすね。あの時は力になれなくて済みませんでした」
「いいさ、俺は全く後悔はしていない」

そう言ったティーダの顔は本人が言うように明るかった。

「………で、久しぶりに会って俺に相談って何だ?」
「………あなたの妹ティアナ・ランスターについてです」














「なるほど………」
「あまり驚かないんですね」
「まあそうなるだろうとは思ってたから。あいつ、小さいときからずっと魔力量の少なさを気にしていたからな。初めて会ったヴァイスと同じ様に………」
「あの時は本当にありがとうございました………」

あの時とはヴァイスが武装隊に入りたての頃の話である。

「あの時からシグナム姐さんの下で働いていたんですけど………自分だけ足を引っ張っているのがどうしても許せなくて………」
「無茶苦茶な特訓をしていたよなヴァイスは………」

昔を懐かしむ様に語るティーダ。

「だけどティーダさんが俺に的確なアドバイスをしてくれたからこそ俺の長所を伸ばす事が出来たし姐さんの役にも立てた。それになによりラグナとの仲を戻す切っ掛けを作ってくれた………」
「俺もティアナがいたからな。お前の気持ちも分かるが逃げた所で何も変わらないのは分かったから。それにあの時はシグナムさんもお前を説得してくれたんだろ?」
「はい………。結局あの時のトラウマで銃は持てなくなったけど、それでも今ラグナと笑って会えるのは2人のお蔭です。あの時、2人会えなければ今の俺は無かったと言っても良いほどですね」
「そして今はシグナムさんを恋い焦がれながら傍で支えていると………」
「ちょ!?俺は別にそんな気は………!!」
「冗談だよ、冗談。だからそんなムキになるなって………」
「ムキになんて………」

と言いつつ、自分が立ち上がっていた事に気が付いたヴァイスは一度咳払いした後、静かに座った。

「………で、昔の俺を見ているみたいでとても見ていられなかったんですけど俺の意見なんて聞こうともしないだろうし、かなり頑固でどうすればと」
「確かにティアナは頑固だからな………昔はもっと素直な子だったのに………例え俺の言葉でも素直に聞かないかもな」
「そして前回のホテルアグスタの事件で、ティアナは相棒のスバルに庇ってもらい怪我を負わせてしまったみたいなんです。それものしかかってさらに自主訓練に熱が入っているみたいで………前回の訓練だってかなりふらふらでした。………正直見ていられないです、俺はどうすれば良いんでしょう?昔話でもしてティナアに控えるようにしつこく説得すればいいんでしょうか?」
「う~ん………」

そんなヴァイスの言葉に腕を組みながら唸るティーダ。

「………暫くは様子を見ていてくれないか?」
「………ほおっておくんですか?」
「なあヴァイス、ティアナの実力を見てどう思う?」
「どうって………魔力量は低いけどそれを支える戦術と指揮能力が魔力量のハンデを無くしていると思います。同じ魔力量が少ない俺との大きな違いですね」
「お前には狙撃の腕があっただろう?」
「………ちゃんとした腕があったら妹に当てることなんて無かったですよ」

拳を握りしめて悔しそうに呟くヴァイス。

「………すまん、話を戻そう。ティアナは戦術、指揮能力に関しては誰にも負けない自信があると思う。だからこそ前の事件はティアナにとって大きなショックの出来事だったんじゃないか?」
「ショック?」
「本人に聞いてみないとこればっかりは分からないが、もしかしたら自分の自信のある分野で失敗したのか、はたまた自分のちからのなさを実感したのか………もしかしたら自分はあの部隊に必要ないんじゃないかとか」
「なるほど………だからあれだけ訓練して………」
「まあ合っているかは分からないけどな。こればっかりは聞かないと分からん」

そう言って苦笑いするティーダ。

「そう………ですね。ちょっと今から聞いてみることにします」
「今から!?」
「様子を見てって言われましたけど、やっぱり見てるだけってのは性に合わないんで」
「全く直球だな………まあヴァイスらしいか、悪いが妹の事頼むな」
「はい、任せて下さい。今日はありがとうございました!また連絡します!!」

慌てて荷物をまとめたヴァイスはお勘定をおいてさっさと行ってしまった。

「全く、相変わらず慌ただしい奴だな………残した金も足りないし………まあティアナの面倒を見てくれているし今回はおごってやるよ」

そう言いながらヴァイスの背を見るティーダだった………











「はあはあ………」

激しく息をし、その場に座り込むティアナ。
静かで誰もいない訓練場の一角にティアナはいた。

「ま、まだまだ………!!」

しかし立ち上がったティアナはフラフラながら立ち上がりクロスミラージュを構える。

「ストップだ」
「………何のようですかヴァイスさん」

邪魔するなと言わんばかりに睨み付けるがヴァイスは動じなかった。

「まあそう睨みなさんなって。………ほれ!!」
「えっ?ヘルメット?」
「少し気分転換がてらにひとっ走りしないか?少し話したいこともあるんでな」
「………そんな時間はありません、私は強くならなくちゃいけないので………って何で腕を掴んでいるんです?」
「問答無用」
「えっ、ちょ、ちょっと!!」

ニヤリと笑ったヴァイスにお姫様抱っこで持ち上げられ運ばれるティアナ。

「は、離してください!!」
「嫌だね、無理矢理でも付き合ってもらうぞ!!」
「へ、変態!!」
「エローシュがどうした?」
「違うわよ!今回の変態はイコールエローシュってわけじゃなく、変なところ触ってるヴァイスさんの事で………ってとにかく下ろして下さい!!」
「バイクまでは降ろさねえから覚悟しとけよ!!」
「ええっ〜!!」

ヴァイスの言う通り、いくら叫ぼうが暴れようが決して離さなかったのだった………
















「………」
「そんなに睨むなよ、気持ちよかったろ?」

2人並んでベンチに座り、ヴァイスはそう言ってサンドイッチと缶コーヒーの入った袋を渡した。

「私欲しいなんて………」

そう言った瞬間可愛く鳴るティアナのお腹。

「やっぱりな。昼飯食ってないだろ?」
「………いただきます」

意識して空腹を我慢できなかったティアナは顔を赤くしながらヴァイスの渡したサンドイッチに口を付ける。
そんなティアナの様子を見てヴァイスも満足した顔で自分のコーヒーを飲み始めた。

「で、私に何の用なんです?海の見える見晴らしの良い高台まで連れてきて………」

潮風に髪をなびかせながら不満そうに聞くティアナ。
バリアジャケットを解いた姿は訓練で着用している全身タイツの様な姿で、その姿で連れ去られてきた事にも不満を抱いていた。
因みに、流石にその辺りは配慮してかちゃんとヴァイスのジャケットを着させている。

「ここ穴場なんだよ。バイクで飛ばしてたら偶然着いてさ。時々心の整理が付かない時や、1人で考え事したい時なんかはよくここに来る」
「ヴァイスさんにも悩む事あるんですね」
「ああ、俺の人生悩みっぱなしだ。魔力量が低くてどうすれば良いか悩んでいたり、人質になった妹を誤って撃ってしまい失明させて訳が分からなくなったりと失敗ばかりだ」
「………ごめんなさい」
「謝る必要はないさ。全て事実で、俺の不甲斐なさが招いた結果だ」

笑いながら答えるヴァイスだが、その笑顔に少し影があるようにティアナは感じた。

「さて、俺の話はいい?ティアナ、今のお前はどうだ?」
「………何がですか?」
「あんな過剰過ぎる訓練。………何か心の変化があったからだよな?」
「そんなんじゃ無いです。私はスターズの中で一番弱いから足を引っ張らないようにみんなより努力しなきゃいけないと思っただけです」
「そうか?だが、一昨日の訓練はティアナがみんなの足を引っ張ってたんじゃないか」
「それは………」
「それに訓練の内容も耐久力の高いスフィア相手の戦闘だったよな?もしかしてスバルを怪我させた時の戦闘状況を想定しているのか分からないけど、全く自分の身になっているとは到底思えなかったぞ?」
「………そんな事ないわ」

言葉を濁らせながら答えるティアナ。

「お前はなのは隊長に何を頼まれたんだ?」
「………隊の指揮」
「なのにお前は指揮どころか自分の事ばかりじゃないか。訓練から足を引っ張って、なおかつ指揮もおろそか………そんな訓練本末転倒じゃないのか?」
「だけど!!なのはさんのメニューだけじゃいつまで経っても個人的な差が広がるばかりよ!!指揮もヴィータさんやなのはさんにも敵わない。だったら個人の力量もプラスとして見てもらうしかないじゃない!!」

(………ああ、こりゃあまんま昔の俺だ)

そんな荒々しいティアナを見てヴァイスはそう思った。

「ティアナ」
「何よ」

パン!!!

「えっ………?」

はたかれた頬を抑えながら驚いた顔でヴァイスを見るティアナ。

「お前はバカだよ。お前が無理をすれば無理をするだけ周りがフォローする事になるのに何故気が付かない?お前の動きの悪さ、何をしたいのかよく分からない指示。そのフォローに回っていたのが加奈とギンガだ。そして、そんな状態のお前を信じ、最後まで指示通りに動いていたスバルの事をお前は何も思っていないのか?」
「そんな事は無いわ!!確かにこの前は動きが悪かったけど、今度の訓練だったら………」
「いや、更に悪くなるな。最悪隊長達は怒るんじゃないのか?」
「何でそう言い切れるのよ!?」
「分からないのか!?今言った俺の問題点、そしてなによりその疲れたその顔だよ!!いい加減無理をするのはやめろ、出ないともっと取り返しのつかない事になるぞ!!!」
「私はやれる!もっとやれるわ!!」
「ティアナ………」
「やれる………やれる!………私はやれる!!」

自己暗示をかけている様にも見えるティアナの不審な呟き。
目は虚ろで今まで蓄積された疲労からか、明らかに様子がおかしかった。

「ティアナ!!」

見ていられなかったヴァイスはティアナを思わず抱きしめた。

「あっ………」
「ティアナ落ち着け………済まなかった、俺も言い過ぎた」
「私にはもうこうするしかないの………前の戦いで痛感した私の力不足。ねえ聞いて、AMFだと私碌に魔法も使えなかったのよ?そんな状況で私1人。どうにかしなくちゃいけない状況なのに1人じゃどうすることも出来なかった。終いにはスバルに庇ってもらって怪我までさせちゃう始末。………こんなのコンビ失格よ………」

顔をヴァイスの胸で隠しながら弱々しく呟くティアナ。

「だから………せめて私1人でも対応出来る様にするために休む暇も作らないで訓練してきた。………それの何がいけないのよ………」

それはティアナが初めて溢した弱音だった。

「訓練する事は間違いじゃない。自分で答えを出すことも良い事だ。だけどティアナ、お前は何で1人で考える?」
「えっ?」
「だってお前はスバルって言う相棒だっているし、頼りになるスターズの仲間もいる。それなのに何で1人で戦う事を考えるんだ?」
「それは………」
「スターズはチームで戦うように訓練されてきたんだろ?お前達はまだ弱い。だったら互いに弱点を補えば良いじゃないか」
「だけどそれじゃ私は1人じゃ何もできないじゃないですか!」
「それの何が悪い。エローシュがそうだ。あいつは魔力量も断然低く、攻撃魔法も無いから1人じゃ戦えない。だけどあいつはそれを補おうとはせず、指示を出すことに集中している」
「だけどそれは1人じゃ何も出来ないじゃない………」
「エローシュはそれを割り切っている。あくまで自分は裏方だってな。だからこそライトニングは絶対にエローシュの判断に従う。あんな子供ばかりの部隊と思えないほどの統率力だ。当然元々仲が良かったのもあるけどエローシュは皆から絶対の信頼を受けている」
「………ヴァイスさんよく見てますね」
「基本暇なんでな」

抱きついたままだったのに気がついたティアナは慌てて離れ、照れ隠しで皮肉混じりに言ったのだが言われた本人は気にせず笑いながらそう答えた。

「ティアナ、全てを得ようとせず、一つずつ確実に得ていけば良いんじゃないか?全てを一気に得ようとしたって得られたものはたかが知れてる。だったら順を追って得ていけばいい。ティアナはまだ若いしこれから先も様々な道がある。今焦る必要はないさ」

少し色が変わってきた空を見ながらそう言うヴァイス。

「………何かヴァイスさんを始めて尊敬出来た気がします」
「全部ティーダさんの受け売りだけどな」
「かっこ悪い」
「分かってるよ」

そう言って互いに笑う2人。

(あれ………?)

するといきなり睡魔がティアナを襲ってきた。

(そう言えば最近ちゃんと寝ていなかったっけ………気を緩めたからかしら………駄目、眠い………)

「ティアナ、ちょっと煙草を………ってあれ?」
「くぅ……くぅ………」
「ティアナさ〜ん………?」

ヴァイスの肩に寄りかかり寝息を立てるティアナ。

「おいおい………まあ大分お疲れだったしな………仕方ねえ付き合ってやるか………」

取り出した煙草を懐に仕舞い、ベンチに寄りかかって空を見るのだった………
 
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