Element Magic Trinity
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妖精女王、散る
楽園の塔の頂上付近が、突如爆発した。
爆発する前には、輝きの全てを集めたかのように煌めく金色が舞う。
「何が・・・」
その光景に呆然とするルーシィ達。
ルーが震えながらゆっくりと口を開き、ただ一言を零した。
元凶は倒れた。
割れた水晶と、気を失うジェラールと、永遠の眠りについたシモン。
そしてエルザは、元凶を倒した2人に目を向けた。
(あのジェラールを倒した・・・)
その2人―――ナツとティアは無言のまま、エルザに背を向け立っている。
(私の・・・8年にわたる戦いは終わったんだ)
エルザが安堵の笑みを浮かべると同時に、ナツが顔を向ける。
ティアは顔を上へ向け、空に放つように溜息をついた。
(これで、皆に本当の自由が・・・)
エルザが安堵したのもつかの間。
ナツとティアは気を失い、ガクッと膝を折り、そのまま倒れ込む。
「ナツ!ティア!」
慌ててエルザは2人に駆け寄り、座り込んだ状態で前に倒れ込もうとしていた2人を抱きしめる形で受け止める。
「お前達は凄い奴だ。本当に」
そう言いながら、その桜色と群青色の髪をなでる。
その瞬間――――――――
「!」
突如、塔全体が揺れ始めた。
その変化は、外から見ても明らかだった。
塔からはじけるように魔力が溢れ始め、光が帯びる。
「塔が・・・!」
「何アレ!?」
それを見たルーシィ達は驚愕する。
「やべーぞ・・・エーテリオンが暴走してやがる!」
「暴走!?」
アルカの言葉にルーシィが振り返る。
そのアルカの表情は、やっぱりどこか真剣さに欠け、面白いものを見る時のように漆黒の目がキラキラ輝いていた。
「元々、あれだけの大魔力を一か所に留めとく事自体が不安定なんだ」
「行き場を失くした魔力の渦が、はじけて大爆発を起こす」
ハッピーとジュビアの言葉に、他の面々が慌て始める。
「ちょ・・・こんな所にいたら俺達まで」
「中にいる姉さん達は!?」
「ティアは!?ティアはどうなるの!?」
ウォーリー、ショウ、ルーが慌てたように叫ぶ。
「誰が助かるとか助からねぇとか以前の話だ」
「俺達を含めて、塔の中の奴も―――――全滅だ」
グレイとアルカの言葉が、虚しく響いた。
様々な場所から溢れ出す膨大な魔力を避けながら、ナツとティアを背負ったエルザは塔からの脱出を試みていた。
そんなエルザの目に、1人の人物が映る。
「シモン・・・」
自分達を庇って命を落としたシモン。
そのシモンの体は、ズズ・・・と水晶の床を滑って、落ちていく。
「・・・」
瓦礫の中へと消えていくシモンから目を逸らし、生きて帰る為にナツとティアを抱えて走るエルザ。
「くっ」
膨大な魔力の柱。
割れる水晶の床。
大きな瓦礫を床代わりに着地しながら、エルザは走る。
その瞬間、塔の真ん中あたりが丸く変形した。
「うあっ!」
突然変形した床に足をとられたエルザは、その場に転ぶ。
その近くの床が、ぐにゃんと山をつくった。
(器・・・魔水晶をも変形させるほどの魔力か・・・想像以上の破壊力を秘めてるようだな・・・)
身を起こしながらエルザは周りの状況を頭に入れる。
(これでは外に出ても、暴発に巻き込まれてしまう)
中にいるのでは生きて帰る事は確実に不可能。
外に出ても必ず危険がついて来る。
「くそっ!ここまでか!」
諦めそうになったエルザは左の拳で力強く床を殴り付ける。
しかし、その目に気を失って倒れるナツとティアが映った。
(いや・・・諦めるものか・・・)
すくっと立ち上がり、見下ろす形で2人を見つめる。
(今度は私がお前達を救う番だ。ナツ・・・ティア・・・)
この2人は、魔力や体力がほぼ空になり、立っている事すらギリギリの状態で戦ってくれた。
なのに、こんな所で自分が諦める訳にはいかない。
(しかし、防ぐ事も脱出も不可能・・・)
エルザが考えを巡らせる間にも、瓦礫は落下し、床からは凄まじい量の魔力の柱が上がる。
(どうする・・・)
必死に考えていた、その時。
「!」
ジェラールの一言を思い出した。
先ほどの、エルザが拘束の蛇で動けなくなっていた時の言葉を。
―この27億イデアの魔力を蓄積した魔水晶にお前の体を融合する。そして、お前の体は分解され、ゼレフの体へと再構築されるのだ―
(融合!?)
そして、1つの考えが浮かぶ。
水晶に自分を映すように立ち、見つめる。
(私がエーテリオンと融合できれば、この魔力を私が操り暴発を止められるか!?)
確かに、そうすれば暴発を止める事は出来るかもしれない。
だが――――――。
(これにかけるしかない!)
『それ』を分かっていて、エルザはそっと正面の魔水晶に手を添えた。
「あぐっ!」
ズプッと右手首辺りまでが一気に吸い込まれる。
痛みに小さく悲鳴を上げた。
「うう・・・」
痛みに震えながらも、右腕は肘辺りまでが吸い込まれていった。
(よし!魔水晶はまだ私を受け付けている!)
―――――だから、エルザは気がつかなかった。
後ろにいるナツとティアの目が、うっすらと開いていた事に。
「エルザ・・・」
「ナツ!?ティア!?」
先ほどの小さな悲鳴に反応し目を覚ました2人は、信じられないものを見るような目でエルザを見つめる。
「な、何・・・してんだ・・・」
「アンタ・・・体が水晶に・・・」
エルザの今現在の状況を把握したナツとティアの声が、震えた。
「エーテリオンを止めるには、これしかない」
「エーテリオンを止める?」
「!何よ、これ・・・」
エルザの言葉に初めて周りの状況に気づいた2人。
もう、床として機能する魔水晶は3人のいる床だけだった。
「じきにこの塔はエーテリオンの暴走により、大爆発を起こす。しかし、私がエーテリオンと融合して抑える事が出来れば」
「バカヤロウ!そんな事したらお前が!」
「何バカな事言ってるのよ!」
2人はすぐに察知した。
エルザが何をしようとしているか。そして、その場合エルザがどうなるか―――――。
「うあっ!」
「エルザ!」
ズズズ・・・と、エルザの体の半分が魔水晶に吸い込まれる。
「何も心配しなくていい・・・必ず止めて見せる・・・」
「バカじゃないの!?」
「あああ・・・!」
「よせーーーーーーーーーーーーー!!!」
更に吸い込まれていくエルザを引っ張り出そうとエルザに駆け寄るナツとティアだが、先ほどのジェラールとの戦いで消費した体力や魔力はそんな素早く回復せず、体が思うように動かない。
「やめろ!エルザ!」
這うように進み、魔水晶の前までやってくる。
「ナツ・・・ティア・・・」
そんなナツの頬に、まだ吸い込まれていない左手を添える。
ナツが目を見開き、その隣に時間をかけてやってきたティアも言葉を失った。
「私は妖精の尻尾なしでは生きていけない。仲間のいない世界など、考えることも出来ない。私にとってお前達は、それほどに大きな存在なのだ」
その左手が、ゆっくりと離される。
「エルザ・・・」
目を見開いたままナツが呟く。
「私が皆を救えるのなら、何も迷う事はない。この体など・・・」
そして―――――――
「くれてやる!!!!」
遂にエルザの体が・・・完全に魔水晶へと入っていった。
「エルザ!出て来い、エルザ!」
「今ならまだ間に合うからっ!出てきなさいよ、エルザ!」
ガンガンと魔水晶を叩きながら叫ぶナツとティア。
「ナツ・・・ティア・・・皆の事は頼んだぞ」
そんな2人に、エルザが声を紡ぐ。
「私はいつも、お前達の傍にいるから」
その左目には―――涙が、浮かんでいた。
ナツの目にも―――ティアの目にも―――涙が浮かび。
「「エルザーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」
桜色の竜と深海色の閃光――――2人の叫びが、崩壊する偽りの楽園へと、轟いた。
そして。
大爆発は起こった。
「暴発したーーーーー!!!!」
「きゃああああ!!」
驚愕の声が水のドームに響き渡る。
大混乱するドームの中、グレイが異変に気付いた。
「い、いや!違うぞ!」
エーテリオンは爆発した。
が―――――爆散は、しなかった。
「エーテリオンが空へ!!!空中に流れてる!!!」
そう・・・爆発は爆散せず、竜巻のように渦巻きながら、空高く昇っていった。
そして―――――消えた。
「消えた・・・」
「エーテリオンが空中に・・・」
「た・・・助かったのか・・・!?」
塔の中で何があったか・・・それを知らないルーシィ達は、跡形もなく消えた楽園の塔を見て、呆然と呟いたのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
今年最後の更新・・・もうすぐ楽園の塔編終了!という何とも中途半端な時に・・・。
読者の皆様。
緋色の空は来年も超絶妄想癖フル回転で駄作者なりに頑張りますので、どうか猛暑日並みに温かい目でご覧ください(猛暑日だったら温かいっていうより熱いか・・・どんだけ優しい目だよ)。
感想・批評、お待ちしてます。
それでは皆様、よいお年を!
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