少年と女神の物語
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第十八話
「貴女たちの目的はわたしと護堂を引き離すことかしら?」
「当然デス!」
「兄さん曰く、彼は貴女と一緒に戦ってばかりらしいし」
エリカは場所を移動しながら、切歌と調にそう聞いた。
「やけに護堂について詳しいのね。神代家の人脈を考えれば、簡単に調べがつきそうではあるけれど」
「確かにつくとは思うけど、兄さんはそうやって調べたんじゃない」
「ムソウの権能の中にはダグザから簒奪したものがあるデス。マム命名、『知に富む偉大なる者』」
二人が言う権能の効果は、全く同じ時間にいる人間の知っていることなら何でも知ることが出来る。
護堂の権能についてはエリカや護堂自身、そしてグリニッジの賢人議会などが知っている。
カンピオーネである護堂は含まれないが、他にも知っているものがいる以上、護堂の権能についてはほとんど、武双に筒抜けとなっている。
「へえ、彼は一体何柱の神から簒奪したのかしら、少し興味があるわ」
「あー・・・シラベ、覚えてるデス?」
「七柱。キリちゃんも一緒に聞いたんじゃなかったっけ?」
「あう・・・情けないデス・・・」
あっさりとその情報を提示した二人に、エリカは拍子抜けした。
「そんなに間単に情報を渡していいのかしら?少々気が抜けているんじゃなくて?」
「問題ない。兄さんの目的を考えれば、少しくらい情報を渡しておくのはむしろプラスだから」
「と、そんなことは置いておいて、いざ勝負デス!」
切歌はそう言いながら手に持った大鎌を後ろに引き、刃を三枚に分裂させ、
「切・呪リeッTぉ」
おおよそ人には発音できなさそうな技名を言霊として発し、刃をエリカに放つ。
その刃はブーメランのように回転し、左右からエリカに迫るが、
「翔けよ、ヘルメスの長靴!」
エリカは跳躍の術で跳び、容易く避ける。
「逃がさない・・・α式 百輪廻」
そして、逃げた先にむけて調がツインテールについている装備から小型の円形鋸を大量に発射し、追い討ちをかけ、エリカはそれを全てクオレ・ディ・レオーネで砕く。
「さすがに、簡単にはいきそうにないデス」
「流石は大騎士」
「むしろ、私としては貴女たちのほうが不思議だわ。どうして武双の権能を使いこなせるのかしら!」
エリカは跳躍の術で切歌の元まで跳び、鎌と鍔迫り合いをしながら尋ねる。
「さあ?あたし達は知らないデス」
「マムは平行世界の因果とか何とか言ってたけど、誰も理解できなかった」
その辺りについては一部の読者の方は理解できるだろう。
「・・・私の自論に、カンピオーネの権能は持ち主に一番あった形になる、というものがあるのだけれど」
「ああ・・・確かに、それなら兄さんは家族と一緒に戦うことが多いから」
「これみたいに家族が使える武器になったり、蚩尤みたいに家族の武器を作れたりするデスね!」
そして、お互いの意見交換を果たし、再び武器を交えようと・・・
「・・・ねえ、キリちゃん・・・」
「やっぱり、あれは・・・」
したところで、二人は武双たちの戦っているところに三回雷が落ちたのを見て、止まる。
「非常Σ式 禁月輪。乗って、キリちゃん」
「はいデス!」
二人はそのまま、調の作った巨大な円形の刃の内側に乗り、急いでその場を立ち去ろうとする。
「待ちなさい!逃げるつもりかしら?」
「逃げるというよりは、避難」
「エリカも、早くこの場を去るか自分の王様のところへ行くデス!」
二人は本気であせった様子でそう言い残し、脱兎のごとくその場を去った。
「なんだかよく分からないけれど・・・」
エリカは二人の言い分を信じ、跳躍の術で護堂の元まで向かった。
◇◆◇◆◇
さて・・・不利なら、それを覆すくらいの一撃・・・だよな?
念のため、合図として小さな雷を三連続で落とす。
「今の、何だ?大した威力があったようには思えないが」
「まあ、気にするな。ただの合図だから」
そして、連続で五本ほど槍を投げ、いったん距離を置き、ゼウスの権能で肩当と杖を装備する。
「護堂、状況は?」
「エリカ!あの二人は?」
「よく分からないのだけど、三階落ちた雷を見てどこかへ行ったわ」
「そういや、合図とか言ってたな」
「戻ってきたのかよ・・・まあ、護堂の近くにいれば大丈夫か」
少し意外だったし、切歌と調についていってくれてたほうがベストだったけど・・・そんなことを言ってても仕方ないか。
「さて・・・死ぬ気で防げよ、護堂。じゃないと、二人揃って消滅するぞ?」
「っておい!何物騒なことを言ってんだ!?」
護堂が何か言っているが、気にしない。
このまま続けて負けたくないし、そう言うわけにも行かない。
全力で、全部ぶっ壊そう。機械仕掛けの神のごとく。
「雷よ、天の一撃たる神鳴りよ。今この地に破壊をもたらさん!」
杖を掲げ、天を仰いで言霊を唱える。
ゼウスの権能を完全解放する言霊を。
「この一撃は民への罰。裁き、消し去り、その罪の証を消滅させよ。この舞台に一時の消滅を!」
言霊を唱え終わると、巨大な雷が大量に、この地に降り注いだ。
一撃一撃が神獣を消し飛ばす威力の、俺の切り札だ。
何もかも、神の力で無理矢理にぶち壊して結末を迎えるこの技から、家族はゼウスの権能を全なる終王と呼んでいる。
過去に使ったのは一度、アレクとの戦いで、被害は全部アレクのせいにして押し付けた。
まだカンピオーネだとばれたくなかった時期だったから、そうするしかなかった。
まあ、さすがにもう誤魔化しきれないよな・・・護堂の権能の中に、雷に関わるものはないみたいだし・・・まだ使えないのの中にあったら、今度一発ぶん殴ろう。
そんなことを考えながら二人の様子を見ていると、エリカの手にあったクオレ・ディ・レオーネが十本の鎖になり、二人を取り囲む鎖の輪を形成していた。
「ローマの秩序を維持するため、元老院は全軍指揮権の剥奪を勧告する。獅子の鋼よ、その礎となれ!――――元老院最終勧告、発令!」
そして、呪文を唱えきると術が完成した。
あれは・・・防御の術の類か。かなりの強さだけど・・・大してもたないだろうな。
「急ぎなさい、護堂!そう長くはもたないわ!」
エリカが言っている間にも、術にヒビがはいっていく。
この技は強力な代わりにいくつか面倒な点もあるため、使いづらい。
例えば、俺を中心とした一定範囲内を無差別に攻撃し続けたり、これを使うと一週間くらいゼウスの権能が使えなかったりする。
まあ、台風の目のように俺には当たらないだけ、よしとしよう。
「仕方ないな・・・鳳を使って逃げるぞ、エリカ!」
「分かったわ!」
護堂はエリカを抱え上げ、言霊を唱える。
鳳って言ったし、対象は俺が出した雷か。
「羽持てる者を恐れよ。邪悪なる者も強き者も、羽持てる我を恐れよ!我が翼は、汝らに呪詛の報いを与えん!邪悪なる者は我を打つに能わず!」
そして、エリカの術が切れるのと同時に護堂は走り出し、雷を全て避けてどこかへ行った。
「さて、刀を研いでくるのを大人しく待つとしますか。どんな刀を研いでくるのか・・・」
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