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PM9:00のシンデレラ

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第三章


第三章

「じゃあシンデレラ」
「シンデレラ?私が」
「そう、九時までのシンデレラ」
 六時になったばかりの。そのシンデレラにまた言う。
「あと三時間遊ぼうな」
「ダンスね」
「それにお酒に。楽しいのはこれからだよ」
「六時からなの」
「そう、六時から」
 時計の針での六時。その六時だった。
「はじまるから。二人で遊ばない?」
 こう言って。俺は彼女に右手をそっと差し出した。
 それを差し出してから。また彼女に言った。
「これからね」
「じゃあ」
 彼女も小さくこくりと頷いてくれて。そうして。
 俺の手に自分の手を上から置いて。それで言ってくれた。
「御願い」
「楽しい夜のはじまりだよ」
「私がシンデレラなのね」
 彼女はそのことがどうしても信じられないみたいだった。確かに。
 白いドレスは着ているけれどその足にはガラスの靴はない。白いヒールだ。ガラスじゃなくて普通の白い。そのヒールだった。
 それでもだ。俺は言った。
「そうだよ。シンデレラだよ」
「九時まで私はシンデレラ」
「カボチャの馬車に乗るのはそれからでいいよね」
「ええ。シンデレラなら」
 俺の言葉に頷いてくれて。そうして。
 俺と一緒にダンスに向かってくれた。後は。
 二人で甘いカクテルを楽しんでロマンティックに踊って三時間を過ごした。それで終わる時にだ。彼女は困った笑顔で俺に言ってきた。
「どうしようかしら。理由は」
「時計じゃ九時だよ」
 これが俺がその彼女に言うことだった。
「九時だからいいじゃない」
「九時なのね?まだ」
「君の時計はどうかな」
 見れば彼女のその時計は。
 十二時だった。けれどそれはすぐに。
 彼女自身の手で動かされて。九時になった。それから俺に言う彼女だった。
「そうね。私の時計は進み過ぎてたのね」
「そういうことだね。じゃあ時間通りね」
「馬車に乗って来るわ。カボチャの馬車に」
「そうしてまた今度ね」
「踊ろう。九時まで」80
「そうさせてもらうわ」
 今日は馬車に向かう彼女だった。けれど今度も舞踏会に来ると約束してくれた。ここがシンデレラと違っていた。けれど彼女は間違いなくシンデレラだった。九時までの。


PM9:00のシンデレラ   完


                     2011・7・6
 
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