錆びた蒼い機械甲冑
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Ⅶ:打開策と決着
キリトは自分の考察をアスナとエギルに話し、二人も、そう言えば……と今までの戦闘を思い返して、その事に気付き納得した。
「言われてみればそうね……最初の攻撃もシミター使いへの反撃だったし、キリト君が合わせ技を当てようとした時の隙も後ろの人が攻撃しようとしたからだし……」
「ああ。そして、奴のAI……か如何かは怪しくなってきたが、とにかく行動優先順位は、クリスタル破壊>脱出者追撃>反撃での戦闘、の順だと俺は思う」
「なるほど、それならキリトが倒れているのに止めを刺さなかった事にもうなずけるな」
現に、騎士は動いてこそいないものの、視線だけはばっちり退却するプレイヤー達に向いている。
「それでキリト君、上手くいけば退却の時間を作れる作戦……て何なの?」
「さっきも言った通り、あの機械甲冑は此方から攻撃したり、何かを使うアクションを起こさなければ向こうも攻撃しない。それが分かっているならば、何が来るか事態は分からなくても対処は出来る」
「攻撃に合わせて反撃をする事が分かっているからな……」
キリトは一つ間を置いて、作戦を話し始めた。
「そこで俺の作戦だ。まず俺がアイツに攻撃を仕掛けに行く、次にアスナがその戦闘の最中に出来た確実に弾ける一撃を見極めてパリングする。最後に、この中で一番攻撃が重いエギルが一撃を入れる……と、こんな感じだな」
「……大丈夫なの、キリト君? 大分疲労がたまっているみたいだけど……」
「途中でスイッチした方が良くないか?」
「……いや、スイッチは駄目だ。スイッチした瞬間に投げナイフで追撃して来たり、体当たりで二人同時に攻撃してきそうだ」
「有り得るな……確かに」
「それに、話してる時間はもう無さそうだ」
キリトの言うとおり、機械騎士はもう既に歩き出している。あと半歩でも踏み出せば、ブースターによる加速で一気に脱出中のプレイヤー達へと襲いかかるだろう。猶予は残されていない。
「本当にヤバくなったら無理やりにでも変わるからね」
「大丈夫だ、ヤバくはならねぇよ……行くぞ!!」
キリトが駆け出すと共に二人も走り出して左右に回り、彼から少しだけ離れた位置で構える。
キリトは先程と同じく、通常攻撃の連撃と隙を見つけて体術スキル《閃打》の打ち込みの組み合わせで、騎士に肉薄する。
隙が少ないスキルは片手剣ソードスキルにもあるのだが、いかんせん《閃打》よりは硬直が長い。《閃打》のポストモーションの硬直、これがギリギリ闘い続けていられる最低ラインなのだ。
ソードスキルを使わずに剣で切り付けて時にステップで、時に右へ左へと身を転がしながら闘い続ける。ステップで懐まで飛びこんでいき、横に剣を薙いだ後に隙があれば《閃打》を打ち込んで、次に来る騎士の攻撃を身を捻ってギリギリ避ける。
劣勢に変わりないものの、これまでで一番喰らいつけていた。
左右に居るアスナとエギルに投げナイフを投擲しない所を見ると、やはりキリトの考えは正しかったようだ。
「う…らあぁっ!!」
通常攻撃とは思えない程の力強さと速さをもって、キリトは三度騎士に斬りつける。次いで来た騎士の反撃の拳が今までよりも早く、交わしきれずに軽く当たって勢いで回転しそうになるのを、キリトは踏ん張らずに勢いを逆に利用し、少し飛んでアクロバットの様に下がることで何とか流す。
攻撃より回避に専念する戦闘は続き、高威力な反撃の押収を耐えに耐えたキリト達に、遂に反撃のチャンスが訪れる。
騎士はキリトの攻撃に合わせて拳を繰り出し、間髪いれずに次の攻撃を撃ち込もうとする。しかし、外から何度も攻撃を見ていれば、自ずと攻撃パターンが分かってくるのは必然であり、アスナがそれを見極められない筈が無かった。
裏剣の後に剣に付いた盾でのストレートを繰り出す騎士へ――――遂にアスナが動き出し、そのストレートを繰り出す左手に向かって細剣ソードスキル《リニアー》を、今までで一番の最高速度で突きいれる。
「やああぁあっ!!」
「オォ……!」
鈍い金属音と空気が震えた音が響き、機械騎士の剣が手から飛ぶ。此処で初めて騎士が驚愕した様な声を出した。キリトはその声を上げた騎士に一瞬にやりと笑い、すぐさま構えなおす。
「おらあ!!!」
「オオォ……!!」
その騎士の腕が上がり大きな隙が出来たのを見計らって、エギルが渾身の力で両手斧ソードスキル《ワールウィンド》を叩き込んだ。初のプレイヤーからの攻撃と反撃に、騎士の体勢が崩れる。
それを―――キリトは見逃さなかった。遂に攻撃を入れられたうえに、体勢が崩れた隙を逃すものかと、彼はソードスキルのプレモーションを取る。機械騎士はそれを止めようとするが、崩れたままの体勢では碌に動けず、加えてアスナからの通常攻撃で若干ながら押され、キリトへと手を伸ばせない。
「うおおぉらあっ!!!」
片手剣ソードスキルニ連撃《バーチカル・アーク》が騎士の体を完璧に捕らえ、その軌跡がV字を描いた。そして右側からもう一発駄目押しだと言わんばかりに、エギルが再び《ワールウィンド》を、アスナが細剣ソードスキルニ連撃《パラレル・スティング》を打ち込んで更に押しこんでゆく。
「オオォッ…!!」
唸る騎士が、ふと気付いた様に視線を下すと……そこには何時の間にか、構えを取ったキリトの姿があった。
「う……おおおおおお!!」
全身全霊を込めた、片手剣ソードスキル三連撃《シャープネイル》……その獣の爪後の如き傷を残す攻撃で――――
「グオォッ…!」
遂に騎士の体勢が完璧に崩れ、二歩程ではあるが後ずらせ、体力も若干ながら削ることに成功したのだ。
しかし不味い事に、大技を叩き込んだキリトには大きな隙が出来てしまったうえ、騎士の方が硬直時間が少ない。これを騎士が逃す筈がないだろう。
助けに入ろうとしたアスナとエギル、そしてせめてダメージを減らそうと何とか剣をもどそうとするキリトは……予想外の光景を目撃した。
その機械騎士はキリトの元へは行かずに剣を拾いに行き、拾った直後に剣を虚空にかざして鈍く光らせ、消したのだ。
「な……?」
「え…?」
「……?」
困惑する三人へ騎士は向きなおる。慌てて構えた三人に騎士は―――――
掌と拳を合わせて“礼”をした。
そのまま騎士は彼等に背を向けて歩きだし、次の瞬間にはHP0の時とはまた違う、粒子の様な物を撒いて消えた。
「勝った……のか?」
「すっきりしないが……そうなんだろうな、恐らく」
顔を見合わせるキリトとエギル。アスナは騎士が去って行った方向を見やりながら、呟いた。
「なんだか、闘い方といい、最後の礼といい……AIっていうよりも人間に近い様な、そんな気がする……」
「ああ……フェイントも混ぜるなんて、人間みたいだった」
「それだけじゃないの―――なんか、最後に消える時とっても満足そうだった気がしたから」
「満足そう…?」
「うん。何だか“よく一撃を入れ、自分を後退させる事が出来た”って感じで、敵っていうより師匠みたい」
「噂の事といい、何なんだろうなあの機械甲冑は」
エギルは頭を掻きながら呟くも、その問いに答えられる者などいない。
「それじゃ、誰が四層の転移門をアクティベートしてくるの?」
「俺が行こうか? キリト、もうヘロヘロみたいだからな」
「……んあ……しばらく動きたくない、頼むぜエギル」
「分かった」
そう言うとエギルはボス部屋の奥の扉へと足を進めた。
へたり込んだキリトは、傍らに居るアスナをちらと見た後、上を向きながら呟く。
「なんか、さ」
「ん?」
「あいつとはまた会いそうな気がする……かも」
「止めてよね。あんな反則的なモンスターと戦うのはもうコリゴリなんだから。でも噂の事もあるし……四散せずに消えたのをみると、そうなりそうで怖いわ…」
「だな」
可笑しくは無い筈なのに何故か笑いがこみあげ、笑いだすキリトとアスナ。
――――その後キリト達は、あれほど苦戦したボス戦だったのに死者が0人だった事に驚き、あれほど苦戦したのにドロップ品が無かった事を悔しがるのだった。
こうして……蒼錆色の機械甲冑騎士との戦いは、幕を下ろした。
後書き
何故ボスが機械騎士だったのか、彼は何を思っていたのか、その事柄は騎士視点での話で書きます。
ページ上へ戻る