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錆びた蒼い機械甲冑

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Ⅴ:そこに待つのは大樹にあらず

 
前書き
いよいよ、彼との戦い“一回目”です。

※またも解釈がおかしいかもしれません。あとアルゴの二つ名みたいな物は、これであっているのでしょうか。 

 
 三層目のボスフロアの中、激しい金属音が響き、鮮やかなエフェクトが飛び散っていた。


「はぁっ! ……がっ!?」


 黒衣を見に纏った線の細い男性プレイヤー・“キリト”が、目の前の“敵”へと片手剣ソードスキル・単発水平斬り『ホリゾンタル』をステップと共に放つが、“敵”はそれを最小限の動作で躱わし、次いで強烈な一撃を打ち込んでキリトとその周りの二人を弾き飛ばす。


「やあぁっ!!」


 隙ありと言わんばかりに細剣ソードスキル・単発突き『リニアー』を、亜麻色の髪を持つ凛冽な美貌の女性プレイヤー・“アスナ”は繰り出した。しかし、“敵”は足元を爆発させたかのような勢いでその場から飛び退り、一気に距離を取られてしまう。
 追撃をしようとしていたらしい他のプレイヤー達も、その異様な距離の取り方に不意を突かれ、更に向こうが投げてきたナイフのせいもあり、タイミングを失ってしまった。


「何やねんなこいつは!? チートにも程があるやろ!?」


 トゲトゲの髪型を持つ関西風な言葉遣いの男性プレイヤー・“キバオウ”がその強さに怒鳴るが、そうした所で状況が変わる事はない。


 四十二人七パーティのレイド部隊は、たった一つの対象に苦戦させられていた。その“敵”は、第三層を象徴するかのような、自然見あふれるボスMob……では無かった。


「クソっ! なんで……なんでボスが全く違う奴になってんだよ!?」
 

 キリトが立ち上がると同時に言い放った通り、今、彼等と対峙しているのは――――




左手に鉄板刃の剣、右手に大量の投げナイフを持った、蒼錆色一色の機械甲冑の騎士だった。














 戦い開始の約一日前。


 第三層の主街区“ズムフト”で、ボス討伐のための会議が開かれていた。


「え~っと……結論から言うと今回のクエストで得たボスの情報は『毒攻撃を仕掛けてくるから、解読Potを大量に持ち込むように』……以上です」

 キリトのその言葉に、その場に居た一同は“なんだそりゃ”と言った感じの視線をキリトに向けていた。
 HP0=死となったSAOでは、状態以上の一つが命にかかわるので、解毒Potを常備している者は多い。加えてこの第三層では“人間型Mobが出てくる”と言った事の他に、毒攻撃を持ったMobが前のニつの層よりも出てきたので、今まで以上に警戒して持ち歩く者が増えたのだ。


 その雰囲気を察したのかキリトは取り成すように咳払いをした後、更に付け加えた。


 「……ベータ時代のボスは、そこまで派手な毒攻撃はしなかった。けれど、此処が変更ポイントになるかもしれないから、警戒し過ぎなぐらい大量に解毒Potを持ちこんだ方がいいと思う」


 その発言を受けて場はにわかに騒がしくなるが、皆大事な情報のおかげである程度覚悟が出来た様だ。納得いかないかのように金切り声を上げる者も居たが、そのプレイヤーはキバオウのドスの利いた声で黙らされた。

 会議の場が静かになっていくのを見計らって、長い髪を後ろで束ねている男性プレイヤー・“リンド”が、演壇に上がり締めくくりの言葉を発する。


「では、解毒Potは下の階層の道具屋も回り、今夜の内に大量に揃えよう。行動開始時刻は予定通りの明日朝九時で、集合地はズムフト北門とする。その後デッセルの町まで移動し、休憩後に迷宮句である党へと進行しよう。目標時間は午後二時だ」

 その言葉の後に会議場に居る全員を見渡し、気合いの籠った声を発した。

「……明日の夜には、第四層で祝杯を上げよう……勝とう、皆!!」


 皆その一言に頷き、キリトは拳を握りしめる。


 皆の解散を合図に、第三層ボス攻略会議は終わった。














 攻略組四十二人の力は伊達では無く、難なくとはいえずともかなりの早さで迷宮を進んでいく。


「キリト君、武器の具合はどう?」
「おう、まだまだいける……アスナ、は言うまでもないか」
「当然」


 キリトとアスナは会話を交わしながらお互いの調子を図り、戦闘では限られた言葉で会話をして連携を取っていた。尤も、限られた言葉で連携すること自体、SAOではさほど珍しく無いのだが。


 時に立ちふさがる強敵仕様のMobを薙ぎ払いながら、レイド部隊はボスフロアの前までたどり着いた。
 予定していた時間よりもだいぶ早く、皆のレベルの高さがうかがえる。


「フロアボスは……確か大型の木の化け物だった筈だ。ベータでは、だけどな」
「なるほど、少なくともベータでは、この第三層にピッタリのボスだったってわけね」
「ああ。正規版で全く違うという事はないだろうけど、少なくとも似通ってはいると思う」


 キリト達が後ろで会話していると、先頭からリンドの声が聞こえてきた。どうやら、ボス部屋に入る前の儀式の様な物をやる様だ。第一層でも、ディアベルという男がコレをやっていたのを、キリトは思い出す。


「第二層は犠牲者ゼロで突破できた……今回も犠牲者無くボスを倒そう。……勝つぞ!!」


 拙い言葉だったが、それでも部隊の皆から“オオ!!”という声が上がる。リンドの言葉に続くように、キバオウが扉に手を掛ける。


「そんじゃ…いくで!!」


 そして開けはなった扉の先に居たこのフロアのボス、それは大樹生い茂る部屋の中にたたずむ――――





 ―――蒼錆色の近未来的な機械甲冑を纏った、一人の長身の騎士だった。

「は?」
「あれ?」
「なに?」
「あ、ありゃ? 何で?」


 その大自然とはあまりにかけ離れたすぎたSFボスモンスターに、一同目を丸くして立ち止まり、キリトも思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 当たり前だ。こんな大森林広がるダンジョンの、獣や植物系のMobの頂点がこんな人型のメカニカルなモノだったら、階段を踏み外した気分になるのは当然。ましてや毒攻撃を行ってくると言われてイメージするモノの中ではぶっちぎりで、思いつかないランキングワーストに入ってもおかしく無いモノが佇んでいれば、誰だって驚くだろう。

 しかも、彼等を驚かせるのはそこだけでは無かった。

 本来ボスモンスターはプレイヤーを見かけたら速攻で戦闘態勢に入る筈なのだが、この機械甲冑は近づいても反応を見せない。唯、武器を地面に刺し、上になっている柄の部分に両手を重ねる様にして置いているだけだ。


「……とにかく油断はするな、何時襲ってきてもいい様に構えておくんだ」


 と、そのリンドの言葉に反応するかのように、騎士が下げていた頭を上げ、此方を見てきた。
 見ようによっては睨んでいるようにも取れるその威圧感。心の弱い者ならダッシュで逃げるか―――


「うわああっ!!」
「バッ…待て!」


 耐え切れなくなって仕掛けてしまうだろう……シミター使いの彼のように。しかし、腐っても攻略組と言うべきか、彼は曲剣ソードスキル・単発突撃技『リーパー』のプレモーションを既に取っており、攻撃事態には移れる様にしていた。

 しかしその攻撃は騎士の持つ、鉄板刃の奇妙な武器にいとも簡単に弾かれ、次いで柄を打ち込まれた。


「ぐおっ!?」


 その威力に転がされながらも、何とか立ち上がるシミター使い。見ると、騎士はどうやら此方を敵とみなしたらしく、盾の付いたその武器を腰辺りで引くように構えている。


 そしてその名前、『Blue Rust Machine armor 』を見た瞬間、レイド部隊の中から幾つか驚きの声が上がった。


「おい、今驚いた奴! アイツについて何か知っとるんか!?」


 その声に気付いたキバオウが、少しでも情報を得ようと声を張り上げる。すると、その中の一人が震えながら答えた。


「さ、最近噂になっているモンスターなんだよ、そいつ。誰一人勝てなかったどころか、オブジェクトを破壊した、転移結晶を狙って壊されたって噂もある……蒼錆色の機械騎士だ……!」
「なっ……あの噂のモンスターがコイツやてぇ!?」


 その噂はキリトやアスナも知っていた。
 いわく、“第三層ではありえない強さを誇る、世界観を度外視した機械の騎士”、“転移結晶を狙って破壊された”、“何時の間にか現れ何時の間にやら消えている”、“襲撃されはしたが殺しはしなかった”……等、その騎士についての噂には事欠かず、あの腕きき情報屋“《鼠》のアルゴ”でさえその実態は欠片も掴めなかったという、謎だらけのモンスターだった。


 そのモンスターがフロアボスだったとは、誰も想像すらしていなかったに違いない。


 「大丈夫だ! 数人で囲めば何とかなる! 攻撃に回る人数は少なくなるが、基本を守れば問題はない!」


 リンドの声で、震えていた者達はハッとした様に構えなおした。噂での実力が本物ならば脅威だが、それは攻略組では無い者達の話。攻略組数人で堅実的に挑めば、きっと倒せる筈だと、彼等は噂を頭から振り払った。


「いくぞ!」


 リンドのその掛け声と共に数人が一斉に取り囲み――――




 ボスMobの唯の“蹴り”で数人一遍にブッ飛ばされる。


「な―――うばっ!?」


 リンドはブッ飛んできた物に巻き込まれ、派手に転がってしまう。仮にも攻略組である者達を、まるで雑魚扱いするかのように蹴り飛ばした蒼錆色の騎士は……



「オオオオオオォォォォォォォオオオオオ!!!!」



 フロア全体に響いてもまだ足りない程の強大な咆哮を、目を禍々しく光らせて発した。それを合図に本格的に戦いが始まる。





 
 ……その騎士の名前に、『Caligula』という文字が追加されたのを、誰一人知らぬまま。
 
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