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MARRY ME TOMORROW

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第一章


第一章

             MARRY ME TOMORROW
 こんな知らせ聞きたくなかった。けれど聞いてしまった。
「そんな・・・・・・」
 僕は最初この知らせを何かの冗談かと思った。けれど違っていた。
「間違いないんだよな」
 携帯で友達に聞いた。そいつの返事は残念なことにその時僕が聞いた言葉は僕が一番聞きたくない言葉だった。
「気、落とすなよ」
 そいつの声も沈んでいた。これだけでもう充分だった。
「突然だけどな」
「そうなのか」
「ああ、昨日な」
 友人は教えてくれた。不意に車に撥ねられて。そして。あっという間だったらしい。
「本当だったのか」
「居眠り運転のトラックが突っ込んで来て」
「何てこった」
「即死だった。どうしようもなかった」
「すだったんだ」
「悪いな、久し振りの電話なのに」
 友達は死んだことまで言ったところで僕にそう謝罪した。
「今そっちにいるのに」
「いや、いいさ」
 僕はそう返して友達を宥めた。
「どっちみちすぐにそっちに一旦戻るから」
「戻るのか」
「もうすぐオフだから。日本に帰るよ」
「そうか。じゃあこっちには来るのか?」
「そのつもりだけれど」
 実は今までそんな気持ちはなかった。けれどこんな話を聞いたら。どうしても帰らずにはいられなくなった。そうせずにはいられなかった。
「いいよな」
「ああ、それだったら絶対来てくれ」
 友達は僕にこう言った。
「俺が案内するからな」
「うん」
 そして電話が切れた。僕は電話が切れてから暫くその携帯を見ていた。本当のことだとしてもまだ信じられなかった。あの娘が死ぬなんて。それも突然に。
「何でだよ」
 僕はそれから呟いた。
「何で死ぬんだよ」
 けれど誰も返事はしなかった。夜道にいるのは僕だけだ。シドニーの夜は静かだ。誰もいない。オペラハウスの灯りが遠くに見える。それと海の音が聞こえるだけだ。他には何もありはしなかった。
 その何もない場所で僕は呟いた。何でこんなことが起こったのか。けれど返事なんてある筈がない。ここはオーストラリアだ。日本じゃない。僕の他には誰もいなかった。
 泣きたかったが泣けなかった。まだ本当のことだって思いたくはなかったから。ただただ悲しかった。悲しいけれどそれでも本当のことだとは認めたくはなかった。そんな中で僕は夜の街でやけっぱちになっていた。何をすればいいのかわからなくなっていた。
 彼女とのことが思い出される。故郷の港町で楽しく過ごしたあの日々を。僕が彼女にプロポーズしたことも。港を見下ろす小高にある公園だった。
「なあ」
 僕は彼女をわざわざ呼び出した。あることをする為に。
「どうしたの?」
「いやさ、大したことじゃないけど」
 何で呼ばれたのかわからない彼女にモジモジとしながら言おうか言うまいか迷っていた記憶がある。何かを言うのに勇気がいるなんてこの時まで全然知らなかった。
「僕達付き合って結構経つよね」
「ええ」
 その言葉に応えたのを今でもはっきり覚えている。彼女と付き合いだしてこの時でもう六年になっていた。学生の頃から付き合ってだからもうかなりのものだった。
「それでさ、あの」
「どうしたのよ」
「もういい頃だと思うし」
 何が何かわかりかねている彼女にさらに言った。言葉が詰まって中々出なかったが何とかその言葉を出した。一言がこんなに辛いなんて思いもしなかった。
「今度の六月、教会に行かないかい?」
「教会に?」
「うん、二人で」
 心臓が爆発しそうだったのを覚えている。こんなに緊張したのははじめてだった。部活のインターハイも受験の入試の時も。こんなに緊張したことはなかった。自分でも不思議な位緊張していた。
「いいよね」
「それって」
 彼女は教会という言葉でようやく僕が何を言っているのかわかった。そう、僕はプロポーズをしたのだ。
「うん、駄目かな」
「え、ええと」
 彼女はそれを受けて急に顔を赤くさせた。けれどそれを急に笑顔に変えた。
「あの、私も貴方も」
「うん」
「何て言えばいいかな、ほら」
 笑って何かを言おうとする。何か彼女も困っていた。
「もうちょっと待って」
「待ってって」
「ほら、一生の問題でしょ、これって」
「うん」
 ここで頷いたのが間違いだった。僕は頷いてしまった。
「だから暫く考えさせて」
「どれ位?」
「考えが纏まったら答えるから。それまでね」
「うん、わかったよ」
 誤魔化されてしまったのがわかるがそれでも仕方がなかった。僕はそれに頷いてしまったのだから。そのまま返事はなかった。そして僕はオーストラリアに向かうことになった。

 
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